陰の実力者…?   作:ponpon3

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 陰の実力者になりたくて! 本編の第02話です。

 今回は前回の続きになりますが、オリ展開となっています。

 今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、当分本編を進めます。


 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。

 シドと七陰の距離感がまったく違います。普段から七陰と一緒にいます。

 そして、実年齢バレとレミーの陰謀で、色々と七陰に教育されています。ええ、教育です!

 今回、シャドウガーデンの盟主らしいシドを描写できているか、心配です。

 気に入らない方は、そっ閉じ願います。


 ──これはそんな「if」の物語──


陰の実力者…? 第02話「クレア誘拐事件」下

 

 

 

 

「まったく焦らせてくれる。レミーにも特訓が必要ね。」

 

 

 オルバの尋問が始まった直後に、潜入中の諜報部隊(シークレット)の一人に命じて作らせたシャドウ・ゲートを潜って、牢屋の外に光学迷彩に氣殺して天井(・・)に上下逆に立って忍んでいたシド──シャドウは、ひっそりと息をついた。

 

 射線がクレアたちに重ならないように、鉄格子の端の方から斜め方向に発射されたメタルスライム弾が、弧を描いて曲がって牢内の敵の頭を撃ち抜いたのだ。

 

 

 なお、それでも牢の外にいる教団員に気付かれていないのだから、天井にいて光学迷彩を併用しているとはいえ、その氣殺法は前世の師匠(劉 豪軍)に迫るものだった。

 

 

 オルバは背後の敵が突然死んだことに驚いてはいたが、さして気にせず、牢の入り口で一人ずつ相手をしている。

 

 焦れた教団側も、チルドレン3rdの一人を捨て駒にしてオルバを押し込み、一気に数人で雪崩れ込んていった。

 

 

「まぁ、教団死すべし、慈悲は無い! よね…」

 

 

 そう独り言ちると、教団の背後からメタルスライム弾を撃ち始めた。わざと弾の軌道を曲げてあらぬ方向から撃ち抜いて行く。

 

 驚いている牢の外にいる教団員やチルドレン3rdは、そのシャドウのありえない方向から来る弾に次々に頭や心臓を撃ち抜かれて全滅した。

 

 ……一応リーダーとおぼしき人物のみ致命傷は避けてある。諜報部隊にゼータ経由で指示を飛ばして秘密裏に確保してもらう。後は拷も……尋問が特異なニューの出番だ。

 

 牢の内部では、形成を不利と見たオルバが、赤い錠剤を飲んで『覚醒』し、3人の教団員に囲まれながら相手にしていた。

 

 牢の奥の角に避難したクレアを庇って、シド──レミーは、襲ってくる2人の教団員に対処していた。

 

 

「…レミーにも実戦経験が不足しているわね。この程度…」

 

 

 面倒になったシャドウは、メタルスライム弾を追加で5発撃って教団を全滅させた。

 

 教団員が片付き、静かになった牢の中で片膝をついているオルバの荒い息だけが残っていた。

 

 

 七陰と短く検討したあと、プランBで行くとして、シャドウは一度牢から見えないところまで下がると天井から降りて、メタルスライム・スーツを魔剣士風の軽装甲の鎧に変形させると、オルバとクレアの前に歩いて姿を現した。

 

「盗賊狩りをしてきたのだけど、いったいどうなっているのかしら?」

 

 もしかして…、と周りを見廻してから聞く。

 

「あなたもお仲間さん?」

 

「「「違う」」」

 

「そう、お嬢さんんたちは置いておいて、あなたは大丈夫? なにかえらく消耗しているようだけれど。」

 

 そう、オルバに尋ねた。何しろオルバは赤い錠剤を飲んで『覚醒』しているのだ。常人であれば身体が耐え切れず死んでしまうものだ。

 

「…まだ死ねん。あの金髪の小僧を倒すまでは…ミリアの仇を討つまでは──死んでも死に切れん。」

 

 言葉とは裏腹に、荒い息が収まる様子はない。

 

 ちょっとまって、今…

 

「ミリアって…言った。もしかして同じ灰色の髪の?」

 

 

「なっ、知っているのか!? ミリアを…私の娘を…」

 

 

「あぁ…ちょっとこっちに来てちょうだい、お嬢さん方にはちょっと遠慮してもらうわ。」

 

