陰の実力者になりたくて! 本編の第05話です。
前話ラストで明らかになったアレクシア拉致計画がどう進むのか?
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
シドと七陰の距離感がまったく違います。普段から七陰と一緒にいます。
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
ここは…
アレクシアが目を覚ますと、そこは薄暗い牢獄だった。
窓は無く、魔道具のランプ1つが唯一の灯り、壁は石造りで、頑丈そうな鉄格子と扉が正面にあった。
身体を動かすと、ガチャ、と金属の擦れる音が響いた。見ると、アレクシアの四肢が台座に固定されていた。
「魔力封じ…」
手枷足枷には古代文字が光って見えた。魔力封じのアーティファクトだろう。魔力は練られない。自力での脱出は困難だろう。いったい誰が何の目的で連れ去ったのか。誘拐、脅迫、人身売買……。一通り考えてみるが確証は得られない。
アレクシアに王位継承権はないが、王女という立場にはそれなりの利用価値があることを彼女は知っている。
結局、今ある情報では答えは出そうにない。
アレクシアは思考を止めて、ふと思った。
学園からの帰った後、部屋に入ったところまでは記憶にあるのだが、その後の記憶がなかった。
稽古場でギュッと抱き締められて、そして泣かされて、手をしっかりと繋いで寮まで帰って来た、のよね。
もうそのことは学園中に広まっていることだろう。
最近通っていた剣友。嫌いな天才の剣なのにまた闘いたくなる、それだけではない剣使い。
お人好しな性格の── 恋人 友人。アレクシアは王女の自分に物怖じせずにボッコボコにする彼女のことをとても気に入っていた。
それにしても……、何かの息遣いがした。
「誰かいるの?」
石壁、鉄扉、ランプの台、そして……黒いごみのような塊。その塊はアレクシアの隣で、なぜか鎖に繋がっていた。
「あなた、聞こえる? 言葉がわかっ……」
生物が動き、アレクシアに見えるようになった。
化け物だった。
かろうじて人型だとわかる腐った肉の塊。ときおり震えて呻き声をあげている。そんな化け物が、アレクシアのすぐ横にいた。アレクシアが今まで見たこともない、化け物が鎖に繋がれていたのだ。
アレクシアが四肢を固定されているのに対して、化け物は首輪で繋がれているだけだ。
化け物が腕?を伸ばせばアレクシアに届く……かもしれない。
しばらく、時が止まったかのような静寂のあと……ジャララ、と鎖が鳴った。アレクシアは横目で隣を見た。化け物が身を伏せ、眠りに入ったようだ。
アレクシアは安堵の息を吐いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらくして、正面の鉄格子の扉が開かれた。
「王族の血、王族の血、ようやく……ようやく手に入れた。」
入ってきたのは白衣の瘦せこけた男だった。頬はこけ、目は落ち窪み、唇はひび割れている。頭髪はぼさぼさで、皮脂でべったりと張りつき、異臭が漂う。
「ごきげんよう。あなたが誘拐犯?」
アレクシアは冷静に男を観察した。
「王族の血、王族の血、王族の血、王族の血、王族の血、王族の血、王族の血……」
王族の血。白衣の男は連呼しながら細い針の付いた注射器を取り出す。血を抜かれるのだろう。アレクシアも城の医師に何度か抜かれた経験がある。しかし。王女を誘拐してまで血を求める理由がわからなかった。
「聞いてもいいかしら。」
アレクシアは落ちついた声で言った。
ゴムのチューブで圧迫して血管を浮き上がらせると、針がアレクシアの腕の血管に刺さった。赤い血がガラスの容器に満たされていくのを、アレクシアじゃ他人事のように見つめていた。
「私の血をいったい何に使うの?」
冷静に、冷静に、と自分に言い聞かせる。
「き、ききき君の血は魔人の血、ま、まま、ままま、魔人を、げ、現代に蘇らせるぅフフ、フハハ、ヒッヒッヒッ……」
「なるほど素晴らしい考えね。意味はわからないけれど。」
さっぱり意味がわからない、が、男が正気でないことと、宗教か何かに入れ込んでいることはわかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とっくに捜索は始まってるはずよね。寝ていた時間を考えても、もう朝になっているころだろう。不在が明らかになって騒ぎになっているはず。姉さまも…
朝?から白衣の男が、血を抜きにやってきた。
「あまり血を抜かれると困ってしまうわ。私まだ死にたくないもの。」
「ヒヒ、ヒヒ、わ、わかってるよ。たくさん欲しい。だから、いつまでも抜けるようにするぅ。」
