あの公園には坊主がいる。

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団欒

 公園のブランコに袈裟を着た男が座っていた。

 もしかしたら法衣かもしれなかったけど、そもそも僕は法衣と袈裟の違いを知らなかったので、パッと頭に浮かんだ言葉で彼の服装を例えた。

 しかもニット帽を被っていたので、僕には彼が公園という遊び場から浮いているように思えた。

 学校から帰っている途中だった僕は、思わずその場で立ち止まってしまった。

 

「私に何か用が?」

 

 僕が彼の方を見ていたのは、袈裟とブランコの組み合わせが面白かったからってわけじゃなかった。

 彼の隣に綺麗な鯉が居たからだ。

 ゆっくりと、ふわふわと、角が生えた鯉は彼の周囲を漂っていた。

 

 変な生き物が見えるのは昔からのことだったけど、今まで出会ったのはどれもこれもB級ホラー映画に出てくるようなグロテスクなものばかりだった。

 つまりこれが僕にとっては初めてのことであった、美しくて常識の範囲外にいる生物を見たのは。

 醜いアイツらと綺麗な鯉、同じような気配だけど何かが違う。

 上手く言葉にできないけど、鯉の方が今までの化け物より強い気配を発しているように思えた。

 

「あ、すいません」

 

 咄嗟に、僕は謝った。

 実際のところ僕は彼ではなく鯉を見ていたのだけれど、相手からすればそんなこと知ったこっちゃないだろう。

 あれは僕だけにしか見えない怪物で、今までの人生であれが見える人に会ったことがないし、当然袈裟の彼にも見える筈がないのだから。

 

 会ったこともない人にジロジロ見られるのは嫌な事だと、それくらいは僕でもわかる。

 不快な思いをさせてしまったら謝るべきだって、僕の中の道徳が呼びかけていた。

 ()()()()()()()()()()()が僕を行動へと導く。

 だから口から謝罪の言葉が出てきたわけだけど、彼の反応はどうにも予想外だった。

 

「構わないよ、これを眺めていたんだろ?常人には見えないこれを」

 

 そう言うと、彼は鯉の額を撫でた。

 僕はとんでもなくびっくりした。

 キッチンにゴキブリがいたのとか、授業中に先生に名指しされたのとか、そんな些細な事柄とは比べ物にならない程の驚きだった。

 

 今まで自分の中で作られてきた常識という名の積み木を、一気に崩された様な感覚。

 みんなに見えない物が見えるから、ずっとずっと僕はおかしな奴だと言われてきた。

 次第に僕は周りに合わせ、化け物が見えるだなんて言わなくなっていた。

 普通を、求めてきた。

 誰にだって隠し事はある、異端である事をわざわざ言う必要なんてない、そんな言葉で自分を慰めながら。

 でも、でも僕はきっと欲しかったんだ。

 

「……見えるんですか、アイツらが」

 

 僕と同じ目を持つ人に、僕を理解してくれる人に、会いたかったんだ。

 

「あぁ、見えるとも。そして彼らについて君より多くの事を知っている」

 

 何でもないかの様に、彼は言った。

 その言葉を聞いて、僕の足は公園の中へと向かっていた。

 一歩前へ、さらに前へ。

 気付けば、ブランコに前に僕はいた。

 

「お願いします」

 

 頭を下げた。

 しっかりと、誠意を込めて。

 どうしてもあの化け物達の事が知りたかった。

 初対面でいきなりこんな事する奴はどこからどう見ても不審者だなんて考えは、その時の僕の頭にはなかった。

 気持ちが先走っていたんだ。

 

「アイツらの事を教えて下さい、どうしても知りたいんです」

 

 見ず知らずの人間にこんな事されても迷惑なだけだって、ようやくそれに思い至った時、彼は言葉を返した。

 

「座りなよ、話をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★

 

 

「さて、何から話そうか……無難に初めから行こうか」

 

 幸いにもブランコは二つあったため、僕は彼の隣のブランコに座った。

 学生服の少年と袈裟の男が並んでいる様子はシュールかもしれない、なんてどうでもいい事を考えて気持ちを落ち着かせる。

 生まれてこの方ずっと謎だったあの化け物達について、ようやく色んなことを知れるとなったら心臓の鼓動が大きくなるのも当たり前だ。

 興奮を抑えながら、僕は地面を見ていた。

 

「まず前提としてこの世には呪術が存在していて────」

 

 そこから彼が話した内容は、まるで週刊少年ジャンプに載っている漫画の世界観のようだった。

 負の感情から生まれる呪霊、それを祓う呪術師。

 言葉だけ抜き出せば深夜アニメやライトノベルで有りがちな設定、でもそれがこの世界の真実なのだと、僕は納得していた。

 彼の言葉を疑うなんて発想、ようやく同類に出会えた僕には無かったんだ。

 

