というか、影野ミノルが転生時ダイスロールに失敗して、自我を持ち越せなかったら?
影野ミノルの記憶──ではなく感情付きの記録しか残せなかったら?
影野ミノルが、前世にとんでも武術を習っていたら?
そして、アルファたちの出会いや年齢がズレていたら?
──これはそんな「if」の物語──
陰の… 第01話
今となっては、どうやっても「きっかけ」が何だったのかは思い出すこともできない。
でも、物心がついた頃には“ボク”はもう『陰の実力者』に憧れていた。
───みたい。
それも、アニメなのか、漫画なのか、映画なのか、ゲームなのか…、とにかく『陰の実力者』であれば何でもよかった、それが何であったとしても“ボク”にはよかった。
───らしい。
主人公でもなく、ラスボスでもなく、物語に陰ながら介入し実力を見せつけて征く存在。
“ボク”はそんな『陰の実力者』に憧れ、そうなりたい、と思っていた。
───そうね。
ただ、ヒーローやヴィランに憧れた子供たちと違うのは、“ボク”のそれは一時の熱病ではなく、もっと深い心の底で燃え続け、いつまでも決して消えることなく“ボク”を突き動かし続けていた。
───のよね。
そのため、家の隣にあった道場で内家戴天流――拳法や剣術――だけで結構いっぱいいっぱいだったけど、とにかく強くなるために必要なものは全力で習得した。…他にもピアノとか家族の方針で習い事はいくつかあったけど。
そして普段は実力を隠し続けていた。いつか来るであろうその日に向けて。
───でも、最後の1年間はスタイリッシュ暴漢スレイヤーやってたよね? 人助けはセーフ?
───なお、道場やその界隈では隠しようが無かった訳だけど、極々一部だからセーフ、らしい。
そうやって、学校では平凡を貫いた。決して目立たない、人畜無害なモブA。
しかし日常の裏側は修行に全てを費やした。
それが“ボク”の青春であり、学生生活であった。
───全てを費やしてやっと、だったような。
だけど、時が経つにつれて不安が押し寄せてきた。現実と向き合う時が来た。
───うん、そうね。
そう、こんな修行をしていても、無駄なのだ。
武術をいくら習得しても、創作や物語の世界にいた『陰の実力者』のような、圧倒的な力は手には手に入らないのだ。
───まあ、そうよね。
“ボク”に出来たのはせいぜいチンピラ数十人をボコれるだけ。飛道具が出てきたら……ちょっと厳しいし、完全武装の
軍隊にボコられる『陰の実力者』……笑える。
“ボク”がこの先修行しても、たとえ世界最強の武術家になったとしても、きっと軍隊に囲まれたらボコられるのだろう。
いや、もしかしたら何とかなるのかもしれない、内家戴天流の大師範とかなら。
───そこそこ強かったわね。
しかし仮に軍隊を打倒したところで、頭上に“核”が落ちてきたら蒸発する、それが人間の限界だ。
これだけは断言できる。“ボク”が憧れた『陰の実力者』は“核”で蒸発しないのだ。だから“ボク”も、“核”で蒸発しない人間にならなければいけないのだ。
───うん、ちょっと待とうか。
“核”で蒸発しないために必要なものは何か?
打撃力か?
鋼の肉体か?
無尽蔵なスタミナか?
いや、そんなものじゃない。もっと別の、異なる力が必要なのだ。
───ちょっと待って、てば。
そう、魔力、マナ、オーラ、何でもいい。未知なる力を取り入れる必要があった。
氣は内家拳戴天流で取得したけど、流石に“核”には無力だからね。
それが、“ボク”が現実と向き合った末たどり着いた答えだ。
正気では“ボク”の目指した力は手に入らない。それはきっと狂気の先にあるものなのだ。
───どうしてこうなった?
それからの修行は困難を極めた。
魔力、マナ、オーラ、そんなものを習得する方法は誰も知らないのだ。
“ボク”は内家戴天流を修行しながら、座禅を組み、滝に打たれ、瞑想し、氣を高め、断食し、ヨガを極め、改宗し、精霊を探し、神に祈り、自身を十字架へ磔にした。
正解の存在しない暗闇の中を、自分の信じた道を、ただ突き進むのみ。
───繰り返しになるが、どうしてこうなった?
