魔法少女リリカルなのはStrikerS 時空と次元を越えた邂逅 作:銀翼
今後ともよろしくお願いいたします。
中つ国 西部方面 武の領域 天之冬衣の道
マホロバの里から西南の方向にある鎌倉時代、室町時代の遺構が数多く残る、永遠に降り頻る雪と氷に覆われた戦場。そこにある拠点の一つに雪風の姿があった。
特にこの場所を選んだ理由は無い。ただそこに向かう事を適当に選んだだけである。
しかし、例の紅い結晶については本部で受注出来る任務では絶対に入手する事は出来ない。このように異界の戦場を渡り歩き、小型だろうが中型だろうが大型だろうが紅い結晶を持っている"鬼"を討伐しなければ入手する事が出来ないのだ。
「ふぅ……」
吐き出した息が空気中の冷気によって白く凍り付いて消えていく。
義手を起動させると、肘部分に一体化している器具が伸びて愛刀「妖刀・無間」を義手の手の平に移動。その鞘を握り、そのまま歩き出していった。
雪風が出て行ってから少し経ってから、その場所に一つの魔方陣が浮き上がりその魔方陣から誰かが出てきた。
時空管理局古代遺失物処理管理部機動六課に所属している分隊の一つ。フェイト・T・ハラオウン率いるライトニング分隊の面々だ。
自身のデバイスを起動させバリアジャケットインパルスフォームバージョンを纏ったフェイトが同じ様にバリアジャケット、騎士甲冑を装着した自身の部下に号令を掛ける。
「全員、無事に転移出来た?」
「はい。キャロ、フリードも全員無事です!」
「エリオ君も無事です」
「キュクー!」
「あぁ、私も無事だ。まさか分厚い有害物質の雲に覆われているから、このようにピンポイントで転送するのは賭けだったがな」
ライトニング分隊所属のちびっこ二人、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ、彼女の契約竜であるフリードが元気に報告をして、同分隊副隊長のシグナムが苦笑いを浮かべて言う。
武の領域以外にも安の領域、雅の領域、戦の領域、乱の領域、古の領域とあるが、今回はこの武の領域への転送がシミュレーションの結果最も成功する可能性が高いと判断されたのだ。(そもそも西の最前線の古の領域は火山の内部にある為に転送出来るかは不可能だったが)
それでも負ける可能性が多い、かなり分の悪い賭けに等しい内容だったがその賭けに勝ったのだ。
因みに、マホロバの里に程近い丘陵地やムラクモの森、サキモリ砦、クロガネ鉱山等は人里近い為に転送地の候補から除外された。
『外気温は-30℃。バリアジャケットや騎士甲冑をしていない限り余程の防寒具が無ければ耐えられません』
「ありがとう。バルディッシュ」
光景を見る限り相当な寒さというのは想像するに難くは無いが、ここは然程北極や南極に近いような場所ではない。聞けば聞くほどに奇妙な世界だ。
フェイトの目の前に一つのモニターが映る。映っている相手は自身の親友であり、上司の八神はやてだ。
『フェイトちゃん。今大丈夫なんか?』
「はやて。うん。全員無事に転送出来たよ。なのはの方は大丈夫?」
『うん。なのはちゃん達スターズ分隊もそこから東に数百キロの所に無事に転送出来たって。しかしサーチャーで見てみたけど、ほんま奇妙な世界やわな。フェイトちゃんのような永久凍土のような世界もやけどなのはちゃん達を転送したのは溶岩が流れる戦場のような場所やったし』
この世界に転送するにあたって事前にサーチャーを飛ばして光景を見た所、誰もが度肝を抜かれた。
古代の様相を模した遺構が数多く残る火山と砂漠。
雅な様相を残しながらも禍々しい遺構が数多く残る沼地と廃墟。
