陰の実力者…?   作:ponpon3

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 陰の実力者になりたくて! 本編の第11話です。

 聖地編です。

 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアとの関係も…

 気に入らない方は、そっ閉じ願います。


 ──これはそんな「if」の物語──


陰の実力者…? 第11話「女神の試練」上

 

 

 私は、自分にとって大切なものと、そうでないものを明確に分けるように心がけている……つもりだ。

 

 そして、大切でないものについては、大抵のものがどうでもいい……にしたいが実行するのは難しい、“ボク”をリスペクトする上で困難なことの一つでもある。

 

 前世の“ボク”にはどうでもよくて、私にとっては大切なもので好きなものの一つに入浴がある。それに増して温泉は好きだ。

 

 なんと、前世の“ボク”は、ある期間、まったく全く風呂に入らなかった……という記録があったのだ。

 

 私としてはあり得ない選択であるが、当時の“ボク”は、風呂に入る時間が無駄に思えてしょうがなかった…ようだ。

 

 とはいえ普通にモブ?*1として人の生活もあるわけで、毎日3分間のシャワーは浴びていたのが救いだが、お風呂に浸かるという時間の無駄を排除し、空いた時間を修行に当てたかった……らしいのだ、おい、ちょっと待て。

 

 一応言い訳はあるようで、ちょうどその頃“ボク”は人という種としての限界にぶつかっており、要するに余裕がなかった……そうだ。

 

 なんでも、右ストレートで“核”を弾き返す構想を真面目に考えていた……ときのことであった。

 

 しかし、いろいろあって、結局“ボク”は自分の頭がおかしかったことに気付き、お風呂に入る習慣に戻ったわけだが、そのきっかけが温泉だった。……まぁ気付いただけましだと思おう。

 

 湯に浸かるという行為は心に余裕を生む。余裕は修行のクオリティに直結し、魔力やオーラを探すという柔軟な発想を生んだ、とのこと……つまり、不思議パワーを深く探求する原因の一つになったらしい。

 

 

 う~~ん、現世で女の子であるお風呂大好きな私にとっては、とっても複雑な記憶──記録であった。

 …というか、もはや独りでお風呂に入れなくて、クレアお姉さまや七陰と一緒が当たり前になっている私には、特に…

 

 

 なにはともあれ、ここリンドブルムは温泉の名地であり、楽しみにしていたことの一つだ。

 

 私は温泉は朝入るのが好きだ。もちろん夜も入るが、朝入る方がもっと好きだ。理由は人が少ないからゆっくりできるのだ。

 

 なので、先ずは、寝起きで少しぐずる、可愛いアレクシアを(なだ)めて起こして、ホテル街に作られた訓練施設を借りて、早朝の修行を行った。

 

 恋人関係になってからは、毎日の早朝の日課として、柔軟・ストレッチ・パルクール・剣の稽古を行っている。

 

 アレクシアに、魔力の効率の良い使い方と制御方法を教えることに七陰+レミー(みんな)で決めたので、クレアお姉さまと一緒に教えているのだ。…その後に一緒にお風呂入るまでがセットなのだけれども。

 

 いつの間にか、クレアお姉さまとも仲良くなっていて、私の髪と身体は、お姉さまとアレクシアが分担(・・)して交互(・・)に洗ってくれる。なお、アレクシアとお姉さまを洗うのは私の役目になっている。

 

 今回リンドブルムに来賓兼監査としてやってきたアレクシアは、昨日の前夜祭で、聖教教会主催のパーティにも来賓として出席していたため、それなりにストレスが溜まっていたようだ。

 

 夜、帰ってきた後に、一緒に温泉に入って髪と肢体を磨き上げて、さらにサービスとしてマッサージと氣を使ったケアもしてあげた。それをベットでも続行して、最後に抱きしめて全身から氣と魔力を巡らせながら、ぐっすりと一緒に眠ったアレクシアに、疲労の色は見えなかった。

 

