陰の実力者…?   作:ponpon3

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 七陰列伝の第15話です。

 基本、カゲマス準拠です。

 今回は、『ミツゴシ商会』の上下2部構成の上となっています。


 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。

 そして、シドと七陰の距離感がまったく違います。

 というか、普段から七陰と一緒にいますし。ただ、最近、修行に傾倒気味で…

 七陰も、そこから眼を逸らさせようと頑張っています。それに教育も…

 気に入らない方は、そっ閉じ願います。


 ──これはそんな「if」の物語──


陰の… 七陰列伝 第15話「設立!ミツゴシ商会」上

 

 

「はぁ~っ、いちいち工事を……見てるの、じれったい……。汎用建造用スライム……を使えば、こんなの半日で……建てられるのに……。」

 

 新店舗の建設を開始した現場で、イータとガンマが話していた。

 

「なんてことを言うの、イータ。半日で新しい商会の建物が突然出現したら、誰の眼から見ても商会が不審に思われてしまうでしょう?」

 

 なんといっても、新商会が秘密組織シャドウガーデンのフロント企業であることは最重要ま秘匿事項だ。

 

「イータの気持ちはわかるけど、ここは表社会のスピードに合わせてほしいの。そうでなくても、2ヶ月の突貫工事で形になる──、という仮想の設定自体も、世間一般の感覚では、かなりの無茶を通しているんですから。」

 

 ガンマとしては、2か月という無茶を通したこともあり、納得してほしかったのだが…

 

「……だったら、2ヶ月後に……半日で作りたい。その方が、楽だし……合理的。」

 

 アレクサンドリアの訓練施設、兼、拠点防衛システムを1日で作り上げているのだから、余裕なのだろう、多分。

 

「あなた わざと言ってるわね !?」

 

「うん、わざと、言ってる……ふわぁぁっ……」

 

 イータは大きく欠伸をした。

 

「まったくもう……。」

 

 ガンマはため息をついた。とはいえ、それでも 建築の得意なイータがいてくれるおかげで、商会の新たな拠点については問題なく用意できる。

 

 私は私にできることを。できないことは……できないうちは人に任せる、できることでも、そうすべきなら同じく人に任せる。

 

 そうすることで、ガンマにしかできないことをするように廻していきたいのだ。

 

「……工期……1週間くらいに、短縮して、いい……?」

 

「ダメです。きっかり、2ヶ月の期間をかけて完成──。それも、ギリギリ間に合ったように見せかけること。」

 

 こればっかりは、これ(2か月)以上短縮はできないのだから。

 

「……ガンマのケチ。」

 

「ケチじゃありません!」

 

 ぷんぷんと怒るガンマと、欠伸しながら作っていくイータだった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「…以上。ガンマ様からの報告を終了します。」

 

「ありがとう、ラムダ。あれからガンマ本人を狙った襲撃はなし、か──」

 

「ええ、あれ以降は交代で突撃部隊(アサルト)から1個分隊を護衛に付けていますから。」

 

 とラムダは答えた。

 

「ですが、一度手を出してきた以上、今後に何も起こらない……とは、到底考えられません。」

 

 アルファも肩をすくめると言った。

 

「でしょうね。案外真っ当なやり方で、『ルーナ商会』を追い落としてくるのかもしれないわね。」

 

 しばしラムダは考えながら続きを聞いた。

 

「真っ当なやり方、というと……?」

 

「つまり、商会としての信用を地に落とし、王都で商売をできなくさせる、ということよ。」

 

 …どうしても裏よりに考えてしまうのだけれど、と独り言ちたあとに続けて言った。

 

「例えば、もうすぐ『ルーナ商会』の新しい商業施設が完成するけど──、この商業施設がまともに機能しない……、そんな状況になったとしたら?」

 

「『ルーナ商会』は一敗地に塗れますね。形式上は、一度復活してここまで伸びてきただけに、信用の喪失は、商会株の剥奪にも発展するでしょう。」

 

 ──そういうことね。とアルファは頷いた。

 

「そして、そういう流れに持っていきたいライバルの商会が打ってくる手は、何だと思う?」

 

 

