冒涜のウマ娘 それは崇高であるとして   作:fenderlemon

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16話:無辜なる信頼

【雑の談】8月初週リプライノック雑談〜!【矢張ネム】

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「考えてみれば当然だったんだけど『チョコレートフォンデュタピオカミルクティー』は缶の中にタピオカが取り残される訳よ。ただでさえ缶の口に引っかかりやすいのにチョコレートを分厚くコーティングしたせいで全っっっっく出てこなくてさ〜」

 

 ⚫何故開発陣は気が付かなかったのか

 ⚫味だけはマトモ

 ⚫それこの間喉に詰まって呼吸止まったわ

 ⚫缶の設計から無理がある

 

「まず現代においてタピオカなのが今更すぎるけどね〜。じゃあ次のリプライ〜『ネムちゃん、睡民さんこんにちは。いつもの新バのオタクです。今年の新バは粒ぞろいなのは勿論ネムちゃんもご存知だと思われますが、現時点でのネムちゃんイチオシのウマ娘は居ますでしょうか。』あ〜ね」

 

 ⚫出たわね

 ⚫未勝利戦全視聴ニキだ頭を垂れよ

 ⚫スイートパッションでしょ

 ⚫名前流れてるけど誰も分からねぇ……

 ⚫GIしか観ないので……分からんな

 ⚫ええと、パッションです!

 ⚫パッションの一言で重賞取った子が居てぇ……

 

「もう名前出てるけど流石にスイートパッションちゃん出したらそれだけになっちゃうからな〜。知らない人の為に言うと、今年の6月デビュー戦で3バ身差付けて完封、この間の函館ジュニアステークスで5バ身付けて既に合計バ身差が8バ身差あるイカレてる子だよ〜。パッションの一言で最速重賞を取られてるんじゃあもう手につかないよ。来年の短距離は荒れるぞ〜」

 

 ⚫なお次走は小倉ジュニアステークス

 ⚫2戦で8バ身差!?!?

 ⚫8バ身差こっわ

 ⚫短距離ですよね……?

 ⚫ヒシカワリーサル一強なのつまらんから新星来るのたすかる

 ⚫ウマッターおすすめだよ 鬼かわだから

 

 「そう! ウマッターに度々写りこんでる同室の子も未デビューだけどチーム・アンタレスに入部したらしいし、結構気になるコンビだね〜。あとはアハナギ家のアハナギナツメちゃんかな〜。流石にここはアハナギ家はチェックしないと嘘でしょ。そのライバルであるレイントルマリンちゃんも既に公開トレーニングで相当なタイムを出してるし、ジュニア級を見るのも楽しいかもね〜」

 

 ⚫全視聴ニキも怖いけどネムちゃんも怖い

 ⚫ジュニア級沼においでよ……

 ⚫同時視聴やろうぜ!

 ⚫新バのウマッターを当然のように把握するな

 ⚫ライブ近いのに同時視聴はきついやろ

 

「じゃあ次のリプライ!『ネムちゃんこんにちは。実は私はずっと気になる事があります。トマトが嫌いな人は中のぐじゅぐじゅした部分が無理と言いますが、トマトが好きな人で中のぐじゅぐじゅを特に好んでいる人は今まで見たことがありません。こんな感じで好き嫌いが発生する部分が非対称な食べ物は他にありますでしょうか。気になって夜しか眠れません』という事で、分かるなぁ〜。私、魚というか脂乗ってるやつ苦手なんだけどさ、好きな人はとろける〜っていうじゃん? でも私はそもそもとして臭いがキツイんだよね。魚介の中でも特に脂強い奴が苦手な臭いするのよ。あの粘っこい磯臭さ。結構違うんだよ。好きな人って磯臭さ目当てで買うわけじゃないだろうし、これも非対称なやつなのかな〜」

 

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「良し、このタオルも頼む」

「はい、トレーナー!」

 

 カンカン照りのビーチの裾にある日陰、大型のパラソルの下は刺すような直射日光を防げる唯一の場所であったが、モットフェイクはそこから足を踏み出した。

 

