ディミトリの妹になっちまった   作:上代わちき

4 / 10
突然ですが、最終回です。
→要するに風呂敷畳み回。そのため殆ど曇らせ要素なし。
→今まではディミトリが話の中心ですが、今回はオリ主が話の中心。それに伴い筆者オリジナルの世界観が濃い話になってしまいました。
→それでもよろしければ、どうか最後まで付き合ってください。


暗月の章 後編

 

 

 

 

 

 

 

◆◆十五話

 

 

「アル……! ジェラルトさんが言った通り、本当に起きたんだな……!」

 

 

 やあ、ディミトリ。

 俺が寝てる間に、王都へとんぼ返りして奪還したんだね。

 後ついでにクロードさんの救出に、アランデル公さんの討伐も。

 

 

「ああ。グロンダーズの一件で色々情勢が変わってな。帝都突撃に傾いていたセイロス騎士団も一旦は勢力を固めなおすべきだ、と王都奪還やクロードの救出に協力してくれることになったんだ」

 

 で、これからメリセウス要塞の攻略だね?

 勢力が整った今、帝国へ打って出ない手はないんだから。

 

 

「……わかっているとおもうが、お前は留守番だ。……それに、みんなからの説教もあるしな」

 

 それはだめだ。

 そこには、俺の生きた結果がある。

 まだ説教を聞く暇はないし、絶対に譲れない。

 

 

 

「アル……?」

 

 ディミトリ。

 俺はさ、死にたいんだ。

 ずっと、死にたかったんだ。

 

 

「な、んで?」

 

 ここには俺の知るものはない。

 ここには懐かしいものはない。

 

 こればっかりは理屈じゃない。

 異世界転生なんてするもんじゃなくて、でも帰る手段なんかなくて。

 そう思ったら、まともに前を見て生きる気になれなかった。

 

 

 

「てん、せい?」

 

 こっちの話だ。

 とにかく、俺は死にたかったんだ。

 

 

 

「それが、あの時言ってた自分のために死ぬ……か?」

 

 うん。

 

 俺は、死にたい。

 でも、死にたくない。

 

 ただでは死にたくない。

 どうせなら、笑って死にたい。

 生きて、死にたい。

 

 

 

「まさか……お前があれほど生き急ぐように剣に打ち込んだのは!」

 

 それが、この世界での唯一の生きる実感だったから。

 死にたいっていう呪縛を一時でも忘れる唯一の手段だった。

 

 俺にとって剣と魔法ってのは憧れそのものでね、だから上達するってのはとても楽しかったんだ。

 きっと剣と魔法に打ち込みながらの死ってのは、俺が得られる中ではこの上なく幸福な死なんだと今でも思うんだ。

 

 

 

「……あの時、イエリッツァとの鍛錬で笑顔を見せていたのは。……そういうことだったのか」

 

 

 俺を縛るのは、俺だけだ。

 この命の使い道は、俺のためって決めていた。

 

 でも、それはきっと違うんだな。

 俺の命は、俺だけのもんじゃないだな。

 

 

 

「今更気づいたのか。……いや、よく気づけたというべきか?」

 

 うん。

 ……ディミトリってさ、シャーベットが好物なんだってね。

 

 

「え? ……ああ、そうだが?」

 

 どうして?

 あんなの、腹は膨れない上に頭が痛くなるだけのものだよ?

 

 

 

「でも甘いじゃないか。ああいう甘さは嫌いじゃない」

 

 それ、嘘じゃないんだよね。

 

 ……うん、わかってた。

 俺、思ってたよりこの世界を生きてたんだね。

 それをなんとなく確信したから、途中から剣と魔法だけに死ぬことができなくなったんだ。

 それは俺が生まれた結果生じた罪で、それがある限り生きて見届けなければならない贖罪の証だ。

 

 ガルグマクで再開した辺りからずっと拗ねてたのはそういうこと。

 

 

 

「アル?」

 

 まぁ、平たく言えば。

 ディミトリのせいで、俺は死ねなくなった。

 

 それさ、この上なく苦しいんだ。

 死にたいって願っているのに、その通りに死ねないってのは、多分どの拷問よりも苦しい業苦だ。

 もしかしたら、ディミトリはそれをよく知っているのかな?

 

 でも、ディミトリがシャーベットのことをおいしいって言っている間はその苦しみからは逃げないって決めた。

 生きる実感に現を抜かす権利なんて、はじめから俺にはなかったってようやくわかった。

 だからまぁ、もう大丈夫だ。

 

 色々と迷惑をかけてごめん。

 それと、五年前ディミトリのことを見捨ててしまってごめん。

 

 

 

「構わない。こうして話せるだけでも、頑張った甲斐があるさ……でも、なら猶更メリセウス要塞には……」

 

 でも、だからこそ。

 そこにはいかないといけない。

 

 今度こそ『この地獄』で生きるためには、俺の死神とケリをつけないといけない。

 

 

 

 

「……まさか」

 

 

 うん。

 その要塞にいるんでしょ?

 

 死神騎士。

 俺に生きる実感を与えてくれた先生。

 いずれ俺を殺し、もしくは殺される筈だった死神。

 イエリッツァ先生が。

 

 

 

 

「なんで、アルが殺さないといけないんだ……?」

 

 まぁ、けじめだよ。

 俺の生きる実感である、剣と魔法。

 どんな理由であれ、俺はそれを極めてしまった。

 

 

 他の誰でもない、イエリッツァ先生の教えで。

 今の俺がどう考えようと、その事実は覆らない。

 

 だって、それも俺が犯した罪だもの。

 イエリッツァ先生にも、ディミトリや他の皆と同じぐらい迷惑をかけたんだもの。

 なら、あの人にも仁義切らないとお話にならないでしょ?