 二人の間を沈黙が流れた。

 

 

「…何らかの形で ルーナ紹介の商品の物流を妨害する……!?」

 

「そう、それが最も効果的な方法。品物が届かなければ、大半の商売は成り立たなくなるわ。」

 

 ふむ、ならば…と、ラムダは人選を考え始めた。

 

「…それでは、物流に対する警戒を厳重にする方向でいきますか?」

 

「そうね──。……ただ守りに入るだけでは、つまらないわ。せっかくだから、この機会に、無為な手出しをしてくる相手には、ご退場願いましょう。」

 

「ほう、では攻勢に出られるのですね。」

 

「ええ、まずはベータとゼータに、王都で必要な情報を集めてもらい、その裏取りを行う。そしてその情報を元に、然るべき反撃へと移る……」

 

 そういう作戦(プラン)を考えてくれるかしら? 仰せのままに、アルファ様。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 その日、ベータは、王都の一等地にあるカフェで、よみにち新聞を広げていた。

 

 よみにち新聞会には、様々な情報が入ってくる。王都における商売の動向も、その中の一つ。

 

 『ルーナ商会』の新たな商業施設についても、水面下では多くの情報が行き交っている。ただのゴシップや根も葉もない噂はもちろんのこと、商業的戦略を的確に予測した、冷静な分析なども──

 

 王都における『ルーナ商会』の、今後2ヶ月の動向は、どれだけ気を付けようとも、ほぼ丸裸にされている……。そう、シャドウガーデンとの関係以外については。

 

 そういう姿勢の情報網に、正しくさらされることこそが商会としての潔白と信用にもつながる以上、情報の統制はできない。…ならば、陰に潜む我々は、その流れを損なうことなく、密かに利用してみせる──

 

 そして、よみにち新聞会から情報を掴んでいるのは、もちろん私だけじゃない。他の商会だって、よみにち新聞会を利用して多くの情報を得ている。

 

 それはつまり、『ルーナ商会』の動向に対する他の商会の動きも、私によって筒抜けになるということ!

 

 …そろそろ、ここの向かいの商館の中で『ソコソコ商会網』の面々による会合が始まる。

 

 果たして彼らは、ルーナ商会に注目しているだけの『白』か?

 

 それとも、ルーナ商会を追い落とそうと企んでいる『黒』か?

 

 それが判明するまで、しばらくの間、私はのんびり、午後のティータイムを楽しむとしますか──

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「それでは、ルーナ商会の件について、進捗を報告してもらおう。」

 

「…ルーナ会長の暗殺には失敗しました。オオカミが数匹だけが帰還し、雇った傭兵部隊と殺られたオオカミは、全員が大太刀と思われる刃物で惨殺されていました。」

 

「なんだと……!?」

 

「また、強盗団の死体もありましたが、こちらは傭兵部隊の得物と、狼の牙による傷跡が多く、一部大太刀の痕もみられることから、偶発的な遭遇戦を行った結果と推測されます。」

 

「この結果から想像するに、ルーナ商会は凄腕の剣客を護衛として抱えているものと思われます。なお、現在、ルーナ会長は常に護衛を複数人従えて行動しており、付け入るスキのない状態となっております。」

 

「なんということだ……! 我々はあの女を亡き者にするチャンスを不意にしてしまったというのか。」

 

「まあ悲観するほどのことでもあるまい、手っ取り早くて単純な方法が失敗しただけのこと。そもそも商売人を殺すのに、本来ならば刃物も魔力もいらんのだから。」

 

「あの一等地に、どんな商業施設が建とうとも、品物さえ届かなければ……商売はできんのだからな。」

 

「なるほど、物資の流れを抑えるのだな!」

 

「奴らの店が完成するまで、あと2ヶ月弱もある。準備期間としては充分だ!」

 

「…物流業者の恨みの買わないよう、足のつかない方法でやってみせんとな──」

 

「あの一等地で、商売を軌道に乗せられたら 我々の商会には大きな打撃となる。断じて阻止せねばならぬ。目先の損を取ってでも、未来の徳を当てるのだ──」

 

 けんけん、がくがく

 

