陰の実力者…?   作:ponpon3

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もしも、影野ミノルが女性に転生していたら?

というか、影野ミノルが転生時ダイスロールに失敗して、自我を持ち越せなかったら?

影野ミノルの記憶──ではなく感情付きの記録しか残せなかったら?

影野ミノルが、前世にとんでも武術を習っていたら?

そして、アルファたちの出会いや年齢がズレていたら?

……当然、みんなの性格や嗜好も変わるよね?

──これはそんな「if」の物語──


陰の… 第06話

 

 そろそろ1ヶ月ほど経つのか……

 

 

 私は肉塊を保護した日を思い出しながら、拠点にしている隠し砦の中でため息をついた。

 

 王都と聖都の中間から北よりにある(けわ)しい山脈に囲まれたとある古代遺跡。

 

 盗賊狩りに移動する途中、ショートカットするために登った人跡未踏の山脈の内側のカルデラ?にあった地下遺跡の跡地の隠し砦が私の修行用の拠点だった。──そこに小さな物置小屋を作っている。

 

 カゲノー家とは、なんちゃって『ど◇でも●ア』の術式を刻んだメタルスライムで繋がっている。同じくなんちゃって聖域の結界で偽装はしてあるが。

 

 

 どうしてこうなったのだろう。

 

 

 あの肉塊を元に戻す試みは苦難の連続だった。魔術回路の形が違うのか自分たちとまったく同じ手順では制御できなかったの。

 

 二回目だし簡単に上手くいくかと思っていたが、最初の他人の魔力を外からコントロールしようとするところで躓いた。思えばこれまで自分とその分身、つまり自分の魔力しか操ったことが無かったのよ。

 

 そこで無理やり力技で押し通そうとしたのだが魔力回路の質?にも違いがあるようで肉塊が苦しそうに震えた(・・・)ためダメージを与えていることがわかったの。

 

 そこからはひたすらトライ&エラーの繰り返しになった。肉塊に抱きつき全身から氣と魔力を流し(接触面積がが広い方が効率が良いため)、暴走している魔力の波長を整え流れを誘導し抑制をはかり、氣で相手の生命力を高め癒しながら、無理して魔力回路にダメージを与えてないか失敗して苦しんでないか、を検証しながら少しずつ進めていく。

 

 これをひたすら繰り返していくしかなかった。正直甘くみていたわ。

 

 長期戦になってきたため、食事や氣を分け与え、声を掛けながら反応をうかがい、抱きしめて氣と魔力を流すこと約一か月。できるだけ私が付きっきりで対応した──分身に頼んだこともあったけどね。

 

 魔力と氣の神髄に目覚め、魔力制御を極限まで高めている自信があっのだけど、他人を相手にするのはまったく勝手が違っていた、私の自信は木っ端微塵に吹き飛んだわ。

 

 さすがに人?を相手に人体実験のように好き勝手するわけにもいかず、進まない進捗に心が削られる日々を過ごしてきた。体力と氣力も磨り減っていった。

 

 

 実年齢五歳(外見は前世の最後と同じくらい──17歳)にはしんど過ぎたの。

 

 

 それでも、更なる魔力や氣の神髄に近づき己の実力が高まっていくのを実感すること、肉塊に少しずつ改善が見られたこと、が(わず)かな救いではあった。

 

 もっと緻密に、もっと繊細に、もっと力強く、魔力と氣の制御は究極に達し極限まで高まり、そしてついに、完全に魔力暴走を制御しきれたその瞬間……金髪エルフの少女がそこにいた。

 

 いや、魔力と氣の制御の仕上げに夢中になって、肉塊が金髪エルフだったことにその瞬間まで気付けなかった。

 

 

 やりきったよ。あんな全身が腐った肉塊からでも元に戻せるんだ!

