冒涜のウマ娘 それは崇高であるとして 作:fenderlemon
「今日はこれでよし……」
プルガーネットは今日もドロドロとした儀式を終える。『平穏の見せかけ』と呼ばれる現象。言わば理外の神々から生まれ落ちた異聞であり、異哲であり、異形の証。宇宙からの鉱石に自らの血と肉を捧げて作り上げた冒涜の義肢を
プルガーネットはこれを“清め”と呼ぶことを心がけている。ンガイの森にあるリック湖の水を吸い上げた樹木の樹液から抽出された粘液を脚に垂らし、吸わせる作業を清めとした。詳しくは知ろうと思ってはいない。知るだけ正気を失うことになるだろうから。
左脚を身体と共に成長させる為の措置であり、そして不浄の定めを拭うための行動であるからには、この行為に“清め”という名前を与えなければプルガーネットは自身を正しいと誤認することは出来なかった。でなければ得体の知れない品品を寮まで持ち込むことは無かっただろうし、万が一露呈したとしても相手を言いくるめるにはうってつけの名目であった。
無論、この世界における生体義肢の扱いが芳しくないことはプルガーネットには分かっている。何せ他に居ないからだ。居ないという事は孤独である上で、異端である事の証明の第一歩でもある。表立って扱う人間は居ないという事だからだ。後ろめたく、疎ましく、忌避感と共に遠ざけられる。
人体の外から肉体と同様に成長する義足は、プルガーネットが前世から持ち込んだ倫理観と何ら変わりない思想の元にこの世界に存在してしまっている。しかしそれでも、塗りこんだ樹液の数だけ義足は成長していくし、今更ステージへ目指して進む事を止めることは出来ない。
だが、日々重ねる中で左脚の成長がゆっくりと停滞してきている事にプルガーネットは気がついている。病魔のように音もなく成長痛も無くただ伸びてアンバランスになりゆく両脚が、遂に均衡を崩し右脚の成長スピードに競り負けたのだ。
ウマ娘の本格化が始まったのである。
本格化。それはウマ娘における成長期。人間とは大きく形態を異にするもので、特に差異が認められるところとして『姿が固定される』ことがあるだろう。
本格化が発生している期間の間、ウマ娘は大きく身長が伸びることも無く、目に見えた老化が起きることもない。姿形が固定化されるのである。しかし外見とは裏腹に表皮より下、筋組織や精神面における成長は激動の一途を辿り、所謂人類の上位種とも揶揄される強大な膂力や、人類でも類を見ない高いスポーツマンシップに帰順する精神性なとが分かりやすい成長の果てだろう。
プルガーネットの左脚、義足は肉体に合わせて成長する。
いつしかバランスを崩し、左脚に力が備わるばかりであったが、バランスが崩壊し、左右対称にならんとするのであれば、それは姿形が固定化されること。すなわち本格化の萌芽である事はプルガーネットにも分かる事だった。
故にプルガーネットは決意した。事情を知るトレーナーに脚の事を相談するべきだと。無論、ただのトレーナーではプルガーネットの脚を扱う事は不可能。
向かうは
「……行くぞ!」
ゲヘナの向こうでさえこうはならないだろうという悪臭が漂い、奇怪なノイズめいた音が苦悶のように建物を震わせる。窓の一つ一つに眼球を敷き詰めたような視線を感じ、肌に無数の脚が生えた虫が這っているような感覚さえ覚えるほどの鳥肌。生理的嫌悪感という単語による蓋をしても許されざるおどろおどろしい雰囲気に包まれたA棟の奥までプルガーネットは柳眉を立てる事すらなく踏破して見せた。
こんなもの、黒衣の医師に対峙した時に比べれば些細な物だと嗤うのだ。世間ではこれを蛮勇と呼ぶだろうが、ルビコン川の畔の肥溜めのようなあの医師と邂逅したプルガーネットから呼べば、こんなもの。である。
プルガーネットは扉を認めた。アンタレスの巣窟である部室の扉である。これだけ物々しい演出に満ち足りた通路を抜けても尚異彩を放つその扉には、松の木一枚板から切り出した彫刻にて『闇堕歴珠』の文字が刻まれている。
