冒涜のウマ娘 それは崇高であるとして 作:fenderlemon
『チーム・アンタレス、常勝無敗に偽りなしか』
先日開催された菊花賞の優勝バ、モットフェイク。3000メートルの驚異も何のそのと言わんばかりの激走をする強豪ライガードール、皐月賞を快勝したサウザンドダイスを迎え、出走するウマ娘の殆どにマークされる中でも得意の撹乱術を用いて勝ちきった、優駿に相応しいウマ娘である事は読者諸兄にも目新しいだろう。
そして天皇賞・秋の優勝バ、リムマナケル。GI5勝目を掲げる彼女に呼応するように飛び出してきた古豪タカサブロウ。彼女の呼び掛けに応じた強者達との大接戦を繰り広げてもなお現役最強の名は伊達では無い。タカサブロウとの最終直線の差し合いハナ差で勝利した姿は間違いなくトゥインクルシリーズに残る物であった。
本インタビューではこの両名を迎え、レースに至るまでのこぼれ話やレースの振り返りなどを掲載する。
『まずは両名に素晴らしいレースをしてくれた事への感謝を。優勝おめでとうございます』
「ありがとうございます」
「これも皆様の応援のおかげです。感謝いたします」
『まずはモットフェイクさんから。脚部不安があったとの事で、実際はどのような状態だったのかお伺いしたいです』
「裂蹄とストレスによる体重変動が主な症状でした。元々爪は割れやすかったんですけど、ダービーに向けてのトレーニングをしている最中から悪化が進み、レース後少ししてから完全に爪が剥がれました。アレは痛かったです」
『トレーニング復帰まで時間が掛かったとの事ですが』
「トレーナーの話では完全に生え変わるまで3ヶ月から半年は掛かるという話でした。剥がれたのは6月の半ばだったので、菊花賞はかなり厳しかったです。それでもトレーナーが療養食や栄養剤など様々な手段でケアしてくれたので夏合宿が終わる頃には軽く走れるほどに回復していました」
『9月までトレーニング出来ていなかったんですか! そこからトレーニングとなると過酷な物になったと思います』
「正直かなりキツかったです。ダービー前の追い込みが2ヶ月弱毎日続くみたいな感じで、メンタルも低空飛行気味でした。でも、メイクデビューを控えた後輩が同じくらい頑張っていたのでなんとか踏ん張れました。特に脚のパワーを取り戻すのに苦労しました。夏合宿で使えなかったアンクルウェイトをここぞとばかりに装着しまくって走ってましたね」
『迎えた菊花賞、ライガードールとサウザンドダイス、他の出走ウマ娘の全てにマークされている状態でしたがどうでしたか?』
「これはもう仕方ないです。俺のようなトリッキーな走りは最初のインパクトこそあっても、何度か使えば対策されます。一朝一夕で対策されるような錆び付いた物には仕上げていませんし、相手のトレーニング時間のウェイトを奪えるという点で有利にはなりますが、対策を完了されてしまえば厳しい物になります。警戒されて当然でしたね」
『しかしモットフェイクさんは今回もトリッキーな走りを遂行しました。観客席に居る我々には分かりかねましたが、隣合ったウマ娘が次々とペースを狂わせ、掛かったり減速したりと八面六臂の活躍を見せています。一体どんな策を講じたのでしょう』
「これはまだ秘密にさせてください。どちらかと言えばやられたウマ娘にインタビューしてくれた方が面白い話が聞けますよ」
『菊花賞を勝利しての気持ちはどうでしょう』
「二冠達成の喜びがあります。皐月賞の事を思い出して悔しくもなりましたし、怪我から復帰したところで結果を出せて安心したのもあります。ですがまずは応援してくれた皆さんに御礼を言わせてください。ありがとうございます。モットフェイクは皆さんが応援してくれたからここまで来れました。今後もよろしくお願いいたします。そして近くで支えてくれた河田トレーナー、何度も励ましてくれた後輩にも感謝を」
『ありがとうございます。続いてリムマナケルさんにインタビューしたいと思います。まずは出走前会見でのタカサブロウからの宣戦布告。どのようなお気持ちでいましたか?』
「たまらなかったですね。ハンマーフウジンに勝って、ユメノサンダーにも勝って、唯一戦えていなかった相手です。タカサブロウを倒してようやく現役最強と胸を張れるでしょう」
『既にドリームトロフィーシリーズに移籍した二人と違い、王権世代の最後の現役でしたからね。つまり以前は現役最強と名乗るのには……』
「かなり抵抗がありました。天皇賞を春秋両方とも制覇したタカサブロウが現役で走っているのに、どうして現役最強を名乗れるのかと思っていました。だからこそ宣戦布告を受けた時は本当に歓喜、でしたね。全身が震えました」
