陰の実力者…?   作:ponpon3

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 陰の実力者になりたくて! 本編の第32話です。

 本編の2ndシーズンです。

 無法都市編の話となります。


 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアとローズ、クレアとの関係も…

 気に入らない方は、そっ閉じ願います。


 ──これはそんな「if」の物語──


陰の実力者…? 第32話「伝説の赤き月」下

 

 

「もう、クレアお姉さまの意地悪。絶対向かいの(ひと)ぼくが感じてたの気付いてたよ。」

 

シド(レミー)が、可愛いのがいけないの。」

 

 魔剣士協会から指定されたホテルについて、馬車から降りたところでクレアとシド──レミーが一悶着起こしていた。

 

「だからって、他人(ひと)の見てる前で…ゴニョゴニョするなんて…」

 

「でも、いつもよりもイイ反応(・・)していたわよ?」

 

「もう! もう!! もう……… 大好き

 

「うふふん。」

 

「で…」

 

「さぁさぁ見てきなよ美しいお嬢さん方! 上物のペットが入荷したよ!!」

 

 サングラスにサスペンダー付きのズボンを履いた怪しげな店主が呼び込みをしてきた。

 

「さぁさぁ美しいお嬢さん! 見ていきなよ上物のペットが入荷したよ!!」

 

「……私?」

 

「そうアンタさ! 世界一美人なお嬢さん!!」

 

「フン、解ってるじゃない。」

 

「お世辞だよ、お姉ちゃん。」

 

「…黙ってなさい。」

 

 クレアお姉さまが反応したからか、ぐいぐいと()してくる。

 

「まぁまぁ見ていってよ、お嬢さん。朝入荷したばかり掘り出しものなんだ!」

 

「こちらが本日のオススメ、魔剣士ペットのゴールド君だ!」

 

 店主が檻に繋がった鎖を引くと、出てきたのは顔がボコボコになっている金髪の青年だった。

 

 うがぁ……と(うめ)いている。

 

「どうだい、イケメンだしお嬢さんにはぴーったりだろ!?」

 

「ボコボコじゃない、商品の手入れくらいちゃんとしなさい。」

 

「ん? なんか見覚えあるような、ないような…」

 

 レミーは思い出そうとしたが、顔がへちゃむくれの知り合いはいなかった。

 

「な~っはっはっはっはっ! 輸送の衝撃でちょっとばかり痛んじまったかな? よし、3000万ゼニーのところを2700万ゼニーにおまけしよう!」

 

「高いわね。」

 

「わかった、わーかった! なら特別にもう1匹つけよう。」

 

「匹で数えてる…」

 

「こちらも取れたて新鮮のクリキントン君だ!」

 

 次に店主が出してきたのは、逆さ吊りになった悪役プロレスラーのような男。

 

「どうだい! 2匹で4000万ゼニー! これは買わない手は無いぞ!」

 

 レミーは上の方の腹部を指さして言った。

 

「お腹切れてるよ?」

 

「おおっと、こいつも輸送の衝撃で痛んじまったか!? なーっはっはっはっはっ、やっぱり3700万ゼニーだ! これ以上はまけられない!」

 

「いらないわ。」

 

「やっぱり、どこかで見覚えがあるような、ないような…」

 

 レミーは思い出そうとしたが、悪役プロレスラーのような知り合いはいなかった。

 

「おっと、なかなかの商売上手だ! いいだろう! 3500万で手を打とう!」

 

 すると、クレアお姉さまがぼくの頭に優しく手を置いた。

 

「…あいにく可愛いペットなら間に合っているから。」

 

「なるほど! 嬢ちゃんはお嬢さんのペッ─「いや違うわよ!」─ト??」

 

 店主がとんでもないことを言い出したので慌てて否定する。

 

「さあ、さっさと行くわよ。」

 

「年下好みか……。それなら確か、入荷予定に借金持ちの魔剣士学園の生徒が……、確かガリとワサビとか……」

 

「おっ、お姉ちゃん、そんなに引っ張られると歩き辛いんだけど…」

 

「こうしないとシド(レミー)迷子になるでしょ?」

 

 ならないよ、なるわよ、なーらーなーいーよー、絶っ対なるわっ。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「なっちゃった…(迷子に)」

 

 魔剣士協会の拠点に着くと、クレアお姉さまは会議に呼ばれたの。

 

 有力な“大人の”魔剣士だけを集めて話し合いをする……とのこと。

 

 無理やりぼく──レミーを参加させようとしたけど「子供はお呼びじゃない」と、どうにもならなかったよう。

 

 クレアお姉さまは「大人しく待ってなさい」と言い残して会議に参加した。

 

 宿にいても暇だったので、ほんの少し外に出てみただけなのに…

 

 ちょっとだけ…って裏通りに入ったら、似たような路地ばかりで…

 

 

 この街が解りにくいのがいけないのよ!

