陰の実力者…?   作:ponpon3

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 陰の実力者になりたくて! 本編の第26話です。

 ブシン祭編です。

 本戦です。今回は他の人の対戦です。

 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアとローズとの関係も…

 気に入らない方は、そっ閉じ願います。


 ──これはそんな「if」の物語──


陰の実力者…? 第26話「踊る人形?」上

 

 

 

 午前最後の試合になった、

 

「第一回戦 第8試合 クイントン!! 対 クレア・カゲノー!! 開始!」

 

 クレアは、クイントンをボンヤリと観の眼で全身を捉えながら、剣に手を掛けた状態で待った。

 

 まるで悪役プロレスラーの如く片目に眼帯を付けた、ムキムキの上半身を露わにして、大きな剣を抜いて構えていた。

 

 こっちを学園生と舐めたような態度ではない。

 

 しっかり強者と認めている眼をしていた。

 

 

 おもしろいわね。

 

 

 シド──レニーをかなり激しく説得し(攻め立て)て、シドたちの使う力──氣について聞きだすことができた。

 

 どうも、これまでも大大大好きお姉ちゃんのシド──レニーがこっそりと教えてくれていた呼吸法により、氣の初歩の初歩までは修得できている、とのことだった。

 

 

 そこを一気に初歩まで進める特訓をしたのよ。

 

 

 …レミーが無駄な抵抗するものだから、ちょっと(・・・・)攻め過ぎてしまったのだけど。シドの分身だけあって可愛いかったわよ。それに……弱点もわかったことだし、次はシド本人も…うふふん。

 

 

 そして、これは自力が違い過ぎる、とわかった。

 

 

 氣によって強化された肉体を、魔力を使って強化する。言葉にすればそれだけのこと。

 

 ただでさえ効率的な魔力制御による強化を行っているのに、元の肉体が強化されるのだから、これは反則だわ。

 

 

 こんな大事なことをお姉ちゃんに教えてくれないなんて… うふふん、鳴いてもらいましょう!

 

 

 そんなわけで、悪いけど今日は初披露なの。 

 

 準決勝でシドと当たるまでに、少しでも使いこなせるようにならなければ……ねぇ?

 

 

 私は、もっともっと強くなりたい。

 

 いえ──強くなる!

 

 だって世の中には、力でしか勝ち取れないものや、守れないものがあるから…

 

 

 シドは私よりも強いかもしれないけれど、シドの足手まといになんかなりたくない。

 

 

 だって、私はシドのお姉ちゃんなんだから。

 

 

 私は、いつもの半分くらいの魔力と氣を込めて相手に接近を開始した。

 

 まだ上手く制御できない氣が魔力と合わさって、紅の混じった金色の光を身体に纏って突撃することになってしまった。

 

 

 一瞬で相手の間合いに入る。

 

 相手がまったく反応できていないのがわかる。

 

 そう、氣を使うと反応速度もあがってしまう。

 

 突進した勢いを殺さないようにしながら、足を踏みしめて剣を抜き打ちざまに斬りはらう。

 

 

 …死なないように、一応相手の構えた得物目掛けて振りぬいたわ。

 

 

 相手は、錐揉み回転しながら高く吹っ飛んで行って……ドスッと上半身から地面に刺さった。

 

 少し遅れて、二つに斬られた大剣が地面に刺さる音がした。

 

 

 あら、相手の得物を斬り落としてしまったわ。

 

 

 闘技場内が静まり返っていた。

 

 ピクリとも動かないクイントンを会場の全員が呆然を眺めていた。

 

 

「…! しょ、勝者……クレア・カゲノー!!」

 

 

 審判の勝利を告げる声も、恐る恐るに聞こえた。

 

 

 メインスタンドの真正面、ミツゴシ商会が占めている一角に、レミーの氣を感じたので眼を向ける……見つけた。眼鏡を掛け、髪色を夜空色に変えて変装しているレミーに、にっこりと笑いながら手を振った。

 

 さすがに投げキッスは恥ずかしいわ。

 

 それに、ニーナもレミーのすく近くにいたの。

 

 

 そう、そういうこと。

 

 冷や汗をかいているニーナにも、にっこり笑って手を振った。

 

 

 そして、貴賓席に眼をやって、眼を見開いてはしゃいでいるアレクシアとシドにウィンクをしてから、闘技場から出て行った。

 

 アレクシアったら、あんなにはしゃいで、ほんとうに可愛い義妹()だこと。

 

 そこで、ようやく観客から称賛の拍手と歓声が降り注いできた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ちょっとレミー?」