「…ふっ、真っ黒だな。」この会議を監視していたゼータにより、ガーデンには筒抜けであった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「アルファ様! ベータとゼータから速報が入りました。」

 

 イプシロンが、ベータとゼータからの通信*1を受けて報告する。

 

「ルーナ商会に対して妨害を仕掛けてきているのは『ソコソコ商会網』で間違いないようです。現時点では、ディアボロス教団との関係性は認められず、純粋に商売の妨害を行ってきているもの、とのことです。」

 

 イプシロンの報告を受けてアルファが記憶を巡らせる。

 

「『ソコソコ商会網』……。確か、王都の一等地に居を構える、中堅商会の集まり、だったわね。」

 

「はいっ、ルーナ商会の新商業施設予定地にほど近く、貴族向けの服飾においては、若干の共同関係にもあります。

 

「若干、というと?」

 

「『ソコソコ商会網』は、貴族向けの夜会服と、聖教の教会向けの香油・軟膏を扱う商会の集まりです。ですので、ルーナ商会が取り扱っている紳士服関係とは、現時点では、真っ向から競合はしていないのです。しかし、将来を見越して、向こうから手を打ってきたもの、とのことです。」

 

「わざわざ、庭先の蜂の巣をつついてきたわけね。表の商売をしている以上、こういうことはあり得るか──。……対策会議を開きましょう。七陰の招集と、シド──シャドウを呼びたいのだけど、お願いできるかしら、イプシロン。」

 

「そうですね。主さまを修行から眼を逸らせるため、ですか……、了解ですっ!」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『ソコソコ商会網』への対抗手段について、七陰はシャドウも呼んで、状況を話すことにした。

 

 ガンマの──引いてはシャドウガーデンへの攻撃、とあって、シャドウも出席してくれた。

 

「…という作戦(プラン)を考えているの。」

 

「ふむふむ、あちらの本番は2か月弱先の開店に合わせて来るもの──として、他に警戒しないわけにもいかないのね?」

 

「ええ、シャドウ。ここ5年くらいのあなたの治安維持活動のおかげで、ミドガル王国内の盗賊も数を減らしてきているけど、皆無になったわけではないわ。」

 

「盗賊死すべし、慈悲は無い!でやってきたものね。最初は王都より北の地域で、東は聖都リンドブルム、西はオリアナ王国手前までを縄張り(自称)としていたけど、七陰が増えた後は、王国内に拡大させてきたもんね…」

 

 治安維持は大事よね! と頷くシャドウがいた。まぁ七陰としても実戦訓練を兼ねたシャドウとの遠征任務として、楽しみにしていたという側面もあるのだが。

 

「──それでは、新商業施設の稼働に向けた物流計画は、当初の予定そのものは変更せず進める、という形になりますね。」

 

「ええ、ベータ。その上で今回の対策を、追加という形で行うの。ガンマとイプシロンの用意してくれた物流資料によれば、現実的で無理のない、実現可能な作戦よ。」

 

「…うまくいけば、今後の商会の商売においても、大きな転換点になりますね、ガンマ。」

 

「ええ、イプシロン。つまりこの作戦を出発点として、新たな流通の仕組みを構築することもできる、とも言えます……!」

 

「ガーデン内に限れば、アイテムボックスとシャドウ・ゲートで遣りたい放題できるのにね。」

 

「マスターの……言う通り。新店舗建築も、汎用建造用スライムを……使えば簡単なのに……」

 

「あたたたた、私も結構毒されていたのね…、気を付けないと。」

 

 アルファとガンマのもの言わぬ視線が痛かった。

 

「というわけで、ガンマとイプシロンは早急に本作戦の実行準備に入って。ガンマは商会の方の仕事もあるから、イプシロンが中心になって準備を進めてちょうだい。」

 

「かしこまりました。」

 

「私がメインで……お任せくださいっ!」

 

「ガンマ、イプシロン、お願いね。」

 

「「はいっ!」」

 

 アルファは視線をベータに向けると言った。

 

「ベータは引き続き、新聞会経由で、王都の商圏における、水面下の情報に目を光らせておいて。」

 