「どうだい?未知を知った感想は」

 

「……まだちょっと飲み込めません。でも」

 

「でも?」

 

「安心しています」

 

「へぇ、それは何故?」

 

 興味深そうに彼は聞く。

 ペットの猫を可愛がるかのように、手元の鯉の角を弄りながら。

 

「自分だけにしか見えない怪物、そうは思ってたけどやっぱり時々思っちゃんです。本当は怪物なんか存在してないんじゃないかって」

 

「幻覚を見ていただけかも知れないと、そう言いたいんだね」

 

「えぇ、触れも出来るし声も出す幻覚。幻視に幻聴。自分がまともであるって確証が欲しかったんです」

 

「それでようやく確証を得られたと」

 

 髪を黒く染めた、元のままだと周りから浮いてしまうから。

 体育の授業で力を抑えた、この身体能力は異常だから。

 異常なところは見せないようにした、僕はまともだって信じたかったから。

 

「清々しい気分ですよ。僕はおかしくなかったんだって、学校みんなと同じまともな人間なんだって、世界に認められたようなモノですから」

 

 心の中の不安が取り除かれて、ぽっかり空いた穴に代わりとして安心が入った。

 今日はぐっすり寝られるだろう、学校に行く事が憂鬱だなんてもう思わなくなるだろう。

 バスケ部も退部するかも知れない、どうせレギュラーでも補欠でもないのだから迷惑はかからない。

 やりたい事をやろう、行きたい所に行こう、僕は普通なのだから。

 何処に行っても何をやっても僕は普通だ、呪霊が見えるだけのただの高校生。

 輪を外れることを怯える必要は、もうない。

 

「まとも、か」

 

「はい、まともな僕です」

 

「残念だとは思うが、君は学校の人間と同類ではないよ」

 

「えっ?」

 

 鯉を真っ黒な玉にして手の中に仕舞い込みながら、彼は否定した。

 彼の手で起こった超常的な現象よりも、僕の意識は彼の言葉の方へ向かっていた。

 

「何を持ってまともと定義するかは別だが、そもそも彼らと君では脳の構造が違う。彼らは非術師で君は術師だ。まだ卵だけどね」

 

「……違うんですか」

 

「全く違うさ、術師と非術師では構造から何から全てが違う。この二つを混ぜるのは呪霊と術師は同じなどと戯れるに等しい愚行だ」

 

 急に、目の前の人は怖く思えた。

 当然のように、僕とみんなが違うと言う。

 1タス1は2である、そんな常識を口にするように僕の異常を指摘したのだ。

 人は理解できないものに対して恐怖を感じると何処かの小説に書いてあったが、今の僕から彼への感情はまさにそれだ。

 

「そんなに怯えるなよ。あくまで呪術的定義がそうというだけの話だ。どちらも人間という事には変わりはないさ、白人と黒人のようなものだ」

 

「……場所が場所なら咎められそうな言葉ですね」

 

「確かにね、だがここには私達しかいない。思う存分本音で行こうか」

 

 僕は自分のことを恥じた。

 考えてみれば僕は呪術のことなんて何も知らないのに、常識人気取りで彼を心の中で批判しようとしたのだ。

 恐れてしまったのだ。

 自分が持つ異端になることへの恐怖心というコンプレックス、それが悪い方向に作用してしまった。

 あまりに浅慮で短慮な馬鹿げた思考を反省しながら、彼に一つの質問をした。

 

「あの、僕にも呪術の才能があるんですか?」

 

 さっきの彼の言葉通りなら、僕は術師という事になる。

 だとすれば僕にも呪術が使えるかも知れない。

 僕の家に居座る気持ち悪い呪霊を、残らず退治することが出来るかも知れない。

 いつもいつも僕の頭がおかしいかも知れないと示しつける彼らが居るせいで、僕はあまり寝付けなかったのだ。

 

「あるさ。生憎私は五条悟ではないから君がどれほどの才を持っているかはわからないが、確かに君は呪力を持っている。それは私が保証しよう」

 

「ゴジョウサトル?」

 

「あぁ、そうか君はまだ知らなかったな。すまない、呪術界では常識中の常識のような名前だからつい使ってしまったよ」

 

「その……ゴジョウさんって人は誰なんですか?」

 

 ゴジョウサトル、その名を口にする時だけ彼はどこか遠くを見つめているような気配を醸し出したのだ。

 しかも彼は呪術の世界では有名な存在ときた、ならば気になってしまうのは仕方がないことだろう。

 

「気になるのかい?」

 

「まぁ、はい」

 

彼は話すかどうか考え込むような表情をして、数秒経ったのちに語り始めた。

 

「彼はさっき話した術師の階級の中でも一番上、特級に位置する術師だ。付け加えるなら現代呪術界最強」

 