武士が手掛けたであろう建物の廃墟が数多く残っている永久凍土と深い森。
戦国時代の遺構が数多く残っている戦場と火山。
天下泰平の遺構が数多く残っている深い森と永久なる夜の街。
幕末の遺構が数多く眠る砂漠と永久凍土。
「うん。限定的に見てみたけど、全部共通しているのは小中高校の日本史で見たような光景がそのまま廃墟になった場所だね」
『しかもその場所におった未確認生物も気になるしな。所でそこに何か人がおった痕跡とかあらへん?足跡とかそういうのは』
「足跡……。あ、ありました」
下を見ていたキャロが一つの足跡を見つけた事で、全員がキャロに倣いその足跡を確認してみる。足跡の主はまだそこまで時間が経過していない為に雪やぬかるみにしっかりと残されている。
「見てみると一人分、だね。この足跡を追って、接触してみるよ」
『解ったわ。一応その場所は有害物質は極々僅かにあるけどバリアジャケットの限界を大きく下回るから行動する事に問題はあらへん。サーチャーも通信も問題無しみたいやから、デバイスの録画、録音機能はオンにしといてな』
「了解。それじゃ追跡を開始するね」
『うん。それじゃ』
「バルディッシュ」
『了解』
モニターが消えて、フェイトはバルディッシュに声を掛けると、バルディッシュは録音と録画機能をオンにする。
「それじゃ、追跡開始するよ」
「「はい!」」「了解」
フェイトの号令でライトニング分隊は足跡の主である雪風の追跡を開始した。
一方。武の領域の最深部 氷原の厳島神社
海の代わりに分厚い氷の上に建っている厳島神社の廃墟に、足跡を追跡されているとは知らない雪風がいた。
「地獄に落ちろ」
全ての部位を破壊、更に角まで斬り折られるという余りにも無惨な姿になった上に、僅かなりとも動く事が許されない"鬼"「アマツミツツカ」を目の前に、雪風はゆっくりと義手に握った鞘に禍々しい波動を放つ白銀の刀身を納めていく。
そしてパチン、と鍔と鯉口が接着し澄み切った金属音が鳴り響くと同時に――。
――ザンッ!
「■■■■■■■■■ーーッ!」
何の躊躇も戸惑いも無く走った一閃は「アマツミツツカ」の命を寸分たがわずに奪い去る。
声にならない断末魔を上げて絶命した「アマツミツツカ」の骸に近付き、片膝をついて祈るような体勢を取ると、雪風の周囲に清廉な音と同時に梵字と円形の陣が浮かび上がる。
"鬼"の骸、切り離した部位を浄化して元ある物に返し、素材を得る鬼払いだ。
完全に「アマツミツツカ」の骸を浄化し、素材箪笥に転送する。
するとそこに見つかった。
「またこれか……」
骸があった場所には、見覚えのある鋼の箱。それを"鬼"が持っていたという事は――。
蓋を開けて中を見てみるとそこにあったのは見覚えのある紅い結晶。
「チッ」
進展も何も無いのにこうも増えていくと舌打ちの一つもしたくなる。雪風は渋々ながらもこの箱の蓋を閉じて転送し――
「ッ!?」
ようとした時だった。
完全に閉じられた箱をそのまま義手をスナップさせる事で上空に投げ、自身もそれを追うように上空に跳躍すると、先程まで自分が立っていた場所に青白い光弾がいくつも降り注ぐ。
雪風はその撃ってきた張本人を流し目でちらりと見ると狙いを定め、義手に握った「妖刀・無間」の鯉口を切り、静かなる閃きを無数に放つ。
一振りすれば音が無くなり、二振りすれば形が無くなり、三振りすれば影も無くなる。
そして宙返りをしながら着地、片膝を付けながら鞘を立て、ゆっくりと禍々しい波動を放つ刀身を鞘に納めていく。
パチン、と完全に刀身が鞘に覆われると――
―ザンッ!