 レミーには通信で、クレアを引き留めるように指示を出す。そして七陰と通信を始めた。

 

 足を引きずりながらオルバが牢から出てくる。鉄格子の向こうで折り重なって死んでいる教団員を見て息をのんだ。がそのまま足を止めずに牢の中から見えないところまで歩いてくる。

 

 そこで、シャドウは防音の魔道具を起動した。

 

「これで話せるわ。ミリアっていう名前で、あなたと同じ髪色をしている?」

 

「…そうだ。」

 

「…悪魔憑きだった(・・・)…」

 

「…だった?」

 

 お互いの眼を見る。そこに偽りの色は見えなかった。

 

「…緊急事態と認定するわ。ゼータ。」 アルファたちも手伝って

 

「ここに。」

 

 オルバの背後からいきなり声がした。

 

「連れて来て。」「来てます。」

 

「お父さん…」

 

 思わず振り返ったところに、簡素な衣服──療養中のための入院服を着た、『悪魔憑き』になる前と同じ姿のミリアが、獣人に支えられて立っていた。

 

 

「ぉおおっ、ミリア…

 

 オルバは剣を放り出して、ミリアはゼータの手から飛び出して、二人はヒシっと抱き合った。

 

 お父さん、ミリア、夢じゃない、あぁ夢じゃない、会いたかった、私もだ。

 

 二人のやり取りを厳しい目でシャドウは見ていた。

 

「大変なところ申し訳ないのだけど、結論を先に言わせてもらうわ。オルバ、あなたはもう助からない。もって一晩というところね。」

 

「そんな…」「覚悟はしていた…」

 

 シャドウは厳しい表情のままで伝える。

 

「残念ながら、常人…特に男はディアボロス細胞の暴走に耐えることはできないの。あの赤い錠剤を飲んで即死しなかったけれど、今もあなたの魔力と肉体は暴走し崩壊し続けている。」

 

「そんな…、私みたいに助けることはできないのですか?」

 

 ミリアが縋るように聞いてくる。

 

「残念ながら、あなたも魔力回路がボロボロのままで完全な復活じゃないわ。私が一週間強全力で対応しても、あなたが死なないように癒すことと、解呪することで精一杯だった。」

 

 それくらい無茶苦茶な実験をされていたの…そう言うシャドウは少し悔しそうに見えた。

 

「そこから、魔力回路を癒すのは不可能ではないけど、あなたが氣を習得することも含めてかなりの時間がかかるわ。」

 

 肩をすくめると続けた。

 

「そして、男は…適応者になれないオルバは無理なの。これは不可逆な反応で、一方通行なの。例えディアボロス細胞を取り除いたとしても、その肉体の崩壊は止まらない…」

 

 絵の具に黒を混ぜたあと、どんな色を混ぜても元の色に戻らないように…

 

「私は神様じゃないから、できないことも当然ある。なんとか持たせて一晩、というところなの。」

 

「そんな…」「やめなさい、ミリア。」

 

「これが私の与える最大の慈悲よ。最後の一晩をどう使う、オルバ? 復讐に使うもよし、ミリアのために使うのもよし、他に希望を叶えるもよし…」

 

「私はミリアのために使います。」

 

 オルバは間髪いれずに答えた。

 

「そう、イータ。」

 

 そう言いながら、氣と魔力を右手に集めると、オルバの肩に手を置いた。

 

 すると、オルバを蝕んでいた赤黒い魔力が、身体から弾きだされた。

 ─これくらいなら簡単にできるのに…─

 

 オルバの表情も楽になったように見える。

 

 そこに、新たに白衣を着たエルフが背後から現れた。

 

「これ……最高の鎮痛薬(モルヒネ)。丸一日……もつ量。」

 

「飲む、飲まないの判断はオルバにまかせる。ただ、最後まで安らかにミリアと過ごしたいなら、飲むことをおすすめするわ。」

 

「飲みます。最大限の感謝を。」

 

「アルファ。」「ここに。」

 

 金髪のエルフがシャドウの前に跪いて現れた。

 

「後は任せる。」「委細承知。」

 

 振り向いて牢の方に戻りながらさらに指示を出す。

 

「ベータとイプシロンは私たちが去った後に情報収集とクリーンアップを。」「「承知しました。」」

 

「ゼータは引き続き警戒を。デルタは…ごめん出番無くなっちゃった。」「「了解しました。」です。」

 