 

 

 

「アル……」

 

 

 ディミトリたちに対して犯した罪は、その後に償うよ。

 だから、あとちょっとだけ俺のわがままに付き合ってくれないか。

 

 

 

「全部終わったら。生きて、二人で墓参りだ。……みんなから説教を受けるのと、ジェラルトさんに礼を言うのも忘れるなよ」

 

 うん。

 わかったよ、お兄ちゃん。

 

 

 

 

 

◆◆最終話

 

 

◆1

 

 

「久しいな、アルトリア」

 

 ああ、お久しぶり。

 イエリッツァ先生。

 

 

「あれから、どれだけ学んだ」

 

 先生から貰った本は、全部目を通した。

 ……でも猫やシャーベットの挿絵はお茶目にも程があると思うよ。

 

 

「許せ。俺とて生にすがりたい時はある。それが私のよすがだろうとも」

 

 知ってる。

 俺だってそうだから。

 

 

 でもごめん。

 俺は、それだけに生きることはできなくなった。

 だから、イエリッツァ先生をここに置いていく。

 

 そのために、ここに来た。

 

 

 

「……存外、心地よいものだな。教え子に、先を行かれるのは」

 

 意外。

 まず武人として奮い立つと思った。

 

 

「否定はしない。だが……あの時、あの場所。俺は、私は、間違いなくお前の先生であった。……なら、教え子の成長を喜ぶのも悪くはないだろう」

 

 そっか。

 

 

 

「だが、いつまでもそうするわけにはいかん。俺は死神だ……。私は敵を殺さねばならない……」

 

 結構。

 なら話すべきことは、ここまでってことにしよう。

 

 残りは、この剣と闇で示す。

 

 

 

「いいだろう。こちらもこの大鎌で迎え撃つとしよう」

 

 ありがとう、イエリッツァ先生。

 それじゃあ、最高の逸楽といこうじゃないか。

 

 

 

◆2

 

 

 

 ……イエリッツァ先生は強敵だった。

 戦って楽しい、強敵だった。

 

 それだけだ。

 彼を打ち倒し、勝敗を決した時点でけじめは終わりだ。

 その後は俺よりもふさわしい人物にバトンタッチして、それで俺とイエリッツァ先生の決着となった。

 

 

 

 残りの物語の主役は、シャーベットが好物のディミトリと、父親がいて色々余裕があるベレス先生の二人だ。

 自分のけじめをつけた後の俺は、ただの端役さね。

 

 原作通りに帝国の皇帝は打ち倒される。

 ディミトリは次期国王となる。

 俺は、今までずっと逃げて来たツケを支払うことになる。

 

 そして、ディミトリと一緒に二人で墓参りする。

 

 

 

 ただそれだけのお話だ。

 だから、こっから先は語らない。

 

 

 

 

 

 ただ、もうちょっとだけ言うなら。

 

 やっぱり、生きるって苦しいもんだよね。

 それもまた、生って奴なのかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

 




ディミトリがシャーベットが好きかどうかは、その実筆者は把握できていません。なぜなら、原作のディミトリは味覚障害で味がわからないのですから。
ただ、今回はイエリッツァ先生の対比も兼ねて、あえてシャーベットも好物の一つという解釈を採用しました。


筆者の上代わちきです。この度は「ディミトリの妹になっちまった」をご愛読いただきありがとうございました。


本作は基本ディミトリを振り回すのがコンセプトですが、その実「救済」もやりたいことの一つとして組み込んでしまったのでこんな仕上がりになっちまいました。
ジェラルトさんやロドリグさんをもんどーむよーで生存させたのはその都合でもあり、一方でオリ主さんがこの世界のフォドラにしっかり根差した存在であることを演出するための要素でもあります。
オリ主がいたからこそ、変わるものがある。たとえそこで息をしているだけでも。その最たるものがディミトリさんであることは、言うまでもないと存じます。

ただオリ主はそれに納得できないし、そもそもフォドラに転生したのも内心すごく不本意でした。普通なら家でゴロゴロゲームできるはずなのに、フォドラだと戦争に怯えなければならないのですから。
だからずっと逃げていました。剣と理学と、それから死に。
そんなオリ主に現実を突きつけるのは本作ディミトリの役割で、一方でイエリッツァ先生はオリ主に都合のいい夢を与える役割がありました。
オリ主がイエリッツァ先生と決着をつけることで本作が完結するのは、そういう意図である故。
いつまでも心配してくれるディミトリ達に甘えるという夢に浸るわけにはいかず、故にイエリッツァ先生という象徴を斬り捨てることで夢から覚めなければならなかった。

……本当は別にイエリッツァ先生である必要はなかったのですけどね。
ただ、イエリッツァ先生だけは第一部の周りを見てない(でも強さだけは追い求めている)オリ主を評価してもおかしくなさそうだなーっと思ってこの役割を託しちまいました。
多分彼だけ……というより、死神だけが、殺し合いを以て精神を保とうという在り方を肯定するじゃないかって筆者は解釈しました。

おそらくエミールとしての死神騎士は、きっと言うほどオリ主を評価していなかったと思います。だからこそ、最終回の死神騎士はオリ主を第一部と違う意味で評価し、それに応えるように最後の戦いを挑みました。



とはいえ、すべてはそれっぽい形で終わらせるためだけの物語です。
本作の真髄はやっぱりディミトリ達を曇らせることにあり、今回の話はその後始末でしかありません。
そこに付き合わせてしまった点については、この場を以てお詫び申し上げます。




それでは、これで言い訳を終了させていただきます。
数々の感想・お気に入り登録・誤字脱字報告・応援のおかげで、本当にいい夢を見ることができました。
改めて御礼申し上げます。




というわけで以上です。
上代わちきでした。

(・x・)読んでくれてありがとね!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。