陰の実力者になりたくて! 本編の第04話です。
色々と迷いましたが、シドとアレクシアといったらこれですよね。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
シドと七陰の距離感がまったく違います。普段から七陰と一緒にいます。
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
その日の放課後、中庭のカフェのテラス席で。
つまりアレクシア王女は、ゼノン先生と婚約するのがそんなに嫌なんだ。
コーヒーを前にして対峙している私とアレクシア王女。
「そうよ、ただ婚約者じゃないわ、婚約者候補よ。」
すました顔でアレクシアは言う。
どっちでもいいわよ。
「良くないわ。まだ決まってもいないのに強引に話を進めてきて困っていたのよ。」
それこそどうでもいいわ。アレクシア王女たちの痴情に巻き込まれるつもりはないから。
「薄情ねぇ、あんなにフルボッコにしてくるくせに。」
あれは試合ですー。それに、不敬大丈夫、って、アレクシアが言ってくれたじゃない。
「ふっ、それを信じていいのかしら、シド? それにアレクシアって呼び捨てにしたわね。」
ちょっと待って。いきなり前言撤回とは。
「ひどいわ、ミドガル王国の王族で乙女な私を公衆の面前でボッコボコにするなんて、わたしがあなたに無理やらされてるって言ったら、シドには平穏な学園生活は送れないかもしれないわねぇ。」
しくしく、と嘘泣きしながら乙女らしさをかけらも持ち合わせていない王女がいる、目の前に、うふふと笑って。
私は頭の中でレミーをボコボコにすることで平静を保った。
「あら大丈夫、顔が引きつってるわよ。」
だ、大丈夫、性根と口の歪んだアレクシアよりマシよ。
「何か言ったかしら。」
いえ、別に。
私は敗北を認めた。
「まぁさすがに冗談よ。あなたが男の子だったらこれを餌にイロイロと考えたんでしょうけど……。」
男の子で無かったことにこれほど感謝することは、今だ
そうね、とアレクシアは私の横を向いて視線を逸らすとしゃべり始めた。
「とりあえず、いつもの試合は続けてもらいましょう。成長している手応えは誰よりもあるし……。できればアレよりも強くなるまで」
まぁ、確かに剣の腕は上がっていると思うけど……あのチャラい
「わかってるわ。とにかく強引でしつこいから時間稼ぎができればいいの。あとはこっちでなんとかするわ。だから、シド……」
嫌な予感しかしないなぁ、本当に今後もアレクシアと試合してボッコボコにしても大丈夫?
そうね、と言いつつアレクシアは懐から1枚の金貨を取り出した。
では、賭けをしましょう、といって親指でピーンと上に弾いた。
手の甲に落として左手で覆う。
「裏だったら諦めるわ。でも、表だったら……今日からあなたは共犯よ。」
えっ
「表ね、よしよし。シド──いえ、ポチ。」
私はアレクシアを見た。アレクシアの赤い瞳が私を見ていた。
その瞳の奥が不安に揺らめいていることが…助けを求めていることがわかってしまった。
「ちゃんと私の言うこと聞いてくれるわよね。」
それでも、性格の悪さがにじみ出た微笑みでアレクシアが言う。
「いいわよ。……って、ポチ呼びは嫌だからね。それで…上手くやってね。」
私は微苦笑で答える。
「ええ、わかったわ、ポチ──シド。」
アレクシアは私の手を握って、契約成立ね、と言うと、にこやかに白銀の髪をなびかせて去っていった。
こうして私はアレクシアと 恋人関係 共犯関係となった。
それから約1週間
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、あれからどうにかこうにか、アレクシアの剣友として過ごしている……ハズだった。
まさか百合だったとは……
百合、ありだと思います
百合、有りだったのね。私も勇気出して…
道ならぬ恋だとしても…
てか、相手の子誰だっけ?