「ガンマは…プランBの再チェックを。イレギュラー沢山やっちゃったし。」「(うけたわま)りました」

 

「ニュー、変装してレミーとお姉さまのサンダルとフード付きマントを持って付いてきて」「準備完了しています。」

 

 牢の前で振り返ると、残った七陰が牢から見えないところから暖かい眼でシャドウを見ていた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「お待たせしたわね。事情はだいたい聞いてきたわ。」

 

 牢の隅に固まっている二人に声をかけた。魔封の拘束具は両手から外され地面に転がっていた。

 

 今はクレアの手の部分を止血しようとしているようだ。

 

「それじゃあ、先ず癒すわよ。」

 

 手をとってもいい?とシャドウは青紫色の氣と魔力を高めながら確認する。ええと頷くクレアの両手を持つと極普通(みるみるうち)に癒やした。

 

「ぁあっ、熱い…。」と呻くクレア。しかし、その手は負傷する前に治っていた。

 

「流した血まで戻るわけではないから、しばらくは気を付けてね。」

 

「そっちの妹さんには怪我は…無いようね。では外へ出ましょう。」

 

 そういって、後からきた仲間の(ニュー)(変装済)から、フード付きのマントとサンダルを受け取り、渡してきた。

 

「さすがにその格好で外を歩かせるわけには……ね?」

 

 慌ててマントをかぶり、サンダルを足に履く。

 

「仲間の内で似たサイズの人から借りてきたのだけれど、入りそう?」

 

「はい、問題ないです。」

 

 クレアがシド──レミーにサンダルを履かせてあげながら答えた。

 

「じゃあ一旦外へ出るわ。外はもう夕方だから今からカゲノー家まで移動するのは無理なので、予備のテントに寝てもらうことになるけれど…いいかしら?」

 

「…ありがとうございます。それで…」

 

「はいはい、詳しい話は外に出てからよ。」

 

 そう言って先に立って歩き出した。

 

「お姉ちゃん…行こ。」

 

 レミーに手を引かれて歩き出すクレアであった。牢の外にでると折り重なって倒れる死体の数に息をのむ。が、足を止めないシャドウに従って足を進めた。

 

 薄暗い地下道をしばらく歩くと、途中から壁や床が洞窟のそれに変わってくる。しばし歩くと洞窟の出口が見えてきた。

 

 外にでると、夕日が山の向こうに沈んでいくところだった。

 

「ちょっと離れているのだけど。走れる?」

 

 クレアがレミーと顔を見合わせて互いに頷く。

 

 先頭をシャドウに、しんがりに先ほどの仲間(ニュー)を据えて、普通の魔剣士の速さ…よりも速い速度で山を一つ越えていく。夕闇の中苦も無く登って降りていく。あっという間に山を一つ越えて、ちょっとした広場にたどり着いた。なお、クレアとレミーにはちょっと厳しく、オーバードライブをする場面がなんどかあった。

 

 広場には多分5個の小さめの天幕……よりも軽くて小さそうな不思議な模様(迷彩柄)の簡易天幕──テントが森の木々に偽装されて配置されていた。その一つに案内されて、机と椅子──なんと折り畳みのできる──に座った。

 

 そこで、煙のでないコンロで沸かしたお茶とお茶菓子──クレアの好物だったを飲食してやっと一息ついた。

 

「あの…、助けていただきどうもありがとうございます。」

 

「どういたしまして。」

 

 しかし、リーダーだった彼女は手を振ると……

 

「こっちも踏み込んだのは偶然だったからね、お互い運が良かったのよ」

 

 そう言った。

 

「それで、お名前とかをお伺いしても…」

 

「…それについてなんだけれど、私たちはさっきの盗賊を専門に討伐しているの。人知れず、陰に潜む奴らを狩っているの。だから…」

 

 手を胸の前で組んだ。

 

「…こちらの情報については何も話すつもりはないわ。名前も、何もかも…。今回の件を見て見ぬふりをする、それをあなたたちの救出の対価として要求するわ。」

 

 クレアの顔はしばし眼を瞑り、唇を噛んだ。

 

「お姉ちゃん…。」

 

 シドに眼をやると、そうしようよ、と眼で訴えている。

 

「明日の早朝にカゲノー家の手前まで送るわ。それで妥協してくれない?」

 

