陰の実力者…?   作:ponpon3

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 七陰列伝の第07話です。

 今回は、上下2部構成の下となっています。


 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わっています。

 それに注意して読んでください。

 気に入らない方は、そっ閉じ願います。


 ──これはそんな「if」の物語──


陰の… 七陰列伝 第07話「郷愁…あの日の香り……」下

 

 

 季節が流れて、三人だけの時間は終わりを告げた。

 

 銀色の髪に泣きぼくろの少女、ちょっと濃い青い目のベータが仲間に加わったのだ。

 

 実はベータは最初の頃は人見知りで、シドのことをたいそう怖がっていた。だいたいアルファの後ろに隠れていた。

 

 国にいたころから、アルファはベータのことを知っていたし、ベータもアルファのことを知っていた。

 

 とはいえ、友達だったわけでもないし、社交の場で挨拶を交わしたことしかなかったけれど、同じ境遇となった二人はすぐに打ち解けた。

 

 それからすぐにガンマとデルタが加わり、一人きりで寂しかった小屋は随分にぎやかになった。

 

 シドに習った技術で、アルファたちは小屋を増築し、立派な(ツーバイフォー)を建てた。木の香りに満ちた、温かな家だった。

 

 そんなある日、シドはデルタとガンマへの指導を早めに切り上げて皆を集めた。

 

 デルタは得意げにガンマを見下ろし、ガンマも氣を昂らせてデルタを睨む。いつもの光景だ。

 

「デルタの方が強いのです…?」

 

「氣の練り方は私の方が上ですっ、私の方が硬いし、私の方が先輩だし…、私の方が年上だし…」

 

「ガ、ガンマのくせに生意気なのです…。」

 

「デルタなんか氣をろくに練れないくせに…」

 

 デルタがガンマを押し倒し背後から覆いかぶさろうとするが、それをデルタが無傷で跳ね返す。これもいつもの光景だ。

 

 なんでも、犬は上下関係を分からせるために上に乗るのだという。

 

「はいはい、もうやめなさい。」

 

 (アルファ)が二人を引き離す。デルタはアルファの言うことは素直に聞く。よくも悪くも、上下関係に忠実なのだ。 

 

 だからこそ自分より弱いと思っているガンマが上にいることが気に食わない。

 

 実は、ガンマは生来氣の巡りが悪いところがあったらしい。シドが1週間強かけてガンマを解呪した時に、その巡りの悪いところ(経絡)もシドの氣と魔力で(頑丈に)したと聞いている。

 

 その結果、氣の巡りが良くなるを通り越して、常に氣が昂ッているくらいになった。氣の力で頑丈になって怪力になったガンマの内家戴天流の修行が、氣を整えて抑えることがメインとなったのは仕方のないことよ。

 

 なので実際のところ、常時氣を昂らせているガンマの方が硬くて、氣の練りかたの甘いデルタではダメージが通らなくなるのだ。しかし、ガンマの反撃をデルタに当てることもできなかった…

 

 ガンマもデルタみたいな脳筋が気に食わない。

 

 二人は犬猿の仲だった。

 

「力とは武力だけではない。人の世を支配するのはいつだって知力だ」

 

 シドは皆を集めてそう言った。

 

「ボス・レディー……?」

 

「シャドウ様……。」

 

 デルタとガンマがシドを見上げる。デルタはよくわかっていない顔で、ガンマは彼の言葉に救いを求めるかのように。

 

 風が木の香りを運んでくる。

 

「教えてやろう。たった一枚の金貨が何倍にも膨れ上がる知の力を。金を操り、世界の経済を支配する術を……。」

 

 それから、シドは銀行と信用創造という途方もない計画を語ってくれたのだ。

 

「すごい……。」

 

 (アルファ)の口からこぼれたのは、小さな子供のような感想だった。

 

 そのスケールの大きさに、シドの『彼の叡智』凄まじい智慮に、アルファは震えていた。

 

 ベータはアルファの後ろで、シドを恐れて震えていた。

 

 デルタは寝てしまい冷たい夜風に吹かれて震えていた。

 

 そしてガンマは――感動に震えていた。

 

 多少暗かった彼女の濃い藍色の瞳に、さらに強い力が戻っていた。

 

「シャドウ様、私は…進むべき道を、見つけました。」

 

 シドはただ頷いただけだった。

 

 その日から、ガンマは変わった。氣の制御や剣術、魔力制御だけでなく貪欲にシドの知識──『彼の叡智』──を求め、寝る時間も惜しんで研究に励んだ。

 

 (アルファ)もガンマと話し合う機会が多くなり、そこにベータも加わって将来の組織の形を描いていった。

 

 この頃になると、実戦訓練としてシドと遠征にでかけたこともある。──遠征先で狐の獣人が盗賊に襲われて死にかけていたのを見つけて、治療の練習として氣と魔力でシドが助けたこともあった。今でも元気にしているだろうか?