 

「なにさー、アルファ。ぼくがお姉ちゃんに隠し事なんてできるはずがないじゃないかー。」

 

 

「そうじゃなくて、氣を本格的に教えてから、二週間経って無いのよね?」

 

「うん。七陰と相談して、もともと初歩の初歩までは教えてきたけどさー。そこからだよー。」

 

 文字通り、手取り足取り、氣も巡らせて、付きっ切りで指導したけどねー、とレミーは煤けた顔でボヤいた。

 

 

「なんていうか、やっぱりクレア様って、シド様のお姉さまなんですね。」

 

 イプシロンが感慨深げに言った。

 

「そうね。初歩とはいえ、氣と魔力の合一をやってのけるのだから。」

 

 アルファも感心しているようだった。

 

 

「とはいえ、レミー。魔力による強化だけのように偽装することも覚えさせなさい、ね?」

 

「ホイホイ。まぁ紅の混じった金色に光るなんて、さすがお姉ちゃんだよねー。」

 

 なにがさすがなのよ。え、なんか主人公っぽくないー? レミーまさか“ボク”に… 失礼なー! ヒーロー物の中心人物ぽいなぁーってことだよー。ならいいの? いいのーっ!

 

 

 レミーとイプシロンの問答を横目に、ガンマがアルファと話していた。

 

「天然の覚醒者と教団に誤解されるかもしれませんね。」

 

「教団が異端認定された後で助かったわ。護衛も大変になりそうね、番外(エクストラ)99th(ナイン・ナイン)ニーナ?。」

 

「さっき、ばっちり眼があったんですけど? さらに、にっこり笑って手を振られたんですが…」

 

「「ご愁傷様。」」

 

 こちらもにっこりと微笑むアルファとガンマだった。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 貴賓席に座っていたアイリスは己の眼を疑っていた。

 

 

「速い、そして、強い……」

 

 

 魔力を可視化するほど込めることなら、アイリスにもできる。

 

 しかし、どれほど魔力強化をしても、あれ程の速さを出せるとは思えなかった。

 

 

 アイリスの眼を持ってしても、紅の混じった金色の光が瞬くのが見えただけだった。

 

 光の軌跡すら見えなかった。

 

 

 まるで、クレアだけ時間の進み方が違うようだった。

 

 次の瞬間には相手選手(クイントン)の位置にクレアが立っていて、相手選手(クイントン)は宙を高く舞っていたのだ。

 

 

 相手選手(クイントン)が錐揉み回転して地に落ちるまでの方が時間が長かったに違いない。

 

 

 当代最強──アイリスには、自分が世界最強であるという自負はなかった。

 

 上には上がいるということも理解しているつもりだった。

 

 しかし、客観的な事実として、アイリスは世界でも最上位にいる魔剣士だ。そのはずなのだ。

 

 

 それが、シドさんに引き続き、クレアさんまであの領域にいる……

 

 カゲノー家恐るべし。

 

 

 隣で眼を見開いて、クレア義姉様(お姉様)凄い! とシドさんと手を組んで繋いではしゃいでいる(アレクシア)にも頭が痛かった。

 

 もしもし、君の姉様(ねえさま)はこっちじゃないのかなぁ?

 

 ちょっとやさぐれてきているアイリスだった。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「これは…」

 

「速い、そして、強い……」

 

 アイリスの言葉に、ドエムは、焦りを顔にださないようにするだけで精一杯だった。

 

「魔剣士学園の選抜枠というのは、皆レベルが高いのですね。」

 

 声が震えていないだろうか。

 

「前回大会優勝したアイリス様も、学園の選抜枠からの本戦出場していたのですよね。本当に羨ましい限りです。」

 

 隣を窺うと、アイリスは虚ろな眼でこちらの話を聞いていなかったようだ。

 

 これ幸いと、自分の考えに(ふけ)ることにした。

 

 いったいなんなのだ、あの強さは。

 

 前評判として聞いていた、木っ端男爵の令嬢姉妹…ではあるのか? しかし、強さが段違いにあるではないか!

 

 あの魔力の質といい、量といい、『悪魔憑き』──適応者でないことが不思議なくらいだ。

 

 …まさか、英雄の血を自力で覚醒させているというのか?

 

 (シド・カゲノー)といい、(クレア・カゲノー)といい、カゲノー家とはいったいなんなのだ?