 そこでちょうどシドのお腹が、くぅとかわいい音をたてた。丸一日食べていないのだ。

 

「シチューとパンを用意させたわ。それを食べながら考えて…」

 

 そういうと、テントの入り口を開けて、シチューとパンの乗ったお盆を持ってニューがやってきて、各々の前に置いた。そして、シャドウが先に口を付ける。…それを見てからシド──レミーも食べ始めた。

 

 ふぅ、と一息ついてからクレアも食べ始めた。

「あらっ……」

 

 思わず声が漏れるほど美味しかった。この味は…

 

 給仕として立っていた女──ニューが、お代わりもございますよ、と教えてくれたので、クレアは遠慮なく3杯も食べてしまった。

 

 腹がくちくなったところで、再び、お茶の時間となった。

 

「とりあえず、このテントを二人で使ってちょうだい。簡易ベットを用意するわ。後は、新人用の新しい寝袋と下着、寝衣も支給するわ。そうね……あなたたちならベットは大きめの一つでいいかしら?」

 

 ちょっと悪戯顔で聞いてくる。

 

「それでお願いします。」「お、お姉ちゃん…」

 

 クレアはすました顔で答えた。シド──レミーの顔は赤くなっていた。

 

「そう、ではそのように。ニュー、支度をお願いね。」

 

「承りました」

 

 席を立って、テントから出る前に振り返って付け加えた。

 

「一応、夜間もこちらで見張りを立てて置くわ。あと、トイレは奥の仕切りの向こうよ。他に何かあったら、後少しならニューを近くにつけておくから聞きなさい。」

 

 そう言うと女は出て行った。もう外は真っ暗だ。指示をうけたニュー?が部屋の隅から折り畳みのベットを引き出してササッと組み立てた。セミダブルくらいのサイズはあるだろうか。普段のキングサイズのベットと比べるまでもないが、ハゲとその騎士団で領内遠征中にマントと毛布に包まって地面に寝たときのことを思えば段違いの良さだろう。

 

 さらに隅から細長いちょっと太いくらいのサイズに膨らんだ布の筒を取り出すと、片方を広げて中身を取り出した。縛ってあった紐を解いて巻かれていたものを伸ばす。空気を含んだそれは封筒型の布団?になった。

 

「これが寝袋です。両方にジッパー──これを移動させることで開けたり閉めたりできますので、これの中に入ってお休みください。」

 

 そう言って、ニューは、組み立てたベットの上に広げた寝袋の片方のジッパーを左右にスライドさせて、寝袋の横の辺の片方を広げたり閉めたりした。

 

「最後に、お湯を2個の洗面器に入れて持ってきますので、片方はこのタオルで体を拭いてください。もう片方は洗顔に使用してください。石鹸も支給します。さすがに化粧品とお風呂の用意はできませんので…」

 

「…なにからなにまでありがとう。ご迷惑をかけるわね。」

 

「いえいえ、これも口止め料の一環ですので、」

 

 ニューはイイ笑顔で答えた。

 

「では着替えもその時にお持ちしますので…」

 

 そう言って一度テントから出て行った。

 

 テントに二人きりになったクレアとシドは、椅子の上で脱力して…シド──レミーは思わず隣のお姉ちゃんに抱きついてしまった。

 

 抱きしめ返してくれる姉の存在が無事だったことが嬉しかった、あの時動けなかった自分が不甲斐なかった、お姉ちゃんが…、自分が…、ぐるぐると頭の中を駆けまわって、抱きついたまま泣いてしまった。

 

「あらあら、うふふふ、今日は頑張ったわよ、シド…」

 

「でも、あの時、お姉ちゃんが…、ぼくは…」

 

「私もシドのためだから動けたの。シドも、その後は助けてくれたわ。」

 

「ぼく、もっと強くなるね、お姉ちゃん。大大大好き!」

 

「あらあら、うふふふ……、ちょっと無粋じゃない、ニューさん?」

 

 思わず離れれようとするシドをしっかりとだきしめて放さないクレアがいた。シドはじたばたしている。

 

「お湯と着替えをお持ちしました。それでは明日早朝までごゆっくりとお楽しみください。」

 

 右手の親指を立ててそう言うと、ニューはイイ笑顔で出て行った。

 

 お、お姉ちゃん! あらあら赤くなってシドはどうしたの? そうじゃないよ! さあシド、体を拭いてあげるから脱いでちょうだい、えっ、えっ? それとも脱がされる方がいい?