 というか、ちょっと碧く輝いている。アレクシア自身の氣も昂っているようだ。ちょっとやり過ぎたかな……。

 ─まるで、ちょっとやり過ぎたときのガンマみたいに氣が少し漏れ光っている─

 

 今日は午前中に聖教の監査で大司教ドレイクとの会合があると言っていたので、それまでに鎮めておかないとまずいかもしれない…。

 

 ──そういえば、ドレイク大司教殺されたんだっけ、教団の尻尾切りにあって。それを上手く利用して、聖教と教団を切り離せないものか…。とはいえ、その前にアレクシアを鎮めないと…

 

 

 早朝のアレクシアとの稽古は、これまでになく有意義なものとなった。

 

 

 なんとアレクシアが木剣で斬鉄をできたのだ。確実に氣と魔力が上手に合一されて木剣に載せられていた。

 

 そもそも、稽古の最後に、これまでの魔力制御の修行の成果を試そうということで、今の溢れる力を木剣に篭めて、と、物は試しと打ち込み用に杭に着けられていた鉄製の防具を斬ってもらったのだ。大丈夫!今ならできる!と褒めておだて上げながら。

 

 結果、袈裟斬りで斜めに走った斬線に沿って、杭の木と鉄の鎧を斬り落としたのだ。

 

 これには斬った本人も、護衛をしていた紅の騎士団や第一騎士団の面々も呆気に取られていた。

 

 ね、こんなこと、簡単にできるでしょう? と隣の鎧を地面に墜ちる前に斬撃三つで四分割*2してあげたら、怒られたけどさ。

 

 でも、もっと早く教えなさいよ! と前向きなところは好きだなぁ。

 

 で、稽古の後に宿に戻って、朝の温泉だ。

 

 とてもウキウキしていたら、そんなに一緒に温泉に入りたかったの?と赤面しながら聞かれてしまった。

 

 ここで、実は朝の温泉が楽しみなんです、なんていわず、そうだよ~と抱きついて接吻(チュウ)してしまうくらいには浮かれていたようだ。

 

 …も、もう人に見られたらどうするのよ。大丈夫私たちで貸し切りだよ! …なんでわかるのよ? 気配ないし。気配って…? 今のアレクシアなら感じるでしょう? えっ、あれっ、確かに感じないことを感じている? ほらね。

 

 わいわいやり取りしながら、露天風呂となってる温泉に向かう。源泉掛け流しだとか。

 

「…ホントに二人だけね。」

 

 昨日の夜の、星空や夜景を見ながらも良かったけど、やっぱり朝の空いた露天の温泉は良いものだ。少し高くなった朝日を受けて輝く白を基調とした聖都を一望できるのもいい。

 

 互いに汗とホコリを流し合って、髪も互いに洗った後にタオルで巻いてあげる。

 

 少しだけ擦り傷がついているところがあったので、こっそり魔力で癒やしておいた。

 

 そして、緑色に透き通った温泉に入って並んで座る。手はもちろん恋人繋ぎだ。

 

 恋人と二人きりで、早朝の温泉を満喫している──思わず笑顔が溢れてしまうくらいには、心地良かった。

 

「今日の午前中は、聖教の監査なのよね? その後はドレスに着替えて『女神の試練』の来賓…だっけ?」

 

「そうよ。…あなたを一人にするのは悪いけど。」

 

「さすがにアレクシアの、こ、恋人とはいえ、一介の男爵令嬢に来賓席はキツイよ、ごめんね。ローズ会長も一緒なんだっけ?」

 

 やはり自分から恋人というのは照れてしまう。

 

「ええ、そうよ。……でもローズ先輩って、あんな性格していたのね。ちょっと驚きよ。」

 

「なぜか、とっても祝福してくれるよね。」

 

 そこで、一瞬左手を強く握られた。

 

「…私と違って、オリアナ王国の王位継承権を持っているから、政略結婚で王配を決めることになるのでしょうね…」

 

 

