「ぐあっ」
タイガに落とされたナツはニルヴァーナの街の上に落下していた。
動いてる街の上に。
「う...しかも...乗り物の上...」
しばらく乗り物酔いに苦しんでいると、ある人物が近づく。
「六魔の誇りにかけて...てめえだけは倒す...」
その人物とはタイガとの戦いに敗れたはずのコブラだった。
「死ねぇ...」
「く...くそ...体が...」
ナツは毒が回って動けないでいた。
「旧世代の
バシュ
コブラの腕がナツに振り下ろされそうになったその瞬間、何者かの攻撃がコブラの肩を貫く。
「もういい、コブラ」
攻撃したのは彼の仲間のはずのブレインだった。
「ブ...ブレイン...何を...」
「うぬはよくやった。ゆっくり休め」
ブレインはそう言うが、彼の心の声をコブラは聞き逃さなかった。
(正規ギルドに敗れる六魔などいらぬわ。クズが!!!)
「くそぉ...くそぉ...!!!」
(オレの祈り...オレは...たった一人の友の声を聴きたいだけだった...キュベリオス...)
「おまえ...仲間じゃねえのかよ」
「仲間などこの先いくらでも増やせる。ニルヴァーナの力でな」
「そんなのは仲間って言わねえだろ。操り人形だ」
「そう噛みつくな。私はうぬ等の力を気に入ったのだよ。言ってる意味がわかるかね?」
「うぐ...うう...」
「本当はコブラを倒した光の勇者がよかったが、うぬを私の最初の操り人形にしてやろう」
ブレインがナツを新たな六魔にスカウトしようとしていたその時、サクラはニルヴァーナの街の中を走っていた。彼女は立ち止まると目を瞑って集中する。
「エルザ......!?こっちね」
エルザのいる方向を感知し、再び走り出す。
サクラが向かっている場所ではエルザが
「!?」
「もうメインディッシュの時間かい?エルザ・スカーレット」
(剣閃が曲がった!!?)
「エルザ離れろ!!そいつはマズイ!!!」
「くっ」
エルザはもう一本の剣を出し斬り掛かるが、その攻撃も曲げられる。
(また!!?)
「フン」
ミッドナイトが手を振ると、エルザは後ろに吹き飛ばされ更に着ている鎧が動き出す。
「何...!!?」
すると鎧は装着者であるはずのエルザの体を締め上げた。
「ぐぁあ」
「エルザ...」
「はぁ!!!」
エルザは普段着ている鎧を解除し、天輪の鎧に換装する。するとそこへ
「弾け!!飛梅!!!」
「サクラ!!?」
エルザの後ろから現れたサクラが、飛梅の火球をミッドナイトに放つ。
「フン」
ミッドナイトが再び手を振ると、飛梅の火球がサクラにはね返る。サクラはなんとか火球を避けるが、その様子からエルザはミッドナイトの魔法を理解する。
「なるほど、そういう魔法か」
「そう...ボクの
「なんという魔法だ...」
ジェラールがその魔法に驚愕していると、エルザとサクラはミッドナイトに向かっていく。
「サクラ、行くぞ」
「ええ」
「聞こえてなかったのかい?ボクに魔法は当たらないんだよ?」
「舞え!!!剣たちよ!!!」
「千本桜!!!」
「数打てば当たると思った?」
エルザの操る剣とサクラの千本桜が一斉にミッドナイトに放たれるが、やはり攻撃は曲げられ二人にはね返される。
「「!!」」
「言ったろ?はね返す事もできるって」
エルザは両手に持った剣ではね返ってきた攻撃を弾き、サクラは千本桜を解除して元の刀の状態に戻した。
「フフ」
ミッドナイトが手をかざすと、エルザとサクラは自身の鎧と服に締め上げられる。
「くっ」
「ぐはっ」
「もっと...もっと苦しそうな顔をしてくれよ」
「あぁあああ」
「その顔が最高なんだ」
「つあっ」
エルザは締め上げられながらも、手にした剣を投げるが
「さすがだね」
ミッドナイトはそれをさっと避けてかわした。しかし、その様子にエルザとサクラは何かに気付く。
「スパイラルペイン!!!」
「ぐあああぁぁぁっ!!!」
「あぁああぁ!!!」
ミッドナイトの放った攻撃にエルザとサクラは倒れてしまう。それを見たジェラールは
「そんな...」
「もう終わり?」
「強い...」
「まだ死なないでよエルザ、それにサクラ。
「
「僕たちの最初の目的地さ」
「なぜ...そこを狙う......」
ジェラールの言葉にミッドナイトは自分達の目的を語り出す。