 

 

「おっとごめんよ。」

 

 フードを目深に被った男が、背後からぶつかって来ようとした。

 

 もちろん、ぶつかられる前に避ける、のだけど…

 

 その男は、乙女(おとめ)のスカートのポケットから財布を掏って行こうとする。

 

 そこで素早くメタルスライムを操作して掏り返す…

 

 うん、ぼくの財布を取り返し、相手の財布も()る。

 

 これぞ因果応報よね。

 

 

「さて、どちらに行ったらいいのかしら…」

 

 

 じゃあ、こっちの方向、と歩き始めると…

 

「邪魔するよ。」

 

 ぼさぼさの髪で目を隠した男が前からぶつかって来ようとして、もちろん避けて、そして…

 

 …財布が合計三つ。

 

 こ、これぞ、この世は焼肉定食*1

 

 

 そこに柄の悪い男が背後から……もちろん避けて…

 

「悪いな嬢ちゃん。」

 

 …財布が合計四つ。

 

 え、えっとぉ…

 

 

「もう帰りなさい、嬢ちゃん。」

 

「毎度有りぃ。」

 

 …財布が合計五つ、六つ…

 

「ふぅっ、散歩*2しているだけでお金が増えていくなんて…」

 

 

 もしかして、この都市、実はぼくにとっては過ごしやすい? なぁんて…

 

 

「ちょっとレミー、一人で何してるのよ? もしかして迷子??」

 

「あっ、シ、シ──シャドウ!?」

 

「はぁっ、アナタがお姉ちゃんと一緒に行くって言うから任せたのに、何してるのかな? かな??」

 

「怖いよそれっ! それでー、あははははー。」

 

 

 シャドウは大きく溜息をついた。

 

 

 なお、シャドウの服装はアルファとお揃いのドレスを着ていた、ちょっと清楚で瀟洒。

 

 そんな恰好をしているというのに、背景に溶け込んでいて目立っていない。

 

「ホテルと逆の方向に歩いてどこに行こうっていうのよ? それに『(あか)の塔』とも違う方向よ。」

 

 バレテーラ!

 

「暗くなる前に帰らないと……」

 

 無理、一人では帰れないよぅ!!

 

「…送るわ。」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 迷子になっていたレミーを送って行く途中、とある路地の奥から怒号が聞こえてきた。

 

 

「よくもやりやがったなテメェ!」

 

「何してくれてんだコラァ!」

 

 ボカッ、ゲシッ、グアッ。

 

「こっちはイラついてんだぁよっ!」

 

「賭に負けたのもマリーちゃんにフラれたのも全部テメェのせいだぁ!」

 

 ガス、ガス、グアァ。

 

 

 無法都市の住人に、ボッコボコにされているグールが居た。

 

「あれがグール、吸血鬼の手下か……」

 

「すごくHPが高いって聞くけど、ここでは只のサンドバックと変わらないねー。」

 

「まさに弱肉強食。これぞ血と殺戮にまみれた無法都市か……」

 

 

 その時、夕焼けと反対側に上って来た、若干欠けた満月から急増した魔力の波動が無法都市を揺らした。

 

 

「「魔力の波。」」

 

 

 この波動を感じ取ったものは……そこそこいるようね。白の塔に黒の塔の主、それにレミーも…

 

 

 それにしても、赤い月の影響が出始めている…

 

 グルォォオオッッ

 

「お、おい……!? コイツ、まだ生きてるのか……??」

 

 ボッコボコにされていたグールが立ち上がり唸り始めた。

 

「あぁ………がぁ………」

 

 グウウゥゥゥゥ!!!

