陰の実力者になりたくて! 本編の第07話です。
ようやく対ゼノン戦に辿り着きました。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
シドと七陰の距離感がまったく違います。普段から七陰と一緒にいます。
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
巨大な化け物が地下施設から地上に現れて、どれくらいたっただろうか。
化け物は、剣で斬られて崩落した建物に空いた石畳の床の穴から地上に出てきた後は、自らを抱きしめながら時おり苦しそうに呻いているだけで、特に暴れているわけではなかった。
アレクシア王女の捜索もあって、いち早く現場に到着した第一騎士団の騎士・兵士は、周囲にバリケードを築きながら、近隣の家屋から民間人を逃がすことを優先していた。
そこに……、マスケット銃を構えた銃兵隊が隊列を組んでやってきた。それに気付いた隊員が、隊長に報告する前に……
「目標、化け物。一斉射撃、撃てぇっ!」
不揃いな銃声が轟いた。銃弾はそこそこ命中しているようだが、外れたものが背後や側壁など建物の石壁にあたり、跳弾としてそこら中を飛び跳ねた。
「あぶなっ。…気を付けろ! 跳弾が飛んでくるぞ!! 魔剣士は前に出て防御を。兵士は盾を持って来い。どこのどいつだ!街中での発砲を許可したのは!」
第一騎士団一番隊隊長調獅子髭のグレンは、指揮官らしき人物に誰何すると、第三騎士団所属、との回答がきた。
「首都防衛は第一騎士団の管轄だ。知らぬわけはあるまい、誰の命令だ!」
さあ言え、と凄むグレンに気圧された隊長は正直に答えた。
「…四番隊隊長のジャン殿の命令です。市街地で暴れている化け物を攻撃するよう命令されました……」
「完全な越権行為だな。それに暴れてはいないし、銃では……」
視線を化け物に向けると、銃弾は化け物の体表で食い止められていた。特にダメージは無いようだ。
「銃が効いてない!?」
化け物は蹲って苦しそうに咆哮を上げているだけだ。
「これ以上刺激を加えるのは不味い。第一騎士団一番隊隊長権限で貴殿の命令を撤回する! バリケードより手前に下がれ!」
銃兵を下げている途中、建物の屋根を伝って走りこんできた魔剣士の一団が上から化け物に飛び掛かっていった。
「魔剣騎士団、抜刀! 攻撃開始!」
1個分隊5人が飛び降りながら切り下ろす。
化け物は背中を切られて血飛沫と悲鳴を上げて転がる。
切りかかった魔剣士の分隊は、石畳を削りながら着地すると、そのまま素早く化け物から離れた。
化け物は……それでも反撃してこなかった。が、たった今傷つけた傷口を赤い魔力が包み込むと傷口が消えていた。
「再生している!? だと!」
それを横目で見ながら、グレンはマルコを手で呼んだ。
「…あれも第三騎士団か……、おい、二番隊隊長に伝令だ、周辺住民の避難が終了したら、今来た第三騎士団を取り押さえる準備を始めろ、と。復唱はいいからサッサと行って来い。……一番隊と三番隊は警戒を続けろ。」
改めて化け物を見ながら不思議に思う。反撃すらしない、まるで怯える子供だ。第三騎士団の魔剣士の方が悪く見える。
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「いったい何が起きているというの?」
アイリスは赤い髪を靡かせながら、深夜の王都を疾走していた。
「建物が斬れた」と、最初の報告は耳を疑う物だった。しかし半信半疑で現場へ向かうアイリスの下に次々と情報が届いてきた。
王都で、大規模な襲撃が同時多発的に起こっている、その結論にたどり着くのに時間はかからなかった。だが襲撃先に統一性がまるでなかった。
商会、倉庫、飲食店、貴族の私邸……
計画性のある犯行でまず間違いないのだろうが、その目的が見えてこない。しかし、事実として王都は揺れていた。