 

 漏れてくる声に顔を赤らめながら、顔を振って頭を切り替えると、ニューは仮設本部のテントに入っていった。

 

「ニューです。クレア様とレミー様の世話は完了しました。後は朝起こしに来ます。」

 

「ありがとう、ニュー。これからアレクサンドリアで尋問かな?」

 

「はい、お任せください。全情報を吐かせてみせます。」

 

「じゃあ、一緒に移動しましょう。」

 

「諜報部隊中隊長、『μ』(ミュー)、ここと敵拠点の監視、それとクレアとレミーの見張りもね。」

 

 …別にレミーたちを監視をする必要はないわよ、と軽くウィンクしてシャドウ・ゲートを潜った。

 

 なお、その冗談を本気で受け取ったミューは監視はしなかったが二人ほどテントの近くに配備した。

 …結果、レミーの弱点がまた一つガーデン内に広まることになった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「シャドウ様…」

 

 アレクサンドリアの作戦室で、教団の情報の検討していたシャドウと七陰の元に、医療部隊(メディック)を示す赤十字の部隊章をつけた一人が声を掛けてきたのは、明け方にほど近いころだった。

 

「…オルバとミリアがシャドウ様と面会を希望しています。」

 

 シャドウは思わずアルファに視線を向けた。

 

「なにか私たち(ガーデン)に伝えたいことがあれば連絡して、と伝えておいたのよ。」

 

 納得した私は、デルタを護衛に、イータを補助に連れて小走りにオルバとミリアの病室の個室へと向かった。

 

 

 

 オルバの氣と魔力の流れを見た瞬間、もう長くはないことはわかった。幸いなことにモルヒネが効いているので苦しんでいる様子はない。

 

 念のために、イータがメディカルトライコーダ(携帯式診断装置)を当てて、簡単に診断する。取り敢えずの間は持つようだ。

 

 デルタも、もう護衛は必要ない、とみて扉の外に立つことにしたようだ。

 

「それで、あなたから呼び出したそうだけど…?」

 

「あぁ、最後に奴らのことを伝えておこうと思う。」

 

「…ミリアのことはもういいの?」

 

「あぁ…十分な時間を取ることができた。あとのことはミリアに伝えてある。」

 

 横目に見ると、もう泣き止んでオルバの右手を両手で握っているのが見えた。ベット横に椅子を持ってきて座る。

 

「…もうあまり時間は無いわ。あなたの好きなように話しなさい。」

 

「先ずは、あの金髪の小僧…ゼノン・グリフィ侯爵のことだ。私は奴に嵌められた。奴は教団の幹部の一人だった。決して己の手を出さず、部下を使って遠回しに手を廻してくる…」

 

 オルバが語ったのは、珍しい人間の悪魔憑きとなったミリアを、最初は保護して治療するという名のもとに拉致・監禁されたこと。それを人質として自分を使ってきたこと。そして、自分のラウンズ昇格の為の餌として──ミリアが人体実験として使用されていたこと。そして、今回の件も、極秘任務として自分が指名されたこと。内容も、クレア・カゲノーが人間の悪魔憑きになる可能性を示唆して、ミリアの治療に役立つから拉致してこい、という命令だったこと、などだった。

 

「おそらく、ミリアがこの組織に奪還されたため、そういう名目で自分への口封じとして用立てた作戦だったのだろう。ここに来る前に教団の持つ、クレア・カゲノーの情報を洗ってみたが、男爵にしては優秀な人材、ていどしか記載は無かったのだから。それでも私は実行する他なかった、ミリアのために…」

 

 …まぁ、ミリアは君たちに救われていたのだから、恩を仇で返すところだったのだが… と独り()ちた。

 

「あとは、教団についてだが、私は知ることの方が少ない。ここ5年ほど悪魔憑きの数が減少し、奴らは焦っている。赤い錠剤についても以前よりは支給される数が少なくなってきている……ようだ。」

 

 少し、意識が朦朧としてきているようだ。

 

「あと、雫というものも数が減ってきており、ラウンズ内でも抗争が勃発している…らしい。私自身はフェンリル派に属することになるのだが…実働はヘルとロキ派との抗争の方が多かった……」

 

 ミリアが静かに涙を流している。

 