 

 そして、目を赤く光らせると、無法都市の住人を、その爪で一気に切り裂いた。

 

「あ……ぐっ……!!」

 

 攻守が変わり、グールは、ある住人の首筋に噛みついた。

 

「ギヤアアアァァァァ!」

 

「ひっ、うわぁぁぁぁ!」

 

 無事だった住人が悲鳴を上げて逃げだして行った。

 

 

 “グールに噛まれた人間はグールになる”というのはウワサ話でしかなく、実際は……という話らしいけど……

 

「あ……あ……うあグォア…」

 

 グールに噛まれている住人の眼も、赤く光り始めた。

 

 

 アレのせいかな?

 

『赤い月』が街中の魔力を活性化してるんだ。

 

 放おっておけばどんどん増えていきそうだけど……どうしよう。

 

 その間にも、傍観者していた私たちの方に、2体になったグールがおぼつかない足取りで近付いてくる。

 

 

 “君子危うきに近寄らず”で、いつも通り普通*3に逃げるか、それとも、旅の恥はかき捨て、って具合に派手にやってみるとか……

 

 でも、今はアルファと同じ格好をしているしなぁ。

 

 

 おや、通りの方から剣呑な気配が…

 

 

 これが前世の“ボク”なら、せっかくのゾンビパニックものだし、もうちょっと騒ぎを大きくする方向で……なんて考えそうだけど……

 

 

「伏せてなさいっ!!!」

 

 私とぼく(レミー)は、横眼を合わせると素早くその場で身を伏せた。

 

 突如後ろから騎士が現れ、グールを切り裂いて、グールは動かなくなった。

 

 その姿は漆黒の衣装に身を包み、つばの広い帽子を被った赤い髪の美しい女性だった。

 

 

 ふむ、この感じは……

 

「君は……?」

 

「私はメアリー……。『()()吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)』よ……」

 

PSYCHO(サイコ)??」*4

 

 

 どうやら解釈違いがあるように思える。

 

 

「死にたくなければ逃げろ。」

 

 彼女は冷たい声で告げた。

 

「死にたくなければ……逃げろって…」

 

 

 彼女は赤い剣を、()()()に収納した。

 

 まるでメタルスライム・ソードを納めるみたいに。

 

 いや、あれはメタルスライムというよりは、ヴァイオレットさんが操っていた血のような…

 

 

「暴走が始まる」

 

「暴走が……始まるの?」

 

 

 なんだろう、この状況は全てわかってます、って感じは?

 

 

「月が赤い。もう……時間がない。」

 

 続けて告げる彼女の赤い眼をよく見てみると、瞳孔が縦に裂けていた。

 

「時間が……ない?」

 

 

 彼女は身をひるがえすと、路地の建物の側壁を蹴って上に飛び上がり、建物の上を跳ねるようにして去っていった。

 

 …なお、念のためにメタルスライムを指弾でコートに引っ付けておいた。

 

 

 でも、これは……なんなのかなぁ?

 

 この感情は??

 

 この胸の痛みは……

 

 この……どこか懐かしいような……この身体(にくたい)が反応しているかのような……

 

 

「レミーも感じた? なんというか身体が懐かしく思っているかのような感覚?」

 

「シャドウが言うほど感じなかったけど、どこか引かれるものを感じたかなー」

 

 ふ~む。

 

「少し戻る時間が遅くなりそう。アルファが怒らないといいなぁ……」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「……痛っ……!」

 

 無法都市、白の塔の配下の商館で娼婦を営むマリーは、自室兼()()に使うベットの上で、身を起こして呻いた。

 

「ちっ、あの狒々爺……!」

 

 身体のそこらかしこに残る暴力の痕から来る痛みを堪えてベットに横になった。

 

 そのままベット寝そべって天井を見上げた。

 

「……いつまで続くんだろう。」

 

 そとから、悲鳴と怒号と、物が壊れる音が聞こえてきた。

 

「何? またケンカ……」

 

 マリーは身を起こして窓から外に眼をやった。

 

「人が不幸に浸ってる時に……」

 

 ……えっ? これは??