 

 これが、ディアボロス教団が異端認定される前であれば…強引な手段でもって、教団にとって最高の実験材料になったものを。

 

 ドエムは(ほぞ)を嚙む思いだった。

 

 ──しかし、ドエムは、かつてゼノンがオルバへの口封じの一環としてクレア・カゲノーを利用したことを知らない。

 

 ──そして、そのため、カゲノー家の情報をゼノンが隠蔽・破棄していたことも。

 

 

 かくして、波乱に満ちたブシン祭午前の部は、多大なる衝撃を持って終了した。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ミツゴシ商会で占有している、メインスタンドの一角で優雅な昼食(ランチボックス)を楽しみながら、午後の部の試合を待っている時のことだった。

 

 

 アルファは、見知った気配を感じて、顔を歪めた。

 

 

 番外(エクストラ)999th(スリー・ナイン)…そう、フード付きのコートを被ったベアトリクスが近付いて来ていた。

 

 

「やあ、ア、アルファ。」

 

「様をつけろよ、デコ助野郎。」

 

 

「デ、デコ助野郎……デコ助野郎……

 

 ズーンと落ち込んでしまった。

 

 

「あ~、もう。様を付けて欲しい時の形式美みたいなものよっ!!」

 

 

「そうか。……よかった。

 

 これだから天然は…

 

 

「で、貴賓席に潜り込む算段はついたのでしょうね? 武神殿。」

 

「それについては、クラウスくんにお願いしてある。ちゃんと明日から入れる。」

 

 

 これ素で言ってるのよね。

 

「国王陛下もくん扱いですか。…初代ブシン祭優勝者は言うことが違うわね。」

 

「歳の話をするなら……戦争だよ?」

 

 

 はいはい。

 

 

「オリアナ国王の護衛に表の戦力が必要なの。このままでは試合中に仕掛けてくる可能性が高いの。」

 

 そこで、じっと見る。

 

「ラファエロくんか…襲撃があるようなら、武神の名に恥じぬ戦いを見せると約束する。まぁ他に特に何ができる、というわけでもないが。」

 

「ええ、いざという時に頼むわ。」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 午後の部は、午前の部と比べると、割りと地味──例年通りくらいではあるのだが──に始まった。

 

 

「第一回戦 第09試合 ツギーデ・マッケンジー!! 対 ゴンザレス・マッチョム!! 試合開始!」

 

 

 普通に試合が始まり、普通に戦い、強い方が普通に勝っていった。

 

 いくつか番狂わせもあったが。

 

 

 そして…

 

 

 最初に、金ピカの甲冑に身を固めた、金髪碧眼の優男が、闘技場に出てきて、ファサッと髪をかき上げていた。

 

 夕日を浴びて金ピカの彼は光り輝いて眩しいほどだった。

 

 不敗神話──彼の自称は常勝金龍の登場であった。

 

 

 その後に、ミドガル魔剣士学園の制服をきたローズ・オリアナが普通に出てきた。

 

 観客を声援に答えるように手を振っている。その眼がメインスタンド下の一角に来たところで、驚きで眼を見開いた。

 

 そこには、イプシロン様にゼータ様を始め七陰の面々が、それにラムダ教官にパイ教官、664番に665番を始めとする下士官教育の生徒たちが応援に来てくれていたのだ。

 

 ローズは、気付くと、にっこり笑って手を振り返していた。

 

 

 オォォォォォーーーーーッ!!! 観客のボルテージが盛り上がっていく。

 

 

 闘技場の中央で向かい合って立つ。

 

「本日の最終試合になります。」

 

 午後の部の審判の声が響いた。

 

「第一回戦 16試合 ゴルドー・キンメッキ!! 対 ローズ・オリアナ!! 試合開始!」

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ゴルドー・キンメッキは、ローズを視界にとらえて、バトルパワーを測ろうとしていた。

 

 開会式の時に測った時は、バトルパワーは、2020だった。まぁまぁできる方か、と思っていた。

 

 

 そして対峙している今、再測定をすると、バトルパワーが上昇していた。

 

 隙の無い立ち振る舞い、バランスの取れたマッスル、会場の大歓声の中でも動じないメンタルの強さ、そこから導き出されるバトルパワーは、3020。…なのだが、安定していない。

 

 メインスタンドに手を振った時には、4020、を示してた。

 

 

 大丈夫だ。俺のバトルパワーは4330、負ける要素はない。

 

 午前の部に出てきたような、万を超える化け物学園生とは違う。

 

 自分に言い聞かせるように集中して、開始の合図をまった。

 

 

 審判の声が響いた。

 

「── 試合開始!」

 

 

「オラァァァァァァァァ!!」

 