「ここがあのアフロの部室か……」
故にプルガーネットは扉を認めた。そして左脚に力を入れた。腰を蛇のように落とし大木を振り回すような勢いで全身を大きく回転させ、裂帛の気合いを持って扉を豪、と蹴り抜いた。破砕された美しい彫刻や部品が向こう正面へ飛来する。しかしそれらは正中線に当たる部分から真っ二つに別れ、左右へ散り散りになっていった。
扉があった正面に立っていたのは、小児を思わせる低身長、いやに大きな耳にグラデーションがかった青鹿毛、とてもカタギに見えない目つきと闘志をみなぎらせたウマ娘、
「テメェ、ここを『闇堕歴珠』の部室と知っての狼藉か!」
「はいッ! 入部希望のプルガーネットです!」
「そうか、結果はこの私! 『リルマナケル』が言い渡す! 不合格だッ!!」
二冠ウマ娘リムマナケルであった──喧嘩上等。
一合二合、小手調べの拳が一秒以下の時間を刻むようにリムマナケルとプルガーネットの間を謳歌する。三合目にして早速リムマナケルが横っ飛びに全身を捻り、飛びかかと落としをプルガーネットの脇腹にねじ込もうとし、プルガーネットはそれを見てからリムマナケルの空にある膝を踏み抜き、更に上を取った回避を行う。
両名がお互いの瞳を見つめ合い、驕った考えを捨て去り本気の拳を構えたその瞬間、
「両者、そこまで!」
憎きアフロのあん畜生、河田トレーナーが手を挙げ二人に割って入った。
「リムマナケルの初撃を抜けるとはやるなァ、プルガーネットくん」
ねっとりとした拍手が実に白々しい悪役然としていて、それでいて似合ってしまうのが河田トレーナーの美貌といつものだった。つくづくアフロである事に問題があるように思える。リムマナケルはとても河田トレーナーの裁定に納得していない様子で「トレーナー! こいつ、私が頑張って彫った扉をッ!」と食ってかかるが「構わん。破壊される扉は美しかった……。そうだろう?」と返すとリムマナケルは、
「……はい。それは否定できません」
と素直に首を収めた。美学を何よりも尊ぶ闇堕歴珠において、創造と破壊、表裏一体にして万物に通ずる概念は上位の扱いを受けるのだ。美学の前では一昨年からGIを制覇しているリムマナケルでさえも平等となる。
「プルガーネット」
「はい。河田トレーナー」
「流石に最初のじゃれ合いならともかく、これ以上の喧嘩はスポーツマンシップに反する」
河田トレーナーの言うことは最もであった。破壊の美学に通づるプルガーネットは己なりの美学を示そうと左脚で扉を抜いた。しかしそれ以上の喧嘩は美学ではなく、リムマナケルの領域を侵した故の縄張り争いなのだ。「はい。つまり──」とリムマナケルが促す。
「そうだ。リムマナケル、そして我が闇堕歴珠との模擬レースを執り行うッ!」
応! と声が二人のウマ娘から発せられる。闘気が高まり、空気が暖まり、湯気のように殺意と間違わんばかりの意思が部室の入口を満たしたいく。
「ありがとうございます!」
「模擬レースですか! 良いですね! コイツをボコボコにしても?」
「構わん」
無慈悲な宣告に「なにおう!」とプルガーネットは憤ったが、「レースで語るんだな。
もしかしなくても軽率な勝負に乗ってしまったかと思ってしまったプルガーネットであるが、しかしGIを制した先輩に模擬レースをしてもらう機会なんて滅多にない。選抜レースで最下位になった自分には余りに貴重な経験であると考え直し、小走りで芝コースへ向かうリムマナケルと後を追う河田トレーナーの後ろに続いたのだった。
芝コース。東京レース場を模したトレーニングコース。今日は午前に雨が降り、見る限り稍重とするべきか。ぬかるむまでは行かなくとも良い足場とは言えない。故にプルガーネットは僅かな希望を持った。アンバランスな脚力を持ち、尚且つ不器用なプルガーネットではあるが、バ場は荒れている方が不思議と走りやすいのだ。左足の力を上手く吸ってくれるからだろうか。
しかし相対するのは三人のGIウマ娘。
「テメェに