鋭い刃物に何の抵抗も許される事無く斬られる音が響く。「妖刀・無間」に斬られたのは、例の奇妙なカラクリ。卵型や球体型、更に飛行型も斬られ、ボトボトと周囲に残骸が落下していく。
しかし、その斬られたカラクリの上にさらに別のカラクリが犇めく。上空には無数の飛行型、地上には雲霞の大軍がいる。
丁度開かれた義手の掌の上に紅い結晶が納まった箱が落下して、素材箪笥に転送される。
「まぁ良い。斬り足りないと思っていた所だ」
口に底冷えするような凄惨な笑みを浮かべると、雪風は居合の構えを取り、カラクリの大軍に斬りかかっていった。
その頃、フェイト達ライトニング分隊はというと。
「この辺、戦闘の痕跡が残されてる。相手は人の身の丈を悠々と超える大型の獣。しかもこの足跡の主はそれを全くの無傷で倒してるね」
雪風の残した痕跡を辿りながら、徒歩での追跡をしていた。飛行する事は可能ではあるが、それだと残された痕跡を見失いかねないという事で、全員が徒歩で探索していた。
雪風が道中で戦闘を行ったのは大型の"鬼"の「ダイバタチ」、中型の"鬼"の「グヒン」、そして小型の"鬼"を無数。しかもそれを殆ど無傷で討伐していった。
「でも、何故その獣の死体がないのでしょうか?」
「確かにね。死体を喰らう獣がいるなら、まだ残されていても可笑しくは無いけど……」
エリオが言った事にフェイトが合いの手を返す。普通に考えると死体を喰らう獣がいたとしても、まだまだ死体の部位が残っている。
常識的に考えれば、だが。
「ただでさえ複雑怪奇な世界だ。私達の常識が通用しない獣や戦士がいてもおかしくはない」
「……だね」
冷静さを保ったシグナムの言葉にフェイトを始め皆が納得した表情になる。
いつの間にか自分達の考えているものが常識の範疇の中だと思っていたが、その様な事は無い。寧ろ地球人から見てもミッドチルダの魔法というのは複雑怪奇以外の何者でもない。
『フェイトちゃん!大変!』
「え?シャマル?」
今回ロングアーチの一員として後方支援を担当しているシャマルが切羽詰まった様子で通信をしてきた。
「どうした?何かあったのか?」
『そこから南西の方角、大きな神社の廃墟らしい場所でガジェットの大軍と微弱なロストロギア反応!ガジェット反応は総数として百以上よ!オマケに高濃度のAMFが展開されてるわ!』
「百以上!?」
ライトニング分隊に戦慄が走る。AMF。正式名称アンチ・マギリング・フィールド。魔力の結合を解いて、魔導士の力を無力化させるAAA級のフィールド系魔法。
力の強い魔導士なら高濃度のAMFの中でも動く事は可能ではあるが、それでもかなりの消費を強いられる。
その上、フェイトやシグナムは時空管理局の中にある部隊コストの運用で本来の力を封印している為、本気を出す事が出来ない。
エリオやキャロは任務の経験はあるが、まだ経験が浅い。全滅とまではいかなくても誰かが傷を負う事になるかも――
『?ちょっと待って。ガジェットの反応が減っていってる?』
「え?」
『え……?えぇっ!?あんな高濃度のAMFの中、たった一人であんなにガジェットを破壊していってる……!?』
「狼狽えるなシャマル!何があった!?」
狼狽えるシャマルにシグナムがびしゃりと言う。
『あ、うん……。そうね。サーチャーの映像、そっちに送るわ』
シグナムからの言葉に気を取り直したシャマルは、サーチャーの映像をもう一つのモニターとして転送する。
そこに映し出されていたのは、義手の右腕に鞘を、そして左手に握った一振りの日本刀を閃かせてガジェットを破壊していく一人の戦士。
当然ガジェットの方もただ黙ってやられていく訳では無い。光弾やらケーブルやらで攻撃を仕掛けていっているが、それを戦士に容易く避けられていく上に左手が僅かにブレさせるとその身をただのガラクタにさせられていく。