 その場を温泉の流れる音だけが支配した。

 

 

 教団のラウンズの一人(第9席)、モードレットの暗躍もあって、もっと凄いことになっているのだけれど、そんなこと、もっと言えないしなぁ…。

 

 アルファたちが楽しく暗躍しているから、マシなことにはなると思うけど、その過程まではね…

 

 私も一瞬左手に力を入れて握ったあと、指を動かしてアレクシアの指と絡め始めた。

 

「私は、アレクシアの恋人になって、こうやって一緒にいられることは、とても幸運でうれしいことだと思っているよ。」

 

「…ありがとう。 私もよ…

 

 真っ赤な顔で短く答えてくれた。

 

「うふふん。」

 

 恋人繋ぎしている互いの指の先を合わせてみたり、押し合ってみたり、周りをなぞってみたり、絡めたり、指の付け根をさわさわしてみたり。

 

 町を見下ろしながら、左手に意識を向ける。

 

 アレクシアもぎこちなく指を合わせて動かしてくる。

 

 

 なにかとても初々しい恋人らしいことをしている気がする。

 

 

 いや、アルファやガンマたちと、こういうやりとりをしないわけではないのだけれど、なんていうか重ねた年月の差が……。後、実年齢バレた後からは微妙にお姉さんしてくるっていうか……

 

 他の女のことを考えたのがバレたのか、手の甲に爪をたてられてしまった。昨日切って磨いてあげたから痛くはないけれど…

 

「今別の(ひと)のこと考えてたでしょ…」

 

 眼もやや鋭くなって、瞳を覗き込まれていた。

 

「…それに、なんか手慣れているのよねぇ?」

 

 

「ごめんなさい。」

 

 

 頭を下げて平謝りするしかない。嘘をつきたくない以上謝るしかない。今後は気を付けよう。

 

「もぅ、過去の(ひと)のことは聞かないけど、私と居るときは、私のことだけ見て欲しいの。

 

 すいません、現在進行形です……言えないけど。

 

 今日は素直なのね、と呟きながら、よしよし、と頭を撫でてくれた。

 

 …このことはレミーと深く同調しておこう…

 

 思わず、アレクシアを抱きしめていた。そして耳元で囁いた。

 

 

「いつか…アレクシアの専属騎士になるから……そうなったら、いつでも一緒だよ。」

 

 

 七陰もレミーもアレクシアとのことを基本的に(・・・・)応援してくれている。

 

 多分、私の男嫌いの面もあるし、レミーには(シド)の男避けの面もあるだろう。七陰にもミドガル王国との繋がりを歓迎する面もあるし、教団から王族の血──英雄の血を守るという面もあるだろう。

 

 それでも、アレクシアとこの数か月一緒にいて、いろいろあったけれど一緒に築いてきた関係だ。

 

 いずれ、レミーのことも、シャドウガーデンのことも話せるといいな、そう思っている。アレクシアなら…、それは期待しすぎだろうか?

 

 

 でも、アレクシアも、そうね、と囁き返してくれた、抱き返してくれた。

 

 

 アレクシアの素肌の感触と、溢れる氣を感じ取りながら、互いの胸の鼓動を感じていた。凄くドキドキしている。

 

 

 …そういえば、アレクシアの氣を鎮めなくては。

 

 ねぇアレクシア、なにシド、ちょっとだけ擽ったいけど我慢してくれる? …ゴクリ、いいわよ…

 

 …なにか勘違いしているようだが、私の氣を高めてアレクシアにちょっとだけ蓋をする。

 

 きゃぁ、と可愛い悲鳴をあげるアレクシアを抱きしめて抑える。

 

「なに、今の……。身体全部を一気に抱きしめられた感じ…?」

 

「アレクシアは今日凄く調子が良かったでしょう? アレクシアの氣が昂っていたの。」

 

()高ぶる(・・・)?」

 

「違う、()昂る(・・)。…詳しくは後日教えてあげる。それを少しだけ蓋をしたの。」

 