 彼女は現在、裂蹄の悪化により剥がれてしまった爪の生え変わりを待つ身である。許される部位の筋トレや運動を課しているものの、全速で走るなど以ての外のけが人であった。それでも夏合宿という場において何もしないなんて事は良心が咎めるのか、モットフェイクは闇堕歴珠(アンタレス)の雑用を買って出ているのだ。

 

 夏合宿が始まる少し前、プルガーネットに対して菊花賞を勝つと宣誓していることもあり、モットフェイクの回復は順調に進んでいる。しかしそれで菊花賞に間に合わせ更に勝利するなど、クラシックの冠が許すはずもない事はモットフェイク(ダービーウマ娘)自身がよく知っていた。七月が終わり今こうしている間にもライバル達が粉骨砕身の覚悟でトレーニングを重ねている。この瞬間にもモットフェイクを置いて強くなろうとしている。ただそれだけの事が余りに恐ろしく重く、その心にのしかかっている。

 

 焦りだ。どれだけその時出来る事をこなしても、焦りは消えてはなくならないのだ。例えプルガーネット(後輩)に強がってみせることが出来ても、自分自身に嘘はつけない。だが、そんなモットフェイクを支えるのは強がって結んだプルガーネットとの約束なのだ。その僅かな強がりがあるからこそ、タオルやユニフォームの洗濯、スポーツドリンクの製造、運動器具の整備など多岐にわたる雑用をこなしているのだ。何かに没頭している内は心は潰れない。それが誰かの役に立つのなら尚更やるべきだろう。

 

 並走トレーニングを執拗に繰り返すプルガーネットとヒシカワリーサルの元に河田トレーナーと並んで近づく。

 

「そこまで! 各々日陰で小休憩を摂るように!」

「ほらプルにリーサルも。タオルとドリンクだ」

「あら、ありがとう。フェイクの助手姿、ようやく見慣れてきたわね」

「ありがとうございます先輩!」

「まだトレーナーの作業量に比べれば少ない方さ。プルのデビュー戦、リーサルのスプリンターズステークス連覇、リム先輩の天皇賞・秋……それに俺の菊花賞へのトレーニングプランとレースプラン作成。考えるだけで恐ろしい仕事だぞ」

「……冷静にならなくても滅茶苦茶な仕事ですね。トレーナーって」

「おう。だから少しくらい手伝わないとなってさ」

「割と本当に助かってるんだよねぇ。夏場の大量の洗濯って汗でビシャビシャになるし、更に腰に来るんだよ……」

「腰はともかく、汗をかくのはアフロのせいでしょう?」

「リーサル? バリカンを持ち出さなくていいんだぞ?」

「はい、リーサル先輩。バリカンはしまいましょうね〜」

「えぇ〜」

「えぇ〜じゃないんだよ。この素晴らしいアフロ無くして君達のトレーニングプランは無いんだからさ!」

「アフロの容積を増やしたら使える頭脳の量も増えますか?」

「プルガーネットくん? ライターをどうして持っているんだい?」

「プルちゃん、火で炙っても更にチリチリにはならないからしまいましょうね」

「えェ〜」

「今のアフロでも二人を十二分に勝利へ導けるつもりさ。だからライターをしまうと良いよプルガーネットくん」

 

 アフロ(外付けCPU)の危機を脱した河田トレーナーは手元にファイルバインダーを抱え込んでいて、太陽光の反射を鬱陶しそうに角度を変えながらペンを走らせていた。モットフェイクが横から覗き込むと中にはヒシカワリーサルのトレーニング強度についての考察がびっしりと書かれており、厚みのあるノートページの束は今日の事だけで一杯のようだった。モットフェイクは中身に興味が湧き、河田トレーナーに疑問を投げかける。

 

「実際のところトレーナー。二人のトレーニングの進捗ってどうなんだ?」

「ふうん。そうだねぇ。ヒシカワリーサルくんについてはもう言うことがないんだよねぇ。非公式ながら千二百のレコードタイム持ってるし、距離も千八百まで安定してきたし、この勢いがあればマイルチャンピオンシップまで欲張っても勝てるんじゃないかと踏んでる」