『更にタカサブロウの呼び掛けで古豪たちが集まり、例年でも類を見ないレベルの高いレースとなりました。天覧試合という事もあり、観客動員数のレコードを更新したそうです』
「凄まじい熱気でした。集まった先輩方も何年も走った英傑だけで溢れる勢いで、私を倒すためにこんなビッグネームが集まるとは思わなかったので驚きました。ドリームトロフィーみたいなレースをトゥインクルシリーズで起こすな! と言われましたね」
『レースを振り返ってどうでしょう』
「とにかく走りやすかったです。小細工なんてお互いに通じないので、誰も彼も好き勝手に走ります。全員が力押し一辺倒なんです。強い奴だけがこの戦いを勝ち抜きます。下手な論理も理屈もありませんでした。見たことがないでしょう?」
『とにかく見応えがありました。そして勝者が決まって欲しいのにレースが終わって欲しくないと考える程に夢中になりました。私ですらそう思っているので、リムマナケルさんならもう、そうですよね』
「もちろんです。夢のようなレースでした。一挙一動全てに相手が反応して潰しに来るんです。果てがない押し合いでした。終わって欲しくない一方、盾は私にこそ相応しいというプライドが脚を動かし続けました。先程も言ったようにこの戦いは理屈やら何やらではなく、ただ強い奴が勝ち残ります。そして今回の勝者は私でした」
『勝利を収めてどうでしょうか』
「フェイクと被るんですが、皆様の声援の力あってこその勝利でした。こんなに優駿が揃うレース、そうそうありません。これは私を現役最強と推してくれた皆様のせいですし、おかげで名実共に現役最強を名乗れるようになりました。ありがとうございます」
『最後にお二方よりファンへのメッセージをお願いします』
「いつも応援ありがとうございます。沢山のファンが見守ってくれているから俺はトゥインクルシリーズに夢を見ることが出来ます。俺も更なる勝利を目指して一層努力したいと思います」
「これからのトゥインクルシリーズにも今回の天皇賞のような大勝負は起きますし、次の世代も既に動き始めています。これからもトゥインクルシリーズへの応援、そしてチーム・アンタレスへの応援をよろしくお願いします」
──月間トゥインクル11月号。切り抜き。
「あ、プルまたそれ読んでる〜」
「そりゃ読むよ。先輩達の記事だし」
「ルドーちゃんが指摘するの4回目」
「マスターちゃんがそれを報告するのも2回目だよ」
「なにおう!」
「やるのかこらー!」
「頭の上で喧嘩しないで……」
十一月に入ったばかりの頃である。暖房が入った教室で行われる四限の歴史の授業は生徒を眠らせるにはうってつけであり、真面目に聞いていたはずのプルガーネットが損をしている気分になるほどであった。遊牧民族であるモンゴルがそのままそっくりウマ娘王朝に置き換わり、チンギスハン率いる強大な走弓兵によってユーラシア大陸が蹂躙される話なんて聞くだけでワクワクしたのだが、クラスメイトの殆どは眠たそうにしていたか、本当に眠っていたのどちらかである。
休み時間になってすぐにプルガーネットは先日発売した月間トゥインクルの切り抜きを開いていた。生で見たレースという事もあったし、アンタレス特集であったことも理由の一つだ。菊花賞を無事に勝ったモットフェイクと天皇賞・秋を制したリムマナケルも目当てだったが、もっと言えばインタビューの後ろのチームインタビューのコーナーが目当てだった。
ページ上部にインタビューを受けるメンバーが横長に配置されるのが一般的なインタビュー記事のレイアウトだと思われるが、チームインタビューの紙面はページ下部から河田トレーナーの生首が生え、アフロの黒色の中に白文字のインタビューが載っていた。実に独創的なデザインだった。いや、構図としては何の面白みも無いのだが、この奇天烈な絵が生まれたのが歴史あるウマ娘誌・月間トゥインクルであることが何よりシュールであった。しかもアフロを強調するための構図のせいでヒシカワリーサルとプルガーネットの写真は次のページに押し出されてしまっている。あんまりな扱いだった。
夏合宿の場末のBS放送の番組を除けばプルガーネットは公的な露出はしていなかった。河田トレーナーによるSNS規制である。そんな中、初めて公的な場に出られると。しかも由緒正しい月間トゥインクルであると期待し、プルガーネットは今までよりも更にメイクレッスンへの意欲を燃やしていたのだ。それなのに次のページに押し出された影響で写真のサイズは小さくなり、スイートパッション仕込みの渾身のメイクは殆ど意味を成していなかった。散々だった。