「『ナツメ先生』にしかできないことだからお願いね。」

 

「はいっ、了解です。」

 

「ゼータは、『ソコソコ商会網』の動きに注視。想定外の動きがあったら報告をお願いね。」

 

「相手も裏の手段を用いてくるのだから、他の勢力からの横入りとかあると怖いから、お願いね。」

 

「ん……わかった。」

 

「イータは、新商用施設の建設を続けて。予定通り、早すぎずの遅すぎずでよろしく。」

 

「イータ、ごめんね、変なこと言っちゃって。今度、アレクサンドリアで内家戴天流用に訓練施設を建築してもらうから、今回は我慢して、お願いね。」

 

「ふわぁぁっ……そうする。じれったいけど……」

 

「デルタは何をすればいいです?」

 

「私もなにか協力できること無いの?」

 

「デルタには、私と一緒に最後の仕上げをしてもらうことになるわ。しばらくは待機してもらうけど、デルタが必ず暴れられる舞台を用意するから、待っていて。」

 

「…わかったのです! デルタは狩りの時間を待つのです!」

 

「デルタも待てできて偉い! 私もそれまでは大人しく修行しておくね。」

 

「…くれぐれも大人しく修行してね…、後、妹たち*2の面倒もよろしくね。」

 …ちょっと失敗したかしら…

 

「そうだね、七陰筆頭にガーデンみんなが忙しくなるもんね。私頑張って面倒みるわ!」

 

「…シャドウガーデン……作戦開始!」

 …やっぱり妹たちの方が効果があるのね…

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ──『ルーナ商会』新商業施設、開店3日前──

 

 当初の予定通り、『ソコソコ商会網』が流通破壊──それも目撃者を皆殺しにする作戦を開始したことがゼータからの通信により判明した。

 

 『ソコソコ商会網』に雇われた傭兵部隊が、強盗団を装ってトチュー街道上に居た、ルーナ商会単独で進む馬車に襲撃をかけてきたところ…

 

「いやぁぁーーーーっ!! 強盗団よーーっ!!」

 

「きゃぁぁーーーーっ!」

 

「た、助けてぇーーーーっ!」

 

「殺されるぅぅーーーーっ!」

 

 …御者に扮していた諜報部隊(シークレット)の隊員は、一目散に逃げだした。

 

「あっ、おいっ……!」

 

「…なんて逃げ足の早え奴らだ。置いてかれた馬が啞然としてるじゃねえか……。」

 

 あまりの逃げ足の速さに、傭兵部隊も呆然と見送ってしまっていた。

 

「目撃者は消せ、と言われてたが、あの様子じゃあ追い着けんな。…我々が何者なのか、まったくわからなかっただろうから、問題はないのか? 」

 

 ベテランの傭兵隊員が独り言ちた。

 

「…納品書を確認しました。すべて、王都行きの『ルーナ商会』への積荷です!」

 

「よし、指定された場所まで持っていくぞ!」

 

「これ、中身何なんだろう? ちょっとくらい、ちょろまかしても……」

 

「やめておけ、傭兵稼業は信用第一だ。開封の痕跡があるだけで、盗賊扱いされちゃたまらんからな。」

 

「それにしても、『ソコソコ商会網』も、やることがえげつないっすね~。」

 

「何をやったか知らんが、ルーナ商会が出しゃばりすぎたんだろうよ。『ソコソコ商会網』は他の街道筋でも、ここと同じようにルーナ商会の馬車を襲わせているんだからな──さあ、急げ!」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 街道脇の森に隠れた、御者役をしていたメンバーズたちは傭兵部隊が立ち去るのを見ていた。

 

「…もう行っちゃいましたかね?」

 

「そのようね。にしても、あなたって演技が下手ね~。」

 

「そんな、先輩だってどっこいどっこいだったじゃないですか~!」

 

「そう? 割と迫真のつもりだったんだけど──」

 

 そこに、ゼータがどこからともなく現れた。

 

「お疲れ。」

 

「ゼータ様!?」

 

「はっ、予定通り、積み荷は全て奪われました。」

 