 

 

 開放感からか、君はもう自由だから故郷に帰りな、君の未来に幸あれってノリで、さわやかに送り出そうとしたのに、もう故郷に帰れない、助けて貰った恩は返す、もう逃さない、とか言い出した。

 

 別に見返りを求めてやったわけでは無いのだけれど。なんなら最初の出会いからして偶然だったのだから狙って助けたわけでも無い。

 

 面倒だし逃げるか!? ──とか一瞬考えるくらいあのときは頭がまともに働いてなかったんだろうなぁ。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 実は、肉塊だったときのことは最初の方は曖昧だったわ。

 

 あの魔力制御がまったくできず、魔力に無理やり悪酔いされているかのようで自力ではどうにもできなかったこと、『悪魔憑き』になってしまって見棄てられ絶望したこともあって、肉体的精神的苦痛の真っ只中で、心が折れて──壊れていたから。

 

 だから、家族に見棄てられエルフの国から追放されてから、行商人に檻に入れられて教会に売られていく途中、盗賊団に襲われてシドが見付けてくれるまでの記憶は、はっきりしていないわ。

 

 実は、最初にシドを見た時、黒い服──漆黒のメタルスライムボディースーツにロングコート──を着ていたから遂に死神でも迎えに来たのかな、と思ったことは内緒よ。

 

 それも、シドに抱き締められて声をかけてもらうまでのことだったわ。

 

「もう少し頑張って、私が救ってあげるから。」

 

 

 衝撃だったわ

 

 

 『悪魔憑き』になってから──腐った肉塊になってから、始めて抱き締めてくれた。始めて優しい言葉をかけてくれた。始めて向き合ってくれた。

 

 シドの青紫色の魔力と氣に包まれていく

 

──あれは命の色よ──

 

 思わず震えて(・・・)しまったわ。

 

 それから一月ほど、昼も夜も寄り添ってくれた。

 

 ──時々、レミーの時もあったけど──

 

 ……焦燥を深めていくあなた(・・・)には悪かったけど、私があなた(・・・)魔力(・・)()で染められていく日々は至福の時間(とき)だったわ。

 

 今でも私の身体の奥底に──きっと魂にも──刻み込まれているのを感じとることができるの。

 ──いつでも一緒、いつまでも一緒よ──

 

 

 

 ──それなのに『君はもう自由よ』とか、『これで故郷に帰れるよ』とか、『君の未来に幸あれ』って、なによ!!

 

 私をあんなにあなた(・・・)魔力(・・)()染めておいて──

 

 私は必死に訴えたわ。もう故郷には帰れないこと、助けて貰った恩は返すってこと。

 ──絶対に逃がさない──

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 一ヶ月振りにお互いにゆっくりと睡眠と休養を取った。服や着替えに食料、日常品を準備したり、拠点を整備したりした。

 

 結局、彼女には私の陰の実力者(女)の配下をやってもらうことにした。裏切りそうにないし、頭も良さそうだし、なんか無駄に有能そうな雰囲気があるし。

 

 歳はお姉ちゃんより三つ年上の十歳らしい、エルフの精神が早熟ってのは嘘じゃないみたい。

 

 そして新しい名前をちょうだい、とお願いされた。

 

 

「というわけで、君は今日からアルファだ。」

 

 

 アルファ、前世のギリシア文字で『α』アルファベットの最初の文字ね。

 

「わかったわ」

 

 彼女は頷いた。金髪、青紫色(・・・)の瞳、色白、美人、典型的エルフだった。──元は青い瞳だったそうだ。

 

 どこかしくじったか、と思ったが、貴方と同じ瞳の色で嬉しいと言われた。──いやいや私って変身前はお姉ちゃんと同じ紅い瞳なんだけど。

 

「私の名前は、シド・カゲノー、ミドガル王国北部にあるカゲノー男爵家の次女になるわ。」

 

「よろしく、シド。それで、もう一人の女の子の名前は何ていうの?」

 

 

 もしかして肉塊だった時の記憶がある……?

 ヤバい!?どうしよう?

 

 

「……レミー、って言うんだけど、ちょっと複雑で……」

 

 まさか私の分身で私から分裂しました、と言っても信じてくれないよね。

 

 よく考えたら私が変身して変装&年齢操作していることも言ってないわね……

 

「そして君の仕事は……」

 

 私は少し言葉を止めて考える。ここは重要だ。彼女の仕事は陰の実力者(女)の補佐、それは間違いない。

 

 ならばそもそも陰の実力者とは何なのか、前世無念に散ったボクの目指す陰の実力者の目的は何なのか、といった、この世界で私が目指す陰の実力者の根幹に関わってくるのだ。

 

 じーっとアルファを見る。

 

「『悪魔憑き』……。」

 

 ……アルファを(むしば)んでいた、そして二年前私の身体襲った魔力暴走の成れの果て。

 

「……『悪魔憑き』の救出と治療して元の身体に戻して助けてあげること。」

 

 

 あれっ? 

