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目を開けば、そこは見慣れた白い天井。いつも目にしている、マイルームの天井。
自分以外には誰も居なくて、静かで、少し寂しい気持ちが込み上げてくる。
ベッドから起き、今日もまた一日が始まる事を実感する。
洗面台の蛇口から水を出し、顔を近付けながら両手で作ったお椀にそれを溜めて、顔を洗う。
ぼーっとしていた意識が、冷たい水のお陰で一気に覚醒める。
側に有るタオルで顔の水を拭い、スッキリとした顔をしている自分を鏡で確認する。
クローゼットの扉を開き、ハンガーに掛けた服を手に取り、袖に手を通す。
ボタンを一つずつ、丁寧にして着崩さずに着こなす。
「――よし。今日も頑張ろう」
いつもの様に、頑張ろう。
「あ、アルトリア。おはよう」
廊下を出て、食堂の方に向かって歩いていると、金髪の少女―――アルトリア・キャスターを見掛けた。
「立香、おはようございます」
おはよう、と声を掛けると、彼女は振り返っておはようと返してくれた。
そのまま並ぶ様にして、他愛もない話しをしながら食堂へと向かう。
今日は何を食べる? とか。今日はどんなトレーニングをしよう、とか。
そんな、『世界を救う』なんて事とは無関係な、友達と話すような事を話しながら。
「マシュ、おはよう」
「先輩、それにアルトリアさん。おはようございます」
食堂に着くと、自分の後輩であり、サーヴァントの一人であるマシュと出会った。
こうして彼女と挨拶を交わすのも、何度目だろう。
「おはようございます。あ、オベロンも居るじゃないですか。おはようございまーす」
アルトリアが、先程とは打って変わって適当な声色で、伸ばしながら挨拶をする。
そんな適当な挨拶をされた黒髪の青年―――オベロンは、軽快に笑った。
「あはは、なんで俺だけ挨拶が適当なのかなー? そうやって人によって態度変えるの、止めた方が良いんじゃないのー?」
訂正、目は笑っていなかった。
「オベロンですから良いんです!」
「ふざけんな。ねぇ、マスター? 君はマスターなんだから、サーヴァントに挨拶の手解きくらいしてあげたらー?」
「オベロンくらいだから、このままで良いんじゃないかな?」
「お前もか! ったく…まぁ、良いけどさ。仲良くする気もないしね。」
「あー、そうやってまた憎まれ口をふぁふぁ」
「無駄口を叩く口はこれかなー? んー?」
憎まれ口を叩く、と言い切ろうとしたアルトリアの口を、オベロンは右手で掴んだ。とても笑顔で。
あはは…と、マシュと苦笑いを浮かべながら、二人より先に受け取り口へと向かう。
「おや。おはよう、マスター、マシュ」
「おはよう、エミヤ」
「おはようございます、エミヤさん」
カルデアで最初に呼んだサーヴァントの一人であり、厨房を担当しているエミヤ。
皿に朝食を盛り付けながら、エミヤは向こうで言い合っているオベロンとアルトリアの方を見ていた。
「あの二人は、あのまま放っておいて良かったのかね?」
「うん。仲良しだから」
「そうですね。あのやり取りも、仲が良いからこそのものだと思います。」
「そうか…では、君たちの朝食だ。よく噛んで食べるんだぞ」
トレイに乗せられた朝食を受け取り、空いている席へと座る。
「なぁ、隣、座って良いか?」
「あ、はい。どうぞ」
友達が、隣に座る。
「ありがとな。相変わらず、“衛宮”が作る料理は美味そうだよなー」
「そうだね。タマモとかブーティカさんが作る料理も、勿論美味しいんだけど。エミヤの料理は、何ていうか…母の味がするって言うか」
「あー、分かる。親が作ってくれるご飯って感じだよなー」
「そうそう。美味しいもそうだけど、それとは別の何かを感じる」
「懐かしい、とかか?」
「あ、それかも。食べてると、今日も頑張ろうって思えるんだよね」
「それは良いことだけど、でも頑張り過ぎるのは良くないぞ。今日もトレーニングするんだろ?」
「うん。シュミレーションルームでね」
「毎日やってると疲れないか? わざわざ一度やった戦いをまた繰り返すんだぜ?」
「まぁ…疲れるけど。でも、やらなきゃいけない事だからね」
「なら、一度くらい―――さぼってもいいんじゃないか? “藤丸”」
「……?――――――え?」
「おれと一緒にさ、さぼろうぜ、藤丸!」
顔を上げる。隣を見る。
顔は黒い。いや、体が黒い。どこもかしこも、真っ黒だ。
でも、白い部分もある。サボロー、と体の真ん中に白い文字で書かれている。
それから―――意識が途切れた。
まるで、夢から醒める様に。