「あらぁ、随分な評価ね。私的には有馬記念まで走れると思ってたけども?」

「有馬記念はマイルレースだという迷信を信じるんじゃないよ。普通に長距離だからねぇ?」

 

 ヒシカワリーサルの武器は圧倒的なフィジカルにある。短距離のGIを二つ制覇しているその脚だけで現役短距離バの最強の座を勝ち取っているのにも関わらず、距離延伸を考えている。まだ伏せられている事実であるものの、マイルまで蹂躙する日は近いだろう。

 

「プルガーネットくんは身体の歪みが一番のネックだったけど、この間のレントゲンを見てくれ。見ての通りそろそろ全速で走るのも大丈夫くらいにバランスが整ってきた。七月を使い潰した回はあったわけだ。スピードはまだまだ鍛える余地があるけどスタミナは世代トップ。中距離や長距離を目標に据えてもいいくらいだよ。」

「思ったよりは高評価で驚いてます」

「ただ、十二分なスタミナと言ってもジュニア級での話だからな。駆け引きや展開次第であっという間にすり潰される程度。ジュニア級で複雑な展開が起きるとは思えないが……そうなった時の対応力の低さは目立つねぇ」

「う……」

 

 プルガーネットはトリプルティアラを目指しているウマ娘だが、クラシック三冠に目指すだけの素養はある。この世界においてティアラ路線とクラシック路線を比重に掛けると──どうしてもクラシック三冠の方が栄誉があるという風潮がある。長い距離を制覇できる方が優れたウマ娘であるという、現代においては古臭い考えがどうしても残っているのだ。だがプルガーネットは“可愛くなりたい”という漠然とした考えから走っているウマ娘であり、それならティアラの方が可愛い(相応しい)じゃん。という安直な考えによりマイル〜中距離トレーニングを重ねているのだ。十人十色である。

 

「それにスペック勝負を仕掛けがちな傾向があるね。それを許されるのは……それこそ化け物に片足を突っ込んでからやるべき事だ。君にはどちらかと言えばモットフェイクみたいな相手への対処法を覚えて貰いたいところだねぇ。こんな所かな?」

「精進します……」

「お、もしかして俺の出番か?」

「うん。明日からモットフェイクにはプルガーネットに付いて貰おうと思う。どうだ」

「望む所です!」

 

 八月になりトレーニング強度を更に増やそう。つまるところそういう話だった。

 

 翌日。

 ホテルの仮部室にて顔をつきあわせる二人の姿があった。やけに長いポニーテールを揺らすプルガーネットとショートに刈り上げてザンバラな毛先をしているモットフェイクは実に対照的だった。

  

「んで、対処法かぁ」

「はい!」

「安易に受けたけどさ、実演できないんじゃあ効果は何ともだな。とりあえず実戦を想定した座学って感じでいいか?」

「お願いします!」

「よし」

 

 モットフェイクの武器はとにかく手数の多さである。クラシック級のウマ娘でもトップクラスの『崩し』の技術があり、それを軸にレースを引っ掻き回すのが主な戦術だ。

 

 部屋の電子黒板を使い京都レース場の俯瞰図を呼び出す。デビュー戦の舞台である新バ戦、1600メートル、外回りだ。マイルチャンピオンシップでも使用されるコースだが、今回は新バ戦を想定しているのだろう。

 

「このコースは淀の坂を除けば厳しい場所は無いな。2コーナーのポケットからスタートして700メートルは直線だ。序盤のポジション取りは楽だが──逆に言えば仕掛け放題だな。途中から上り坂があって、ここの角度が大変な事になっているのは分かるだろう? 俺なら坂が始まった瞬間に『崩し』を入れるな」

「坂で仕掛けるとどうなりますか?」

「当然だが相手は上り坂に入れば呼吸も足元も上り坂専用に切り替えるだろう。相手もトレーナーには淀の坂を舐めるなって口を酸っぱくして叩き込まれてるはずだ。おかげでジュニア級ならギア切り替える事に夢中になる奴がいるんだ。そういう奴のギアチェンジの瞬間を狙って脚をシャッフルする。すると?」