これをなぁなぁに流してしまってはプルガーネットの心が荒れる。アンタレスが先輩二人の勝利により注目されているうちにクラスでアフロ畜生をネタにし、同情を誘うムーブをしないと気がどうにかなりそうだった。
不幸中の幸いと言うべきか、月間トゥインクルを用いた誘引策は功を奏した。クラスの中でも話しかけてくれるウマ娘が増えたのだ。中でも休み時間のメンツとして定着したのがルドーマドーと、メイクデビューで争ったカーボンマスターの二人だった。
先程から頭上で低レベルな口喧嘩を続ける二人は留まるところを知らず、プルガーネットの耳がキンキンとしてきた。
「もう見てよプルのこの顔! マスターの声がうるさいって言ってる!」
「どう見てもルドーの声が邪魔って顔だよ!」
「二人ともうるさい」
「あぁ!?」
「なにおう!」
どうして私の周りには声が大きいウマ娘しか集まらないのだろう。プルガーネットは大きく息を吐いた。
◇
喫茶ファミレス・シャドーブリアン。トレーニング外のウマ娘の食欲を満たせる府中随一の店である。レースの反動を鑑みて一週間の休みを言い渡されたプルガーネットは新しく出来た友達との交流を測ろうとするのだが、
「なんで!? 信じられない! 大きなステーキに勝るメニューなんてないよ!」
「色々な味が楽しめるプレートが最強に決まってらァ!」
やっぱりルドーマドーとカーボンマスターはうるさかった。家族連れが多く子供まみれだったから目立ってはいないが、そうでないタイミングなら怒られるだろう。びっくりするほど低レベルな口喧嘩を見ていると、「そういえばこの学年、十三歳だったな〜」ということを思い出し、「でも私十三だった時にはもうベッドの上だったから普通が分からないな」という悲しい前世を思い出して閉口した。
二人にチョップを叩き込み黙らせ、お互いのおすすめを交換すれば? と助言を差し込む。二人は対抗心の塊故かすぐに乗り、呼び出しベルを叩いて店員を呼び付けた。プルガーネットもそれに追従してサイドメニューを多めに頼んだ。二人の勝負がどう転んでも機嫌を取るためである。
「んでんで、この後のは何だっけ」
「ルドーもう忘れたの? 映画だよ映画。SFだっけ」
「マスターこそタイトル忘れてるじゃんね! ええっと、何だっけ」
「『クリエイティブ:創造人』だよ」
プルガーネットは嘆息した。この二人に会話をさせると一生話題が進まない。隙あらば補助を差し込まないとすぐに喧嘩が始まってしまう。映画館でも騒ぐ程だとプルガーネットはいよいよこの二人を教育する必要がある。そうならないことを祈りつつ料理を待った。勝負は意外な事にお互いを認めて終わった。プルガーネットはサイドメニューの山をもそもそと食べた。
◇
「はわぁ、終わった」
「なんだろ、読後感? はいい感じ。よく分からなかったけど」
「プルはどうだった?」
「映像美は予告の時点でかなり良かったけど全編通してクオリティを維持してて凄かったね特に好きなのは舞台美術と設定の詰め込み方が綺麗でアンドロイドであっても初期の宗教にありがちな偶像崇拝に辿り着いている描写が好きかなまさか偶像崇拝の先が曖昧な現代芸術作品に見せかけてアンドロイドだけが共有しているマザーコンピュータの姿だったとは思わなかったしそれに主人公達が気づくまでのストーリーラインも無理なくストレス要素が消されてて好感が持てるね全体のオチとしてはありきたりな題材であるけど現代の映像技術の粋を集めてオールドSFをリメイクしたって感じで凄い満足したサウンドトラックも欲しいな〜って感じ」
「早口こわ……」
「どうしたの急に」
シアターを出てすぐのコーヒーショップでやたら名前の長いドリンクを注文した三人は映画の感想を交わしていた。海外の3DCGスタジオ大手が協力しただけあって重厚なオールドSFが展開されていた映画だが、ルドーマドーとカーボンマスターの顔はぼんやりとしている。何せ彼女たちは映画を普段から嗜んでいる訳では無いし、SFジャンルに至ってはほとんど見たことがない。近未来すげー、という情けない声が精一杯である。
対してプルガーネットは、ご満悦である。なんかもう、むふーと擬音が顔の横に付いていそうな表情をしている。ルドーマドーもカーボンマスターも教官とプルガーネットに世話をされた仲である。仲良くなったのはここ数日だが、ここに居ないスイートパッションに並ぶ程にプルガーネットのことを見ていた。しかしそんな二人でも見たことがない顔をしている。可愛いと美人の中間を幼くしたようなプルガーネットの表情はいつも真面目そうで、目の前でデレデレの笑顔を晒すウマ娘と同一人物とは思えなかった。
