陰の実力者になりたくて! 本編の第08.5話です。
閑話となります。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。
アレクシアも…
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
それは、私がミドガル学術学園の生徒であるシェリーをナンパしてカフェでお茶した翌日のこと。
レミーから、アレクシアを加えて行うことにした早朝の修行の時には、当分の間、シドと入れ代わりをするように提案があった。
アレクシアの面倒を最初はシドが見ろ! とのことだった。
─でもお姉ちゃんとは、ぼくが寝る!と言うのだから、入れ代わるタイミングがシビアになった─
というわけで、昨日の当番だったイプシロンと朝のチェックを終了したところで、寮の自室でレミーと入れ代わる。
そして、早朝の修行のために、アレクシアを迎えに行ったところ…少し機嫌が悪かった。
「…おはよう。」
「おはよう、ってどうして眼を合わせてくれないの?」
だって…と私を横眼で睨んでくる。
「昨日、学術学園の女の子をナンパしてたって…」
私は思わずアレクシアに抱きついていた。耳元で小声で囁く。
「…嫉妬してくれたんだ。なんか嬉しいかも。」
アレクシアも小声で返してくれた。
「それは…こ、恋人関係になったばかりなのに、他の女の子に声をかけるって…」
「うん、それは全面的に私が悪い。」
ごめんね、と謝った後続けて言った。
「あの時、アレクシアとお付き合いするってことに少しとまどっていて、人の良さそうな女の子に相談してしまったの。」
もちろん名前は伏せて…だよ、と続ける。
「そしたら、勇気を出して告白してきたんだから、ちゃんと向き合ってください、っていわれちゃった。」
「それから悩んでて…でも、なんか今わかった。」
ギュッと抱きしめてから囁いた。
「遅くなってごめんね、アレクシアのこと好きだよ。」
そうね、アレクシアの剣と同じくらい。
「…私も好きよ。そうね、シドの剣と同じくらい。」
そんな朝の一コマがあった。
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早朝の稽古は、寮に併設されている女性用の稽古場でのストレッチと柔軟体操から始めている。
もちろん、稽古着の下はズボンにしてもらっている。…実はズボンはアレクシアとお揃いだったりする。
クレアお姉さまも、今では180度開脚ができて前屈するとペッタリ──胸が邪魔をしているが──できる。
アレクシアはまだ始めたばかりなのだけれど、意外と身体は柔らかい方だった。これも剣のたゆまぬ努力の一つの結果だろう。手や足の可動域が広いのだ。
なので、適度な負荷──痛た気持ちいいくらいをかけて伸ばしてあげる。
ちょっときついわね…とこぼしているのを聞きながらも各種筋肉や関節を丁寧に伸ばしてあげる。
う~~ん、始めたころよりもかなり可動域が広くなっている。これなら、数か月もあれば180度開脚もできそうだ。
それから、王都でも有数なランドマークでもある大時計台目指してパルクール…をしたいところだが、まだアレクシアが馴れていないので、学園の敷地内を駆け廻ることにしている。
魔力の効率的な使い方と制御方法も一緒に教える。妹たち*1に教えるようになってから、教え方がうまくなった気がする。
…できれば氣も教えてあげたいなぁ。
クレアお姉さまが大時計台目指して疾走始めたのを見送ってから、学園内の建物を駆けあがっていく。
そこそこ高い建物も大きい講堂もあるし、そこそこ距離も離れているから魔剣士でパルクールの初心者にはちょうどいい。
魔力は最小に、それを圧縮して解放されるときの圧を体幹で受け止めて加速していく、それをときに魔力を廻らせながらコツを伝授していく。
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アレクシアは、剣の前にはとても素直だ。ある意味これまでの常識とは違う魔力の使い方であっても、先ずは受け入れてくれる。
もちろん、その後充分吟味しているようだが、この、先ずは受け入れてくれる、というのが嬉しかったりする。七陰やクレアお姉さまもそうだった。
