陰の実力者になりたくて! 本編の第12話です。
聖地編です。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアとの関係も…
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
「機は満ちた! 女神ベアートリクスよ!」
ネルソン大司教代理は、両手を広げ挙げながら、足元のスイッチを右足のつま先で踏んだ。
「我が祈りに応え、ここに集いし戦士たちに試練を授けたまえ!!!」
紅い正三角形を二つ上下逆にして重ね、それを囲むように円形の紅い色の魔法陣らしきものが闘技場の地面に現れた。その周囲に虹色の魔力が走り、天に向かって流れだした。
「これより、『女神の試練』を開催する!!!!!」
ウラァアアー!!!!!
『女神の試練』に挑む戦士たちが勝ち鬨の声をあげた!!
ワァァァァァァーーーーーー!!!!!
観客も大歓声で応えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、一般の観客席に座って闘技場を見ていた。
そして、いよいよメインイベントの『女神の試練』が始まった。
豪華な明かりが会場を灯し、競技場の地面から古代文字が浮かび上がった。
古代文字は白い光を放ちながらドーム状に展開し、歓声のボルテージが上がった。
挑戦者がドーム状の空間に入ると聖域がふさわしい戦士を選び、一度戦いが始まれば、どちらかが戦闘不能になるまで外部からの干渉を受け付けない。
私は観客席からイベントをぼんやりと眺めていた。
元々のプランでは、このイベントが終了したあとに、私の魔力を使って聖域に干渉する予定だったが…
「一番手は、オリアナ王国からの挑戦者、トップバッテリオスッ!
そうこうしているうちに、1人目の挑戦者が紹介されてドーム状の空間に入る。何でも騎士団の猛者らしい。
「知ってるか? 去年は死人も出たんだぜ?」
「死人だ?? どうして10万ゼニーも払ってそんなもんに参加するんだよ……」
「なんと、古代の戦士に勝てば記念のメダルがもらえるのさ、それさえありゃあ、どこの国のどんな騎士団でも雇ってもらえること間違いなし!」
「ひゅーっ、そいつはすごい!」
なるほど、お手本のような解説をありがとう。女神の試練をクリアすればとても名誉なことらしい。
…まあ、それはさておき、何かこのイベントで面白いこと起きないかな~
「古代の戦士よ、我が呼び声に応えたまえっっ!!!」
しばらく待ち時間があった。しかし鐘が一つ鳴らされた。
どうやら古代の戦士は出てこなかったらしい。
「次! ミドガル王国騎士団所属、ヴァンニ・デーテッ!}
しばらくたって、鐘がまた一つ鳴った。
「ラワガス自警団所属、マッター・ムーリッ!」
同じく、しばらくたって、鐘が一つ鳴った。
なかなか古代の戦士が出てこない。
前に見に来たときは、12人目くらいには出てきたのに、なかなか出てこない。
アルファが言うには、大司教が陰で操作しているのではないか?とのことだ。今頃ベータがナツメ先生として身近で観察していることだろう。
あれ、そういえば、大司教は代理がやっているんだっけ? 慣れてないのかな?
ああでもないこうでもないと考えているうちに、イベントは過ぎていく。
私は観客の歓声と罵声を楽しんだ。
異世界ではこういう大きなイベントってあまりないから、意外にもなかなか楽しめた。
ん……?
…そういえばアルファの気配を闘技場内に感じないぞ?
