陰の実力者になりたくて! 本編の第25話です。
ブシン祭編です。
ようやく本戦が始まりました。初戦はもちろん、あの人です。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアとローズとの関係も…
気に入らない方は、そっ閉じ願います。
──これはそんな「if」の物語──
貴族たちが談笑している中、アイリスは貴賓席で次の試合が始まるのを待っていた。
隣に座るアレクシアは、ルンルンとしており、
ちょっと頭痛が痛いようなアイリスの隣に男性が座った。
「ドエム・ケツハット殿……」
「アイリス様、ご機嫌麗しゅう。」
その眉が険しくなった。
「ここは学生たちの席なのですが?」
「それはいい、我らの交流の場を見せるのも、若者たちにとってはいい勉強となるでしょう。」
慇懃な口調で続けて言った。
「アイリス様のような、美麗な姫君を楽しませる術は、知っておいて損はないですからな。」
「お戯れを、ドエム・ケツハット殿には婚約者がおられるのでしょう?」
声色に不満を出さないように注意しながら、アイリスは答えた。
「ふっ。ご承知の通り、まだ、了承をもらえておりません。先方がブシン祭に向けての訓練の最中で、今日も本戦に直接乗り込んだようなのです。今日にも了承をとることになるとは思いますがね。」
やや緊張感のある沈黙の時が流れた。 なおアレクシアは脳天気にシドの登場を待っていた。
「ふむ、では、今日はお一人で来られたのですか?」
「残念ですが、我が国王は体調が優れないとのことで。ご手配いただいている警備が無駄になってしまうこと、誠に申し訳なく思います。」
「それは構いませんが……」
「明日は必ず出席すると言われていましたので、どうかご容赦を。ところでお父君、クラウス陛下はおいでにならないのですか?」
「…クラウス陛下は明日から観覧されると。」
「それは奇遇ですな。」
ドエムの口調に良からぬものを感じて警戒するアイリスだった。
そのとき、アレクシアが席から立ちあがって前に出て、シドに声援を送り始めた。
「おやっ。彼女が噂のアンネローゼ・フシアナス…とシド・カゲノーですか。」
「ええ、」
「今最も勢いに乗っている剣士ですな。修行の旅の途中らしいですが、ぜひ我が国にお招きしたいところだ 。」
「そうですね。彼女ほどの魔剣士であれば、ミドガル王国としてもお招きしたい。」
「なんと贅沢な。ミドガル王国には優れた魔剣士が、たくさんいるではありませんか。」
手を挙げて自嘲するようにドエムは続けた。
「それに比べて我が国は……舞剣士などとうつつを抜かして…。」
「そのための同盟です。必要があれば、我が精強なる騎士団は貴国を覆う闇を払うでしょう。」
「ハハハ、それは心強い。ところで対戦相手のシド・カゲノーについてはどうですか?
「シドさんの訓練で無い試合を見るのは初めてですが、…見てわかる通り、あまり強そうに見えません。」
「では、アンネローゼの勝ちで決まり、と?」
「いえ……、シドさんは、少し不思議なのです。普段から、決して強くは見えないのです。ですが、一つだけ特徴があるとすれば…」
「ほう……、それは?」
「絶対の自信です。シドさんの眼には迷いはない。あの眼は揺るぎない勝利が見えている時のそれです。」
「ふむ……私には分かりかねますが、何しろ剣のことはさっぱりで。」
とぼけるドエムの鍛えられた手を、アイリスは一瞥する。
「ふふっ、さすがにアイリス様はごまかせませんか。オリアナ王国では剣は蔑まれていますのでお許しください。正直に申し上げますと、それなりに使えますよ」
「それなり、ですか。」
怪訝そうに相槌をうつアイリスだった。
「さて、絶対の自信とやらがどれほどのものなのか……見せてもらいましょうか。」
ドエムは、嘲るような顔で舞台を見下ろした。
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アンネローゼは、どうにか開き直ることができた。
アンネローゼとシドは対峙しており、間に審判が立っていた。
シドさんの強さの秘密は、圧倒的速さ。しかも、まだ底を見せていない。
『女神の試練』での魔女との闘いは、一瞬で魔女の懐に飛び込んで決着した。
…空を駆けるとか、他にも色々あるが…
とにかく、速さに惑わされなければ勝てる…かもしれない。
それがアンネローゼの結論だった。
一つ憂いがあるとすれば……剣の技量がわからないことだ。
速さに惑われなかったとして、剣の技量で負けていれば……必敗となってしまう。
ならば…
「アンネローゼ・フシアナス!! 対、シド・カゲノー!! 試合開始っ!」
試合開始と同時に、フライングぎりぎりのタイミングでアンネローゼはシドの間合いに飛び込んだ。
足を止めてしまえば、速さを殺してしまえば、負けはなくなる! …はず。
「ハアアアァァァァァァッ!!」
一瞬で間合いに入ったアンネローゼは、気合と共にシドに斬りかかった。
完全に不意を突いた一撃。
しかし、アンネローゼの剣は空を斬っていた。
やはり、速いっ。
普通では躱すのが間に合わないタイミングの斬撃を、半歩後ろに下がることで躱してみせたのだ。
「シィィィッ」
再度アンネローゼの剣が舞う。
速度を活かす隙さえ与えなければ、いずれ…
さらに、3回、4回、5回、息を止めて連撃を繰り出した。。
アンネローゼの剣がシドを襲うが、すべて躱された。。
ここっ!