アレクシアに教えるに当たって、対外的にこの魔力操作方法は、カゲノー家の秘伝の一つであり、古代鋙の勉強がてら教材としていた古い伝承から発見し現代に甦らせて、クレアお姉さまと一緒に修行してきた…ことになっている、一応。
こう言っておくと、あまり問題にならないしね、秘伝だし。
とはいえ、ガーデンで教えているものとは精度や強度が段違い──ガーデンの方法の最低ラインは適応者──であるので、表向けのカモフラージュとしては、この程度まではよかろう、となった。
これまでに比べると圧倒的なスピードとパワーを、極僅かな魔力を圧縮・解放することで実現する。その分段違いに緻密な魔力制御を必要とするのだが…
しかし、そこはアレクシアのことなので、一発ではできないものの、私が魔力を廻らせてコツを教えたりしながら試行錯誤すると、十数回程度で基礎の基礎くらいなら修得してくれる。
あとは、本人が反復練習して実践していくのを、ときに休憩を入れたり、ときに修正したり、ときに応用を見せてあげたり、 ときに氣を廻らせて疲労を取ってやったり、して教え導いていく。
恋人関係になって早朝訓練を一緒にするようになって、かれこれ一か月ほどだが、そろそろ、オーバードライブの修行に入れるかもしれない。ほんとうに修行には熱心なのだ。
誰なんでしょうね、『凡人の剣』なんて言い出した奴は。あのクズのゼノンの謀略の一環かな?
大方アイリス様との対立を煽るために『天才の剣』に対して『凡人の剣』と
私に言わせれば『天才の剣』と『秀才の剣』でしかない。努力した秀才が天才を破ることなんてザラにあることだ。
本人が感じている手応え以上に、周囲は畏怖の目で見ている。
特に護衛をしている紅の騎士団や、第一騎士団の騎士からは顕著だ。まぁ本人は気付いていないようだが。アイリス様だって今のアレクシアを見ればビックリしてくれることだろう。
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そろそろブシン祭の学園選抜トーナメントが始まる。今のアレクシアなら
とはいえ、アレクシアから『今年は見送るわ』と聞いている。逆に私は特待生であるので、参加する必要がある。
なので、組手の中に、学園選抜のルールでアレクシアと撃ち合ったりする時間を取ったりもしている。
もちろん、木剣を使って。で、アレクシアをボッコボコにするわけだが…。
一度護衛たちを巻き込んで現状のアレクシアの実力を把握させて置いた方がいいかもしれない、そう思い始めたところだ。クレアお姉さまとなら8:2〜9:1くらいで勝負になるだろう。
ブシン祭に向けて、ということで剣での修行となるわけだが、もともと内家戴天流剣術の塘路は、二八刀三六剣、〆て六四套路と剣の方が多いまである。
まぁ私が、当時の師匠だった
そうこうしているうちに、アレクシアとクレアお姉さまとの組手を終わらせて、整理体操をまできっちり行って、早朝稽古
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そう、早朝稽古の最後は、大浴場で汗と埃を落として磨き上げる時間だ。
最初の早朝稽古の後に、普通にクレアお姉さまにくっついて大浴場に向かうところを見咎められたのだ。部屋でシャワー浴びるのでは無いの?と。
そこでクレアお姉さまが一緒にお風呂に入って洗ってあげるの、と極当たり前のように言うもんだから、戸惑っているアレクシアを恥ずかしさ半分、照れ隠し半分で誘ったところ、頷いたのだ。頷いちゃったのだ。
かくして、アレクシアとも一緒にお風呂に入るようになって…私がクレアお姉さまに洗われて、クレアお姉さまを私が洗ってあげていたのを見て、私も…となるのは至極当然のことだった。
まぁ、私がアレクシアを洗ってあげるのは問題無かった。問題は私を洗うことだったが、クレアお姉さまから、交互に洗いましょう、と譲歩されてあっさり決まった。いや交互が私の髪と身体のことだとは思わなかったけれど…
アレクシアもスキンシップに飢えていたのかもしれない。偶にクレアお姉さまに洗ってもらって嬉しそうにしている。
朝風呂は格別よね。ゆっくりできないのが欠点だけど。
パルクールに慣れていないため、凝ったアレクシアの身体を湯舟で軽くもみほぐしてあげる。
「シドとクレアさんが強いわけよね。」
「あら、アレクシアさんも充分強いわよ」