 

 外では、多数のグールが、見境なく人を襲っていた。

 

 その時、部屋の入口から、物音と唸り声が聞こえてきた。

 

「はっ、だれよ……、今日はもう客は……」

 

 部屋の入口を見ると、先ほどまでいた狒々爺がグールとなってそこに居た。

 

「ひぃっ!」

 

「ウゥ……アアァァ!!」

 

 グールがゆっくりと迫ってくる。

 

 マリーはベッドの上を後ずさるが、背後にはすぐ壁と窓があった。

 

 グールは鋭い牙を剥き出しに、マリーに襲い掛かってきた。

 

 

 その瞬間、マリーは死を覚悟した。

 

 

 しかし、次の瞬間窓が斬り裂かれ、眼の前のグールを粉微塵に切り裂いた。

 

 

「死にたくなければ逃げなさい。」

 

 瞳に映ったのは、顔にマスクを付けて漆黒のロングコートを纏った女剣士だった。

 

「暴走が始まるわよ。」

 

「暴走……?」

 

「月が赤い……、もう時間がないの。」

 

 身をひるがえして窓から出て行こうとする。

 

「あぁ……ま、待って、あ……あなたは?」

 

「我が名は……秘密よ。」

 

 器用に左目をウィンクした。

 

「さぁ死にたくなければ逃げなさい。暴走が始まるわ……」

 

 次の瞬間その女剣士の姿は消えていた。

 

「月が赤い……、もう時間がない……」

 

 声だけだマリーの耳に響いた。

 

 

 窓から月を見上げる。

 

 そこには赤く染まった満月があった。

 

 最近、なぜか赤い月。

 

 マリーは不思議だったが、仲間の娼婦たちは誰も気に留めていなかった。

 

 月が赤くても、世界は何も変わらない……そう思っていた。

 

 

「マリー! マリー平気!? 外でグールが……」

 

 娼婦仲間がマリーの部屋に駆け込んできた。

 

 そして、マリーの部屋に転がるグールだったものを見つけてしまう。

 

「って、わっ!? どうしたのコレ……!」

 

「これは……謎の……漆黒のコートを纏った女剣士が……」

 

「漆黒の女剣士?」

 

「知ってるの?」

 

「え、えぇ、風の噂だけどね。」

 

 そこで、声をひそめて話し出した。

 

「聖教会に巣食うディアボロス教団相手に闘っている正義のミカタっぽい人たちだよ!」

 

 ここの支配者どもと同じくらい……ううん、比べ物にならないくらい強い奴らさ、そう小声続けた。

 

「……あの(ひと)は……きっと悪い人じゃないよ。」

 

 そう言って、非常時に持ち出すための荷物を引っ張り出した。

 

「何してんだいマリー?」

 

「逃げるの、この狂った街から。」

 

 そこに、今日の収入等も手当たり次第に詰めていく。

 

「足抜けする気!? バレたら只じゃ済まないよ!?」

 

 それを無視して準備を進める。

 

「ありがとう、漆黒の女騎士さん。」

 

 いつの日か漆黒の女騎士に恩を返すことを心に決めて、マリーはどさくさに紛れて逃げ出すことにした。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「逃げたければ逃げなんせ……。運が良ければ浮かぶ瀬もありんしょう。」

 

『白の塔』の主、ユキメは、『白の塔』の自室の窓から赤い月を見ていた。

 

 自慢の鉄扇に付いた鈴の音がユキメの動きに合わせて鳴り部屋に響いた。

 

「ま、過去が逃してくれはることはありんせんが……」

 

「ユキメ様」

 

「吸血鬼どもが街にグールを……!」

 

 配下のナツとカナが状況を報告にやって来た。

 

 ユキメは鉄扇を閉じると、立ち上がって向かうことにした。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「お姉ちゃん言ったわよね? ちゃんと宿で待ってなさいって。」

 

 これはお仕置きが必要ね。

 

 作戦会議が終わって魔剣士協会が取った宿の部屋に戻ったクレアは、重苦しい声で宣言した。

 

「あのシド(レミー)、どこ行ったのよ。」

 

 もぬけの殻の部屋の前で立ち尽くしていると、悲鳴を上げて裸の男が隣の部屋から飛び出してきた。

 

「うひぃひぃ、うわぁあぁあぁあ」

 

 情けない悲鳴を上げている。

 

「グワァアアア」

 

 それを追いかけるように元娼婦と思しきグールが、牙を剥き出しにして飛び掛かろうとした。

 