王都防衛を任務とする第一騎士団には緊急出動がかかり、要人の避難も始まっている。市民は深夜にも関わらず窓から様子をうかがい、野次馬に向かう者も少なくない。
何かが起きている、間違いなくこれは普通の出来事ではない、アイリスの直感がそう告げていた。
と、その時、アイリスの耳に大きな悲鳴と叫び声が届いた。
「この化け物めっ!!」
騎士団の声だ、そう遠くない。アイリスは向きを変えて、悲鳴の元へと駆けつける。
屋根を伝って駆け抜ける。大通りに出るとそこには化け物が…横たわっていた。人を5~10倍くらい大きくした感じの巨体であろうか。が、暴れている様子はなく、自分を抑えるかのように自らを抱きしめながら時おり苦しそうに呻いていた。
そこに、1個分隊の騎士団が駆け寄っては切りつけて下がっていく。背中と腕を切られて血飛沫と悲鳴を上げて転がる化け物。しかし、悲鳴を上げている内に傷口を赤い魔力が包み込むと再生していた。化け物はひたすら縮こまっているように見えた。
「何よこれ。」
おかしい、とアイリスは思った。首都防衛であれば第一騎士団のはずだが、見覚えがない。周囲を見回すと、この区画に閉じ込めるようにバリケードの作成と、民間人を非難させている第一騎士団員がいた。
状況を、と第一騎士団に話しかける。すると、アイリスに気付いたグレン一番隊隊長が駆け寄ってきた。
「第三騎士団の暴走です。少し前に同じく第三騎士団の銃兵隊が攻撃を加えています。しかし傷つきはするものの効果は出ていない模様です。それに……」
横目で見ながら肩をすくめ、続ける。
「…見てわかるように、初めから化け物側からは手を出してきません。」
一方的に第三騎士団の魔剣士が無抵抗な化け物に向かって剣を振り下ろし続けている。
アイリスは剣に手を添えながら攻撃を続ける魔剣士に声をかけた。
「剣を引きなさい、」
一瞬魔剣士たちの手が止まり、化け物から離れる。
「…これはこれはアイリス王女、只今化け物を退治中ですので…」
分隊長とおぼしき人物が前に出て話しかけてきた。
「第一王女アイリスの名に懸けて命令します。剣を引いて下がりなさい。」
「はぁっ、しかしこれは第三騎士団三番隊隊長よりの命令でして…」
「王都防衛は第一騎士団の任務です!第三騎士団の命令するところではありません。」
ぴしゃりと切りすてた。剣に添えた手の指を一度伸ばしてから、握りしめる。
「くっ、後で後悔されませんように……」
捨て台詞を吐いてから、配下の魔剣士に下がるように命じて、下がっていく。
「…あの騎士たちの所属と氏名の確認を。」
グレンは頷くと、隣にいるマルコに目をやった。マルコが駆けだしていく。
「それで、被害者は?」
「第三騎士団の銃兵隊の流れ弾や跳弾で8人重軽症者がでましたが、幸い死者はいません。」
銃撃を私の権限で取り下げさせ、バリケードの外で拘束しています、と小声で付け加える。、
「この後はどのように?」
「とりあえず、負傷者は一旦後退させました。二番隊にこの区画の住人を避難させています。じきに無人になります。それからは……」
互いに溜息をついた……化け物から目を放さずに。
たしかに、魔剣士たちの攻撃が終わった後も、ただ蹲っているだけで反抗の意思はないように見える。
しかし、付けられた傷は全て再生し、飛び散った血の痕だけが通りを汚していた。
つまるところ、有効な攻撃手段がないわけだ。
「あの化け物はどこからここへ?」
「出現したところ目撃した民間人の報告によると、大通りに面したアノ建物の地下から床を突き破って飛び出てきた、とのことです。その後はずっと蹲っていた、とも。」
化け物の左側にある床の抜けた建物を見る。よく見ると建物が上の方が斜めに斬れて崩れ落ちていた。
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その第三騎士団の分隊長は、大通りを挟んだ反対側の建物の屋上で分隊を控えさせていた。
「化け物退治を完遂できませんでしたね、アイリス様の強権で……」