ワザと大きく振るって、シドの躱す先を限定させる。
シドは、アンネローゼの思惑通りに躱していく。
勝った!
アンネローゼは勝利を確信し、剣を斬り返して、シドの胸を斬った。
確かに斬った……はずだった。
「え?」
しかし、彼女の剣に、手応えは無かった。
それどころか、シドの姿が視界から忽然と消えていた。
「残像よ。」
ゥッ!!!!
背後から、シドの声が聞こえた。
アンネローゼの肩が震えた。
アンネローゼは、あえてゆっくりと振り返った。。
動揺している。
動揺を悟られるな。
自分にそう言い聞かせながら。
アンネローゼの背後に、シドが立っていた。
どうすればいい?
シドの速度はアンネローゼの反応を遥かに超えていた。
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「あぁ、主さ…シド様が指導者モードになりましたね。」
と、
「そうだね。ある…シド様って、こういう剣に真面目な人には親切だからね。」
ゼータが肩をすくめた。
「マスターが……画面から……一瞬はみ出して……しまった。」
「ふぅ~っ。まるで消えたかのようだったのだけれど?」
「大丈夫? ヴァイオレットさん。ちょっと速く動いて後ろに廻りこんだだけよ。」
「そうなの? 古代の戦士でもアレくらい速いのはそんなにいなかったわよ。ふぅ~っ。」
「そうです。ヴァイオレットさん。第一主様は氣を使っていませんので、全速の1/10以下ですよ。」
アルファとガンマが種明かしをしている。
なお、ベータはひたすらノートに絵をかいたり文書を書いたりと忙しくしていた。
デルタは大歓声を上げていたが。
「シド様~! やっちまえです~!」
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そのまま、じっと相手を窺っていると…
えっ……!?
気付けば、シドの姿が消えていた。
アンネローゼは考える前に動いた。
その時、わずかな空気の揺れに反応できたのは、技量でも経験でもなく、ただの幸運だった。
シドの剣が下から剣先が綺麗な円弧を描くように振り上げられた。
凄まじい衝撃と共に、アンネローゼは吹き飛ばされた。
ぐっ………! 苦痛の喘ぎが漏れた。
想像以上に…
宙を舞うアンネローゼは目掛けて、空を駆け上がりながら、シドが剣を振るってきた。それも煌めく剣先が、円を描くような軌跡を綺麗に描いていた。
…速いっ。
なんとか剣で受けるが、更に打ち上げられてしまった。
これを覆すには…
アンネローゼを追い越すように空を駆けると、シドが上から、これまた剣先が円を描くように剣を振り下ろしてくる。
…これも剣で受けたが、今度は地面に向かって撃ち落されてしまった。
ドーーーン!!! 土煙があがり辺りを覆った。
ぐっ…! かろうじて足から落ちて受け身をとったものの…
攻撃に魔力が乗っていれば私はとっくに死んでいる。
くっ、…認めましょう。
アナタは強い。理不尽なまでに。
シドはアンネローゼの視線の先で、追撃をせずただ立っていた。
アンネローゼはそれを、傲慢だとは思わなかった。
シドにはそれだけの実力があった。
力も速さもすべてを上廻られている以上…
私に残された手は…
アンネローゼは乱れた息を整えて、覚悟を決めた。
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もはや観客や貴族たちも固唾を呑んで見守っていた。
「ここで動きを止めますか……。」
アイリスは呟いていた。
「カウンター狙いか」
ドエムが顎に手を当てながら考察する。
「なるほど、もはや、それしかあるまい。」
「あぁ、もうシドったら律儀に相手しちゃって…」
アレクシアはぷりぷりと怒っていた。
「さっさと片付けてしまえばいいのにっ。」
「おやおや、アレクシア王女はこの展開にご不満が?」
「だって、アンネローゼ選手のミエミエの誘いにわざわざ乗って上げてるのよ。」
ほう、とドエムはアレクシアを見直した。
あれが誘いと解る程度には腕だ立つようだ。
「大体、最初の一撃にカウンターを合わせなかった時点でおかしいのよ。」
「…アレクシア、あれはかなりの速攻でしたよ。」
「アイリス姉様、あんなのは速攻と言いません。
いや、ちょっとという速さではなかったが、とドエムは心の中で突っ込んだ。
「あんなの、ちょいと『意』識外から剣を合わせるだけです。」
「ぐうぅっ、…それを言われてしまうと…」
「おや、アイリス様も同意されるのですか?」