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
その時、アルファは闘技場からほど近い路地を走っていく教団の一行を建物の屋上から見下ろしていた。
ドレイク大司教を殺した処刑人の手下どもの一つ。
「教団の目的、『悪魔憑き』の真実……」
メタルスライム・ソードを腰に生成して引き抜く。
「私は…私の為すべきことを為す。」
一行の背後へ、トォッと飛び降りた。
刀を投げて、背中から心臓を射抜いて一人目を倒す。
「な、なんだ!?」
残りが立ち止まって振り返った。
そこに着地した、漆黒のボディスーツを纏い口元以外を隠す仮面をしたアルファが、その刀を手に取って引き抜いた。死体はさっさと収納する。
「て、敵襲だ!」
数の有利を利用して、周囲を囲もうとする教団員たち。
「一気に終わらせてあげる。」
アルファは氣を廻らせると、『驟雨雹風』から『鳳凰吼鳴』で周囲の敵を斬り裂いていく、さらに『貫光迅雷』へと技を繋げて…
「これで終わりよ!」
…最後の一人を貫いた。
その死体も、倒れる前に収納すると、建物の上に飛び上がった。そこでイプシロンへ通信を送る、
イプシロンの方もデルタが襲撃を完了させたようだ。
これでリンドブルムの教団の
「…聖域に隠されしもの……陰に潜みし我らが暴く。」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ん…、デルタとアルファの氣が一瞬高まったけどすぐに落ち着いた。
すっかり氣の使い方がうまくなったなぁ…。
前世の師範だった、
─魔力がある分を差し引いても、前世の“ボク”よりもうまい─
─まぁ実戦経験の差だよね。さすがに師匠も実戦は…無かったわよね!? そうよね!?─
ふぅ~っ、私はそんなことを考えながら、次々と挑戦者が呼ばれていくのを眺めていた。
古代の戦士が登場したのは14人目の挑戦者の時だった。
…やっぱこれくらいに1人の割り合いかぁ…
剣の国ベガルタからの旅人アンネローゼがドームの中に入ると古代文字が反応し光り始めた。
光は人の形を形成し弾けて、そこに戦士が現れた。
解説の話によると、古代の戦士ボルグというらしい。
二人は普通に戦って、普通にアンネローゼが勝利した。古代の戦士に期待していたけどなんか思ったより普通だった。
前回のオ、オ、オクタビア?*1に比べると弱かった。
この先もっと強い戦士が召喚されることに期待しよう。
その後もイベントが進んでいき私は悟った。
─アンネローゼが強かっただけっぽい─
8人ほど古代の戦士を召還したが今のところ勝利したのはアンネローゼだけだったのだ。
そう考えるとボルグ君も結構強かったのかもしれない
夜が更けていく。挑戦者の残りも少なくなってくる。
ふわぁぁぁ~~っ。
そろそろ終わりか……。来賓席を見ると、ナツメ先生──ベータもアレクシアもお疲れのようだ。
結局、呼び出した古代の戦士に勝利したのはアンネローゼって人だけか。
舞台袖にいる挑戦者がいなくなり、終わりの雰囲気が漂ってきた頃、その挑戦者の名前が呼ばれた。
「最後っ、ミドガル魔剣士学園生徒、シド・カゲノーッ!!」
次は、シド・カゲノーか。どこかで聞いたことがある名前だなぁ…
シド・カゲノー……
んん?????
ミドガル魔剣士学園のシド・カゲノーなんて私しかいない。
いや待て、エントリーした覚えなんてまったくないのだが……
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おぉ……、とネルソン大司教代理は唸った。
「魔剣士学園の生徒とは……よほど腕に覚えがあるようですなぁ。」
……っ!! っと、アレクシアとナツメも驚いていた。が…
「うんうん、茨の道を越えた先には、お二人の幸せが待っている…んですよね?」
とローズ会長がアレクシアに聞いてきた。
「えっ!?」
「どうやらシドさんがエントリーなされていなかったようなので、私が追加しておきました。」
善意十割な顔でとんでもないことを言ってきた。
「あ、あなた、なんてことを…」
アレクシアは思わず立ち上がっってしまった。
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「おお、なんてこった! この試練に挑もうだなんて見上げた学生もいたもんだぜ!」
「ひゅーっ、見ろよ、王女様も学友の挑戦に立ち上がっているぜ! 学園では人気者なんだな!」
「こいつは見逃せないぜ! 勇敢なる挑戦者を拍手で迎えよう!」
大きな拍手が降り注いだ。誰かが口笛を吹き、歓声が会場を盛り上げる。
待って! やめて!! 聞いてないよ!!!
とてもまずい雰囲気だ。
立ち上がってしまったアレクシアも、眼は盛大に泳いでいるのが私には見えた。
どうやら、アレクシアの企みではないらしい。いったいだれが??
さて、この状況、2つの選択肢がある。
選択肢その①『試練に挑戦する』
何もなければただの挑戦者として終えられる。でも、古代の戦士が来たら?
さすがに魔力を使わないわけにはいかない。そうなると聖域がどんな反応をするか…
選択肢その②『逃げる』
私なんて、所詮魔剣士学園の一生徒だ。顔もそんなに知られていないから逃げ出すのはできるだろう。
しかし、これはボツだ!!
