七陰列伝の第12話です。
基本、カゲマス準拠です。
今回は、『ベータの作家デビュー』となっています。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
そして、シドと七陰の距離感がまったく違います。
というか、普段から七陰と一緒にいますし。
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
「ベータ、報告をお願い。」
はい、ミドガル王都においてガンマ率いるルーナ商会は 紹介株の既存事業を引き継いでの貴族向け服飾流通に加え、新事業『まぐろなるど』の露店を王都の複数地点で展開。
この新事業が極めて順調に推移し、ガーデンの収入は増加の一途をたどっています。
「1ヶ月に2500万ゼニーの純利益。服飾事業のみだった400万ゼリーの頃と比較すると、この時点で、すでに驚異的な伸び率ね。」
「まさか、『まぐろなるど』がこんなに当たるなんて……たしかに前世では世界的に売れていたけど…」
「そうだったの? シド。で、この利益を『まぐろなるど』の拡大につぎ込むのではなく、服飾事業の補強に回して、将来的に貴族の大口顧客も狙う。こうして、名を売りに行く判断もガンマらしい采配ね。」
貴族向けの支援服飾の制作も大詰めに入っていて、外気明けには一部のおしゃれな貴族を対象に『紳士服』を納品予定とのことです。
「ほんと、ガンマってこの辺の考え方凄いわね。」
「ベータ、何か考え事?」
い、いえ──その少しだけ。
「そう、良かったら、話してもらえるかしら? 話しにくいことならもちろん無理にとは言わないけど。」
「そうだよ、ベータには古代文字の読み方とかも習っているし、」
アルファ様、シャドウ様…… その……、みんな活躍しているのに私は割と地道な事務作業ばかりしているな、って。
もちろん、これも大切な仕事だとはわかっていますし、自分でもそういう地道なことが得意だというのも、ちゃんとわかっているつもりなんですけど……
「ガンマやゼータやイータが、自分の得意分野で結果を出していることに、焦っているのね。」
は、はい。
「それなら ベータにお集い向きの仕事があるの。ちょっと難しいかもしれないけど、どうかしら?」
ええっとー、内容にもよります。
「自信ない?」
その闘いだってちゃんとできます! 昔は苦手でしたけど、今の私ならそれなりには…
「ふふっ、大丈夫よ。あなたに頼むのは闘うことや探ることとは異なる仕事だから。」
あっ……そうですよね。そもそも純粋な闘いの実力を求めているなら、最初からデルタに頼むでしょうし。
「そういうこと。それに自分の得意なことや強みを自分でちゃんとわかっているベータにだからこそ、今回の仕事を頼める、ということでもあるのよ。」
……それでアルファ様、私向けの仕事というのは?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『聖地リンドブルム』における新たな情報源の確保
この町には、ミドガル王国最古の情報ギルド、「よみにち新聞会」の本社が存在している。
私の仕事は、ガーデンの存在を感づかせることなく、この「よみにち新聞会」の情報収集力と過去の記録を自由に参照できるような足がかりを作り上げること。
これは無茶ぶりですよ、アルファ様! 「大丈夫。あなたならやれるわ。」じゃないですよ。
他の人も自分と同じように仕事ができる、なんてのは、なんでもできる人にありがちな勘違いの思い込みですよ!
とほほほ……独り言で喚いてみたって、状況が変わるわけでもないのに何やってるんだろう、私…
とりあえず、今の私やシャドウガーデンが「よみにち新聞会」に対して取れる手段から整理しないと。
そのためにこうして現地まで来たんだから。
「よみにち新聞会」は、歴史の長い新聞界で、設立当時から王国政治に対しては中立の立場を一貫して通している。
そして ゼータの情報によれば、ディアボロス教団との関係は全く存在していない、らしい。
そんな 少なからず影響力のある新聞界に対する情報収集、それも、力ずくの方法や情報とは異なるやり方。
身分を隠して記者見習いとかで新聞界に入り込むにしても、ガーデンの仕事がおろそかになっては無意味だし。
自分の都合で好きな時に新聞会得手入りできて、好きな情報を引き出せる。そんな友好的な立場なんて…
はぁーっ、こうして 街角のカフェで新聞を広げてると、なんだか自分がただの人になったような気分。
ふふっ……このシチュエーション、これはこれで、正体を偽って活動してるシャドウ様みたい。
そう……もしかしてアルファ様は、私が世を忍んでいる時のシャドウ様にも憧れていることを知ってて、今回の仕事を…
考えすぎかな。
おやおや、「よみにち新聞会」小説連載作家募集?
