七陰列伝の第08話です。
基本、カゲマス準拠です。
今回は、『イータの実験記録』の上下2部構成の上となっています。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わっています。
そして、シドと七陰の距離感がまったく違います。
それに注意して読んでください。
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
…古都アレクサンドリア。ミドガル王国の東の果てに位置すると伝えられてきた、伝説の都。
周囲を『霧の龍』が吐き出す猛毒の霧に覆われている。その西側に『深淵の森』が、他三方を、絶壁の山脈が囲っている天然の要害であり……
かつて旧き王が拓いた繁栄の象徴たる都は、今やそのたたずまいのみを残す遺跡と化していたが、シャドウとシャドウガーデンの新たな拠点として、今まさに、この古都は生まれ変わろうとしていた。
──危険で無慈悲な実験によって!
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ふぅ、ひとまず、旧拠点からの移動は完了したけど、これからが、シャドウガーデンにとって、本当の戦いね。
「差し当たって、都市機能の整備、構成員の訓練、兵站の確保、軍資金の調達、やることは山積みです。」
そうね、ラムダ。都市の運用面と資金調達については、ガンマが動いてくれているのだけど、このアレクサンドリアの地は、思いのほか肥沃にできている。これを活用しない手はないわ。
「つまり 農業や牧畜なども行われますか……」
それも、この地に置いてなら、人目を気にせずに行うことができる。食料の自給まではいかなくても、自給率を高めることは必要だわ。それに、直接闘えない娘たちにも、貢献の場を提供できる。
ガンマが商売を行う上で、様々な商品開発を試す場としても、この古都の土地を大いに活用できるでしょうね……
「ならば、都市の防衛機能を整えることも、早急の課題です。『深淵の森』と『霧の龍』の毒の霧に守られているとはいえ、古都の西側は、他の方面と違って地政学的に最も防衛が手薄なところでありますから。」
毒の霧に守られているからこそ、油断してはいけない、ということね。それなら、訓練施設との兼ね合いにして、防衛機能を用意する、というのはどうかしら?普段から訓練を行っていれば、いざという時の防衛としても、機能する……というように。
「名案だと思います。
シャドウの修行はどちらかというと絶壁の山脈の方でするでしょうね、七陰とナンバーズら弟子たちへは。で、
「……んっ……なに?」
「この古都アレクサンドリアの西側に、構成員の訓練施設、兼、拠点防衛システムを作りたいのだけど…」
「……訓練……拠点……防衛、建築……やりたい!」
お願いしてもいいかしら?
「アシスタントとして、遠慮なく
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……できた……ラムダーー。
「はっ、こちらに。」
……すっごいの、作るよ。
「すっごいの……ですか?」
これが……設計図と……完成図。
「拝見してもよろしいですか?」
……うん。
「それでは失礼──これは…、これを本当にお作りになられると!?」
ラムダは両目──失明した右目はシャドウに癒してもらった──を大きく見開いた。
うん……作るよ。マスターの、『陰の叡智』からも……参考にしているよ。
──心なしか、弾んでいるような──
「…確かに、これが実現すれば……! アルファ様の求める要件を、完全に満たすどころか、想定も機能も、大きく上回ります……!」
少し震えながらラムダは意見を述べた。
「ですが……これは……少々やりすぎなような気がします。これで訓練をしていたら……その、普通に、命の危険があるというか──」
手伝って。
「あの……」
手伝って。
「でも……」
手伝って。
「サー! イェッサー!!」
ラムダはイータの圧に……負けた。
うん……よろしい、楽しい実験と……建造を始めよう。建造用汎用……スライムの出番……
──イータ、久し振りの建造、それも大型建造にノリノリであった──
…これは……大変なことになってしまうのでは!? ラムダは慄いた。
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ふ、ふふっ、ふ……!
いい土……いい水……いい風……いい日当たり……いい日陰……広いお家に……広い実験室……
……そして、外はまるまる、実験場!
訓練にも使える……すごい防衛システムに……なる!
──イータのテンションはひたすら高かった──
マスターは、前に言ってた……
『本拠地の守りには、勝ち抜けシステムがあるといいわね。』
一人ずつ……戦って、倒さないと……通れない仕組み……
あの旧拠点だと、構造上……難しかったけど……本当は、そういうのが……いいな、って……!