魔剣士学園の生徒って身分もバレている以上、聖教を怒らせたって知れたら退学になるかもしれない…
何より、私がアレクシアやお姉さまに顔向けができなくなる。
ん~~、結局、選択肢があるようで無かった。
うん、もうこれしかない。
私はせめて得物くらいは…と、アイテムボックスからメタルスライム・ソードを腰に装備した。
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「シド・カゲノーッ! 棄権とみなすがよいか!?」
「…現れませんなぁ。まあ、例年2、3人は怖気づくものもいますが…」
「シド…」
アレクシアはどうしていいかわからなかった。まさかこんなことをローズ先輩が仕掛けてくるとは。
観客席を見廻してた眼の片隅を光が遮った。
「ん?? あの光は……??」
突如闘技場の上空に青紫色の光の球が現れた。
おおぉ……! 観客も驚いている。
その時、トォッ! という掛け声と共に 青紫色の魔力を吹き出しながら、観客席から一人、舞台に向かって飛び降りる者がいたのだが、だれも気付かなかった。
上空の青紫色の光は、数度強く瞬いたあとに消えた。
「消えた…!」
「はて……、あんな催しは……」
立っていたアレクシアは舞台の変化に最初に気が付いた。
「ちょっ、見てっ!」
「えっ…??」(シド様?)
「あれは…ミドガル魔剣士学園の制服ですな。」
観客がどよめく。
私は氣殺法で気配を消し、高速移動で姿を隠した。そしてみんなが上空の光に注目している瞬間にミドガル魔剣士学園の制服姿に変わって、ドーム状の結界が張られた舞台に降り立ったのだ。
私は舞台の上でメタルスライム・ソードを抜いて大見得を切った。
「我は、シド・カゲノー。『女神の試練』に挑戦するもの!」
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「シドッ! そんな… …私のために… …なの?…… 」
戸惑いの中に僅かな喜色を滲ませたアレクシアは思わず、来賓席から身を乗り出していた。
「シドさん、頑張ってくださいね。」
ローズ会長はニコニコ笑顔で、アレクシアのとなりにきた。
「くっ……!」(シド様、まさか…)
ナツメは席に座ったままで歯嚙みしていた。この安っぽい女がぁぁぁあああ!
私は舞台の中央で、氣と魔力をメタルスライム・ソードに込めていく。まぁ5%も込めれば十分だろう。
「古代の戦士よ、我の呼び声に応えたまえっっ!!!」
込められた氣と魔力でソードが青紫色に輝き始める。それをソードの先端に収束して突きと共に上空に放った。
…のだが、なぜか飛び出した魔力は、剣の先から放たれると同時に、赤黒い魔法陣となって飛び出していた。
その大きさを拡大しながら上昇し、ドームの天井付近に闘技場と同じサイズの強大な魔法陣になった。
そして、その魔法陣の中心に向かって、競技場内を漂っていた魔力が赤黒い奔流となって集まり始めた。
「な、なぜだ!、わしは動かしておらんぞ……!?」
思わず、ネルソン大司教代理は口に出していた。
ナツメはそれを聞いて考える。つまり、本来であれば大司教の意向で呼び出されていたということを。そして、これがイレギュラーな事態であることも。
「古代の戦士が現れる……そんな…」
アレクシアは顔を
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シドは、舞台の中央でぼやいていた。
「う~~ん、これまでと演出が違うし、なんだかすごいことになっちゃったなぁ。」
赤黒い魔力の塊は、黒い人型を取り始める。シルエットからは長い髪とはためくスカートとローブが見えた。
そして、上空の赤黒い魔法陣が順に折れ曲がって中心に向かって収納されていって光を放って消えた。
そこには、黒い人型から実体化した一人の女性の姿があった。
長い黒髪に鮮やかなヴァイオレットの瞳。黒いローブは薄く、中に着る深い紫のドレスと白い肌が透けている。
彼女にはまるで彫刻が動き出したかのような芸術的な美があった。
そのヴァイオレットの瞳とシドの紅の瞳が交差する。
すると、どこか驚いたように眼が僅かに広くなっているのが見て取れた。
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「バ、バカな……。あれはまさか……。」
ネルソン大司教代理は驚いていた。
「『災厄の魔女』、アウロラ。」
ナツメが座ったまま、冷静にその名を告げた。