意外なことにクレアお姉さまはアレクシアに優しい。偶に髪や身体を洗ってあげてるし、その…凄いシスコンだから、妹を取られる!…とかあると思うじゃない。
なんと、アレクシアは妹枠に入ったらしい。
お風呂から上がって、クレアお姉さまとアレクシアの髪を魔力でさっさと乾かしてあげる。
これ、実は結構高度な技術だったらしい。
実はアレクシアの魔力制御の目標の一つ、とのことだ。
うんうん、今日もアレクシアの白銀の髪に“天使の輪”が輝いている。
「身体の柔らかさを追求するとこんなこともできるようになるわよ。」
そう言って、いきなり私の額を斜め上から勢いよくはたいてきた。
えっ! といきなりの蛮行に眼を丸くしたアレクシアを尻目に、首、背中、腰、足にある関節を使って力を上手く吸収していく。まるで全身が一本のバネのように力を吸収する、これを化勁とも言う。
僅かに身体を後ろに傾けるだけで、その場に立ち続ける。
「こうやって、関節で力を吸収することもできるようになるわ。」
実は、クレアお姉さまもこれはできる……結構難しい技のはずなのだけれど。
内家戴天流では、これに氣を使って、衝撃を受け流したり、相手に返すまでできるようになる。逆に、衝撃を関節で加速させて寸勁を放つことも可能となる。
まあ、“ボク”が習った基本の一つではあるが…。
「いきなり叩かないでください。シドがかわいそうです。」
アレクシア、優しい。
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ちなみに、放課後のデートは現在も継続している。
もちろん、あの頃にように毎日外出をしているわけではない、誘拐事件以降はアレクシアの警備の都合もあるので。
平日は、ほぼ毎日学園の訓練所を借りてアレクシアと試合という名の実践的修行を行っている。その後、外にデートに行くのは、週に1~2回程度に落ち着いた。
それ以外の日は、カフェでお茶したり、お互いの部屋でお茶…はほぼ毎日してるわね。
そして、レミーも協力的だ、なにか怪しいくらいに。とはいえ、対アレクシアでいうと80%私で、レミー率は20%程度だ。対クレアお姉さまになると、レミー率80%になるというのに。
レミーもアレクシアは気に入っているって言っていたし、そこんところは深く同調するようにしている。
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「こうして誰かとコーヒーを一緒に飲むのも悪くないわね。」
放課後、いつものように試合ったあと、今日は学園のカフェテラスでコーヒータイムとなった。
「さすがの美味しさね。このカフェのブレンドコーヒー。ミツゴシのスペシャルブレンドらしいわよ」
「…そうね。」
「ほんといい香り。コーヒーはブラックで飲むのが最高ね。クリームや砂糖を入れすぎるのはやっぱり邪道よ。」
「だから、ごめんなさい。私、コーヒーはブラックでは飲めなくて…砂糖とミルク派なの。」
「おこちゃまなんだから。」
ちょっと得意そうだ。
「…苦いのが嫌いなわけじゃないもん。そうそう、今度カフェラテっていうのがでるんだって。それなら砂糖なしでも飲めるんだけど…」
「カフェラテ?」
「うん。エスプレッソにスチームミルクを混ぜてあるの。」
「エスプレッソ? スチームミルク??」
「…今度のデートの時に、一緒に飲みに行きましょう。新しいコーヒーのチェーン店ができるんだって。」
ジト眼で私を見るアレクシア、かわいい。
「…ねぇあなた。私に何か隠し事してない?」
「それは…隠し事してない、なんてことはないけどさ…」
「…それもそうね。でも、なんだか不思議よね。シドと出会ってそんなに経っていないはずなのに、こんなに自分の素を出せる相手になるなんて。」
「最初の出会いは酷かったもんね。完全に喧嘩腰だったし。」
眼を合わせて二人して笑った。
まぁレミーの時だったんだけど、同調したら、あ、こりゃダメだ。私でも
「そんなシドと、まさかこんな関係になるとは思わなくて…おかしいわね。」
「人生色々と、こんなはずじゃなかったことばっかりよ。」
「人生色々…って、シド、あなたまだ15歳よね?」
「私的には、濃い15年だったんだよ。アレクシアだって、私よりも濃い15年を送ってるはずよ。」
「そういわれると…そうね。」
ほら! でも窮屈だったのよ。猫被ってたもんね。あれも処世術よ。人気の王女様だもんね。でしょでしょ?