「くそ、くそ、くそ、くそ、無抵抗な化け物を退治するだけの簡単なお仕事のはずが……」
「さっさと、アレクシアを聖地の施設にでも送っちまって、犯人役のシド・カゲノーをぶっ殺せばいいだろ、どうせ、いつも通り、教団の力でそうなるんだから……」
「残念だったわね。」
その瞬間、上から死体が2つ落ちてきた。
「お? ……!」
「こいつら、シド・カゲノーの見張り役の……」
「あっ……、あっ……!」
その隙にシド──シャドウは
「ひっ……! てめえ何しやがっ……!!」
分隊長が言いおわる直前、男の左腕が飛んだ。
「あ、あ、あああああああっっっ!!」
血が吹きでる左腕を押さえて、男が絶叫する。
「騎士団にこんなことしてただで済むと思うなよっ! てめえはもう終わりだ!!」
私は、ただゆっくりと血の道を歩きながら男に迫る。
「心配することはないわ。ここは防音結界に、光学迷彩が掛かっているの。」
だから、誰にも気付かれないわよ、と囁いた。
「それに、夜が明ければ、すべて……終わっているのだから。」
スライムスーツを変形させて、漆黒を纏う。男の首が宙を飛んだ。
血飛沫が舞う中で、シドが振り返る。その姿にベータは震えた。
そこにいたのは全身に漆黒をまとったシャドウ。
漆黒のボディースーツに漆黒のブーツ。その手には漆黒の刀を携えて、漆黒のロングコートが風になびく。
コートのフードを深く被り、顔の上半分は陰に隠れ下半分だけが光に当たる。素顔が覗くのは口元と暗闇の奥の濃い青紫色に輝く瞳だけだった。
ベータは凛々しくも美しいその姿に気絶しかけ、慌てて胸の谷間から自筆の『シャドウ様戦記』メモを取りだし、シュババババババッとスケッチする。
「その刹那、偉大なるシャドウ様は人知を超えた速さで愚劣な騎士団員の前に回り、高貴なお声で語るやいなや鮮烈な一撃を……」
余談だがベータの
と、そのとき、通りの向かいから響いた誰何の声が、ベータを現実に引き戻した。
「アルファか………悪魔憑きはアルファが対応するそうだ。私は地下へ向かってクズを処理してくる。…では行ってくる。ベータ後は任せた。」
「は、はい! いってらっしゃいませっ!!」
ベータは胸の谷間にメモを押し込んで、イプシロンにクリーニングを依頼すると後を追いかけた。
なお、シャドウ様当番の時には別の部屋を使っている。そのため、当然、私はそんなベータの生態など知らない。
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「かわいそうに痛いでしょ。」
「「何者だ!」」
突然、本当にいつのまにか、第一騎士団が包囲している化け物の直ぐ横に金髪で漆黒のコートを着た人物がいた。
アイリスとグレンが
「もう苦しむことはない…、もう悲しむこともない…。」
そう言いながら、青紫色に光りながら同色の魔力*1を化け物に流し始めた。それも膨大な量の。
「だからもう泣かないで…、あなたに安らかな生を…。」
青紫色の閃光が周囲を一色に染上げる。すると、翳した手の隙間から、化け物の輪郭が溶けていくのがアイリスには見えた。
そして、赤黒い魔力が弾き出されたように見えた後、閃光が消えた後には、金髪漆黒のコート姿の人物の手が少女が抱いて立っていた。
その姿が幻のようにボヤけていく。
「観客は観客らしく、舞台を眺めてるだけで満足していなさい。それが嫌なら自ら陰に立ち向かうことね。」
最後に一瞬だけ、漆黒のマスクをした顔からの視線がアイリスに向けられたようだったが…すぐにその姿は消えた。
「…何れにせよ、我らの邪魔をするな。」
何処からともなく声が響いた。
しばらく、みな無言で立っていた。
─巨大な
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「君は姉のようにはなれない。一緒に来てもらうよ。」
ゼノンは見下すように話しかけてくる。
アレクシアの手から柄だけとなった剣が落ち、その瞳から一筋の涙がこぼれた。