「んぁああ!?」
その言葉にネルソンはさらに驚いてしまった。
「ネツメ先生、アウロラとは…?」
ローズ会長がナツメに聞いた。
「『災厄の魔女』アウロラ。かつて世界に混乱と破壊を招いた女。」
「初耳です……」
「…よく、そんなの知ってるわね?」
アレクシアはうさんくさい者を見る眼になった。
「作家の嗜みです~。」
少し顔を傾けたことで。一瞬、灯りが反射してナツメのメガネが光ったように見えた。
「とはいえ、アウロラは『災厄の魔女』と伝わっていますが、実際に彼女がどんな混乱をもたらし、破壊を行ったのかは記録が残されていないんです。」
それは嘘ではない。
『災厄の魔女』アウロラ、古代の歴史を読み解くたび、その女の名は現れる。
それは、シャドウガーデンでもディアボロスの謎に次ぐ、解き明かすべき古代の歴史として調査を進めてきた。
そして今日、『災厄の魔女』アウロラの容姿が判明した。これは大きな一歩だ。
ナツメは、
おぁ……! とネルソン大司教代理の目は釘付けとなっていた。
「司教様ぁ?」
と、前傾姿勢になり、胸を強調しながら…
「よろしければぁ、『災厄の魔女』最悪の魔女のことを、教えてくださいな?」
「も、も、もちろんよろしい。」
…ナツメが媚びた様子で聞くと、ネルソンは血走った目をソコに固定したまま得意げに語り出す。
なお、アレクシアとローズ会長からは軽蔑の視線が飛んできているが気づいていないようだ。
「えぇ、えぇ、姫様方が知らぬのも無理はありませんからな。むしろナツメ先生がご存じだったのが驚きです…。なにせ、アウロラの名は教会でもごく一部でしか知られていません。」
そう言って、舞台に目をやる。
「しかしシドという学生も運が悪い。まさかアウロラが現れるとは。」
ちょうど、上空で顕現したアウロラが、ゆっくりと舞台に降り立ったところだった。
「あれは史上最強と呼ばれた魔女です。あのような魔剣士学園の生徒風情では手も足も出ますまい。」
あとは見ればわかる。そう言わんばかりに、ネルソンは口を閉じた。
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主が負けるとは微塵にも思わないナツメ──ベータはむっとする。しかしまったく不安が無いわけでもない。
『災厄の魔女』アウロラ、彼女は歴史に名を残す実力を持っているのだ。
ここでは、シャドウとしての
そしてここにきてベータはシャドウ様の意図をうっすらと察した。
シャドウは、呼び出すときに、己の魔力をふんだんに使って見せた。
彼女はきっと、アウロラを呼び出すために動いたのだ*2。
そこに価値があると判断したのだ*3。
主はアウロラが鍵であると判断した。ならばベータはそれに従うのみ。
ベータは通信*4をシャドウ様に繋いだ。
………計画を変更するのですか?
………変更の予定はないけど…、
………観客席の屋根の上に光学迷彩をして潜んでいるわ。デルタ、イプシロンも一緒よ。
………
………あれが私たちのオリジンですか。
………じゃあ、ちょっくら頑張ってくるから応援しててね。
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舞台上では、漆黒の剣を抜いたシドと、腕を組み優雅に微笑むアウロラの姿があった。
その微笑みは記憶だけの存在とは思えないほど瑞々しくて美しい。
「…そうかしら。『女神の試練』がシドふさわしい相手として、あのアウロラって女を呼んだのなら……」
アレクシアは手すりを指が白くなるまで握りしめていた。
「…シドの力は、世界を破壊した存在に届くということ。
そう呟いたアレクシアは、真剣な表情でシドを注視していた。
意外と見る眼あるじゃない、とベータはほんの少しだけ感心した、ほんの少しだけ。でも
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会場の空気が張り詰めていく。
彼女たちの発する
私はヴァイオレットの瞳をした女性と相対し、口元に笑みを浮かべた。
彼女も
私たちは互いの『意』を感じとっていた。
戦いとは『意』の押し付け合いだ。
そして、その『意』を読む事を極意とするのが内家剣士。
手や剣先の僅かな動き、視線の動きやそれを誘導する動き、身体の重心の移動、足の運び
それらすべてから、互いに相手の『意』を読み取っていく。
彼女も内家剣士ほどではないが、こちらの『意』を察しているようだ。