 

 ──眼の前で見捨てる訳にもいかないわね。

 

 クレアは右足を一閃してグールの頭部を消し飛ばした。

 

 頭部が亡くなったグールは、動きを止め、そのまま男に倒れ込み、男が抱きしめることになった。

 

「うわっわっわっわっわっ、は~~っ、た、助かった…って、ひっ」

 

 失礼なことに、こっちをみて悲鳴を上げそうになった男に聞くことにした。

 

 

「ねぇ、この部屋にいる娘を見なかった?」

 

「し、知らないっ!」

 

 男は震えながら答えた。

 

「そう」

 

 クレアは、部屋の中に入って扉を閉めると、窓に近付いてシド──レミーの氣と魔力を探査することにした。

 

 息を吸って、丹田に氣を溜める。

 

 ──扉の外から、男の玉切れるような悲鳴が聞こえてきたが無視する。

 

 

 眼をつぶると氣と魔力を周囲に円を描くように飛ばした。

 

 まだ修行中のため、精度は良くはないが、二人(シドとレミー)の反応を感じ取ることができた。

 

 氣を使う人の気配を、街中のそこかしこで感じたので、ガーデンも対応しているのだろう。

 

 二人(シドとレミー)の反応は、歓楽街の方からで、一つはそこから魔剣士協会の作戦会議場所を経由して『紅の塔』に向かっていることがわかった。

 

 おそらくレミーは歓楽街で人助けをしているのだろう。

 

 シドは……『紅の塔』の攻略でも始めたのだろう。

 

 

「こうなるとわたしは…」

 

 そこで、メタルスライム通信を思い出して、レミーに繋いだ。

 

 ………レ・ミ・ィー?

 

 ………うひゃぁ、お、お姉ちゃん!?

 

 ………お姉ちゃんも今からそこに行くから、グールを蹴散らしておきなさい。

 

 ………ひぇっ。

 

 窓を開け放つと、歓楽街に向けて最短距離を、建物の屋上や屋根の上をパルクールで駆けだした。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、クレアお姉さま。」

 

 シド──レミーが私に土下座して謝っていた。

 

「お姉ちゃんは言ったはずよね? ちゃんと宿で待ってなさいって。」

 

 すでに周囲のグールは、合流したクレアとレミーで殲滅していた。

 

「すいません。すいません。ちょっとだけって……できごころで外に出て道に迷って……」

 

「それが何で歓楽街でグールを殲滅することになっているのよ?」

 

 クレアの紅い眼がレミーの同じ紅い眼を射抜くように見た。

 

「それは、成り行きっていうか……」

 

 

 そうしているクレアたちの後ろに、一人の影が近付いてきた。

 

「ここら辺一帯のグールを殲滅したのはアナタたち?」

 

 ええ、そうよ、と一瞥もしないでクレアは返事を返した。

 

「そんな強いアナタたちにお願いがある。…私は『血の女王』の元に行く必要がある。」

 

「血の…女王……?」

 

 ()()吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)、メアリーは見上げた。

 

 クレアとレミーも視線の先を追った。

 

「「『紅の塔』……」」

 

 

「『血の女王』は、居城の『紅の塔』に居る。千年の眠りにつく『血の女王』エリザベートを蘇らせるために、配下の吸血鬼たちは、若い男の生き血を贄として捧げようとしている。」

 

「ちょっと待って。『血の女王』が眠りについているなんて情報は……」

 

「ぼくも聞いたことが…… あったな、そう言えば。

 

 納得した様子を見てとって、メアリーは続けた。

 

「奴らは()()を隠し、待っていた。」

 

 そして、視線を月に向けた。 

 

「千年もの間……吸血鬼に絶大な力を与えたあの夜を、『赤き月』が、再び登る夜を……」

 

 

「確かに最近月が赤く見えていたけど……」

 

 メアリーは断定するかのように強く告げた。

 

「赤き月は眠れる女王にも影響を与える。呼び水として贄の生き血があれば必ず……」

 

 クレアは少し考えた後、聞いた。

 

「とにかく『血の女王』は『紅の塔』にいるのね? そして『血の女王』はまだ復活していない、と。」

 

「えぇ、私の目的は『血の女王』エリザベート、『紅の塔』へ向かう必要がある。」

 

 しかし、戦力が足りなくて困っていたところなの、そう付け加えた。

 

 

「そこで協力して欲しい、ということね。で、目指す場所は『紅の塔』の最上階ってところかしら?」

 

 クレアとレミーは視線を交わす。

 

 ………お姉ちゃん、どうする?