「呼吸のリズムを見失って坂で崩れますね」

「そうだ。相手は『崩し』に対して自分のペースを守ろうとするだろうから、そこで震脚でもガン飛ばしでも何でもいいから畳み掛ける。それだけで相手を一人減らせるだろう」

「私は基本的に先行だから……垂れたウマ娘で更に妨害出来ますね」

 

 七月、身体のバランスを整えながらプルガーネットは自身の戦術を模索していた。河田トレーナー曰く、プルガーネットの適性は全て、だそうだ。決して投げやりになったのではなく、プルガーネットがそつなく逃げ、先行、差し、追込の全てをこなしてしまったため、レースごとに切り替えていく方針にしたそうだ。

 

 厳密に言えばスタミナ勝負に持ち込みやすい王位を行く先行策が得意で、パワーの必要な追込が他に比べ一段落ちるのだが、適性がハッキリと限られているウマ娘に比べれば器用にこなせているそうだ。そのためデビュー戦である次走では先行策で走る事を前提にトレーニングを組んでいる。

 

「スタミナを消耗したくない坂の中で移動を強要するんだ。周囲への影響も大きい。プルが食らう相手の立場ならこれをどう切り抜ける?」

()()()()()()()()()

「そうだ。『崩し』は相手を驚異と捉えるから『崩し』なんだ。純然たるスペックで圧殺するのが一番の解答だ。だがスペックで上回る相手が仕掛けてきたら?」

「完璧なウマ娘なんて存在しませんし、全ての抜け道を塞ぐことが出来るウマ娘も居ません。つまり、抜け道があるという事なので──逆に移動します。有利な位置取りを潰されているのであれば()()()()()に仕掛けます」

「うん。その通りだ。別に『崩し』を仕掛けてくる相手だけに釘付けになる必要は無い。周囲には必ず血路の元があるはずだな。なんだ、教えがいが無いな。大体分かってるじゃないか」

「いえ、モットフェイク先輩の口で肯定してもらえるなら自信が付くってものです!」

 

 素直な心の内を話すプルガーネットに当てられたのか、モットフェイクの耳がピクリと跳ねる。プルガーネットは聞き上手である。とモットフェイクは思う。初めての後輩を持ったモットフェイクがちゃんと先輩らしく出来ているのかと考えれば多分出来ていないだろう。そうなると先輩後輩という関係をしっかりと構築しているのは、単にプルガーネットの後輩力が高いという話なのだ。

 

「……褒め上手だなプルは。これで怪我がなければ実践まで出来たんだが」

「受けたかったですけど、怪我人には無茶を言えませんよ」

「悪いな」

「そう思うなら早く治してください」

 

 もう一つプルガーネットのコミュニケーションに特徴があるとするならば、時折踏み入った口を効くことがある。悪く言えばズケズケとした話をするのだが、不思議と不快に思うことは無い。どちらかと言えば確信を突かれながらいい気分にさせてくれる話ぶりだった。

 

「私は二冠ウマ娘二人に教わった弟子なんだぞ〜! って自慢させてくださいよ」

 

 プルガーネットに近い二冠ウマ娘二人、というと片方はリムマナケルだろう。誰が文句を付けられるのかという、現役最強のウマ娘だ。ならもう一人は、

 

「プル」

「はい?」

「ありがとな」

 

 プルガーネットはズルい後輩だな。ただそう思ったのだが、口にするのはなんだか気恥ずかしく、ただ礼を言うことにした。プルガーネットの願いはただ一つ。菊花賞に勝つ先輩で居て欲しいという、強さを信奉するウマ娘らしい素朴な願いだ。

 なら、そうあるべきだろう。

 

「さあ、いい時間だし今日も食堂へ行こう! 沢山食べて身体を作らなきゃだぞ!」

 

 沢山食べて、とにかく爪を治して、どうしようもなく走って、泥まみれでいいから勝つのだ。

 無辜なる信頼を裏切れるほど、モットフェイクは悪い先輩になるつもりは無いのだから。




季節の変わり目でダウンしてました
定期更新に必要なのは筆の速さと健康ですね……どっちも無くしちまった……

プルの適性は
芝:A ダート:G
短距離:F マイル:A 中距離:A 長距離:C
逃げ:B 先行:A 差し:A 追い込み:C
です
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