()をする?」

 

 う~ん、イメージの問題だからなぁ…。身体を放してから、赤い瞳に私の紅い瞳を合わせて話す。

 

「今日木剣で斬鉄できたでしょう? あれって魔力制御だけ(・・)では難しいことなの。実は氣を併用していたの。」

 

 アレクシアは頓珍漢なことを言われたように首を傾げた。

 

「今は、それに私が蓋をした、とでも思っておいて。いずれ自分で制御できるようにしてあげるから。」

 

 ちょっと眼を逸らしてから告げる。

 

「その……実は朝の訓練の時、アレクシア少し光ってたんだ。」

 

 アレクシアは眼をパッチリ見開いた。

 

「光っていた?」

 

「うん、こう身体の輪郭が光っていて、後光がさすようなイメージ。」

 

「…そんなの自覚して無かったわよ。」

 

「ちょっと氣を巡らせて、昨日のストレスを発散してあげようとした、だけど…。なんか私の氣と共鳴したみたいで、昂ってしまったの。」

 

「…シドのせいじゃない。確かに身体は軽かったわ。」

 

 改めて瞳を合わせてから言った。

 

「まぁそんな不思議な力、とでも思っておいて。」

 

 しばし、見つめ合う。

 

 後日教えてくれるのね? うん、王都に戻ってからかな。…そう、信じるわ。そう囁き合った。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 その後、髪を乾かして朝食を食べて、身繕いして騎士服を着たアレクシアをホテルの出口まで見送った。

 

 その後、部屋で氣と魔力を巡らせながら作戦(プラン)に眼を通していると、アレクシアの氣が近付いてきたのがわかったので、アイテムボックスに直して、聖典を手にした。

 

 すると、帰ってきて二人きりになるなり、アレクシアは地団駄を踏んで怒り出した。

 

「あのハゲ! 少しは喪に服してみせたらどうなのよっ!!」

 

 大変なお怒りようである。

 

「だいたい、監査の受け入れを中止するとは、どういうことよ!?」

 

 紅茶を入れてから、ソファーに一緒に座って、手を繋いて話を聞く姿勢になった。

 

 アレクシアは堰を切ったように喋りだした。

 

 大司教ドレイク猊下が聖堂で殺害されていたことが判明した、という説明がことの発端だった。

 

 そして、大司教代理となったハゲ──ネルソン司教が頑なに事件の調査を拒んできた、とのことだ。

 

 なんでも、監査対象が死亡したのだからこの話は終わりだ、と、ネルソンが寝とぼけたことをぬかしたそうだ。

 

 対象が殺されたんだから、さらに調査の必要性が増しただろ、このボケ、とオブラートに包んで言ったのだが、ネルソンは調査するなら再度許可を取れの一点張りだった。

 

 ハゲが言うには、

 

「どうもこうも……王国の皆様がお目当てにされていた大司教猊下はご覧の通りのご不幸に見舞われました。我々教会は、このような暴挙を働いた下手人を一刻も早く捕えねばなりません。」

 

「また『女神の試練』も滞りなく進めねばならないとあれば姫様方の道楽に……、おっと失礼。とにかく、これまで通り教会のことは教会にお任せあれ!」

 

「国王陛下には私の方から親書したためますゆえ、アレクシア姫におかれましては、ごゆるりと『女神の試練』をお楽しみいただけますよう……。」

 

 よく切れなかったね、よしよし、と頭を撫でてあげた。

 

「王都に戻ってお父様を説得して、再度紅の騎士団に監査の許可を出させる…、王都との往復だけで何日かかると思ってるのよ! その間に重要な証拠は全て消されてるに決まってる!」

 

 …そうなのだろう。そう考えるとシャドウ・ゲートって凄い(小並感)。

 

「このまま監査を強行して、王国と聖教の関係を悪化させるわけにもいかないし…。ここで無理を通せば周辺の国々から圧力を受けることになりかねないし。」

 