連載作家……、連載作家の連載のペースって、どのくらいなんだろう?
今回の任務に関係は……
自分の都合で好きな時に新聞会へ出入りできて、好きな情報を引き出せる、そんな身分。
…あれっ?、新聞会の連載作家って、そんな身分、なのでは!?
連載作家なら、新聞界への出入りは当然自由だろうし、資料の確認と称して過去の記録を閲覧できる可能性も高い。
つまり、関係、してなくもない──というか、むしろ理想形に近い!?
うふふっ、…作家、かぁ…… なれたら……きっと、素敵なんだろうな──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
はぁー、うふふっ──はぁ~っ
「……大きなため息だね。」
ゼータ? いつからいたの?
「いつから、って──、ベータが部屋に入ってくる前から部屋の中にいたけど。」
あ、あはははっ、それは失礼。
「…新聞、そのページだけくたくただ。」
あっ、これは……
「よみにち新聞会」 小説連載作家募集。ベータ、作家になりたいの?
…作家になるのってやっぱり、難しいんでしょうか?
「いきなり言われても何とも。さすがにそれは調査したことないから。」
まあそれもそうですね。
「作家になれば、「よみにち新聞会」にも自由に出入りできる、って狙いかい?」
まぁそういうことでもあるんですけど、それだけでもない、というか……
「ふぅん、やってみたいことなら、やってみればいいんじゃないかな。」
ゼータ…
「ちょうど明後日に、『聖地リンドブルム』で『まぐろなるど』が新聞会の取材を受ける。王都からの初進出となる新進気鋭の露天販売……という題材でね。当然、「よみにち新聞会」の記者とか編集者とかも、その場に現れるんじゃないかと思う。」
それって……持ち込みや売り込みをするチャンス!?
「そういうことだよね──」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
き、来ちゃった……
2日間じゃ完成原稿は無理だからアイデアやプロットだけはとりあえずまとめてきたけど…、いきなり話しかけて、作家になりたいんですアイデアやプロットを見てください、って。
…これって、ひょっとしなくても、怪しい人というか、迷惑な人なのでは!?
な、なんだか 急に自信がなくなってきちゃいました…
「すみませんこちらで休憩してもよろしいでしょうか?」
あっ……し、新聞会の記者さんですか? もちろん大丈夫ですので! どうぞどうぞ。
「それでは失礼して 『まぐろなるど』すごいですね?」
あっ、ええと、私は臨時のスタッフみたいなものでして…。
あのっ、記者さんは「よみにち新聞会」の記者さんですよね
「はい、こちらが名刺になります。」
あっ、ありがとうございます。すみません、私、名刺とか用意していなくて──
「いえいえ、お気遣いなく、よろしければあなたのお名前をお伺いしても?」
あっ、えーっと …ナツメです。あ、あの、「よみにち新聞会」って、作家募集をしてると?
「えっ、していますけど…、ナツメさんは作家になりたいんですか?」
ええ、まあ……
「…なるほど、それでは何か、連載できそうな物語とか、ありますか?」
えっ…ええと、その──
「警戒なさるお気持ちはわかります。ネタを盗まれる、というのは記者でもよくあることですから。」
とても実感がこもっている口ぶりだった。
「ですが、ペン1本で身を立てようというのでしたら、誰かに実力と才能を見せないことには何も始まりませんよ。」
それは……! …それでは…アイデアだけですが…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…すごいですね、あなたの頭の中まるで奇想の宝庫じゃないですか!」
そ、そうでしょうか…?