「その昔、戦争を止める為にニルヴァーナをつくった一族がいた...ニルビット族。しかし彼等の想像以上にニルヴァーナは危険な魔法だった。だから自分たちのつくった魔法を自らの手で封印した。悪用されるのを怖れ、彼等は何十年も何百年も封印を見守り続けた。そのニルビット族の末裔のみで形成されたギルドこそが
「奴等は再びニルヴァーナを封じる力を持っている。だから滅ぼさなきゃならない。この素晴らしい力を再び眠らすなんておしいだろ?この力があれば、世界を混沌へといざなえるのに...そしてこれは見せしめでもある。中立を好んだニルビット族に戦争をさせる...ニルヴァーナの力で奴等の心を闇に染め、殺し合いをさせてやるんだ!!!ゾクゾクするだろう!!?」
「下劣な...」
「正しい事を言うフリはやめなよジェラール...君こそが闇の塊なんだよ。汚くて禍々しい邪悪な男だ」
「ち...違う...」
「違わないよ。君は子供たちを強制的に働かせ、仲間を殺し...エルザまでも殺そうとしていた...君が不幸にした人間の数はどれだけいると思う?...君に怯え、恐怖し...涙を流した人間はどれだけいると思う?」
ミッドナイトの言葉にジェラールは何も言えずにいた。
「こっちに来なよジェラール...君なら新たな六魔にふさわしい」
彼が手をさしだすと、エルザはフラつきながらも新たな衣を纏い立ち上がる。
「私は...ジェラールの中の光を知っている」
(エルザ...)
そんな彼女の姿を見て、ジェラールはエルザに言われたことを思い出す。
『生きてこの先の未来を確かめろ』
(君の言葉こそ、オレに勇気をくれる光だよ...)
「へえ...まだ立てるのか、噂通りだねエルザ...それに」
エルザの隣には、刀を支えにして立ち上がるサクラがいた。
「まだ戦えるか?サクラ」
「もちろんよ、エルザ...あたしだって負けられない...あたしを助けてくれた、タイガやツバサの為にも」
まだ自分と戦う気の二人の魔導士を見てミッドナイトは笑みを浮かべる。
「壊しがいがある」
「アンタ達のくだらない目的は、あたし達が止める!!!」
「必ずな!!!」
「おいでエルザ、サクラ。君達の本気を見せてくれ...と言っても、ボクには攻撃は当たらないけどね」
(そうだ...奴の
ジェラールがそう考えていると、エルザとサクラは小声で何かを話す。
「サクラ...実は気付いたことがある」
「多分、あたしも同じこと考えてた」
二人は小さく頷いた後、攻撃を開始する。サクラが手にしていた刀を高く投げるのを合図にエルザが素早い動きでミッドナイトの目の前まで一気に近づく。
「いくら素早く動けても、ボクの
エルザは手にした槍で攻撃しようとするが、やはりその攻撃は曲げられ当たらなかった。
「ホラ」
するとエルザの後ろから飛び出したサクラがミッドナイトの胸に掌底をくらわせる。
「!?」
「はぁっ!!!」
さらに当てた掌に魔力を込めてミッドナイトを吹き飛ばした。
「なに...」
「貴様の魔法には二つの弱点がある」
エルザの言葉にミッドナイトとジェラールは驚く。
(二つの弱点だと...?)
(このわずかな時間の中で...)
自分たちの見抜いた弱点の説明をサクラが続ける。
「一つ目は魔法や武具を曲げる事はできても、人間の体は曲げる事ができないという事...もしも可能なら、あたし達の
「フン」
「ぐ...うぅ......」
「......」
立ち上がったミッドナイトは再びサクラとエルザの衣服を曲げて締め上げる。サクラは苦悶の表情を浮かべるが、エルザは表情を変えなかった。
「そうだとしても、本気を出せば衣服で君達を絞め殺せるんだよ」
すると今度はエルザが口を開く。
「二つ目はこれだ」
エルザはミッドナイトの上に複数の剣を出す。
「!!!」
そしてそれらの剣を一斉に降らせる。
「ぐはぁっ!!!」
「私達の鎧や服をねじ曲げている間、貴様は剣を
「!!!」
エルザは先程、締め上げられながらも投げた剣をミッドナイトがよけたことを見逃さなかった。
「なぜ剣の軌道を曲げてかわさなかったのか...つまりは、曲げられる空間は常に一か所という事だ。自分の周囲か敵の周囲のどちらか一か所だけ。私達に魔法をかけてる間は自分の周囲に
「ぬう...」
(なんという洞察力...)