ふ、ふふっ、ふふふっ、ふはははははっ!
──イータの不穏な笑い声は仮設研究室中に響いた──
すっごいの……作るっ!
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この急ぎ足の音は……ガンマ!? 慌てて、扉の前から離れる。
「アルファ様ーーーっ! た、大変ですーーーっ!!」
ガンマが、仮設指揮所の扉を
ガンマは…怪我をしていないようね。よかったわ。……でも扉は後で
それでどうしたの? そんなに慌てて。ミドガルの王都で何か起こったとか?
「……まさかアルファ様、アレをまだご覧になっていないのですか!?」
アレ?
「外のアレです!」
今日はまだ、外に出ていなかったのだけど何かあったの? 緊急を要する迎撃なら、ガーデンの構成員が即座に対応を……
「訓練場ですよ!」
訓練場? ちょうどここに、イータの引いた図面があるわよ。午前中にこれをチェックして、午後から細かい指定を……
「だ・か・ら、もうできてるんです!その訓練場が!!昨日の朝にはなかったものが、今日はもうあるんです!!!」
──一瞬、会話が途切れた──
もうできてる!?
……ちょっと待って。イータに話をしてまだ2日しか経っていないのよ?
「アルファ様、昨日は何をされていました?」
1日かけて、ラムダから上がってきていた、構成員の編成計画を、検討面含めてまとめていたのだけれど……。
それに昨日はシドの担当だったし…その…ちょっとだけ盛り上がったし…
「その丸一日で イータがやってしまったのでは!? 私も昨日はリンドブルムの方に出ていましたし……!」
…建造用汎用スライムを使ったにしても驚異的なスピードね。ひとまず 実物を見てみることにするわ。
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「……ん、アルファ様……施設、できたよ。」
イータは大きく欠伸をした。
「……ふわぁぁっ……眠い……」
「お疲れ様です、アルファ様。」
ラムダの声を聴きながら、防衛施設を見回す……、思わずため息が漏れた。
「防衛機能を含んだ訓練場、というより、まるで要塞ね、と図面の時点で指摘するつもりだったのだけれど……」
「訓練もする……なら、実戦を踏まえて……用意したよ。」
……いくつかの広い区画を、入り組んだ一本道で結ぶ構造になっているけど、この意図は?
「一人ずつ……倒さないと、一番奥まで……たどり着けない。 これは、マスターの『陰の叡智』……私たちは、七陰……だから……防ぐ場所も、7箇所にした。」
なるほど……この構造なら、ゴーレムを配置するのと合わせて、敵が大軍で侵入してきてもその動きを大幅に制限できる。敵の動きを把握しつつ、一点集中的に防衛することができるし、平時は複数の区画を利用して、訓練の内容を分けたりもできる、と。
意外と、シドの考えなさそうな、抜け目のない構造ね。
「あのっ、アルファ様。」
何かしら、ガンマ?
「防衛システムの存在意義については私にも分かります!シャドウ様の叡智に基づいた、必要不可欠な仕組みということも。」
そうね。
「ですが、このゴーレムの数は……明らかに過剰ではありませんか? これだけの数を維持し、運用するには、かなりの資金が──、そもそも……ラムダ! あなたがいながら、どうしてイータを止めなかったのですか!?」
「そ、それは……!」
「ラムダに……私の実験……協力を断る権利……なし!」
ラムダはたじろいだが、イータが言い切った。
「ッ!! サー! イェッサー!!」
「あぁ~っ……、もぅ~っ……」
…あなたにとって、シャドウと七陰の命令は絶対! そういうことよね?
「サー! イェッサー!! このゴーレムは古都における防衛戦力であると同時に、訓練における仮想的としても十全に機能するものであります!」
ちらりとガンマの方に眼をやった。
「そして イータ様は、ゴーレムの評価試験と同時進行で、このゴーレムを仮想敵とする特殊な戦闘データを、ガンマ様直々にとっていただきたい、とのことであります!」
「特殊な戦闘データ? アルファ様ではなく、私が?」
「『魔道具』……使ってもらう。」
「『魔道具』……?」
イータの中では、すでに何らかの完成形が見えている。後はそれを実験で確かめるだけ……。そういうことね……
「イータの実験……果てしなく嫌な予感がするんですけれども!?」
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イータ、その『魔道具』というものについて、説明してもらえるかしら?