「同意というか…、そのものずばりカウンターを喰らったというか…アレクシアにもシドさんにも…」
ほう、アレクシア王女も侮りがたいということか…ドエムはアレクシアに対する警戒を一ランク上げることにした。
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勝算は低い。しかし、まだゼロではない。
相手がただ速いのであれば……私はそれに合わせればいい。
シドが攻撃する瞬間こそが、彼女に残された最後の勝機だ。
問題は、果たしてシドの速度に反応できるのか、だ。
反応できないのであれば経験で、経験で及ばないのなら勘で、手段は何だっていい。
ただタイミングさえ合えば……
後は今まで積み上げて来た技術で斬り伏せるのみ。
アンネローゼは静かに、しかし、極限の集中で、時が来るのを待った。
前触れは、一切なかった。
シドの姿が忽然と消えた。
「そこぉ!」
シドが消えると同時に、後ろに剣を振るアンネローゼ。
しかし、そこには誰もいない。
しかし、次の瞬間、そこにシドが現れて、アンネローゼは勝利を確信した。
「とったぁ!!」
アンネローゼの剣は、シドの動線上に置いてある。
この速度で避ける術はない。
そう思われた。
「えっ……?」
シドは止まったのだ。
あらかじめそう決めていたかのように、アンネローゼの間合いの寸前で止まった。
アンネローゼの剣が、シドの鼻先を掠めて空を斬る。
偶然ではない、それは、極限の間合い管理。
「合わせたつもりが、合わされた!?」
凄まじいほどの見切り。
アンネローゼは彼の攻撃に合わせたと思った。
だが実際は違う。
逆に合わせられたのは、アンネローゼだった。
完璧な間合いの管理
アンネローゼはこの瞬間理解した。
シドは……その技量も遥かに高みにあったのだ。
そして、死に体のアンネローゼに、シドの剣が軒先が円弧をなぞるように迫ってきた。
その剣は、今日一番遅かった。
しかし。その剣は…剣先の描く円弧には一切のブレが無く……技を極め芸術にまで昇華されていた。
「ああ……なんて……」 …なんて美しいのだろう。
その記憶を最後に、アンネローゼの意識は暗転した。
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「勝ったわ、シドー!!」
アレクシアがテンション高めに歓声を上げて両手を振り回している。
シドと眼があったのか、盛大な投げキッスをしていた。
…シドも返してくれたようで、さらにテンションが高くなっていた。
それを視界の片隅に捉えながら…
「強い……」
アイリスは呟いた。
「絶対の自信、アイリスの勘が当たりましたね。」
ドエムが答えた。
「私もまさかこれほどどは…普段のアイリスと熱々の気の抜けたシドさんを知っているだけに…とても信じられません。」
「シド・カゲノー…聞いたことがない。流派も既存のものではありませんね。」
「そうですね。それほど一般的でない剣筋……シドさんが古文書から解読したというカゲノー家の秘伝だそうですから。…そしてそれを再現してしまう才能も。」
ほう、どうりで剣筋が違うわけだ。独力で解読・再現したとは…、ドエムは少し驚いていた。
「しかし、間違いなく、速く、鋭く、「そして何よりも美しい。」…。」
ツッ…っと歯を嚙みした。ドエムはいまだかつて、あれほど美しい剣の流れを見たことがなかった。
おそらくアイリスの言った通りだろう。まだ知られていない流派の秘伝の使い手が、初めて表舞台に姿を現した、ということだろう。
「当代最強と名高い、アイリス様なら自信はおありで?」
「剣の美しさでは到底及びませんが、美しさで勝利が決まるわけではありません……そのはずだったのですが…」
先日、アレクシアに引き続き、ようやくシドと対戦して、いいようにあしらわれてしまったことを思い出していた。
最初は手も足も出なかった。すべてが動く前に潰されていた。
途中から指導するように、待ってくれるようになったのだが、後の先をいいように取られてしまった。
カウンターを狙おうと待ちに入ると、それは悪手とばかりに、『意』識外から一撃されてしまうのだ。
「五感をすべて使って、視覚なんか全部を使って、相手を捉えるんです。」
木剣を使って容赦なく当ててくる。…あれは痛くて大変だった。が、一定の効果はあった。
相手のどこかを注視しているということは、見落としているところが必ずある、ということ。
それを意識することができただけ良かった。
まぁその後は、逆にフェイントを入れられて、好き放題にボッコボコにされてしまったわけだが。