「ええ、そうしてちょうだい。」
アレクシアの血に利用価値があるうちは、殺されるこてはないだろう。反抗せず、従順であれ。
アレクシアはとりあえず、救助が来るのを待つことにした。
「だいたい、こ、こんな、こんなはずじゃなかった! 全部バ、バカどものせいなんだ!」
「そうね、私もバカは大嫌い。」
バカの相手は疲れるものね、と白衣の男を見据えてこっそりと呟いた。
「ぼ、ぼ、僕、僕の、け、研究所を破壊していって! そこからつぎ、次々とあああぁぁぁぁ! ああああぁぁぁぁ!」
白衣の男は頭を抱えて喚きだした。
「かわいそうに、大変だったのね。」
はっ、ざまぁみろ、と思っても口にはださない理性があった。
「そ、そう、そうだ、そうなんだ! ぼ、僕の研究、あ、あと少しだったのにぃぃぃぃ!。あ、あ後少しで完成させなきゃ、僕、僕は、は、破門だ!」
「それは、ひどいわね。」
もっと徹底的にやってくれればよかったのに……
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、役立たず、役立たずが!!」
白衣の男は鎖に繋がれた化け物に近づき、蹴り飛ばした。何度も、何度も蹴り飛ばし、踏みつけた。化け物はただ丸まって動かなかった。
「私の血を抜くんじゃなかったの?」
「そうだ、君の血、君の血があれば完成する。」
「よかったわね。」
「君の血……、血、血……、フ、フハハ、ヒッヒッヒッ……」
白衣の男は、再びアレクシアから血を抜き始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アルファが朝の執務を開始したころ、ベータが執務室に飛び込んできた。
「大変です、アルファ様!」
「どうしたの、そんなに慌てて。」
「
「…それで? あの計画書通りに動いたのかしら?」
「すぐに救出の部隊をーーっ!」
「ちょっと、待ちなさい!」
「で、ですがっ!
「ベータ落ち着いて。これはガンマが考えていた
「えっ……、そうだったんですか? 私聞いてませんよ!」
ジト目でベータを睨むアルファ。
「…あなた、昨日まで原稿の締め切りでよみにち新聞会のホテルに缶詰だったじゃない。」
「うぅ……確かに。」
「で、どういう経緯で、どの騎士団に拘束されたのか、報告してくれる。」
「はい。えぇっと……、あっ、第一発見者の一人として、第一騎士団に取り調べを受けているそうです。」
「そう、シドは作戦通りに第一騎士団に拘束されたのね。第三騎士団じゃなくてよかったわ。」
「それにしても、アレクシア王女を誘拐するなんて……、『王族の血』狙いですか?」
「ええ、それを成果にラウンズへの昇格を狙っているようなの。
「…これって、
アルファは悪い顔で笑って言った。
「そうよ、これを教団へのカウンターとしてうまく利用するわよ。監視中の教団のフェンリル派のアジトを再調査して、王女はそこに居るはずよ。念のためにデルタを呼んで匂いの追跡もさせましょう。」
「すぐに人員を集めます。」
「私たちは、私たちの謀略を遂行するわ。そして、王宮から教団の影響を削いでいくのよ。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
早朝、昨日は
その時にはレミーと入れ代わっているのだが……
そして、昨日ガンマに寝物語に聞かされた
準備を終えると、アレクシアを呼びに部屋を出た。特待生のため同じ寮にいる。
アレクシアの部屋の前に着くと、ノックと一緒に声を上げた。
「アレクシア~! 早朝稽古の時間だよ~!」
ワザと大きく声を上げる。
「おーい、アレクシア~? 早朝稽古の時間だよ~!!」
なんか楽しくなってきた。さらにノックしながら声をだした。
「ア・レ・ク・シ・ア。
早朝とはいえ寮の廊下を通っている人はいる。そのうち何人かはこちらを見ながらコソコソ話しをしているようだ。早速昨日のことが噂になっているのだろう。」
視線を感じている状態で、おかしいなぁ、といいながら扉のノブに手をかけて回す。すると、鍵が掛かっていなかったのか扉が手前に開いてきた。そこで、表情を改める。
周りを見廻して声を上げた。
「ちょっと、鍵が掛かっていないわ。だれかアレクシアが部屋から出るのを見た人はいる?」
ちょうど部屋を出てこちらを伺っていたローズ生徒会長に目を合わせる。
「ローズ生徒会長!」
ローズ生徒会長は周りを見廻すと声をかけた。
「だれかアレクシア王女を見た人はいますか?」
そこに居た女生徒たちは全員首を横に振った。朝食等朝の準備をしているメイドたちにも声をかけるも、見ておりません、との回答だった。不穏な気配が漂い始める。