「まぁプルの変な顔を見れたし元は取れたね」
「だね」
珍しい意見の一致を見せる二人は、今すぐにアンドロイドのシンギュラリティと宗教についての関係性を説き始めそうなプルガーネットを押しとどめて話題の転換を図ることにした。
「プルって次どこ走るの?」
「あぁと、白菊賞かな」
「えーっとスマホスマホ……あっ、メイクデビューとほぼ条件一緒なんだ」
「そう。メイクデビューと同じ条件で更に勝って自信を付けようって話になったんだ」
「てっきり京王杯ジュニアステークスからの朝日フューチュリティステークスとかホープフルかと思ってた」
「分かる。てかメイクデビューあんな派手に勝てるならGI行けるっしょ」
「ははは……」
メイクデビューでボコボコにした相手にそう言われるとどう反応すればいいのか困る。そのまま肯定してしまえば「お前らが弱すぎたからメイクデビューだけじゃ自信付かなかったわ!」という話になってしまう。いや、まぁ、うん。河田トレーナーが話したのはその通りであるが、世の中には声に出さない方が良い事もあるのだ。建前って大事。
それはさておきジュニア級のGIもプルガーネットは興味を持っていない訳ではなく、むしろ出たいとすら思っていた。この世界のルールはとても大雑把だ。前世の競馬事情はさっぱりなプルガーネットであるが、そんなプルガーネットですらレースへの出走条件を理解出来る分かりやすい指標があった。
ファン数である。
メイクデビューを勝ったと同時に河田トレーナーに告げられたのだ。ファンが900人ちょっと出来たと。いや、待って欲しい。そんな突然トレセン学園の数分の一に相当する人数のファンが生えてきても理解しかねる。プルガーネットはそう訴えたのだが、アンタレスの公式ホームページの内部にいつの間にか作られていたプルガーネットのファンクラブサイトには、およそ1000人を切る程度の会員が登録されていた。
河田トレーナー曰く、白菊賞を勝てばホープフルステークスへの
「朝日とかは流石に間に合うか微妙だけど、ホープフルなら
「スケジュール的には……?」
「間に合うなら行けばいいのに」
「うん。トレーナーに言われた。今の実力ではGIは無理だって」
「……えっ!? プルでも!?」
「嘘でしょ!? 私との着差トレーナーさんに教えたげよっか!?」
嘘ではないのだ。
この間、河田トレーナーはハッキリと口にしたのだ。
「プルガーネットくん。君にはホープフルステークスに出たい気持ちがあるのかもしれないが、私はおすすめしない」
「今の君の身体は薄氷の上でタップダンスをしているような状態だ。いつ夏の前のようなバランスを崩した状態になるか分かったものでは無いんだ」
「もちろん出るというなら私は全力を尽くしてキミを勝利させる。
大まかにこういった話をされた。実際はもっと正確なトレーニングプランを説明されたのだが、これを二人に説明しても何の意味も持たないだろう。
「あんなに強そうな勝ち方をしたプルでもGIはまだ無理って、インフレが酷過ぎる……」
「6月の時点でメイクデビューに勝利出来てたら余裕があったらしいけど、
「まず余裕があったもしれない時点でアンタレスってすごいね」
「私たちは未勝利戦頑張らないとだ」
二人は強豪チームの入部テストに受からなかった組である。その二人の前で闇堕歴珠の話をするのも少し思うところがあったが、レースの話を振られた時点で避けようがない。こればっかりはそういう世界なのだと飲み込むしかない。プルガーネットは慣れないタイプの汗を背中にかきながら名前の長いフラペチーノを飲み干した。
「ん、そろそろ出よっか」
「そうだね」
「また映画観ようね〜」
また。またかぁ。教官のところから面識があるとはいえ、仲良くなって数日のプルガーネットに対してそう言ってくれる。ただその事実がプルガーネットの心を少しだけ暖めた。
明日からは白菊賞へのトレーニングである。
メイクデビューの前みたいに不安定な姿を見せていられないぞ、とプルガーネットは意気込み、足取り軽く寮へと帰っていった。
3月31日に横浜マリネリアにて開催されます URC というウマ娘オンリーの即売会イベントに申し込みました。
そして当選してました。
はい。こっちの更新頻度がちょっとヤバいかもしれません。
でも新刊作りたい欲には勝てなかったよ……。
シャカファイ本が出る予定です。公式のウマ娘を書くのが久しぶり過ぎて怯えていますが(?)まぁ何とかなると思いたいですね。既刊のテイマク本も持ち込む予定です。良かったらスペースに来てください……。よろしくお願いします……。