 俯いてしまったアレクシアを抱きよせて、顔を胸に埋めて、本格的によしよししてあげる。

 

「監査を強行して、民衆の支持を失うわけにもいかないし…。聖教って味方にすると有利だけど、敵にすると厄介極まりないわ…」

 

 だから、聖教とディアボロス教団を切り離す方向にシャドウガーデンは舵を切っているのだ…

 

「露骨にあやしいハゲがいるっていうのに…」

 

 怒りにより、再び昂ってしまったアレクシアの氣をなだめながら、もう一度蓋をするのだった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「かつて、女神ベアートリクスは、魔人ディアボロスを退けるため、英雄オリヴィエに力を授けました。」

 

 闘技場の祭壇の上で、大司教代理が開催の言葉を述べている。

 

「オリヴィエはディアボロスと果敢に戦い、消えようとした左腕を聖域に封じ込めようとしたと言われています。」

 

 きらんと、そのハゲを輝かせながら。

 

「そして今も、オリヴィエと聖戦を戦い抜いた古代の戦士たちが聖域の扉の向こうであなた方を待っているのです!」

 

 ウラァアアー!!!!!

 

 挑戦者たちは雄叫びをあげた。

 

「彼らの望むものはみなさんもお分かりでしょう。すなわち、その正しき道を──」

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ほんとに気に入らないわね……このハゲ──大司教代理ジャック・ネルソン。

 

 アレクシアはこころの中でそう呟いた。

 

 彼女は『女神の試練』の開幕セレモニーが始まるのを来賓席から眺めていた。 

 

 来賓質で最前列の席で近くに座っているのは、作家のナツメ、アレクシア、ローズ会長。

 

 後列にはまだ多くの来賓がいるが、メインはこの三人だ。

 

 綺麗どころで客を集めようとする思惑が透けて見えるが、それはまぁいいだろう。

 

 アレクシアが気に入らない点は二つある。

 

 まず一つ目。

 

 現在祭壇の中心で偉そうに挨拶している大司教代理のネルソンそのものが気に入らない。

 

 あの後と、シドに慰められて気を立て直してきたものの……思い出すと顔が赤くなった気がした。

 

 もしもシドがいなかったら、今頃切れていたのでないだろうか、

 

 ほんとに、このハゲ、少しは喪に服してみせたらどうなのよ!

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「「「「「ナツメせんせぇー!!!」」」」」

 

「「「「「応援してまぁぁぁすー!!!」」」」」

 

「ぁ、あは~!」

 

 気に入らないと言えば

 

 アレクシアはため息をついて左隣に座るナツメ先生とやらを横目で見る。

 

 氣いらない者

 

 その二つ目が、このナツメ先生だ。

 

「応援、ありがとうございまぁ~す!」

 

 ナツメ・カフカ、今人気の作家だ……

 

 千年に一人の天才小説家だが何だが知らないが、アレクシアは今日まで彼女の名前すら知らなか……

 

 いや、嘘は駄目ね。名前は知っているし、恋愛物は読んでいる。

 

 そもそもアレクシアが文学にあまり興味を持たないということもあったが、今では乙女の嗜みとして恋愛物──特にナツメ先生の書いた『マーリア様が見てる』『アダチーとシーマムラ』『ありおと』『わたなれ』『天才王女と転生令嬢の魔力革命』シリーズについては、かなり読み込んでしまった。

 

 とはいえ、この間のサイン会でもニアミスしていたが、直接見たことは無かったのだ。

 

 それが…

 

 卒のない立ち振る舞い、新人らしからぬ貫禄、いかにもうさんくさい、これは嫉妬ではない。

 

 あえて言うなら同族嫌悪だ。

 

 アレクシアも民衆の前では完璧に振る舞う。己の内面を押し殺し完璧な王女を演じ生きてきた。

 

 上に立つものは大なり小なりその役を演じているが、己を殺して完璧に演じる人は少ない。

 

「ぁ、あは~!」

 

 …うっさんくさ。こういうやつほど中身はドス黒いって相場は決まってるのよ

 

「っ、えへへっ!」

 

 身を乗り出すナツメに合わせて、その豊満な胸がたゆんと揺れた。

 

 オォォー!!!