「ええ! 「紅ずきん」に、「シンデレーラ」──、これまでにない、どこか不思議な物語ですが…、普遍的な何かをうまくつかんでいる感じがします! 文章は書ける? すぐにでも新聞界の編集者に取り次がなくちゃ。」
えっ、よろしいんですか? まだ作品だって送っていないのに…
「たとえ デビュー前であろうと、有望な書き手には、採用される前から編集がつくものよ。元々そういう仕組みだから、気にしなくても大丈夫。」
そうですか…、それではどうぞよろしくお願いいたします!!
はぁ~っ、シャドウ様に教えていただいた『陰の叡智』が、まさかこんな形で役に立つなんて。
感謝いたします シャドウ様。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「──うーん」
「…ど、どうでしょうか?」
「そうですね……、まず「紅ずきん」のプロットなんですが、この「騙されておばあさんのことをワインと干し肉として食べてしまうシーン」、とか──、あとここの「着ている服を1枚1枚脱ぐシーン」とか──、さすがにちょっと過激すぎるので、訂正するか削除した方がいいかもしれません。」
「えぇっ! そんな! 大事なところじゃないですか!」
そもそも シャドウ様の聞かせてくださった物語、一言一句すべて、省略なんてしたくないんですけど!
「う~ん、私も個人的にはそう思っているんですが、新聞を読んでいる読者層がこれを読んだら、ちょっとびっくりしちゃうんじゃないか、と思います。」
「そうでなくても、新聞上における過激な描写は、王国からも聖教からも目をつけられやすいですし──。長年、今の中立的状況を保っている新聞会としては、外部から小突かれるような隙を見せることは避けたいんです。」
……くっ……
「あと、もう一つのプラット……こちらの「スパイダー・マンイーター」のプロットなんですが──。この、主人公の乗り込む機械仕掛けの巨人の存在があまりに荒唐無稽で、無茶苦茶すぎる気がしますね。巨人が剣を投げたら、相手が必ず死ぬのも、なんだかちょっと強すぎな気がします。」
なっ……!?
現実には 実力者は即座に敵を葬るもの。そうまさしくシャドウ様のように…!
この編集者、人生経験が足りなすぎるんじゃないですか!?
「そもそも、巨人に乗り込まなくても主人公の能力だけで十分魅力的だと思いますし。他にも、例えば身近な人──例えば、おじさんとかが自分のミスで死んだりして、力には責任が伴うことを自覚するような要素を入れるとか──」
もういいです!!
「ナツメさん!?」
……はっ! って、ここで怒りにまかせて、この状況を自ら台無しにしてしまったら──
「ぅう~っ、…か、書き直してきます。」
「ありがとうございます。慣れない作業で大変だと思いますがどうぞ、よろしくお願いいたします…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おのーーれーーーーっ!! あんの編集者……! 私が売れっ子作家だったら、あんなの、即、クビですよクビ!かく首っ!」
ぅう~っ、…わめいたところで、プラットが埋まるわけじゃない…!
「だけど……シャドウ様から聞かせていただいた、『陰の叡智』たる物語……一言一句たりとも、削りたくなんてない! …でも、プロットを通さないと、新聞会に作家として潜り込めない──」
あぁつ…目的と手段が、自分の中でもごっちゃになって、何もかもわからなくなってます…!