 

 やがて、イプシロンが加わり、ゼータが加わり、最後にイータが加わった。

 

 シャドウガーデンを結成してから約3年間、七陰が揃い修行して成長し、活動を教団の調査と悪魔憑きの奪還・救出に広げるまで、シドとレミーが七陰を直接指導して氣や魔力制御を習得させてくれた。

 

 …そう云う意味では、七陰はシドの内家戴天流の愛弟子であると言えるかもしれない。

 

 内勁の修行でシドの氣を通されたときの暖かさと治癒の効果はアルファをして禁断症状が出るかと思うくらいの心地良さだった。実際ゼータとイータはシドに今でもよくせがんでいる。

 

 

 

 木の香りに包まれた家で、彼女たちは幸せだった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

  

 それは、ゼータとイータがシャドウガーデンに加入してから1年くらい経ったころ。シドやレミーが自らの秘密を打ち明けてからだいたい10ヶ月ほど経ったころだった。

 

 たまたまレミーが拠点にシャドウ・ゲートで移動した時のことだった。通称『旅の扉の部屋』に着いたときに扉の外を通りかかったイータが、今日は何時から勉強会──当時はそう呼んでいた──なのか、と声をかけてきた。

 

 悪かったのは、一つ目はレミーが入れ代わり直後で大大大好きお姉ちゃんと別れてちょっと機嫌が斜めだったこと。二つ目は扉が半分閉まっていてイータから見えなくてレミーだと気付かなかったことだろう。

 

 とっさに声をシド──シャドウに変えて応答したところ、イータは扉を開けて確認せずにシャドウだと思った。まあ当たり前である。シャドウ・ゲートには使用権限が付与されていることを知っているし、自分たちの拠点の内部で何を警戒する、という話だ。

 

 レミーは予定を知っていたので、伝えて終わり、となるところだった、レミーがちょっとイタズラ心を出さなければ。

 

「今日の勉強会には、特別な衣装を使うからね。イータとゼータに伝え忘れていたから、今伝えるね。」

 

 素直なイータは、ガッツリ信じた。

 

「マスター、どんな…衣装、なの?」

 

 重ねていう、当時はとても素直だったのだ、シャドウには。

 

「『彼の叡智』の一つで、水泳というんだ。それに最適で伝統的な、スク水というんだが…」

 

 レミーは調子に乗った。よりによってスク水である。しかも、旧スクについて説明したのだ。

 

 色の指定が、白ではなく、紺色だったのが良かったのか、悪かったのか。ご丁寧にゼッケン用に暗号として『ぜーた』と『いーた』と書いたメモまで扉越しに渡した、渡せてしまったのだ。

 

 そして、ワザと少し遅い時間を伝えた。ゼータにもイータから伝えてね、必ず着て来てね、と。

 

 レミーはその時に自分が入れ代わりで観れないことだけを不満に思いながらも、ボロを出さないように、忘れ物があった、と言いさっさと一度カゲノー家に戻って行った。

 

 ゼータは驚いた。少しおかしいと思ったが、主の叡智ということでイータからの伝言通りに、メタルスライムスーツに旧スク水に覚えさせた。

 

 …覚えさせるのは簡単だった。ボディースーツから手足の部分を消して、装飾品を消していく。ゼッケン?部分を白くして暗号で書かれた文字を入れる。スタイルがまるわかりなことに加えて、露出が多くてゼータは恥ずかしかった。なお、イータはよくわかっていなかった、

 

 そして悲劇の幕は開いた。

 

 アルファは少し驚いていた。ゼータとイータが時間になっても部屋に来ない。こんなことは初めてだった。もうシドも来ていて、あとはゼータをイータを待つばかりとなっていた。

 

 遅いわね、そうね、何してるんだろう? さあ、トイレかな、迎えを送る? とシドとイプシロンが問答している時だった。

 

 

 ──その時、歴史は動いた── 少なくとも、ゼータとイータの心は間違いなく

 

 

 顔を真っ赤にしたゼータと、少し恥ずかしそうなイータがスク水を着て部屋に入って来たのだ。

 

 

 はっ? ──一回目──

 

 

 その時、部屋の空気の凍った音がした。 

 

 全員がスク水でいる、と思って恥ずかしさを我慢していたゼータと、イータを衝撃が襲う!