「この分隊の分は、私が奴らの足取りをたどる。君たちは 王都のアルファ様に報告を。これが私からの指令書。アルファ様にこれを見せれば、サボった扱いにならないから安心して。」

 

「ゼータ様が直々に追跡を?」

 

「仕掛けがうまく廻るのを、自分の目でちゃんと見ておきたいから。」

 

「かしこまりました! どうぞよろしくお願いいたします!」

 

「あぁっ、ゼータ様……、年下のはずなのに、どうしてこんなにカッコいいのー!?」

 

「ちょっ、あなた! 感情を声に出してだだ漏れさせないの!」

 

 ふっ、とゼータは笑った。

 

「…さて、奪われた荷物は、一体どこにたどり着くのかな、ってね──」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ──ミツゴシ商会設立宣言──

 

「…トチュー街道に伏せていた、傭兵部隊からの報告が入りました。計画通りにルーナ商会の荷馬車を強奪、指定の地点へと運び込んだ、とのことです。」

 

「ふふふ……ははは……! 完璧じゃあないか!」

 

「他の街道筋からの報告も合わせて、これで、貿易都市から出発した奴らの荷馬車は、すべてが新店舗にたどり着かん、というわけだ!」

 

「開店まで、あと2日──我々の勝利だな!」

 

「た、大変だ!」

 

「なんだ! 騒々しいぞ! 祝い事を持ち込むなら、もっとそれらしく──」

 

「奴らの新店舗に、大量の荷物が届き始めてる!」

 

「なんだとぉっ!」

 

「…どういうことだ!? おい、奴らの荷馬車は全て襲撃したんだろう!」

 

「はい……間違いございません。信用のおける傭兵団を複数選び、的確な仕事をさせました。荷物も手付かずのままを維持し、いくつかの指定場所へと運び込んでおります。」

 

「それなのに、ルーナ商会に荷物が届いている!?」

 

「それが……奴らの荷なんだが、地方からの個人流通業者が中心に届けてるんだ!」

 

「バカな! そんな零細業者どもの物流であの規模の店舗の商品が賄えるものか!」

 

「その業者が、ざっと確認しただけでも、100人以上は出入りしているんだよ!」

 

「ひゃくにん!?」

 

「あの様子だと、明日には、更に遠くの地方からもっと出入りがありそうだし──。そいつらが新店舗の前に納品の列を規則正しく作ってるから、新店舗そのものも地域で大きな話題になっちまってる!」

 

「…事前の広告展開が、ここまでほとんどなかったのは、これを見越してのことだというのか…!?」

 

「…だ、だが! 奴らに大きなダメージを与えられたことに変わりはない!」

 

「どうする…!?」

 

「今から、荷物を運び込んだアジトへ向かうぞ! 奴らの商品から今後の商売の傾向は探るんだ! お前はここに残って、ルーナ商会の動きを見張れ!」

 

「か、かしこまりました──」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ガンマは、新店舗の屋上にあるシャドウガーデンの作戦室兼邸宅(セーフハウス)の前に一人で立っていた。

 

 主様……! ついに、ついにガンマはここまでこぎつけました!

 

 ガンマの脳裏に、主様との会話が蘇ってきた──

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ガンマは、このじゃがいもを、宝石にする方法を知ってる?」

 

「えっ……!? …何かの実験によって、という話ではありませんよね…!?」

 

 しばし考えるガンマ。

 

「う~ん。じゃがいもの存在しない場所で売る、とかでしょうか……? でも、じゃがいもの存在しない場所なんて、この世界にあるのでしょうか?」

 

「いい線いってるよ。交易による価値の創出は、商売の基本だもんね。じゃあ、その価値を交易以外の手段で創出する方法は?」

 

「…ええと……、このじゃがいもは、どこどこの凄い農家の人が作った! みたいな話にする、というのはどうでしょう……?」

 

 シドはニコニコとして言った。

 

「うん。品質と自然志向をアピールするのも悪くないよ。でも、それだと、今までにどこかの誰かがやったことと一緒になっちゃう。だから、私ならこうする──」

 

「…あれぇっ……! なんだか、キラキラしているような気がしてきました……!?」

 