それらを思い起こして、背筋をゾクッとさせながら続けて言った。
「それに、あれはシドさんの全力ではありませんから。 それでは警備の確認がありますので。」
そう言って立ち去るアイリスを見送って、ドエムは息を吐いた。
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メインスタンド正面を占めるミツゴシ商会は、お祭り騒ぎとなっていた。
もう、優勝したかのような祝福と歓声を上げていた。
珍しくはしゃいでいる七陰とヴァイオレットさんを見て、微笑みを浮かべてしまった。
シドはそっちを向いて。ふりふり、と小さく手を振った。
それにより、さらに歓声が高まってしまった。
もう一度、貴賓席に眼をやって、アレクシアにウィンクすると、闘技場から出て行った。
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ふ~~~っ。
ドエムは事前に計画の邪魔になりそうな人物を調べていたが、そこには当然シドの名前は入っていなかった。
彼女が計画の妨げになるのであれば、早いうちに手を打つべきだが…
何といっても教団の力を使うのは時期がわるい。
なに、焦る必要はない。
「念のために、シド・カゲノーの素性を洗えっ。」
「承知しました。」
「あれだけあからさまにしているのだから、裏の世界の住人ではないだろう。」
「はっ。」
それにしても、あれほどの使い手が、思っていたよりも無名でいたことがどうにも附に落ちない。
なにか理由があるのだろうか? 実力を隠してきた理由が。
「ディアボロス教団に敵対している謎の集団の可能性は?」
「はっ、それは外して言い。彼女はまだ学園の1年生、15歳だ。すでに7~8年も陰の抗争をしてきているのだぞ。」
「わかりました、では。」
摘める芽は摘んでおきたいが……彼女は何者だ。
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「待って、シドさん!!」
振り返ると、甲冑を外してリラックスした表情のアンネローゼさんが立っていた。
最後は、肩当てだけを砕いたので、特に負傷の痕は見えなかった。
「完敗だったわ。本当になにもできなかった。」
肩をすくめると続けて言った。
「強くなるために国を出て、あの頃より強くなったつもりでいた。でも知らないうちに慢心していたのね。」
そう言って、右手を差し出してきた。
「いい勉強になったわ、ありがとう。」
アンネローゼは、シドを見上げて微笑んだ。
「『女神の試練』のときに見ていてくれたのね。よく考えて対策されていたわ。」
アンネローゼは苦笑を浮かべ、そして二人は握手した。
「…嬉しい言葉ね」
それじゃぁ、そう言ってシドは歩き去ろうとした。
「シドさん、アナタは一体何者なの? どうやってそれほど強くなったの?」
私はふと“ボク”のことを思い出していた。
「…全てを捨てきれず……、それでも大切なモノのためにひたすら強さを追い求めてきた……。でも、そんな私と一緒に強くなろうとしてくれる者達がいたの。そして、一緒に強くなってきた。そんな幸せ者よ。」
そう。アンネローゼは心が暖かくなった。
なにか辛く哀しい過去があったのだろう。しかし、今は一緒に励んでくれる友がいるのだ、と。
「私は明日旅立つわ。アナタのおかげで遥かな高みを知ることができた……。今は見上げることしかできないけど、いつか、きっと……縁が合ったらまた闘いましょう。」
今のアンネローゼは見上げることしかできない。
だが、まだ強くなれる。進むべき道はシドさんが剣で示してくれた。
そしていつかきっと、強くなってシドさんと再戦するのだ。
その日まで、アンネローゼは闘い続けることを誓った。
陰の実力者になりたくて! 本編の第25話です。
盆休みパワーで書けました。
ブシン祭編です。
ようやく本戦が始まりました。初戦はもちろん、あの人です。
基本カゲマス準拠です…が、オリ展開です(開き直りっ)。
本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアにローズも… 性癖全開です。
ブシン祭の本戦の人数や日程等については本作での捏造です。
この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。
他にも色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。