応援しています
わたし…好みのタイプかも。
百合…尊い
お姉様…
お姉様…
何故か、みんなはアレクシアと私が…その……ゆ、百合の関係にあり、こ、恋人(
極稀に、女生徒から、応援しています、と応援?にもあうが、それも我慢できる範囲…かしら。
何よりチャラいゼノン先生が私に短絡的かつ暴力的な手段には出なかったのが──残念。
──ちっ、決闘でも仕掛けてくれば返り討ちにしてやるものを──
まぁ以前のように気軽に話しかけてくることはないが、こちらを
そんなチャラいゼノン先生に対して、何故かアレクシアはというとバリバリに対抗心を見せてたりする。
だから,恋人関係はキチンと否定してほしい。
頬を赤く染めて瞳を潤ませて明後日の方を見ながら、『恋人……ち、違うわよ。』というのは、否定とは言わない。誤解を肯定しているも同じだって。
「まったく、ムカつくわねあの男、少し剣がうまいからっていい気になって。」
はいはい。
「あのうさんくさい笑顔、ポ──シドも見たでしょ。」
はいはい。
「「はい」は1回」
はい。
今、私たちは授業が終わっての帰り道。
アレクシアと2人で電車に乗って、アイスが人気な露店の出ているという北の大通りに向かっている。
アレクシアはさすがにみんなの前では取り繕っているが、私の前では遠慮無しに罵詈雑言の嵐になる。
この4-5日は、いつものように授業の後に訓練場を借りてひとしきりボコる。うん、少しづつ強くなっている。で、その後に、少し遠回りして王都のそこそこ人気のある場所を巡ってから寮に向かう、というのがパターンになりつつある。
そして最後に夕暮れの道をゆっくり歩いて寮に帰る。
普通に歩けば10分くらいで抜ける道を、30分以上かけて歩くことになる、……つらい。
ほんとにどうしてこうなった?
わかっている。私ももっと強く言うべきだった。
でも、アレクシアの不安に揺れる瞳を、助けを求めている瞳の奥を見てしまうと、強くでられなくなる。
お姉ちゃんが演習で1週間いないので、レミーも入れ代わりを断わって、この件にはノータッチなの。
七陰はゼノン先生の再調査は請け負ってくれたのに、ゆ、百合に関しては、かなり前からアルファを筆頭に推奨というか実践しているというか……
そりゃあ自分でも、性自認は女の子だけど、女の子の方が好きだ!
…前世では男の子だったけど、あまり男の子してる──異性に興味を示した記憶──記録はなかったし、西野さん?を助けていたけど、なんかそれ自体で満足していたし。
なので、現世の性自認は普通に女の子のままである、男の子になるほどのものはなかった。
…なのだが、恋愛対象として男の子を…となると、先ず前世の“ボク”とかは恋愛的にはありえない人だったわけで。さらに教団の男の
ふつうに男嫌い──というか人間嫌い──になってもおかしくはないと思う。
まぁレミーや七陰たちも、色々と思うところがあるようだげど…
それに、妹たち*1の面倒を見るようになってからは、特に女の子の『助けて』という思いに強く反応するようになってしまったようにも思う。
だから、アレクシアも…
はっ
と、とにかく、放課後の私は、ひたすらアレクシアの話に同意し続けることになる。
内容なんて聴きたくなかったのに、途中で聞き返してくるし。
話しを逸らしてみたら、さらなる口撃が……
私の知るチャラいゼノン先生への悪口のバリエーションが増えただけとなった。
そうこうしながら、大通りを二人連れで歩くことしばし、アレクシアは一国の王女でありながらアイスクリームの屋台で律儀に並んでアイスを買った。
アレクシアなら、並ばなくても顔パスなんじゃないの?
「当然そう、でも目的はアイスを食べることじゃなくて私たちの交際を世間に広めることなの。」
はいはい……って、あー、なるほど、この噂の犯人はアレクシアか。
「…残念ながら、犯人は私では無いわ。私はこの噂に便乗した方。」
真犯人は別にいる、と?
「実は、私のファンクラブがあるのだけど、これまで男子生徒の告白を全部「
まさか……
「それなのに、この頃特定の女の子のところに毎日会いに行って、楽しそうにしてるじゃない。だから、実はその女子生徒を好きなんじゃないのか、って噂になっていて。」
そんなに前から……
「決定的になったのは、ブシン流交流会の日のカフェのテラス席でのやり取りね。」
へっ?