「ローズ生徒会長、代表して中を確認してもらえませんでしょうか?」
わかりました、そう言って、開いた扉から中に入っていく。アレクシア王女、と呼ぶ声が聞こえてくるが返事はないようだ。扉を開ける音がかすかに聞こえる。
室内の捜索を終えたローズ生徒会長が出てきて宣言した。
「アレクシア王女が室内には見当たりません。彼女の剣はそのまま置かれていました。誰か騎士団に連絡を。現場を保存するために私はここに残ります。君──シドさんだったかな、シドさんもここに残ってください。」
一気に慌ただしくなっていく。
「……あの、アイリス王女に近い騎士団って第何騎士団でしたっけ?」
そうローズ生徒会長に聞く。
それは、第一騎士団ですね、と生徒会の生徒が教えてくれた。
「では、そこに連絡した方がいいかもしれませんね。妹姫のことですから。」
私はすました顔で意見をだした。
「では、第一騎士団に連絡を。」「はっ!私が。」「だれか立ち入り禁止の表示を……」「当直の騎士にも連絡を…」
わいわい、がやがや。ほんとに楽しくなってきたぞ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「昨日夕方に寮に帰ってきた後に部屋から居なくなったようです。部屋着に着かえた痕もありませんし、ベットを使用した痕跡もありませんでした。隣室の者が言うには昨夜は物音一つしなかった、とのことです。それに、剣も入口の置き場に安置されていました。お付きのメイドも、昨日は寮に帰った以降には、お呼びされなかったそうです。」
第一騎士団、第一番隊隊長 獅子髭のグレンとマルコ隊員が報告をしている。
「報告は以上ですか?」
「昨日の夕方、帰寮した時間の前後に、アレクシア王女や不審者が居なかったか、について寮生と関係者に目撃情報の聞き取りを開始しています。また、魔力痕跡についても調査を開始したところです。幸い現場の保存をローズ生徒会長が実施してくれたので、魔力痕跡についても捜査が可能なようです。」
「現状については、以上です。アイリス様。引き続き捜査を行います。」
「下がって構いません。」
アイリスは頷いて、報告を行った騎士の退出を施す。
扉が閉まり室内の残されたのはアイリスともう一人、少しイラついて見える金髪のチャラい端正な顔立ちの男だった。
「お待たせしました、ゼノン侯爵。協力に感謝します。」
「いえ、アイリス王女。学園の敷地内にある寮で起きた事件ですから、私にも責任はあります。」
ゼノンは目を伏せて悔しそうに唇を嚙む。
「あなた個人の非を問う者はいないでしょう。今はアレクシアを救うことが最優先です。」
「そうですね……まずは妹君を。」
「それで……、シド・カゲノーのという女生徒が犯人である可能性が高い、とのことですが。」
「状況的に彼女が怪しいのは事実です。たしかに彼女の実力であれば、アレクシア様を拘束できます。あとはどうやって連れ出したのか……」
ゼノンは言葉を選ぶながら言う。
「それが不思議なのですが…、彼女は第一発見者の一人です。それに第一騎士団の捜索にも協力的です。本当に彼女が怪しいとゼノン侯爵は主張なさると?」
「それは……そうですが……、一応監視は続けます。可能性がある以上そうすべきですから。ただ、私は彼女を信じたい……」
アイリスは頷いて目を細めた。
「私も妹の学友を疑いたくはありません。それにしても……」
「うん? どうしました。」
「妹が誘拐されているというのに、私に動かせる人員が少なすぎる……」
「アイリス様が並みの騎士よりを強いことは皆が知るところです。しかし王女である以上、狙われる身でもありますから。」
「上層部としては扱いづらいのでしょうね、私は。」
「お気持ちはわかります。私にできることなら、なんなりと。」
「ならばぜひ、学園の秩序維持にも力添えを。」
「生徒は全員外出禁止、授業以外の時間は寮で待機させています。」
アイリスは立って窓の外に目を向けた。
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「邪魔しないで!」
「ダメですよクレアさん! 落ち着いてください!」
「落ち着いてられるわけないでしょ! 妹を……シドのところに行くのよ!」
「いかなる理由があれど、生徒会副会長として外出は認められません。」
「うちのかわいいシドが誘拐なんてする必要ないじゃない。アレクシア王女とは友人なのよ。だからシドに会いに行くの…」
「……話の通じない人ですね。」
そういって、腕をひねり上げようとする生徒会副会長。しかし、クレアは巧みに躱して逆にひねり上げた。
ぬるいわ!