「特級って、あの四人しかいない術師のことですか⁉︎……最強⁉︎」

 

「あぁ、そうだが……何か琴線に触れたのか?」

 

 いきなり大きな声を出した僕を見て、驚いたような表情で彼は言う。

 自分でも少しやってしまったなと思い、恥ずかしくなってしまった。

 

「あっ!すいません……ちょっと興奮しちゃって」

 

 人類の中でも四人しかいない呪術師、一人で国家転覆出来るほどの力の持ち主、呪術界最強。

 週刊少年ジャンプの愛読者としてはなんとも胸が高鳴る存在だ。

 現実の人間をフィクションのキャラクターと同じような目線で見ることは良くはないことだと分かってはいたが、顔も見た事のない人間に対してそのような道徳的理性は働かなかった。

 

「ククッ」

 

「どうかしたんですか?」

 

 なんとも面白そうに彼は笑う、大笑いという訳ではないけど印象に残る笑い方だった。

 

「いや、急にらしい事をしてしまったなと思ってね。続けると、五条悟は六眼という目を持っている。これで君の才覚を見抜ける可能性があがるんだ」

 

「なんだかアニメの魔眼みたいでテンション上がりますね」

 

「そうかい?生憎私はあまりアニメは見ないんだ。昔は少しくらいは見ていたが最近は忙しくて尚更ね」

 

「人手が足りないとも聞きましたし色々大変なんですね、呪術師って」

 

 さっきの彼の話で、呪術界が常に人手不足だということは分かっている。

 呪術界というと、魔界やら天界みたいにそう言った世界が実在しているのかとも思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。

 僕はここでとある重大な事実を思い出し、頭を抱えた。

 

「どうしたのかな?」

 

「病院の色んな手続き、忘れてました」

 

「家族が入院でもしているのかい?」

 

「お爺ちゃんです。最近容体が悪化しているんで、これからの備えだとかの手続きがあって、それが今日だったんです」

 

「……今からでも行ったほうがいいんじゃないか?いや、詳しく知らない私が言うのもなんだが」

 

「時間時間……よし、今ならまだ間に合うかも知れない」

 

 まだ病院が閉まる時間ではないので、手続きの時間を含めても間に合うと僕は希望的観測をした。

 彼の話をもっと聞いていたいが、お爺ちゃんのことだって大切だ。

 未練タラタラだが、僕の頭が正常だと知れただけで満足だ。

 

「……明日」

 

「え?」

 

「明日この時間にこの場所に私は来る。もう少し君と話しておきたくてね、来てくれるかい?」

 

 優しげな笑顔と共に言われた言葉に、僕はとてつもなく喜んでしまった。

 まだまだ呪術のことを知れるのだと思うと、この人と明日も喋れるのだと思うと、心が浮き足立ってくる。

 しかも忙しい中での話だ、嬉しさ倍増だ。

 

「はい!」

 

 そう笑顔で言って走り去る途中、もう一つの事実が僕を襲う。

 そこで、僕はまたまた気づいてしまった。

 自分の名前を伝えてすらいない事に。

 

「あの!僕は悠仁です!虎杖悠仁です!」

 

 手を振りながら、大声で叫びながら、僕は立ち去る。

 

「また明日!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★

 

 

「随分と予想外の成長を遂げてくれたよ悠仁は」

 

 彼以外人がいない公園で、ただ一人言葉を紡ぐ。

 

「夏油傑の持つ原作知識とはまるで違う」

 

 不敵に、笑う。

 

「だがそれでいい、むしろそれがいい。彼こそが私の手から離れた混沌となってくれれば最上だ」

 

 暑かったのか、髪の毛が引っかかったのか、彼はニット帽を脱いだ。

 そこには、額を走る大きな縫い目があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 
 夏油傑と見せかけて羂索をやりたかっただけ
 続くらしい。
 感想とか評価とか貰えると嬉しいです。


 術師と非術師は違う→宿儺とか羂索とかここら辺分けてるイメージ。羂索は非術師にも可能性を感じている。
 らしい事→母親の話を聞いてワクワクするなんて家族団欒みたいだ
 五条の話をする時に遠い眼→六眼クソウザいよなって話
 本音でいこうか→何言ってんだオマエ
以下設定

 オリ主
 虎杖悠仁
 記憶がない憑依転生者
 呪力が増してるのは転生者故
 チョロい人。

 夏油傑
 原作が大好きな憑依転生者
 原作を壊したくないという思いから夏油傑として生き夏油傑として死んだ
 転生者故にタグに入れた


 メロンパン
 夏油の体を乗っ取ってその記憶に驚愕
 でも虎杖が原作とは違う成長を遂げてるしこれからが楽しみ
 転生者にも可能性を見出している
 

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