リーダー格、先程ぶつかりあった『リムマナケル』。日本ダービー、菊花賞、ジャパンカップ、大阪杯を勝ち抜いた本物の強豪。クラシックのジャパンカップ以後、脚部不安から休養していたものの、先日の大阪杯で勝ち抜き完全復帰を見せた。
「リム、燃えてるわね。後輩は増えた方が嬉しいでしょう?」
短距離王『ヒシカワリーサル』。クラシックにしてスプリンターズS、そしてシニア一年目で高松宮記念を勝ち抜いた生粋のスプリンター。13戦13勝を抱えてスプリンターズS連覇を目指している。
「入部テスト! テストをする身分になったんだな俺たち! ま、緊張するなって方が無理だけど、期待させてもらう!」
ダービーウマ娘『モットフェイク』。圧倒的な撹乱技術で今年のダービーを勝ち取ったウマ娘。レース後に脚部に炎症を起こしてここ1ヶ月は休んでいたはずだが、この模擬レースに出てくるならば警戒しなければならない。
にわか仕込みのプルガーネットですら知る三人である。その実力は推して知るまでもなく圧倒的であり、このテストを勝利で飾る事は事実上の不可能である。
だが、それは挑戦を放棄する理由にはならない。
「本気で行きますから、私」
「当然だ」
「楽しみにしてますよ?」
「早くやろうぜ!」
三者三葉の返事を待ち河田トレーナーが小石を手に掲げる。先日も見たスタートの合図だ。
「ほら、始めるぞ」
ギチリとプルガーネットの全身の筋肉が強ばる。他三人はリラックスしているものの、踏んだ場数が違う。こんな小童に脚を消費されるつもりは無さそうだ。その判断、後悔させると言わんばかりにプルガーネットは小石が落ちた瞬間を見るまでもなく同時にロケットスタートを決めた。
「スタートは悪くないな」
(なっ、)
「だが素直すぎる」
プルガーネットの頭は完全に混乱していた。モットフェイクは
つまり、逃げを打てるだけの最低限の適性は持ち合わせているプルガーネットよりモットフェイクの方がスタート技術が上なのだ。追込ウマ娘にもスタート技術は必須であるが、だからといって注力が必要な訳では無い。後半の末脚のために脚を溜める方が圧倒的なウェイトを占めるはずだからだ。
これがGIウマ娘の実力と言われればそれまでだが、それ以上の現実的な問題としてモットフェイクにペースを作られるのは最悪の展開だ。どうにかしてハナを取り返さんとプルガーネットは加速し──あっさりと取り返してしまった。
(何を考えているんだ?)
モットフェイクの行動に大きく揺さぶられ無駄なスタミナを消費したプルガーネットであるが、相手は一人では無い。ヒシカワリーサルがいつの間にか背後にピッタリとくっ付いている。小柄なプルガーネット相手ではヒシカワリーサルの長身をカバーするはどのスリップストリームの恩恵は受けられないだろう。むしろシニア級であるヒシカワリーサルからすれば前方に鈍足な障害物がある形になる。
「まだまだ視野が狭いんじゃないのかなぁ?」
当たり前のようにを口を開いて言葉を投げかけるヒシカワリーサル。時速六十キロを超える中でわざわざ首を上げて言葉を発する。絵面は簡単に見えて、恐ろしく極まった高等技術だ。
人間の頭部の重量は体重全体の十バーセントにも及ぶ。それをわざわざ会話のために軸から外すのは余りに非効率な体重移動であり、高速レースの中であれば自殺行為に等しい。だが、ヒシカワリーサルもモットフェイクも当然のように会話を仕掛けてくる。GIウマ娘ともなれば当然のように扱えるスキルなのか、惑いはプルガーネットの速度が遅すぎて話になっていないのか。
視野が狭いと言われようがプルガーネットは振り向くことは出来ない。体幹を今揺らそうものならばこの第三コーナーで確実に外に膨らんでしまうからだ。視界にこそ入っていないものの、恐ろしく強い蹄鉄の音を鳴らすリムマナケルは右後ろで虎視眈々と機を窺っている。見るまでもなく圧倒的な存在感を放っており、会話してまで注意を寄せたヒシカワリーサルとモットフェイクの足音を覆い隠してしまう程だ。
(……っ!)