そのとき、
カツ、カツ、と。
ゼノンの背後から乾いた音がした。
カツ、カツ、カツ、と。
誰かが地下道を歩いてくる音が響いた。
カツ、カツ、カツ、カツ。
そして、音がとまったそこに……。
漆黒のロングコートを纏った人がいた。
全身に纏った漆黒、深く被ったフードに顔を隠すマスク。
その人物は悠然と歩みを進め、ゼノンから少し離れたところ──間合いの一歩外で止まった。
「誰だ、君は?」
「ディアボロス教団のクズに名乗る名はない。我らは陰に潜み、陰を狩る者。」
深く、低く、深淵から発せられたような、それでいてどこか甲高いところのある不思議な声だった。
「陰に潜み、陰を狩る者……?」
アレクシアは混乱していた。
「…なるほど、君が近年教団に噛みついている野良犬か、漆黒を纏いし者よ。」
ゼノンが鋭い眼光で漆黒の人を睨む。
「ミドガル王国を中心に拠点をいくつか潰していい気になっているようだが、君たちが潰した拠点に教団の主力はいなかった。ただ雑魚を狙っているだけの卑怯者だ。」
陰を狩る者、と名乗った人物は、どうやらディアボロス教団やゼノンと敵対しているようだった。それはアレクシアにとって朗報だ。しかし、この人物が味方だとも思えない。
「どいつを狩ろうと、どこで狩ろうと同じことだ。」
─ラウンズを3人狩ったことを知らないとか、コイツも所詮小物か─
「残念だが同じことにはならない。教団の主力は
剣先をその人物に向けてゼノンは続けた。
「君は今日、私の手によって狩られる運命にある。」
顔の横で剣を引き絞る。
「次期ラウンズ第12席ゼノン・グリフィ。君の命、ラウンズへの手柄とさせてもらおう!」
そう見得を切ると、強烈な踏み出しと共にアレクシアには見えない速さで剣を突き出した。
あぁ、その勢いと風圧にアレクシアは顔を背けた。
しかし、背けたすぐ目の前に漆黒の人が手を額に当てて立っていた。
「教団の主力はどこにいるんだ?」
まるで時間を止めて移動したかのように、突然そこにいた。振り返ったゼノンは慌てていた。
「くっ、このぉ!!」
ゼノンが再度切りかかるが、すでに再び漆黒の人は元の位置に戻っていた。
「なるほど、少し見縊っていたようだ。いくつも拠点を壊滅させてきただけのことはある。」
漆黒の人がその片刃の剣をゼノンに向けて構えた。
「来ないのか? 次期ラウンズ?」
「…っ! なめるなぁぁぁあっ!」
咆哮とともに剣を縦横無尽に薙ぐ、疾風の如く剣を突く、噴火の如く連撃を繰り出した。
その総てが効いてない。それを漆黒の人は捌いていく。
二合、四合、六合、十合、漆黒の人が片刃の少し反った特徴的な剣で、剣を弾く音だけが響いていた。剣の側面をつかって流し、摺り上げ、摺り落とし、時には剣を撃ち落とし、一度として正面から受けていない。
「くっ、ならば、見せてあげよう。これが! 次期! ラウンズ! の力だあぁ!!」
そう言いながら、再び剣を顔の横で構え引き絞る、そこに赤黒い魔力が全身から吹き出してきた。
アイリスお姉さまの魔力に匹敵する、いや凌駕する程の魔力が噴出して、周囲の床や壁にも罅が入っていく。
咆哮とともに、更に増した剣速で突きを繰り出した。
しかし、その剣を敢えて片刃の
「どうした? 次期ラウンズ? この程度で全力か?」
「くっ、なめるなぁ!」
剣を押して一歩下がると、魔力を込めて赤黒く輝きを纏った剣を凄まじい速さで連続して切りつけ始めた。はぁぁぁあぁぁぁっ、と気合の声が漏れている。
しかし、それを先ほどの焼き直しのように、ゼノンの剣は漆黒の人にかすりもしなかった。
五合、十合、二十合、四十合、シャドウが剣を捌く際の音だけが響いていた。
剣の側面をつかって流し、摺り上げ、摺り落とし、撃ち落とし、と捌ききっていた。
「アアアアアァァァァァ!!」
気合の咆哮が虚しく聞こえた。まるで玄人と素人の稽古だ。
アレクシアはその闘いを衝撃とともに見ていた。
いまだかつて、ゼノンがこのような姿をさらしたことがあっただろうか?