「婚約を嫌がって泣いていた私をシドが慰めていたことになって、お互い名前呼びしてたとか、最後に握手して笑いながら離れたとか。」
…話した内容を抜きにして、端から視ているとそうなるの?
「翌日にはファンクラブ中に広まっていて、会長が「私たち応援します、協力します。」言ってくるし。これ、もしかしていけるんじゃない、って。」
で、少しは進展したの?
明後日の方向を向く、アレクシア。ちょっとかわいい。
他にも婚約者候補っているの?
「いないことはないけれど……、でもアレだけは嫌よ。全部よ全部、あいつの存在すべてが嫌なの!」
まぁ私もアレは実態はクズ野郎だし無理かな…
「でしょ! 上辺だけはいいけど、そんなのいくらでも取り繕えるわ、私みたいに。」
アレクシアも人気あるもんね。普段はビックリするほど猫をかぶっているから
「何か言った?」
いいえ。
「とにかく、私は上辺だけでは判断しないわ。」
では、どこで判断するというの?
「欠点よ!」
アレクシアはスンとした顔で言った。
なかなか斬新でネガティブな判断ね、アレクシア。でも、とってもあなたらしいわ。
私からアイスクリームを差し出すと、ちょっとだけびっくりした顔をしてから、やや不機嫌そうにそのままアイスクリームを一口齧った。
ちなみにゼノン先生の欠点は?
沈黙が帰って来た。もしかして、知らないの!?
思わずジト目で睨んでしまう。
「でも、欠点のない人間なんていないわ、もし居たとすれば、それは大嘘つきか、頭がおかしいのか、どちらかよ!」
なるほど、独断と偏見に満ちた回答ありがとう。でも、たしかに胡散臭いわね。
「でしょ!」
フフッと笑ってアレクシアは立ち上がった。
さて帰りましょう。はいはい。
私はアレクシアに言われるがままに帰路についた。
お姉ちゃんが帰ってくるまであと二日だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日も、授業の後で訓練場を借りてひとしきりボコる。うん、ほんと少しづつ強くなってる。
「だいたい、あなたの剣って、天才の剣なのだけど……」
私の剣について、アレクシアが言う。
「それだけじゃないのよ。だから目を奪われるの。」
「ありがとう。」
私は本来の
「でも、今日はいつもより剣が荒れてたわよ。」
アレクシアは木刀をだらりと垂らすと、立ったまま静かに話しだした。
「私はずっとアイリス姉様に追いつきたいと思っていた。でも最初から何もかも持っているものが違ったの。だから私なりに考えて強くなろうとした。その結果、私の剣が何て呼ばれてるか知ってるでしょ?」
アイリスとアレクシア姉妹の剣を比べるとき、必ずと言っていいほど出てくる言葉がある。
「『凡人の剣』よ。」
アレクシアは片頬だけ笑って言った。
「でも、私は君の剣が嫌いじゃないわ。昨日より今日強くなる剣ね。」
アレクシアは私の言葉に一瞬息を止め、私の眼を見た。私の紅い瞳と、アレクシアの赤い瞳が見つめ合う。
少し間を置いた後、再び口を開いた。
「同じことを前に言われたことがあるわ。」
唇を歪めて声真似をするアレクシア
「『私アレクシアの剣が好きよ。』ブシン祭の試合で私が無様に負けた時、姉様が言っていた言葉よ。」
「ちょっと待って! ブシン祭って、アレクシアあなたがいくつの時にでたの? 何回戦で負けたの?」
「?、……13歳の時で、予選の最終試合よ。」
「その時アイリス王女は?」
「?、……18歳よ。前回の大会のことで優勝してたわよ?」
私は大きくため息をついた。アレクシアは首を傾げたままだ。ちょっとかわいい。
「……普通は、ブシン祭に13歳で出たりしないわよ。」
これは……気付いて無かったっぽい。
「だいたい、私のお姉ちゃんでも、15歳の時には出場してなかったわ。今年3年生、17歳でブシン祭の学園代表になって本選出場を目指しているのよ?」
思わず、
「あのね、アレクシア。あなた一般予選から本選一歩手前まで頑張ったんでしょ? それ、13歳の女の子には
よしよし、と後頭部を撫でてあげる。