「詳しくはミリアに託した…。願わくばミリアに平穏があらんことを……祈っている…」

 

「彼女は魔力回路の回復は困難なので、非戦闘員として、準構成員(サブ・メンバーズ)アテーナ会(救済院)で引き取ることを考えている。その場合、就職先はミツゴシの予定よ。」

 

「あぁ、私は人生最後の時に、ミリアが無事であることを…確認できた。これ以上の…幸福は無い…」

 

 …ミリア……愛している……

 

 オルバの呼吸が浅くなり、止まった。

 

 イータがメディカルトライコーダを当てて確認したあとに、瞳孔の対光反射を確認する。

 

「心拍の停止、呼吸の停止、及び、対光反射の……消失を確認。死亡しました。」

 

 ミリアの、お父さんと叫ぶ声が病室にこだました。

 

 ─願わくば……天国では安らかな生を─

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「シャドウ…」

 

 アレクサンドリアの作戦室にデルタ、イータと戻る途中、アルファが待っていた。

 

「アルファ…」

 

「今回の件で、シャドウはできる限りのことをしたわ。私たちも全力でバックアップした。できる最善をなしたのよ、シャドウ。」

 

 そういって、抱きしめてくれた。メタルスライム・スーツ越しなのに、互いの暖かさを感じて嬉しく思った。

 

「クレア様も無事なのよ、ついでにレミーも、」

 

「…相変わらずアルファはレミーへのアタリがキツイねぇ。」

 

 そう軽口を叩きながら作戦室に入っていく。

 

 ベータに視線を送り報告を始めてもらう。

 

 オルバの証言とゼータが抜き取りベータが調査した結果、さらにニューが吐かせた情報をあわせ、今回カゲノー男爵家が選ばれたのは唯の偶然であること、そしてミリアへの実験とオルバを陥れた総てが、フェンリル派の幹部であるゼノン・グリフィによる、ラウンズ昇格を狙った凶行であると判断された。

 

 ガンマによると、本件はゼノンによるオルバへの口封じが目的であることから、教団員すべてを痕跡無く、いつものように処理することで、謎の組織による犯行と判断するだろう、と。

 

 そしてオルバも倒されたであろうことからそれ以上は詮索しないだろうとも。クレアたちには、誘拐犯はいつの間にかいなくなっており自力で脱出したことにすればよい、とも。

 

 この似非侯爵は、もともとガーデンの要監視対象ではあったが、今後はブラックリストに乗ることになった。

 

 まぁ、本件以降さらに慎重になったのか、自ら動くことは無かった…2年後アレクシアを狙った凶行に及ぶまでは。三十路を前に年齢的に焦ったのではないか、とゼータがプロファイリングしていた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 翌日、結局徹夜明けの状態で誘拐現場から一つ山を越えたところに設置していたキャンプに『ν』(ニュー)と顔をだした。

 

 現地の隊長、ミューに確認すると、教団の使用した施設はクリーンアップが完了し問題ないこと、こちらのキャンプ地も異常なし、と報告された。教団の動きも無かった、とのことだ。

 

 クレアとレミーの寝ているテントの前に立って声をかけた。

 

「おはよう、よく眠れたかしら? テントに入ってもいい?」

 

 ちょっとドタバタしたあとに、どうぞ、とあったので、テントに入った。

 

 すました顔のクレアと、ちょっと赤面しているシド──レミーがいた。

 ─ある意味いつも通りなのか。でも、場所は選ぼうよ。レミー、寝衣の上が表裏逆だよ─

 

「取り敢えず、昨日来ていた寝衣を洗濯しておいたから、それを着て上から昨日貸したフード付きのマントとサンダルに着替えてちょうだい。朝食はその後よ。」

 

 ニューが折り畳んだ服を手渡したあと、脱いだ服はベットの上に置いておくように言ってから外に出た。

 

「あの…シャドウ様、レミー様の服が…「あなたは何も気付かなかった、いいわね?」…はい。」

 

 ─まぁ、ミューたち見張っていた面々は気付いているのだが…─

 

 ニューの眼を見ながら思い返す。

 

 クレアお姉さまの愛が重くなってきたのは、いつごろだったかなぁ…。

 

 たしか、レミー率が80%を超えていた、修行に傾倒し過ぎていたころだったかな。

 