 

 歓声が一段と高く上がった。

 

 …ッ!!! 一瞬自分の胸と見比べてしまい、胸の下で手を組んだ。

 

「アレクシア王女、ばんざーい!」

 

 大丈夫、シドは胸のサイズを気にするような娘ではないわ。

 

「みぃーなさぁーん!」

 

 身を乗り出して手を振り始めたナツメの、その豊満な胸がたゆんたゆんと揺れていた。

 

「ハッ……!!」

 

「いっしょに応援、しましょうねぇー?」

 

 ワァァァー!

 

 ひときわ大きい歓声があがった。

 

 その瞬間、アレクシアは見た。ナツメが片頬を吊り上げて、あざ笑うのを。

 

 フッ!

 

 ……ッ!! プチッ、とアレクシアの心の中で何かが切れる音がした。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ベータは小説家ナツメを演じながら心の中で囁いた。

 

 …気に入らない

 

 アレクシア・ミドガル

 

 この女はシャドウ様戦記完全版にふさわしくない。

 

 王女で剣友という立場を利用して、シャドウ様に近づいた悪い虫。

 

 気色悪い猫撫で声で民衆に媚び、胡散臭い微笑みで手を振り、理想の王女を振る舞うこの女はいかにも胡散臭い。

 

 能力も美しさもシャドウ様への思いもすべてが不足しているというのに…

 

 そういう役割は銀髪で濃い青目で泣きぼくろの可愛いエルフこそがふさわしいのよ!

 

 これは嫉妬ではない!!

 

 王女誘拐事件でシャドウ様がこの女を救い出したのを見ていたときも、ベータははらわたが煮えくり返る思いだった。

 

 その役は私が……ではなく、そう、その……こんな安っぽい女がシャドウ様のお手を煩わせたという事実に怒りを抱いたのだ!!

 

 ベータはその怒りを収めるため、シャドウ様に救われる役を、銀髪濃い青目泣きぼくろの可愛いエルフに書き換えて、その場面だけを何度も何度も読み返し夜ふかしした。

 

 こういうやつに限って、裏側はどす黒いに決まっている!

 

 もちろん、こんな安っぽい女とシャドウ様が本気で恋人関係を結んだわけない──

 

 その瞬間、ベータの右足に激痛が走った。ぐっ!と我慢する。

 

 うぅぅぅ……。

 

 悲鳴をこらえて見ると、そこにはベータの右足を踏んづけるアレクシアのヒールがあった。

 

 プチッ、と心の中で何かが切れそうになるのを押さえてベータは冷静に言う。

 

「ア、アレクシア様……? 足が……」

 

 そして謝りもせずに、あろうことか笑いやがった。

 

「どうか、したのかしら?」

 

 グリグリと、アレクシアの足が執拗にベータの足を踏み続ける。

 

「あ、あし……がぁ!」

 

 こ、この……、こんのクソ女がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!

 

 とブチギレそうになるのを、ベータは敬愛する主と「シャドウガーデン」への忠誠心で必死に耐えた。

 

 

 

 なお、隣では、ローズ王女が、うふふ…と笑いながら幸せそうな顔で微笑んでいた。彼女はここのところずっとこの調子だった。

 

 

 

 

*1
─いまだによく理解できない概念─

*2
─袈裟斬り上げで浮かせたあと十字に斬った─





 陰の実力者になりたくて! 本編の第11話です。

 聖地編です。

 基本カゲマス準拠です。今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、もう少し本編を進めます。

 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアとの関係も…性癖全開です。

 ナツメ先生の恋愛小説(笑)…という名を借りた百合小説は本作での捏造です。


 この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。

 他にも色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。
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