余裕の笑みも人格者の仮面も剝がれ落ちて、それでもなお、まるで届いていない。
アレクシアの知る最強は姉だった。その姉でも、今のゼノンを相手にこれほど圧倒できるとは思えなかった。
場違いなほど軽い剣の音が辺りに響く、それはまさしく稽古の音だった。
漆黒の刃と白刃が描く剣の軌跡、いつしかその稽古にアレクシアは見入っていた。
漆黒の刃に魅せられて、目が離せないでいた。
「なんなの、あの剣?」
これまで見たことのない動きをしていた。
事前の細かい動きが──拍子がない。動き始めがわからない、いつの間にか動いている、動き終わっている。
そして、灯りに煌めく漆黒の刃の光の軌跡から、離れて見ているアレクシアには、円を描いて動いていることがわかった。
なんて綺麗な剣の軌跡なのだろう。
その動きは剣の才だけによるものではない。その描く円弧の滑らかさとぶれの無さは、ただ研鑽により磨かれた剣、いや、もうあれは剣ではない別の何かだ。
アレクシアは、いつだって姉様と比べられて笑われてきた。
力も才能もない、持たざる者の剣、凡人の剣と…。それでも捨てきれなかった。
私は、この剣が…
─あなたの剣が好きよ─
いつかの姉さまの言葉、その意味がようやくわかった気がした。
アレクシアはこの剣が好きだ。剣を見ればその人の歩んできた道がわかる。この剣は自分の才に
もしかしたら、姉も、自分と同じ思いを描いたのだろうか。
その研鑽された剣が今、ゼノンという天才を圧倒していた。
漆黒の刃の反撃の斬撃が初めて振るわれ、それがゼノンの身体を袈裟斬りに斬り裂いた。
ゼノンは傷を押さえて下がり、膝をついた。
そして荒い息を吐きながら漆黒の人を睨みつけた。憤怒の形相のゼノンは、この現実を受け入れきれないでいた。
「貴様一体何者だ……! それだけの強さがありながら、なぜ正体を隠す!!」
漆黒の人ほどの強さがあれば、富も名誉も思うがまま、その強さも世界に知れ渡るだろう。
しかし、誰もこの剣を知らない。
たとえ顔を隠していたとしても、この剣を一度でも見れば、その剣筋を決して忘れないだろう。
しかしゼノンも、アレクシアも、これほどの剣を使う存在を今日初めて知った。
漆黒の人は、ふっと軽く笑うと厳かに告げた。
「我らは陰に潜み、陰を狩る者。我らはただ、それだけのためにある。」
「はぁっ……?、正気か、貴様っ!」
ゼノンと漆黒の人の視線がぶつかった。
陰を狩る者に……ディアボロス教団とか、いったい何なの?、
アレクシアは完全に蚊帳の外だった。なぜ彼らが闘っているのか、その理由も目的も何もわからない。
血、魔人、教団、ラウンズ、キーワードはいくつもあった。
その意味がアレクシアにはわからない。狂人の戯言だとしか思えなかった。
しかし、もし、もし戯言ではなかったとしたら。世界の裏側でアレクシアの知らない重大な何かが起きているのだとしたら……
「いいだろう……、貴様が本気だというのなら、私もそれに応えようじゃないか。」
ゼノンはそう言って左手で懐から赤い錠剤の入った瓶をを取り出した。
「これによって、人は人を超えた『覚醒者』となる。……常人が使えば、その圧倒的な力に、身体が耐えきれず、死に至るが…」
ゼノンは親指でコルクを飛ばすと、瓶を傾け錠剤を一気に口内に流し込んだ。口からこぼれた錠剤もあったが気にせず口内の錠剤をあおった。
そして、ゼノンのくぐもった絶叫とともに──赤黒い魔力が暴風となって吹き荒れた。
一瞬にしてゼノンの傷が治っていく。筋肉は膨張し服は弾け飛び、、瞳は充血し、毛細血管が浮き出る。圧倒的なまでの力の重圧に押しつぶされそうになる。
「覚醒者3rd。この力を制御できるものこそが選ばれし者!ラウンズの資格を得るのだ!」
そして、三度、剣を顔の横で構え引き絞る、その剣には先ほどの膨大な赤黒い魔力が込められていた。
「最強の力を、見せてやろう!」
咆哮とともに、石畳を砕きながら加速しつつこれまでにない速さで剣を突き出した。
その勢いにアレクシアは思わず目を瞑り手で目を隠していた。……慌てて手の間から覗き込んだ。
「醜いな」
─アルファ、予定変更だ。こいつは焼却する─
そう呟いた漆黒の人は、とうとう剣を使わず、足さばきと体勢だけでゼノンの剣を躱し始めていた。