ジェラールがエルザの洞察力に感心していると、エルザを締め上げていた衣が元に戻る。
「そして、この
するとサクラを締め上げていた服も元に戻り、その瞬間倒れそうになった彼女をエルザが支える。
「がはっ...ごほっごほっ...」
「サクラ!!...すまない、奴を油断させるためとはいえ、無茶をさせた」
「平気...あたし、結構頑丈らしいから...」
「くそぉ...あと少しだったのに...」
「勝負はついた。大人しく降参するんだな」
膝を付いて呟くミッドナイトにエルザはそう言うが
「フフ...もう真夜中だ...あと少し早く死んでたら、恐怖を見ずにすんだのにね」
ゴォーン
ゴォーン
ゴォーン
ゴォーン
真夜中を告げる鐘がどこからか鳴り響くとミッドナイトの体に変化が表れる。
「真夜中にボクの歪みは極限状態になるんだ」
「何だ!!?」
「ああああああ」
「!?」
「ハハハハハハハハハッ!!!」
彼の体はみるみる大きくなり、怪物のような姿になった。
「な」
「!?」
「!!?」
「もう、どうなっても知らないよ」
ミッドナイトは右手に魔力を集め、エルザ達に迫る。
「うるぁ!!!」
ドゴォォォン
その攻撃により三人は吹き飛ばされる。
「あう」
「きゃあ」
「ぐあっ」
さらに、ミッドナイトから伸びた触手がジェラールの腹部を貫く。
「ジェラール!!!...ぐはっ」
「エルザ!!!...ぐっ」
さらに二本の触手がエルザとサクラも貫いた。
「おっと...簡単には死なないでよ。ここからが楽しいんだ」
「あああ...がはっ...」
「エルザーーー!!!」
「うああああ」
「ハハハハハハッ!!!」
「解!!!」
サクラが両手を合わせてそう叫ぶと、周囲の景色に亀裂が入り先程と変わらない景色が広がっていた。サクラ達の体は貫かれておらず、ミッドナイトの姿も元のままだった。
「は?」
ミッドナイトが驚いている間に、サクラは倒れてるジェラールに近づき、指をトンと当てる。
「!!?」
(な...何が起きたんだ!?オレは確か、体を貫かれて...エルザ...)
彼が向いた方には右眼だけを開けたエルザが立っていた。
「ボクの幻覚が効かないのか......」
(幻覚!!?あれが!!?)
そう、先程までの変化したミッドナイトも、そこから放たれた攻撃も全ては彼の魔法による幻だった。だが、エルザには幻覚が通じない理由があった。
「残念だが、目から受ける魔法は私には効かない」
「アンタの失敗は、魔法の説明で幻の事まで言ってしまったこと...幻だと分かってれば、「幻術破り」ができる」
サクラに幻覚が効かなかったのは、以前に修行で身につけていた幻術破りを使ったからだった。そして彼女は驚愕しているミッドナイトの隙をつき、彼の目の前まで近づくと先程高く投げた自分の刀をキャッチする。
「!!?」
「はぁっ!!!」
「がっ...!!」
そして手にした刀を振るい、ミッドナイトを斬り伏せた。
「そ...そんな...ボクは最強なん...だ...父上をも超える最強の...六魔...誰にも負けない最強の...魔導士」
「人の苦しみを笑えるようじゃ、その高みはまだまだ遠いわね」
(うう...ボクの祈り...ただ眠りたかっただけなんだ...静かな場所で...)
そう思いながらミッドナイトは倒れた。その様子を見たエルザは静かに呟く。
「誰にも負けたくなければ、まずは己の弱さを知ることだ。そして常に優しくあれ......お前を斬り伏せたサクラのように...」
というわけで、こちらのサクラも幻術耐性ありとしました。