 先手を取って、相手を沈めてやる。

 

 

 ゴルドーは開始と当時に一息で間合いを詰める。

 

 

 そして、装飾で飾り立てた黄金の両手剣を薙ぎ、ローズの首を狙った。

 

 ローズは剣を構えているが立ったままだ。視線が追従しているようだが…

 

 

 勝利を確信したゴルドーが白い歯を見せる。

 

「なにっ!?」

 

 声を発したのはゴルドーだ。

 

 しかし彼だけでなく会場の全員が目を疑った。

 

 

 ゴルドーの剣が、ローズの首をすり抜けて空振っていたのだ。

 

 いや、ローズが、冷静にほんの半歩後ろに下がって上体を少しだけ反らして空振らせたのだ。

 

(まずい……!)

 

 ゴルドーの顔が引きつった。この致命的な隙を前に、ローズは…

 

 

 …ローズは動かなかった。

 

 ゴルドーの隙を完全に見逃したのだ。

 

 

 ゴルドーは飛び下がって間合いを外し、ローズを睨み一言。

 

「お前、舐めてんのか!」

 

 ゴルドーの声には苛立ちが交じっていた。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「…今の攻防、見えましたかな?」

 

 ドエムが驚きを隠せない声で聞いてきた。

 

「ええ、そこそこ。」

 

 アイリスは言葉少なに答えた。

 

「さすがですね、アイリス様。午前にあったクレアさんの速攻とはちがい、ゴルドーの攻撃は見ることはできたのですね。私にはローズ王女の首を捉えたように見えたのですが…」

 

 

「…そうですね。普通なら避けられるタイミングじゃありませんでした。しかし、ローズ様は剣が当たる直前に、半歩下がってわずかに上体を反らしてゴルドーの間合いから抜けました。」

 

 ギュッと手を握りしめながら続けた。

 

「恐らく、センチ単位の見切りが可能とする絶技なのでしょう。はたから見ていると、まるで剣が首をすり抜けたようにしか見えないのでしょうね。」

 

 

「ほう。いつの間にそんな高度な見切りをできるようになったのでしょうね。」

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「気に入らねえな、お前は今、千載一遇の好機を逃した。」

 

 

 ゴルドーの目が尖っていた。

 

 

「なのになぜ平然としている。」

 

 

 ギリギリと歯を噛みしめている。

 

 

「お前がこの俺に勝てるかもしれない、人生でたった一度きりの機会を逃したんだぞ!」

 

 苛立ちは頂点に達したようで罵声を浴びせ始めた。

 

「もっと嘆け! もっと悔しがれ! 無様に足掻いて這いずり回れ! そうしないのは、俺に対する冒涜だ!」

 

 

 ローズは剣を構えたまま、ちょっと困ったような顔をしている。

 

 

「まさ好機を逃したことに気づいてないのか!? バトルパワー2020のくせに俺に恥をかかせやがって…」

 

 

 ゴルドーは激昂していた。

 

 

「全力で屠ってやる。」

 

 大気が震えだし、大量の魔力を放出していく。会場がざわめいた。

 

 ゴルドーの背後で、溢れた黄金の魔力の流れが、黄金の龍を幻視させた。

 

 

「冥途の土産に教えてやるよ。俺のバトルパワーは、4330だ。」

 

 そして、装飾の多い黄金の剣を振り上げながら、叫びながら突っ込んできた。

 

 

「邪神・秒殺・金龍剣ッ!!」

 

 

 黄金の龍が、ローズを喰らおうと迫ってきた。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ローズは無言で氣と魔力を高めると合一させる。

 

 身体が、青紫色の帯が交じった白金の魔力で纏われていく。

 

 この時、蜂蜜色の瞳の奥に青紫色の炎が宿っていたのだが、対戦相手(ゴルドー)以外には見えなかった。

 

 

 ──氣を込めた布切れが剃刀のごとく切れ味を発揮する。

 

 ──氣を込めた木刀で斬鉄すらできてしまう。

 

 

 では、氣と魔力を合一させた剣では*1

 

 

 ローズは迫ってくる黄金龍に対して、青紫色の光の渦が交じった白金に輝く剣で横薙ぎの一閃を放った。

 

 

 ローズの剣に触れた瞬間、黄金の龍は斬り裂かれて消えた。

 

 そして、くるくる回転しながら黄金の甲冑をまき散らしてゴルドーが宙を舞った。彼の黄金剣もバラバラに吹き飛んでいた。

 

 

「ぶべらっ!!」

 

 