相手の『意』に対処し、さらにその『意』を察して、さらにさらにその『意』にも対処する。
このレベルでの『意』の読み合いは、七陰との模擬戦くらいでしか発生しないことなので驚きだ。
大抵は『意』を察する能力が低かったり、『意』をむき出しにしてくるので、読み合いにまで至らないことが多い。
結果、あっさり『意』を読まれて、『意』識外からの一撃で気付いていまうことが多い。
以前のデルタがこういうタイプだった。
もともと、『意』を発してから攻撃に移るまでの速さを、圧倒的フィジカルで叩き出すことでなんとかできてしまったことが、内家の修得の難しさとなっていたのだろう。…まんま外家拳士のあり方だもんなぁ。
思えば、それを無理やり何とか矯正させた私も、最初の愛弟子ということでかなり浮かれていたのだろう。
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さて、というわけで、私は七陰との模擬戦以外で初めての『意』の読み合いができて嬉しかった。
彼女もそうなのだろう、どこか嬉しそうな眼をしていた。
解説の司教さんが古代の戦士の名前を読み上げないので、とりあえず、彼女のことはヴァイオレットさんと呼ぼう。親愛なるヴァイオレットさんだ。
私たちはしばらくの間、互いを見つめ合って『意』の読み合いに
彼女は遠距離で闘うタイプのようだ。そして、私は近距離に肉薄して闘うタイプ。
彼女の遠距離攻撃を躱して近づけるかどうか、できななければ彼女の勝ち、近づければ私の勝ちとなる。
彼女は、まるで踊りに誘うかのように無造作に手を前にだした。
その瞬間、私は一歩引いた。
直後、その足跡から赤い槍のようなものが突き出してきた。良く見ると液体を操作しているようだ。
色からすれば血だろう。だとすると、魔力伝導率は驚きの100%! メタルスライム装備を1%上回っている。
次々と地面から突き出してくる血の槍を躱していく。
それら赤い槍は、一度頭上に上がった後、それぞれが、二股に別れて、全方位から襲ってくる。
私は、ヴァイオレットさんとその分裂した赤い槍を眼に写しながら、『意』を読み取り、その隙間に身体を置き続けることで、その赤い槍を躱し続ける。
オォォォォーーーーー!!!!!
闘技場の観衆のボルテージがあがった。
躱した槍がさらに多数に分裂した。一本一本が針先が鋭く尖ったような細く赤い槍が千本はあるだろうか。
私の周りを囲ったそれらが、一斉に私へと押し寄せてくる。
私はメタルスライム・ソードに氣と魔力を込めて一瞬で幾回か薙ぎ払い、細く赤い槍を一掃した。
「ただ数を増やせばいい、というものではないわよ。」
分裂して数を増やした結果、破壊することは容易だった。
ヴァイオレットさんは優雅に微笑んだ。
私たちはまた少し見つめ合った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふむ、どうやら私の言った通りのようですな。」
「あれが古代の戦士の戦闘技能……?」
ネルソン大司教代理が得意気にいうのを、アレクシアは聞き流した。
シドとアウロラの戦闘は、初手から一方的にアウロラが責め立てていた。
凄まじい速度で赤い線が舞うのをアレクシアは心配と驚愕の思いで見つめていた。
あれはどう見ても既存の武器ではない、自由に形が変化するそれを、アウロラは自分の肉体の一部のように操っていた。
おそらく、もっと広範囲に槍を広げて、集団を貫くことも可能だろう。剣での戦いに囚われていては勝負にならない。
これが古代の戦闘技能。自分では到底太刀打ちできないことをアレクシアは認めた。
「思ったより粘るようですが、実力の差は歴然の様子……」
違う、ネルソンの言葉をアレクシアは心の中で否定した。
アウロラの猛攻にシドは晒されているように見えるが、シドは地面を空中を縦横無尽に駆け廻っている。
そう、シドはまだ被弾していない。
あの初見の攻撃を、見事に躱し続けているのだ。
アウロラは確かに強い、しかし、その赤い槍はまだ一度もシドに触れていないのだから。
(お願い、勝てなくてもいいから生き残って! シド…)
「でもあの槍は一度も届いていない。」
「んん……?」
「ぷっ……ですよね、アレクシア様?」
「ええ、そうね。そうねあの女は強い。並みの魔剣士では手をつけられない攻撃をするわ。でも
「ただ数を増やせばいい、というものではないわよ。」
千を超える細い槍を、ただの一撃で吹き飛ばしたシドが言った。
ウオォォォォーーーーー!!!!!