 シド的には久しぶり(・・・・)にお姉ちゃんのベットで一緒に寝て甘えていたら…おはよう、って言われて普通にキスされてたのよね、マウス・トウ・マウスで。

 

 あれ? アルファたちと寝てたっけ? とプチパニックになっていたら、さあ着替えるわよ、って言われて全部脱がされて…

 

 大慌てでレミーと同調(シンクロ)して事情を説明しろ! って聞いたら、シドが忙しそうにしていて伝える暇が無かった、大丈夫、アルファたちと朝やってることと同じよ! って言われて…

 

 姉妹でこれは問題ないのだろうか? って思っている間に、まるっと着替えさせられて…

 

 途中で、あら、今日はいつもと反応が違うのね*1、なんて言われて、レミーにどう反応しているのか同調して確認したりして……見事にレミーに嵌められていたことに気付いたのよね。

 

 まぁお姉ちゃんのことは、だ、大好きだし、ちゃんとお姉ちゃんを着替えさせてあげたわよ。その後早朝稽古して、一緒のお風呂のときにも…

 

 明後日の方を向いて、そんなことを考えていたら、テントから、クレアたちがマント姿で手を繋いで出てきた。

 

 とりあえず、朝食を持ったニューと一緒に、もう一度テントの中に戻ってもらった。できるだけ何も見せたくはないので。

 

 テントの中のテーブルの上に朝食を配膳してもらう。といっても、キャンプ地なのでサンドイッチとサラダと飲み物といった簡素なものだ。

 

 ニューと一緒に、クレアたちの向かいに座った。

 

 さすがにニューにはいつもの食前の感謝の言葉(シャドウへの感謝)は省略してもらい、先に食べ始める。それにつられてレミーが、さらにそれに遅れてクレアが食べ始める。

 

 無言で食べて──向かい側からあ~んとか聞こえてないから! もう!──から、食後のお茶をニューに入れてもらう。

 

「さて、お茶が終わったら、カゲノー家の近くまで送るわ。あなたたちには、誘拐犯はいつの間にかいなくなっており自力で脱出した、ということにしてもらいます。これを私たちが助けたことへの報酬にしてもらうわ。」

 

 ちらりとマントに眼をやる。

 

「そのマントとサンダルは誘拐犯のアジトに落ちていたものを拝借した、とでもしておいてちょうだい。王都に行けばどこででも売っている代物よ。」

 

「「…………」」

 

 しばし、クレアと眼を合わせる。十数秒ほど経ったあと、互いに眼を逸らした。

 

「…救出してもらったことに感謝するわ。そういうことにすればいいのね。」

 

「ええ、できればオルバのことも無かったことにしてくれると嬉しいわ。」

 

 クレアの眼が鋭くなった、が…

 

「…オルバは死んだわ。人質となった娘を奪還して。」

 

 …少しだけ眼を開いた。

 

「そう……、ならいいわ。」

 

 その後は無言になったクレアとレミーを、魔剣士の速さで駆け抜けてカゲノー家の城門まで送って終わった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 かくして、クレア誘拐事件は犯人不明のままで決着がつくことになった。

 

 クレアお姉さまは一週間遅れて王都に向けて旅立っていった。…その間、ずっとレミーと入れ代わらせられていたので、直接状況は知らないのだが、久し振りにシドとして戻ったところ、ママやメイドさんの視線がとても生暖かいものだった…。レミーったら! もう!!

 

 ガーデンも仮設本部を引き払い、別の場所から監視していたところ、2週間くらい後王国騎士団の小隊と兵士が現れて、教団が使用していた現場の検証をしていった、との報告があった。

 

 まぁ、ガーデンの清掃部隊(クリーナー)がクリーンアップしたので、物証は何も得られたかったようだ……という情報を、後にフェンリル派の監視しているアジトの一つから得た。

 

 ミドガル王国の騎士団は教団にかなり汚染されているようだ。

 

 

 

 

*1
─当然、だ、大好きお姉ちゃんシドになっていることに気が付いて言っている─





 陰の実力者になりたくて! 本編の第02話です。

 今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、当分本編を進めます。

 あと、本作が1万UA達成しました、感無量です。読んでくださる皆様に感謝を。

 
 さて、原作と違い現時点で構成員600人を超える組織となっていますので、対応もかなり変わりました。

 よって、かなりのオリ展開となっています。


 この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。

 色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。
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