これが現役でも頂点の一つとなったリムマナケルの重圧。否応にも意識せざるを得ない。相手の思考領域を占有するほどの存在感。ただ走るだけで相手を消耗させる、強者の走りだ。
その隙をモットフェイクは見逃さない。プルガーネットの視界にギリギリ入り込んだり、引っ込んだりを繰り返す。高速で足元のリズムをシャッフルしている。思考領域を支配され始めたプルガーネットは次々と変わる耳元の音にテンポを見失う。ただでさえリムマナケルの重圧に対抗しようと歯を食いしばっている最中に、自分のレースのテンポがおかしいのではないかと思うような異常な音を耳に叩き込まれる。周囲の蹄鉄の音から自らのリズムまで崩されると途端に呼吸は苦しく、全身が鉛のように変わっていく。これがダービーウマ娘の崩しの技術か。
リムマナケルが一際大きく足を踏み込む第四コーナーの終わり、視界が直線に対して直角になった瞬間、目の前に三人のウマ娘が現れた。
「はぁ!?」
思わず声が飛び出てしまう。リムマナケルなら当然分かる。モットフェイクも裏から観察していたから分かる。しかし、ヒシカワリーサルは短距離バのはずだろう。スタミナを使い果たす道理はあれど、プルガーネットより先行する理由があるのか。
「……っ!」
「そこで見てろ」
余りに冷たいリムマナケルの声に胃の底が冷たくなっていく。
「ごめんねぇ〜。お先!」
短距離バということを全く思わせないヒシカワリーサルがプルガーネットの前へ躍り出る。
「勝つのは俺だぁ!」
ギアを上げたモットフェイクが尋常ではない末脚を見せて上がっていく。
レースはプルガーネットという挑戦者と三人のウマ娘ではなくなり、三人の叩き合いに変化していく。三人がプルガーネットとの距離をぐんぐん開けていく。三バ身。四バ身。五バ──
「みとめ、られるかっ!」
底冷えした胃に怒りが炎となって注ぎ込まれる。鉛のような肉体を溶かし尽くし、全身の息を再度立て直す。そして、
豪脚一閃、プルガーネットの左足が一瞬極彩色に輝き、地面が爆散するような揺れを起こし、砲弾のようにプルガーネットの肉体を打ち出した。
「………ぅ…ッ!」
「ほぅ、まだ食らいつけるか」
「……食らいつけなきゃ、飢えて、死ぬだけだッ!」
左脚が地面に触れる度に轟音が響き、プルガーネットの速度は次々に上がっていく。ついに三人の最後方、ヒシカワリーサルの背中に届きそうになった時、四人のウマ娘はゴール板を駆け抜けた。
負けた。
切り札を切ってまで負けた。
無駄にした。
しかし代償は無駄にされようが身体を蝕む。急速に視界が暗くなり脚から力が抜ける。精一杯の減速を行うものの全身が前方に投げ出され、プルガーネットは誰かに受け止められたのを感じる。黒い視界では誰とまでは判別が出来ないが、お礼を言うことも出来ずに肺が一度に縮こまった。
「──げほっ、えふ、え゛っ、」
「おい。水だ」
この声はリムマナケルだろうか。投げ出された手に常温のペットボトルらしき物を握らされたが、上手く持ち上げられなかった所を見かねたのか、優しい手つきで顎を持ち上げられゆっくりと水を流し込まれる。いつの間にか乾ききっていた喉に粘性の何かがこびりついていたようで「そのまま吐き出せ」と言われれるがままに水を吐く。ぺたりと胸に何かが水とともに付着した音がした。息が楽になり、視界に色が戻ってくる。
「はぁ、はぁ。やっぱり二〇〇〇メートル、長いよねぇ。プルちゃんは大丈夫?」
「理由は知らないが鼻出血だ。今血塊は吐かせた」