私より、少しだけ背が低いだけなので、胸、ではなくて肩に埋めるようになったけれど。
「……だれもそれを褒めてくれなかったの?」
耳元で小声で聞くと、頷いたのか、かすかに左肩に強く押し当てられた感触がした。
「今年は……さすがに厳しいかもしれないけど、再来年のブシン祭までに強くなればお姉様に追い着くんじゃない?」
アレクシアの身体が震えていた。
ミドガル王家はどこか歪だ、アルファたちからの報告を聞いてそう思ったことを思い出す。
アレクシアを、アイリス王女とワザと敵対させているかのようにも見える。王族──英雄の血を濃く引く末裔──だというのに。
これも教団の計略なのか……。あまりにも稚拙だが、一周回って良く効いてしまっている。
私は何も気付かなかったふりをして、抱き締めて後頭部を撫で続ける。
だいたい前世の“ボク”にしても、13歳のころは内家戴天流の道場で、師匠
私? 私は例外よ。13歳の頃って、たしかお姉ちゃんと一緒に教団に誘拐されて、そこの幹部が……あれも後味の悪い事件だったわ。それ以外にもいろいろあったっけ…
訓練場の時間がゆっくりと流れた気がした。
「……手を放して。」
くぐもった声がしたが、
「やだ。もう少しこのまま……」
耳元で囁き返すと、後頭部に回していた手を下げて、両手でギュッと抱き締める。
ピクリと反応したが、気にせずに。
アレクシアの体温が上がった気がするので放すことにした。
「とにかく、当分面倒は見てあげるから、頑張りましょう。」
─レミーも気に入ってるし─
アレクシアは、一瞬物欲しそうな顔を見せたあと、すぐにジト目に変えた。
「…シド、あなた手慣れているわね。」
「まぁね。お姉ちゃんにされ慣れているし、妹みたいな存在もいたから。」
「これは……そんなもんじゃないわよ。」
少し呆れたような声が帰って来た。
妹みたいな存在は、シドではなくギリシアの時のことだけれど。
「あなた、やっぱり百合ね。」
わたしは微苦笑するしかない。だから、最初から“百合”については一切否定していないのだけれども。
今日はもう帰りましょう、といって、荷物を手早くまとめる。アレクシアの分もまとめてあげる。
そして、手をつないで寮への道を歩き出した。
アレクシアもそっぽを向きながらではあるが手を放しはしなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日には、お姉ちゃんも帰ってくる。まあ私はレミーと入れ代わりになるのだけれど。、
今日までのことは、レミーと念入りに
「ゼノン・グリフィス侯爵クズ野郎の件で新たな報告よ。」
表情からして良くないことがわかった。
「あのチャラい男、もともと次期ラウンズに内定している教団音幹部の一人としてガーデンの監視対象でブラックリスト筆頭なのよね?」
「えぇ、あの
「これまで裏で立ち回ることが少なく手足を作って使ってやってきて、自分は表で王族に上手く取り入っている。こちらが手を出しづらい立場にいたのに、今回はお粗末よね? アレクシアの件といい、実は謀略に関しては大した才覚を持ってないんじゃない?」
「その通りなのだけど、男として
そう言うと書類を見せてくれた。
なになに、「アレクシア拉致計画」って、そのまんまね。
「犯人はシド──あなたになるそうよ。」
あのチャラい金髪クズ野郎、やっぱり根に持っていたか!
陰の実力者になりたくて! 本編の第04話です。
基本カゲマス準拠です。
今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、当分本編を進めます。
さて、シドとアレクシアの関係は…性癖全開です。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
シドと七陰の距離感がまったく違います。普段から七陰と一緒にいます。
そして、アレクシアのブシン祭出場についてのあれこれは本作の捏造です。
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。