「……ん……わかった。……例えば、普通の魔剣士の剣は……鍛造する過程で、一定の魔力を込めることで……魔力を流しやすくしてある。」
そうね、他にはミスリル製にするとか、してるわね。
「これは……使用者の魔力が……高ければ、高いほど……その魔力の流れに……共鳴して、強い効果を……発現するから。……これは、私たちのメタルスライムも同じ。」
ええ、メタルスライムシリーズは、シャドウの叡智の結晶の一つだわ。
「この『魔力を流しやすくする』効果に……注目、特化して……、様々な能力を強化する道具を……魔道具と……名付けた。『魔道具』を使えば……ガーデンはもっと強くなる……だから、専用の工房も……作らせてもらったよ。」
ふう、と一息を入れるイータ。
「と、まあ……こんな感じ。」
「こんな感じ、って……! 誰の許可も取らずに、専用の工房まで作ったというのですか!?」
…確かに
「確かにアルファ様の言う通りではありますが、さすがに一言くらいは先に言っていただければと!」
ガンマもさすがにちょっと怒っている。
「ガーデンの懐事情は、無限というわけではないのですから……」
「無限……じゃない……!?」
イータがとてもショックを受けたような感じで答えた。
「そんなわけありますか!」
まぁまぁ、ガンマ……
「それに、その『魔道具』の実験を、どうしてこの私が担当するのですか? 自分で言うのは少々心苦しいのですが──他の七陰の方が、その……適任のはず。」
「うん……実際、ガンマ……適任じゃない。」
「だったら……!」
「適任じゃない、だから……一番いい、実験になる。」
イータは得意そうに告げる。
つまり 能力を底上げする『魔道具』だからこそ、その上げ幅を最も実感可能な『七陰』に、今回の実験をしてほしい……ということよね。
「うん ガンマ……防御は、硬すぎる……けど攻撃は、そんなに……当たらない。……戦闘センスが……イマイチ……」
「あぁぁっ……人が気にしていることを~っ!」
「落ち着いてくださいガンマ様! あくまで攻撃の命中率についてだけです。それに七陰の中の話であって、ガーデンの
──ガンマって氣と魔力で硬すぎて傷つかないし、パワーも飛び抜けているし、後は……、とはシドが言っていたことね。
「それに……最近のガンマ、なんか……弛るんでそうだし。」
「ちょっと! 実験ばかりで引きこもっているあなたに、一方的に言われたくはないのですけれども。」
「……マスターに、連れられて……内家戴天流の修行なら……やっているよ?」
「私だって、シャドウ様との修行は欠かしていません!…って!」
そこで、ガンマは、はっ!?となった。
…ガンマ?
「まさか、シャドウ様は今の私の状況と気持ちを全て知って……?」
…シャドウはあなたに、何か伝えたの?
「ええ 拠点を得た後のことですが……」
「お風呂の中で『ここで気をぬかないでね、ガンマ。新天地に安寧することなく、常に自らへ問い続けること。その精神の積み上げこそ、あらゆる土台を支えるのだから、ね?』と。私に抱きしめられながら…」
──ちょっと羨ましくて妬ましいわ──
でも、まさに今のあなたの状況を予測しての言葉ね。
「古都を接収し、新たな拠点ができて安心していた私を、言外に戒めていたのかもしれません。ガーデンにとって、本当の戦いはこれから。安定した状況に甘えて、決して気を抜いてはならない……、シャドウ様にはすべてをお見通し、ということなのでしょう。」
う〜ん、いや、それは……
──シャドウは、そこまで考えてはいない、と思うけど──
「確かに、私の能力の底上げは、『七陰』はもちろんのこと、シャドウガーデン全体の土台を支える力へと直結します……!」
「じゃあ……やろう。」
「……ええ、やるわ! 『魔道具』でもゴーレムでも、何でも持ってらっしゃい!」
「ふっ……、その言葉……もう取り消せない……からね……」ニコニコ
イータは満面の笑みを浮かべている。
「うっ……! わ、わかっているわ!」
「ラムダ、実験準備、よろしく。」
「サー! イェッサー!!」
有意義、だけど限りなく危険……、そんな実験になりそうね。
七陰列伝第08話です。上下2部構成の上です。
基本はカゲマス準拠です。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わっています。
そして、シドと七陰の距離感がまったく違います。
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います