鼻出血。人間のただの鼻血ではなくウマ娘の鼻出血である。プルガーネットは心底肝を冷やした。代償として血を流す事は身体で覚えていたが、高速走行中の鼻出血は洒落では済まない。鼻腔内で出血すると、猛烈な風を当てられることで血が固まり、血塊となって気管支を襲うのだ。万が一気道に入ろうものならば時速六十キロで呼吸困難を起こし、全身を投げ出すことになる。良くて全治一ヶ月の打撲、最悪は──語るまでもない。
「んくっ、んくっ!えほっ……。すみません……げほ」
まさかリムマナケルが真っ先に気がついて応急処置をしてくれるとは思わなかったが、とは続けられないプルガーネットは程々に水分補給をしながら回復体位になる。
「最後のアレ何だったんだ!よくやるじゃねぇか!」
「フェイク、うるさいぞ。プルガーネットはまだ呼吸で精一杯だ。冷却スプレー取ってこい」
「おうとも!」
「プルちゃん、安心してね。今トレーナーも来るから。うちのトレーナーの教えるクールダウンがあれば怪我なんてしないからね〜」
口は穏やかでもドタバタとした三人を見ていると、急にプルガーネットは自らの事が恥ずかしくなってしまい、耳を赤くした。何が挑戦か、何が切り札だと言うか。最終的に先輩に迷惑を掛けながら介抱されているんじゃしょうがない。
「プルガーネットくん! 大丈夫か!」
肩で息を吐きながら河田トレーナーまでやってきた暁にはさっきまで勝負に乗り気で場を暖めてたじゃないかと口をついて出そうになるが、河田トレーナーの顔は深刻そのもので、つい口を噤んでしまう。
結局プルガーネットは河田トレーナーとリムマナケルにより保健室に運び込まれた上でクールダウンをさせられのだった。
保健室の先生に問題ないと診断され、メンバーが解散になった頃合になってもリムマナケルはベッドの横に居た。神妙な顔つきでこちらを見ているので座りが悪いことこの上ない。口こそぶっきらぼうではあるが、真っ先に助けてくれたのはリムマナケルなのだ。しかも手つきはかなり手慣れたもの。もしかしなくても、リムマナケルとはかなり面倒見のいいウマ娘なのではないだろうか。
何がともあれ助けられたことには感謝を述べねばならない。感謝と金の切れ目が縁の切れ目である。プルガーネットはゆっくりと状態を起こし、礼を言おうとする。
「あの、ええと」
「リム。リム先輩でいい」
「え、そんな気安くて……いいんですか?」
「人の作品を蹴飛ばした奴が言うことか?」
ぐうの音も出ない正論であった。確かに道場破りのテンションで行ったのは事実だ。本格化が始まったことを相談しに行くはずが、これから私の本来の能力が発揮される! と言った具合に上書きされてしまったことも認める。しかし、扉を壊したのは歴然とした理由があるのだ。
「すみません! でもアレ、扉に釘打ち付けてあったじゃないですか。壊さないと入れないって事は『破壊の美学』を示せってことかなと」
「──は?」
「え?」
空気が2℃ほど下がった音がした。リムマナケルの不器用な表情筋が更に不器用に口元を動かす。
「あの扉は引き戸だ。打ち付けられているはずが──」
「部室行けば確かめられるかと思います。トレーナーが掃除しに行くって言ってました」
「……すまん。プル。テメェを誤解してた」
どういう事ですか。と聞くタイミングを待たずしてリムマナケルは「部室の掃除を手伝う必要がある」「また明日、綺麗になった部室に来い」と残して去ってしまうのだった。
A棟の奥から悲鳴が聞こえたのは程なくした頃であった。
気まぐれ更新です。
思ったより話は進まなかった。