闘技場の観衆のボルテージがさらに盛り上がった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
すると、赤い槍が丸太のような太さになって、シドを全方位から襲う。それはシドを殺す威力を秘めて唸りを上げ、ときに分裂し、ときに咢のように喰らいつき、シドを攻め立てる。
しかし、当たらない。
それどころか、一つの攻勢が終わるごとに、シドの回避が巧妙になってゆくように見えた。
アレクシアにとって最高に思えた攻防が、次の瞬間さらなる高みへ上書きされる。
そして、丸太のように太い槍が地中から一斉に突き出して、この沈黙を破った。
数えきれないほどの、物量。
シドは、その太い槍を避けるが、槍は触手ように自由に形を変えて迫ってくる。
槍のように刺し、糸のように囲い、咢のように喰らいついてくる。
これが魔女の戦いの力なのだ。自由自在に動くこの触手で、一方的になぶり殺す。
「お願い、負けないで! 勝って!! シド!!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、ヴァイオレットさんと触手を意識に収め『意』を読み、少なくなった隙間に身体を捻じ込んで避けていく。
ヴァイオレットさんの攻撃は、放とうと思った時点で既に赤い槍として放たれている。つまり、ヴァイオレットさんの"赤い槍”は"意”よりも遅い。
だから、ヴァイオレットさんより放たれた『意』の後を、遅れて『赤い槍』が飛んでくる。それを時に避け、時に足場にし、時に剣で払っていく。
一度解ってしまえば、視覚に頼らずともこの程度は容易いことだ。
そして、内家の『剣』は『意』よりも早い。剣をして既に意。我が刃はすでに“一刀如意”の境地にある
『内家戴天流』の基本にして、辿り着くべき極意である。
この域に至れば、相手の放つ『意』を察知して攻撃を読む事も『意』に先んじて己が一撃を放つ事も可能となる。
嬉しいよヴァイオレットの瞳の君。私は久しくこの境地を七陰以外から感じたことが無かったんだ。
ヴァイオレットさんは優雅に微笑んだ。
私たちは、また少し見つめ合った。
もはや、ヴァイオレットさんの『意』は完全に私に筒抜けだった。
だからこそ、彼女の事情もなんとなくわかってしまう。彼女は雁字搦めに縛られて封印されている。
彼女の周りには無数の鎖があって、それが彼女を拘束していた。
─アレクシアの、そして七陰の勝って! という声が聞こえた気がした─、
「…残念だわ。」
気合の声と共に前へ踏み出す。ただ一歩を踏みしめる行為ですら、一般人のそれとは根本から違う。
脚の力を解放するタイミング、重心移動、全身の筋肉を律する血流のリズム。その全てを把握し同調させた肉体は…人体の常識を覆す。それが『内家戴天流』の“軽功術”である。
それに私の膨大な魔力を合一させる。
私の足が、迫りくる赤い槍、宙を漂う砕けた槍の欠片、空気中を漂うチリ、魔力で作った塊、を足場として蹴ってヴァイオレットさんに迫っていく。
──その決着は、たった一瞬だった──
シドがヴァイオレットさん目掛けて一見複雑な軌道を描いた。相手の『意』識外を駆け抜けたのだ。
さて、氣を込めて振るえば、布帯は剃刀に、木片は鉄槌へと変ずる。そして、鋼の刃の変ずる果ては、ただ因果律の破断のみ。
それは形在るもの総てを断ち斬る、絶対にして不可避の破壊である。そこまで精錬された“氣”のことを、『内家戴天流』においては、“雷鳴気”と呼称する。
私は、一刀如意の秘奥による反応で、
その交錯する一瞬、ヴァイオレットさんは微笑んでいるように見えた。
─そして、鎖の斬れる音が響いた─
「残念だよ…」
気づけばヴァイオレットさんの血飛沫が舞っていた。
「…全力の君と闘いたかった。」
斬られたヴァイオレットさんが砕け散り、光となって消えていく。
「我、古代の戦士を討ち取ったり!」
私は舞台の上で、大きく見得を切ると、大きく息をはいて、剣を鞘に納めたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シドが攻勢に出てから、一瞬で決着がついた。
それまでの激闘が嘘だったかように会場は静まり返っていた。
「勝った?」
ナツメが尋ねた。
「勝ったわね……」
アレクシアも半ば呆然と答えた。
あっさりと、あっけない決着だった。まるで獅子が仔羊を屠るかのようだった。
シドが何をしたのか、そこでどんな攻防があったのか、誰も理解できないでいた。
そこにシドの勝鬨の声が響いた。
「我、古代の戦士を討ち取ったり!」
我に返ったアレクシアは、嬉しさを隠さずに叫んだ。
「えぇ、そうよ! 勝ったのよ!!