そして時が経ち、“ボク”は高校最後の夏を迎える。
魔力もマナもオーラも、まだ見つかっていない……。
───
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日も、森で全裸になり森羅万象を感じ、氣を込めながら大木に頭を打ち続けて物理的に雑念を排除し、かつ脳に刺激を与え、未知なる力の覚醒を促していた。
未知なる力はまだ身につけていない。しかし最近の修行には手応えを感じている。
───いや、それは無い。
今もそうだ。 修行を終えたこの身は、頭の中がチカチカと輝き、視界がグラグラと揺れている。まるで、脳震盪になったみたいに。
魔力か……あるいはオーラか……。その影響を確かに感じるのだ。
───錯覚よ!
ああ、視界がぼやける。
ふわふわと、まるで空を飛ぶかのような足取りで、“ボク”は森を下りていく。
その時ふと、揺れる光を見つけた。
まるで宙を泳ぐかのように、横切っていく二つの光。
不思議な光だ。まるで“ボク”を誘うように怪しく導いている。
「ま、魔力……?」
“ボク”はおぼつかない足取りで近づく。
きっと……きっと魔力だ!
ついに“ボク”は未知なる力を見つけたのだ!
───だから、錯覚よ!!
いつしか歩みは駆け足へと変わり、木の根に足を取られても、そのまま転がるように、獣のように走る。
「魔力! 魔力! 魔力! 魔力魔力魔力魔力魔力!!!!」
───
“ボク”は二つの光の前に飛び出し、捕まえ……。
「あ……?」
けたたましい
衝撃が身体を貫き、“ボク”の…
───お悔やみ申し上げます。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
という訳で、これまで伝聞長で長々と話して済まなかったわ。
実は“ボク”は“私”に転生してしまったみたい。
現在の“私”は生後数ヶ月の赤子……残念なことに女児のよう。
前世(?)のことも含めて意識がはっきりしたのは最近だし、時間の感覚もまだ曖昧で正確なことはわからない。
言葉も分からないし、中世ヨーロッパぐらいの文明っぽいってことしかわからない。つまり異世界転生ね。
なぜ前世の“ボク”の記憶──感情付きの記録の方が正確か──があるのかもわからない。
とにかく、最期の
そして、皮肉なことに“私”は
目が覚めたら周囲は
意識が覚醒してすぐ、私はこの
ふわふわと、今生の父・母・姉、そして“私”からも吹き出し、漂い流れる光る粒子の姿。そして、それらは世界を漂っていた。
実は粒子の濃さは、母≒私≒姉>父だったことは秘密よ。母の魔力の方が魔剣士の父よりも多い理由は後日解ったけどね。
これらはまるで修行の時に精霊を探すためお花畑を全裸で走り回ったときの感覚(!?)にそっくり、なようだったわ。……前世での記憶──記録──とはいえ、いやな感じ方よ、ね。
……前世の最後に見た二つの光とは違い過ぎるから、やっぱり前世の世界には魔力は無かったのでしょう。
という訳で、前世の“ボク”の時の修行は無駄ではなかったようね。その証拠に“私”は魔力をすぐ知覚し、そして今では手足のように操ることが出来る。
この感覚は全裸で自分を十字架に磔つけたときに感じた……いや、改宗を繰り返し全裸で踊り祈りを捧げたときか……おそらく前世の全ての修行が活きているのでしょう──そう思いたいわ、切実に。
もう既に“私”が身体強化ができることは確認できている。
赤子の有り余る時間を修行に使い“私”は今度こそ『陰の実力者』に……
あれっ?
“ボク”の望んでいだ『陰の実力者』ってなんだろう?
大前提として“私”は
たしか、創作や物語の世界にいた『陰の実力者』のように、
①主人公でもラスボスでもなく、物語に陰ながら介入し
②軍隊も打倒できる。
③
だったかな? 前世の
魔力もあるし、前世の記憶──記録──もあるし、なんとかなってみましょう、“私”なりの『陰の実力者』に!!
……あ、うんち出ちゃう。
初めての二次創作です。
需要があると嬉しいです。
なお、陰の実力者の定義から、「④平凡で、決して目立たない、人畜無害なモブA」は抜けています。
死の直前の1年間に、スタイリッシュ暴漢スレイヤーを結構やっていたので、気付いていません。