などなど
「ふぅっ、姉さま以外で気を遣わずに話せる人はなかなかいないわね。そういう意味でもシドは特別な人なんだから。」
「…ほんとに、気を使わなくなったわね。でも、そんなアレクシアが好きよ。」
ちょっと照れるアレクシア、かわいい。
「…私ね、シドと一緒にいると、心が安らぐっていうか…そう、固い殻を脱いで少しだけ素直になれる気がするの。」
「それは嬉しい褒め言葉ね。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ねえ、シド。」
「なに、お姉ちゃん?」
それは、クレアが騎士団の体験実習を終えて帰ってきたときのこと。昼間の
一週間振りにお姉ちゃんと一緒のベットでテンションの上がっているシド──レミーを抱きしめながら、クレアが耳元で小声で聞いた。
「あなたとアレクシア様とのことなのだけれど…」
「…その件は、ぼくも意外だったというか…そういう芽はあったというか…」
「…お付き合いしているの?」
「…いつもぼくに聞いてくれてありがとう。アレクシアとの件なんだけど、ここ一週間については付き合っている『ふり』をしていた、が正解かな。」
「『ふり』、ねえ。」
「でもねぇ、私ってアレクシアみたいなタイプ──斜に構えていても実は素直な娘に弱いんだよね。ぼくにとっても好感度は高い方だけど…」
「そう…」
クレアはそっとキスをした。
「ん……お姉ちゃん大好き。」
「私もよ……それで、どうなの?」
「私はかなり絆されてきてるよ。大体この2か月半くらいほぼ毎日試合に来ていて、半分はぼくとはいえ、私もそれに付き合ってあげる程度には。」
それに…私ってかなりの男嫌いなんだよね…と独り鋙ちた。
「だから、仮にアレクシアから告白されたら、これからもよろしくね、って普通にお付き合いしそう。」
「あらあら、うふふん。で、シドはそれでいいの?」
クレアの紅い瞳がシドの紅い瞳と至近距離で向き合った。
「どちらかというと、私がお付き合いしてくれた方がぼくは助かる、かな。」
シド──レミーからクレアにキスをした。
「ぼくも男は苦手だし、お姉ちゃんの次くらいには好きかな。」
私の次くらい? うん、お姉ちゃんの次くらい。じゃあ妹枠に入れてあげましょう。お願いお姉ちゃん。
二人して笑ってしまった。
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それから大体一ヶ月後、寮のベットの上で事情を聞くクレアがいた。
「結局、シドはアレクシアとお付き合いして、今も恋人を続けているのね。」
「うん、ぼくも結構驚いてる。なんていうか、素直になったアレクシアって破壊力ある。」
ぼくでもドキドキすることがあるもん。
「…たしかに『妹枠』としてはかわいい娘よね。」
「だよねー。それに何気にタッチしてくるんだよね。積極的にスキンシップとってくるタイプとは思わなかったけど。」
「あら、そう? よく手を繋いでいるじゃない。それにお風呂でも…」
そう言って、ギュッと抱きしめるクレアだった。
「もう癖になったのかも。左手でアレクシアを握っていることが多くて。」
「
そういえばそうかも。ちゃんと分けてくれたのね。お姉ちゃん… もうシドったら…
「ふぅっ。…このままお付き合い続けるの?」
「ふぅーっ。『女神の試練』でも超えれば事情は変わるかなぁ…」
この会話がフラグになったのかもしれない、と後日レミーは述懐していた。
遅くなりましたが、今回は閑話となります。
基本カゲマス準拠です。今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、もう少し本編を進めます。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアも…性癖全開です。
髪を魔力で乾かすとかは本作の捏造です。
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
他にも色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。