「いたたたたっ、と、当面の間、自室での謹慎を命じます。」
生徒会の生徒が周りを囲み、副会長を助けだし、クレアを拘束しようとする。
「放しなさいよ!」
それでも、引き摺って歩いて行こうとするクレアがいた。
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「多少の例外もあるようですが……。」
ゼノンは肩をすくめた。
「生徒の安全については、引き続き任せます。」
「仰せのままに。」
ゼノンは慇懃に礼をして退出する。
「妹のために、か……。家族を思う気持ちは同じ……」
ポツリと呟いた。
かつては仲のいい姉妹だった。だが、いつからだろう、すれ違ってしまったのは。」
もう半年も話していない。
もう二度と、話せないかもしれない。
「いつだったかしら、最後に話したのは……。アレクシア……」
ワインレッドの瞳を閉じると、一筋の雫がこぼれ落ちた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「協力ありがとうございました。」
とても丁寧に挨拶をされて、ローズ生徒会長と一緒に学園まで馬車で送り出されることになった。
視界の隅にゼノンの所属する第三騎士団の連中が不満そうな顔をこちらを見ているのが見えた。
護衛も第一騎士団、一番隊の者が付いているようだ。
周囲の魔力探査をおこなう。……少し離れた後ろに反応が二つ、怪しい。どれどれ。
尾行は二人、あのマント止めの色は…第三騎士団ね
どうやらアレクシアの安否は不明、誘拐犯も捕まっていないようね。
「? どうしました、シドさん。」
「いいえ、何でもありません。ローズ生徒会長。アレクシアが心配で…」
「私もローズで構いませんよ。一々生徒会長と呼ばれるのもなんですから。」
「では、ローズ会長で。何かわかったことがありましたか?」
同乗している騎士に目を向ける。騎士は少し考えたあと無言で頷いた。
「どうも、帰宅直後に攫われたようです。部屋に滞在していた痕跡がほとんどないそうです。」
「…ということは、昨夜すでにいなかった、ということですか。」
「ええ、騎士団は、部屋の魔力痕跡の調査と、不審者を目撃したものがいないか捜索しているようです。」
少し考える振りをする。
「私の部屋からはアレクシア王女の部屋は見えませんし、族が侵入していたとは気付きませんでした。いったいどうやって侵入して無力化して連れ出したのでしょう? アレクシアの部屋を訪問した人とか
ちらりと同乗している騎士を見る。たしか、紺色の髪で第一騎士団所属……第一番隊のマリオ*1だったかな?
「それは……」
どうも、内通者を想定していなかったようだ。声に嫌悪感が混じっている、若いな*2。
「…現在、捜索中ですので、捜査情報の他言を禁じます。」
そのように告げると考えこみ始めた。
よしよし、仕込みは順調。
お腹すきましたね、そうね、朝食も食べれませんでしたからね、昼ご飯に間に合うといいのですが、そうですね。
後は、ローズ会長との会話を楽しんだ。なかなか気さくな人だった。学園最強をクレアお姉さまと競っているとか。その繋がりで私のことも知っていたらしい──シスコンとして。はぁ~~~。
陰の実力者になりたくて! 本編の第05話です。
基本カゲマス準拠です。
今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、当分本編を進めます。
さて、シドとアレクシアの関係は…性癖全開です。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
シドと七陰の距離感がまったく違います。普段から七陰と一緒にいます。
グレンやゼノンの所属する騎士団とかについては本作での捏造です。
複数あることは原作にも描写されているのですが…
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。