「その程度で最強を語るな。…それは最強への冒涜だ!」
─直径10m以下でお願い。…イータからよ、上空10kmまで伸ばしてって─
鋭い踏み込みとともに手の平をゼノンの鳩尾に叩き込んだ。その衝撃にゼノンの身体が浮き、頭が下がった。そのままくるりと上体を下げながら半回転し、コートの裾がゼノンの視界を遮る、その裾もろとも後回し蹴りで撃ち抜いた。
─鉄山靠からの臥龍尾─
─善処する─
その勢いのまま回転して、のけぞり崩れ落ちたゼノンに向き直り……
「借り物の力で最強に至る道は、ない!」
踵落としを石畳に落ちた瓶に落とした。
同時に漆黒の人の魔力がこの日初めて高まった。これまでほとんどその魔力を使っていなかったのた。
その魔力は圧倒的に緻密だった。
その高まった魔力は青紫色の線となって空間に顕現した。
細い、細い、幾筋もの線がそこにあった。
まるで稲妻のように、血管のように、未知の文字と記号の
漆黒の人とゼノンを取り囲むように立体的で美しき光の軌跡が描かれていた。
「さあ自分の罪を数えろ! 貴様の終焉の時間だ。」
「なんだ、これは…、これが魔力なのか!? だが、こんな…個人の魔力でこんな…」
アレクシアの目の前に青紫色に輝く紋様の光の柱ができていた。
─この時、化け物が出てきた無人の地上の建物にも、同様に直径10mの光の柱ができていた─
「かつて、『核』という究極の力に挑んだ男がいた。その男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた。でも、それだけでは届かない高みがあった。」
漆黒を纏う者は、その身体も青紫色に光っていた。
「しかし、男は諦めなかった。だから、
徐々に高まっていく振動音。震えているのは、壁か、地面か、空間そのものか。そう総てが震えていた。
「『核』で蒸発しないためには、私が『核』になればいい!」
高まっていた振動音が、やがて聴力の限界に達したのか聞こえなくなる。しかし、光の柱を埋める青紫色の線は確かに鳴動していた。
「くっ、この狂人がぁぁぁ!!!」
ゼノンが赤黒い魔力を纏わせた剣を、青紫色に輝く漆黒を纏う者に横殴りに叩きつけた。
が、剣はなんの防御もしていない左腕に触れたところから粉微塵に砕け散った。
「ば、バカな……」
ゼノンが崩れ落ちた。
「真の最強を、その身に刻め。」
一歩左足を前に出すと、左手を前に、剣を構えた右手を手前に引き絞る。その刃に光が込められ青紫色の光の剣と化していく。
「これぞ我が最強。」
──アイ・アム──
光の剣に向かって、光の柱の中の光が収束していく。
──
アレクシアには、十条の剣光が全く同時に迸ったように見えた。
一瞬、音と光が消えた。
標的となったゼノンに光が一点に集中してから弾けた。光の奔流が生まれ、光の柱の中にあった壁も、天井も、何もかも埋め尽くすと、そのまま遥か夜空の彼方まで貫いていった。
夜空に向かって立つ青紫色の模様の
遥か高く成層圏──雲の彼方で光は弾け、王都が青紫の閃光に染まった、発生した衝撃波が丸く雨雲を吹き飛ばし、家屋を揺らし、大地を揺らして王都を叩き、その郊外まで走り抜け、遅れて轟音が響いて王都のすべてを震わせた。
後に残ったのは、雨雲が吹き飛ばされて見えた夜空と月と、そして王都の遥か上空に見える巨大な円形の雲──遠方からはマッシュルームのように見えた──だけだった。
陰の実力者になりたくて! 本編の第07話です。
ようやく対ゼノン戦に辿り着きました。
基本カゲマス準拠です。
今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、もう少し本編を進めます。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
シドと七陰の距離感がまったく違います。普段から七陰と一緒にいます。
なお、騎士団関係は本作での捏造です。
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
他にも色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。