 

 アルファたちは当然普段着だった。ゼータとイータだけだった。しかも、当時13~14歳のゼータとイータは発育が良かった。だから、スク水が色々とヤバかった。さらに露出した白い肌もなまめかしかった。

 

 よりによって一番に反応したのがシドだった。

 

「あれ、いきなりスク水着てきてどうしたの? ご丁寧に『ぜーた』に『いーた』ってひらがなのゼッケンまでつけて?」

 

 イータはまだわかっていなかった。首を傾げながら聞き返した。

 

「マスターが……この服、着て来て……って言ったよね?」

 

 

 はっ? ──二回目──

 

 

 アルファたちは、ジト目でシドを見た。──アルファには少しの期待感もあった

 

「いったい、ゼータとイータに何を着せているのかしら?」

 

「ちょっと待って、これは冤罪よ!」

 

「でも、ゼッケン?にひらがな?で名前まで入れているのよね?」

 

「こ、これは…こ、孔明の罠よ! 私に、そんな特殊性癖は無いわ!!」

 

 真っ赤になって固まっていたゼータが、瞬時にメタルスライムスーツをボディースーツ姿に変更する。

 

 

「レミー!!!!」

 

 

 瞬間、心一つに。イータも慌ててボディースーツ姿に変更する。その顔は真っ赤になっていた。身体がワナワナと震えていた。

 

 

「ほらっ、私じゃ無い!」

 

 

 アルファはわずかに落胆しながら、ため息をついた。

 

 こうして、レミーの悪だくみは見事に嵌った。ゼータとイータの心に大きな傷痕を残して。

 

 それ以来、観察力と警戒心が増したゼータと、素直ではあるが猜疑心の強くなったイータがいた。

 

 イータは、シドの声「だけ」では信じられなくなっていた。いちいち顔を確認してくる。まぁそんなイータも、それはそれでかわいいのだけれども。

 

 レミー?さすがに7歳児をボコボコにする事はできなかったので、アルファとゼータからたっぷり説教されたわよ。それ以外にイータにも何か約束させられていたわ。

 

 あと、七陰(私たち)のレミーの扱いが雑になったことは言うまでもないことよ。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 あの日から、アルファたちは走り続けてきた。

 

 木の香りに気づかないほど、がむしゃらに、でも、それなりに楽しく生きてきた。

 

 茜色の日射しが室内を美しく染める。

 

「アルファ様、会議の時間です。」

 

 ノックの音が聞こえて、ガンマが入室してきた。

 

「ねえ覚えてる? 木の香りの中で、二人で語り合った…。」

 

「木の香り…?」

 

 ガンマはアルファの隣に立ち、深淵の森の木々を見下ろす。

 

 そして風が運ぶ木の香りを吸い込んで目を細めた。

 

「懐かしいですね…。もう3年ほど前になるのでしょうか。」

 

「そうね、まだ3年ね。あの日描いた夢が形になっていく…、でも、まだまだ夢の途中よ。」

 

「…そうですね。」

 

「私たちは、私たちの信じる道を、走り続ける。シドを狙うものと、私たちを遮る者には容赦しない。さあ、行きましょうか。」

 

「はい!」

 

 二人はそろって部屋を出た。

 

 

 

 あの日の木の香りは、いつまでも胸の奥に残っている。

 

 

 

 





 さらなるテコ入れを兼ねて投稿します。もっと陰実原作の小説が増えますように。

 七陰列伝第07話です。上下2部構成の下です。

 基本はカゲマスですが、今回もちょっと違います。

 本作品では、アルファたちの性格や嗜好も変わっています。

 結果、シャドウガーデンの始まりも変わっています。

 前話でアルファが壊れていました。

 その昔、某所で壊れ**とかいろいろとシリーズがありましたが、これにも「壊れ」とかタグをつけた方が良いのでしょうか。


 この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。

 色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。
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