「無意味な徹夜に、無意味な考察……このままでは頭も精神も体も持ちません…! せめて明日くらいは何も考えずに休みを──」
…はっ! 来週の月曜日のシャドウ様担当、私じゃないですか! い、急いで準備しなくちゃ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ぅうぅ~ぅん
「ねえ、ベータ、さっきからなんか心ここにあらずって感じよ。せっかく一緒にお風呂に入っているっていうのに。」
えぇっ、い、いえ……その、なんでもないです。
──思わず、俯いてしまった──
「別に何かを尋ねたわけじゃないのに「なんでもない」、これって「なんでもあったりします」って 自分で言ってるようなものじゃない? それに、寂しいわ。」
──そういって、シャドウ様が頭を撫でてくれた──
「シャドウ様……申し訳ございません…! その、私、今……仕事の〆きりを抱えていて!」
「仕事の〆きりかぁ、…もしかして、この間アルファが頼んだ「よみにち新聞会」の件のことかな?」
──首を傾げて聞いてくるシャドウ様、かわいい──
「…ええ、そうです。……でも、全然、上手にできなくて、妥協したり、飲み込めば済むことなのに、それも全然できなくて…」
「ベータとしては、やり遂げたいのよね?」
「ぅう~っ、それも…自分でわからなくなってます。」
「ふぅ~ん。…まあ ベータの問題だし、私がどうこう言えることでもないんだけどさ…」
──そう言って、私の頭に手を置いて、俯いた顔をその胸に埋めてくれた──
「でも、私だったら、どうするにしても、とにかく、悔いは残さないようにする、かな。ほらっ、ベータも覚えていると思うけど、
「シャドウ様…」
「続ける、止めるにしても……、終わらせる、終わらせないにしても……、自分の意思で、自分の手で選んで決断することが大切なのよ。」
──私の後頭部を、ゆっくりと撫でながら──
「いい、ベータ。大事な決断を、決して他者に流されるまま行うことはしないで。誤りや失敗につながったとしても、自分の生き方を貫き続けること。……すなわち『自分の物語の主人公は、自分自身』ということを」
──まぁ、前世のように、変な方向に行ってしまうのは問題だけどね──
──私も、
自分の物語の主人公は、自分自身……!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シャドウ様の教えてくださった『陰の叡智』──、それは私の物語は、私が主人公だということ……!
私は…ベータは……! シャドウ様のお役に立ちたい!!
そして……そのシャドウ様の物語を、余すところなく書き綴っていきたい!
作家になりたいと思うのは…きっと、この溢れる思いのため!
私という物語の、主人公の私は…、シャドウ様という、彼女が主人公の彼女の物語を、ずっとお傍で記し続けていきたいっ!
お、おおっ、こ、これは…! 創作意欲が……湧き上がってきたーーーーーーっ!!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふふっ……!」
「拝見させていただきました……! ナツメ先生。これは、素晴らしいプロットです……!」
「…パッと見は普通に、周囲に溶け込んでいて、ちょっと優秀なくらいのそこそこ平凡な貴族の少女。だが、そんな彼女は、本当は凄まじい実力を秘めた魔剣士で。」
「特に終盤、部下の女の子たちと一緒に、世界を裏からあやつる悪の組織の幹部との抗争で、その秘めたる実力を解放し、盗賊団に偽装していた悪の組織の一端を一方的に蹂躙して壊滅させる倒すシーンは、圧倒的なカタルスを構築していて……見事です。」
「この物語は、このラストで……、部下の女の子たちの提案で、さらなる目的のために旅立つって行くシーンで終わりなんですか? ここから先の、主人公たちの活躍を、編集としてはもちろん一読者としても知りたいくらいなんですが……!」
「ふふっ、続きはまだありません。彼女たちの物語は私ナツメの物語と同じように、始まったばかりなので。」
『よみにち新聞』にて短期集中掲載が行われた、気鋭の新人作家ナツメ・カフカのデビュー作、『The Eminences in Shadow』は多くの読者層に受け入れられ、また、新聞自体の購買層をも広く拡充する結果をもたらした。
よみにち新聞会は、ナツメ・カフカとの専属契約を、ミドガル王都のルーナ商会を契約窓口とする形で締結。
ここに、新たな時代を担う、ひとりの作家の物語が、始まったのであった──
七陰列伝第12話です。テコ入れを兼ねて早くに仕上がったので、投稿します。
最近陰実の二次創作が増えてきてうれしいですね。
さて、今回も基本はカゲマス準拠です。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
そして、シドと七陰の距離感がまったく違います。性癖全開です。
というか、シドは普段から七陰と一緒にいますし。
そろそろ設定も固まってきたので、本編もボチボチ投稿しようかな…
その前にもう少し七陰列伝と閑話を投稿する予定です。
なお、テンプラーの取り扱いはどうするかまだ迷っています。
正直、七陰列伝第2章の話の展開がどうなるのか、本作品を書いていて怖いです。
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います
修正:ベータとのお風呂シーンに、シャドウのボヤキを追加しました。
次の閑話で必要だったのに…痛恨のミスでした。