 

 

「でも、『悪魔憑き』って教会が買い取って浄化と称して処刑している、のよね?」

 

 

「ええ、そうよ……それどころか、家族に捨てられ(・・・・)、友人に裏切られ(・・・・)、国を追われ、存在さえ無かったことになって、今まで信じてきたもの全てを失い、苦痛と恐怖と絶望の淵にいたわ。」

 

 アルファはその美しい顔を歪めて言った。

 

「でも、治せるものだった。君のように。」

 

 つい先日まで『悪魔憑き』であったことが信じられないほど、傷一つ無い肌を取り戻したアルファの存在。それこそが私の言葉が正しいことを証明している。

 

「となると、なぜ教会は魔力暴走した人のことを『悪魔憑き』と呼んで貶めているの? 買い取ってまで処刑しようとするの? そこまで執拗に拘るの?」

 

 

「それは……。」

 

 

「つまり、何者かにより『悪魔憑き』の存在も教会の教義も、おそらくは歴史さえもねじ曲げられてきた……。」

 

 うふふっ。何となく見えてきたわね。“私”の陰の実力者としての目標が。

 

「君は教会に『悪魔憑き』という偽りの罪を被せられ、故郷も家族も全てを失ったことになる……。憎くはないか?」

 

 

「憎いわ。憎くない筈がないでしょう」

 

 

「教会にある闇の部分、それが私たちの敵よ。これまでの経緯から考えると彼らは表舞台には決して出て来ない。だから私たちも陰に潜むんだ。陰に潜み、陰を狩るんだ。」

 

「教会を隠れ蓑にして、表舞台に姿を現さずにそれほどの影響力を持つ存在ね。となると敵は権力者……真実を知らずに操られている人達も沢山いるはず……」

 

 私は鷹揚に頷いた。

 

「その組織を白日のもとに曝して撃ち倒す。困難な道のりだろう。だが、真実を知る私たちが成し遂げなければならない。」

 

 アルファを見つめる。

 

 

「協力してくれる?」

 

 

あなたがそれを望むなら、私はこの命を懸けましょう。そして咎人には、死の制裁を……

 ──もう、見捨てられるのもいや、裏切られるのもいや──

 ──絶対に逃がさない──

 

 

 アルファは青紫色の瞳で私を見据え、不敵に笑った。幼くも美しいその顔は、覚悟(・・)決意(・・)に満ち溢れていた。

 ──何か小声でいった?背筋がゾクゾクするのだけれど──

 

 

「わが名は、シャドウ。」

 

 

 私たちの組織の名前は……

 

 

「我等はシャドウガーデン……陰に潜み、陰を狩る者……」

 

 

「シャドウガーデン。いい名ね。」

 

 だろう、前世の“ボク”のネーミングセンスは抜群よ。

 

 今日この瞬間、シャドウガーデンが設立された。そして、私は、私なり(・・・)の『陰の実力者』への第一歩を踏みだした。

 

「とりあえず、『悪魔憑き』となりそこから治療──そうね解呪されたことで増大した魔力の制御を鍛えつつ、武術の修行を始めましょう。アルファにも強くなってもらわないと、ね。」

 

「わかってるわ。敵は強大、戦力の底上げは必須ね。」

 

「えぇ。」

 

「それに『悪魔憑き』を探し出して保護する必要もあるわね。」

 

「そうね。」

 

 『陰の実力者』が率いる組織か……よく考えないと。

 

「ひとまずは強くなることに集中しましょう。」

 

 私は用意してきた木刀を構え、最近まで肉塊だったとは思えないほど鋭いアルファの木刀を受け止める。

 

 運動センスもいいし魔力は充分(シド基準)、そこそこ使えそう。先ずは、戴天流剣術を教えよう。そして、しばらく様子を見て問題無ければ、弟子としてじっくり内家戴天流を教えていきましょう。

 

 月光の下、私はそんなことを思いながら木刀を振った。

 

 





というわけで、満を持してアルファの登場です。

登場まで6話……何に挑戦していたのだろう。


さて、本作では、肉塊のときに意識があった、としています。捏造です、念のため。

そして癒されて最初の言葉で性格が変わってしまいました。

この言葉、Web本文や書籍版にもあります。ここだけはどうしても引っかかりました。実は本作を書いた原因でもあります。

ここが共感してもらえるとうれしいのですが。

なお、名前は同じにしました、シドです。その分身なのでシドの次→レミ→レミーとなりました。

他にも捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。
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