「おめでとうございます。アレクシアさん。これでお二人の未来は薔薇色ですね。」
「バ、バカなっ……!! 負けた……だと!? 攻めていたのはアウロラだったはずだ!!」
ネルソン大司教代理が叫んだ。
それをナツメが冷たい眼で見ていた。
シドが観衆に手を振りながら舞台を降りていく。
ウォォォーーー!!! パチパチ……
観客の賞賛と拍手がシドに降り注いだ。
舞台から降りる途中、来賓席を見上げると、身を乗り出して手を振ってるアレクシアと眼が合った気がした。そこで思わず彼女に投げキッスを送ってしまった。
アレクシアは顔を顔を赤くしながらも投げキッスを返してくれた。
ヒューヒュー!! キャーー!!
観衆が指笛を鳴らして囃し立てる音が響いた。
私は舞台を降りると、係の人に遅れて申し訳ありませんでした、と頭を下げる。
ウォォォーーー!!! パチパチ……
観客の賞賛と拍手はいまだにシドに降り注ぎ続けていた。
さすがに、この場では文句は付けれないと思ったかどうかはさだかではないが…
「『女神の試練』達成おめでとう。これが記念のメダルです。」
…舞台袖にいた司教の人があっさりと箱に飾られたメダルを手渡してくれた。
裏を見ると、年月日と番号と、名前──これだけその場で急ぎで打ち込んだのか、粗い──が刻印されていた。表面のリンドブルムの大聖堂といい、結構立派なものだった。
「『女神の試練』を達成したことに安寧せず、さらなる研鑽を期待しています。」
…なんというか、敬虔な信徒だ。こういう人が大司教になればいいのに…
そう思いながらも、メダルを懐に直して、急いで人のいない挑戦者の控室の一つに入った。
やばい…闘技場の魔力がどんどん高まっている。
このままでは、直ぐに扉が顕現してしまいそうだ。
無理やり魔力に干渉して、顕現を少しでも遅らせようとする。
…遠隔でやるのはキツイわね。…でも、私の魔力に似ているからなんとか…
干渉しながら、大急ぎでレミーと同調を図る。
………レミー!
………わっ、ビックリした! いきなりなにさー。
………緊急事態よ。魔剣士学園の制服来て今すぐシャドウ・ゲートを使って私の所に来て。40秒で支度しな!!
………マジ? ちょっと待ってよ!
………待てない! 最優先事項よ!!
………あぁもぅ無茶苦茶だぁー!
その間に、念のために人がいないか確認してから扉を開かないように固定してから、シャドウ・ゲートを開いた。
レミーは文句たらたらであったが、もともとガーデンで待機していたこともあって、なんとか10分以内にはこれそうだ。
………来て!
そして飛び出してきたレミーを受け止める。
額を合わせると、この間の出来事を無理やり同調する。
「ぁあぁっあぁっあぁっ、もう一気になんて酔っちゃうよ! …それに何さこれ! いつの間に
「あっ、だめ…
闘技場の方で、魔力が膨れ上がるのを感じて、溜息をついた。
陰の実力者になりたくて! 本編の第12話です。
聖地編です。
基本カゲマス準拠です。今後も七陰列伝は順次投稿していく予定ですが、もう少し本編を進めます。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアとの関係も…性癖全開です。
シドが真正面から『女神の試練』に挑んだのも、内家戴天流を使うのも、ローズ会長がやらかしたこと…は原作もそうでしたね、それ以外は本作での捏造です。
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
他にも色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。