しかも空間諸共ガジェットを斬る事で圧倒的に距離が足りない、刀身の長さが足りないにも関わらず遠くのガジェットを一度に数機から数十機を纏めて斬り伏せていくのもある。
「な、何なのこの人……?」
ボケーッと見ていたフェイトが何とか声を出す。
シャマルが高濃度と言っていたAMFの中で無駄が無い動きで躱し、迅速に、そして的確にガジェットを斬り伏せていく。
相当な実力者だというのが目に見えて解るが、今は惚けてる場合ではない。
「っ、シャマル。この先にある神社のような廃墟って言ってたよね?」
『え、えぇ。距離にして僅か数百メートルの所で、日本で言う厳島神社に似た廃墟だけど』
「さっき見つけた足跡の主かもしれない。取り敢えず接触してみる」
『解ったわ』
距離にして数百メートルというのは、機動力に自信のあるライトニング分隊にとってはあってないような距離である。
全員で顔を見合わせると、フェイトとシグナムは低空飛行。キャロとエリオは竜魂召喚にてフリードを本来の姿に戻すと、早速現場に急行していった。
「いた!」
武の領域の最深部。氷原の厳島神社に到着したフェイト達はそのサーチャー越しのモニターで見た通りの人物、雪風を見つけた。背中を向けている雪風が相対しているのは、球体型のボディをしたガジェットドローンⅢ型一機のみ。しかもアームやコードは既に一刀の元に両断され風前の灯に等しい状態だ。
「助太――」
もうあの戦闘シーンを見た限りでは助太刀等必要無いだろうが、接触の為にと接近する。しかし、その時に見た。
残された武装である光弾を放とうとした時に、雪風の左腕と、右腰に携えた妖刀が僅かにブレ、ガジェットドローンⅢ型の時が永遠に止まるのを。
「地獄に堕ちろ」
そして依然として禍々しい波動を放っている白銀の刀身と鍔元がゆっくりと鞘に納まり、パチンと小気味の良い音を響く。
――斬ッ
圧倒的に刀身の長さが足りないにも関わらず、ガジェットドローンⅢ型が一刀の元に両断され、使い道の無いガラクタに成り果てていった。
「ふぅ……」
右手の義手に握られた居合刀を前腕部分に移動させると、今度はフェイト達の方を向く。
「……何者だ」
自然体だが警戒心丸出しの問いかけ。しかし、同じ言葉が通じるというのはフェイト達に少しの安心を与えた。
「……時空管理局古代遺失物処理管理部、機動六課所属のフェイト・T・ハラオウンです」
「時空管理局?」
自身の数少ない記憶の中を探ってみても、時空管理局という組織や部署について聞き覚えが無い。しかし、名乗ってくれたのならば礼を尽くさなければなるまい。
「……マホロバの里所属。カラクリ部隊同隊長の雪風。時空管理局と言うのは何だ?モノノフの部署の名か?それとも陰陽方の部署か?」
「マホロバ……。モノノフ……。陰陽方……。そのどれにも聞き覚えがありませんが……」
「……」
聞き覚えのない名前ということなので、雪風は質問を変えてみる事にした。
「ならば問いを変える。時空管理局というのはこの世界の組織と人物か?」
「ッ!」
「……やはりか」
余りにも解りやすすぎるフェイトの反応に、雪風は己の義手を額に当てて溜息を吐くが気を取り直して向き合う。
「……どんな目的でこの世界にやって来たのかは問わないし興味は無い。だが、探査や調査は気を付けて行え。……例の紅い結晶に続いて異世界からの客人か……。退屈する暇すら無い」
「例の紅い結晶……?ま、待って下さい!」
雪風が言った言葉を聞き逃さなかったフェイトは、急ぎ背中を向けた雪風を呼び止める。
「?」
「あの、紅い結晶……少し見せて貰えますか?」
「……」
ちらり、とフェイトの後ろに視線をやるとシグナムが愛刀の鯉口を切ろうとしているのが見えた。断った時にはどうするのか、というのがすぐに察知した雪風は――