「全体の空間と、品物自体の陳列に手を入れる。すると、不思議なことに、ただのじゃがいもが特別なジャガイモに見えてくる。」

 

 拠点の小屋(ツーバイフォー)の一角に手を加えて、綺麗な台の上に豪華な箱を置いて、さらに、魔術具の光と、『彼の叡智』*3で作り出されたクリスタルガラスと反射率の高い鏡を使って、ライトアップして見せた。

 

「市場で転がっているだけのじゃがいもは、日々の生活における価値を、素朴さでアピールしてるけど、こうして、商品として丁寧に飾られれば、それを見た人間の価値観を、充分に刺激する品物となるの。」

 

 人って、『見た目が9割』ともいわれていたんだよ、と独り言ちた。

 

「…で、価値というものは、顧客が品物を求める気持ちに対して示すもの。それ以上に、顧客が、自分自身では気づいていない、けれども、その顧客にとって、気持ちをくすぐる品物を求める気持ち──すなわち、見えていない需要に対して示すこと、それが大事なんだ。」

 

「っ……!!! その、気付きを与える空間の構築こそが、じゃがいもを宝石のように輝かせる、『彼の叡智』*4……!」

 

「その通り、そして……そうだな……その空間の名前は──」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 かつて、主様が私に語ってくださった……『陰の叡智』……シャドウガーデンの活動資金を生み出す表の顔にして、世界の陰の実力者たる、複合型店舗(総合デパート)のスタートアップです!

 

 ガンマは決意を込めた眼でシャドウガーデンの作戦室兼邸宅(セーフハウス)を見上げた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 お集まりの皆様……、このたびは、ルーナ商会の新店舗開店セレモニーにお越しいただき、誠にありがとうございます。以前より関係を強化させていただいておりました、遠方の物流業者の皆様からのご協力もありまして、こうして開店の日を迎えることができました。

 

 まずはその物流業者の皆様、そして、商品をご用意いただきました商人の皆様に、深く感謝申し上げます。

 

 …新店舗は、王都における物流拠点としても機能するよう、今後も関連施設を拡大していく方針にございます。 当店は、当商会の再起が小さな商売から始まったのと同様に、小口の取引につきましても、軽視することなく扱ってまいります。

 

 物流業者の皆様におきましては、商品の取り扱いはもちろん、遠方同士の物流を結ぶ小口通販業務の中継施設としても、当店との取引をご利用・ご継続頂ければ幸いに存じます。

 

 当店舗は、ルーナ商会における商材の主幹である、紳士服を含む服飾売場、紅茶を含む食品・日用品売場、そして、初の室内常設店舗となる『まぐろなるど1号店』を含む、複合型店舗(総合デパート)となります。

 

 この業態は、これまでのミドガル王都には存在していなかった、全く新しいショッピング体験を提供できるものと自負しております。

 

 …新たなる時代への予感に溢れたこの新店舗で、『ルーナ商会』は取引先の皆様、そしてお客様と共に、今このときから、未来へと踏み出してまいります。

 

 その記念すべき第一歩として、私どもは『ルーナ商会』の名を改め、ここに『ミツゴシ商会』の設立を宣言いたします! 皆様、『ミツゴシ商会』を今後ともどうぞよろしくお 願いいたします!

 

 

 

 

*1
─七陰に発現した体内に残る青紫色(シャドウ)の魔力を共振させて意思を交わす─

*2
─悪魔憑きから解呪したが闘えない娘や幼い娘たち─

*3
─当時は陰の叡智と称して無かった─

*4
─繰り返しになるが、当時は陰の叡智と称して無かった─






 七陰列伝第15話です。少し遅いですが早め?に仕上がったので投稿します。

 さて、今回も基本はカゲマス準拠です。

 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。

 シドと七陰の距離感がまったく違います。

 というか、シドは普段から七陰と一緒にいますし。ただ、最近、修行に傾倒気味で…

 七陰も、そこから眼を逸らさせようと頑張っています。シドの教育も…


 なお、テンプラーの取り扱いは一応決めました。

 でも、七陰列伝第2章の展開がどうなるのかが、本作品を書いていて一番怖いです。

 この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。

 色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います
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