 闘技場内は、またも静まり返っていた。

 

 ドサッと地に落ちて、ピクピクとしか動いていない、パンツ一枚となったゴルドーを、会場の全員が唖然と見ていた。

 

 

「…! しょ、勝者……ローズ・オリアナ!!」

 

 ローズは静かに剣を鞘に納めると、メインスタンドの一角に眼をやった。

 

 

 そこにいる、664番と665番、同期生にラムダ教官、パイ教官、そしてイプシロン様とゼータ様に手を振ってから貴賓席に眼をやった。

 

 ちょっと不機嫌そうなアレクシアに張りつかれていたシドに小さく投げキッスをすると、返しを待たずに闘技場から出て行った。

 

 そのころにやっと観客から、盛大な拍手と歓声が沸き上がった。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「もう、いやっ。」

 

 アイリスは項垂れていた。

 

 当代最強!? ローズさんの剣の動きすら見えなかったのに?

 

 

「速くて強い……」

 

 

 何度もいうが、魔力を可視化するだけなら、アイリスにもできる。ちょっと気張るだけでいい。

 

 しかし、とれだけ魔力強化をしても、あれ程の速さで剣を繰り出す自信は無かった。

 

 いや、速さだけならだせるかもしれない。しかし、制御できないだろう。

 

 刃筋を立てれず、剣を折ってしまうだけだ。

 

 

 アイリスの眼を持ってしても剣の動きが見えず、ローズが、青紫色の混じった白金色の光を纏った剣を、黄金龍を斬り裂き終わって振り切った姿が見えた、それだけだった。

 

 まるで、ローズだけ時間の進み方が違うようだった。

 

 

 魔剣士学園でなにか起こっているのですか?

 

 でも。もう一人の選抜枠のクリスティーナ・ホープさんは普通でしたよね。

 

 

 隣でぷんぷん怒っている(アレクシア)にも頭が痛かった。

 

 むぅ~っ、ローズ先輩。シドに投げキッスしたぁ! よしよし。むぅ~。すねないすねない、笑っているアレクシアの方がかわいいよ。むぅ~、本当? ほんとほんと。

 

 

 もしもーし、あの試合を見て感想がそれだけですかぁ?

 

 すっかりやさぐれてしまったアイリスだった。

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「アイリス王女?」

 

 いきなり項垂れ始めたアイリスを見て思わす声をかけてしまった。

 

 

 正直、ドエムも頭を抱えたかった。

 

 

 武者修行しているとは言っても、名ばかりの物だと思っていた。

 

 学園選抜枠を決める戦いのときの報告では、普通だったはずだ。

 

 

 それが…いったいなんなのだ、あの強さは。

 

 あの魔力の質といい、量といい、こいつも『悪魔憑き』──適応者でないことが不思議なくらいだ。

 

 

 …まさか、英雄の血を自力で覚醒させる方法が編み出されているというのか?

 

 

 いや、この後順調に進めば、我々の手中にして、教団に最高の実験材料を提供することができる…はずだ。

 

 なに、元々オリアナ王国から教団に差し出される予定の娘だったのだ。

 

 それをもってオリアナ王国とラウンズでの上位の席を得ることができる…かもしれない。

 

 

 とはいえ、オリアナ国王とレイナ王妃を手中に収めているとはいえ、抵抗されると厄介だ。

 

 手勢は可能な限り増やしてあるが…

 

 今日の夜に予定している、ローズとの会談に向けて、色々と頭を悩ませるドエムだった。

 

 …あまり、怒らせないようにした方がいいかもしれない…

 

 少しだけそう思った。

 

 

 

 このように、ブシン祭午後の部も、見ている者みんなに多大なる衝撃を与えて終了した。

 

 

*1
─試合用の刃を潰した剣です─





 陰の実力者になりたくて! 本編の第26話です。

 盆休みパワーで、ちょっと遅れましたがなんとか書けました。

 ブシン祭編です。

 ようやく本戦が始まりました。今回は他の人です。

 基本カゲマス準拠です…が、オリ展開です(開き直りっ)。

 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアにローズも… 性癖全開です。

 ブシン祭の本戦の試合数とか人数や日程等については本作での捏造です。

 一応、今のところ書籍版とカゲマスで名前が判明している人しか使っていません、多分。

 もちろん、ベアトリクスについての設定も本作での捏造です。

 初代ブシン祭の優勝者で『武神』の称号をもち、10年前まで表舞台に出ていたのですから、各地の王族とも関係できるよね?


 この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。

 他にも色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。
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