 

 ………どうせ討伐するんだから、一緒にやっちゃいましょう。

 

 レミーは頷いた。 

 

「では協力しましょう。えっと……」

 

「メアリー、吸血鬼狩りだ。」

 

 右手で握手を交わす。

 

「私はクレア、で、こっちは……シドよ。」

 

「地上からの侵入は難しいが方法はある。……ついてきて!

 

「ええ! 行くわよシド!」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ウァアハッハッハッハッハッハァ!」

 

「ジャガノートの頭」

 

『黒の塔』の『暴君』ジャガノートは、吸血鬼とグールによる侵攻を聞いて嗤っていた。

 

「いいじゃねえか。でかい戦の匂いだ。」

 

 その巨体を、陰になびかせながら、戦いを前に昂っていた。

 

「前の獣人共の大侵攻以来だ…」

 

『暴君』ジャガノートは出撃した。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 魔剣士協会は後手に回っていた。

 

 一流の魔剣士を揃えてグールたちの暴走に対応するものの、強化されたグールと圧倒的な物量により消耗していった。

 

 消耗した魔剣士から…

 

「潮時だ! 引くぞ!」

 

「屋根伝いに駅まで走れ!」

 

 勝手に撤退する旨の怒号が飛び交っていた。

 

 

 魔剣士協会の指揮を任されていたクローディア課長は、思わず叫んでいた。

 

「あなたたち何を勝手に……! それでも協会の魔剣士なの!?」

 

「テメェらのメンツなんざ知るか!」

 

「割に合わねーんだよ! こんな仕事!」

 

 クローディアは歯を喰いしばりながら呻いた。

 

「ちっ……あの、薬草拾いどもめ……!!」

 

「課長! 表通り、もう無理です!」

 

 ドガシャッ!!

 

 その時、破砕音と共にバリケードが破壊され、グールが流れ込んできた。

 

「ここまでぇ……!」

 

 ヴァ……

 

 グールが唸りながら近付いてくる。

 

 このままでは…クローディアがそう思った時、数条の青紫色の閃光が走った。

 

 

「えっ?」

 

 

 目の前に居たグールが、瞬く間に殲滅されていた。

 

 

「このままではじり貧です。暴走が始まる前に、()が単独で『紅の塔』を落とします!」

 

「あなたは……」

 

()()()()()()()()()、今年のブシン祭の優勝者です!」

 

「こ、こいつ、ブシン祭でフェンリルって奴を討伐した……!?」

 

 魔剣士達が騒ぎ始めるなか、シドは宣言した。

 

「月がこんなに赤く……、もう時間がありません。残された時間はわずかです。行きます!」

 

 そして、『紅の塔』目掛けて、屋根伝いに走り出した。

 

「……頼んだわ。」

 

 そして、周りを見廻すと、指示を下した。

 

「……各自バリケードを組みなおして! 彼女が討伐するまで耐えるわよ。」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『紅の塔』の屋上の棺の前に、ワインレッドの髪の男が立っていた。

 

「クリムソン様まもなく贄の準備が整います。」

 

「そうか」

 

 吸血鬼クリムゾンは静かに答えた。

 

「都市の制圧ですが計画通りに……いっておりません。その……」

 

「その?」

 

 クリムゾンが怪訝そうに聞き返した。

 

「その……全体的に予想外の抵抗が……」

 

「フン、どうせ奴らだろう。おがましくも我と対等だなどとさえずる愚か者ども……」

 

『白の塔』の主、妖狐ユキメ

 

『黒の塔』の暴君ジャガノート

 

「精々好きにさせておけ、どうせ『血の女王』の復活と共に、奴等は終わる。」

 

「はっ、……あ、いえ、ですが、もう一人……」

 

「何?」

 

「何者かが街中でグールを殺して回っているようで……増援として向かわせた吸血鬼すら一掃されてい

ます。」

 

「なん…だと……?」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

『紅の塔』へと向かう3つの流れがあった。

 

 一つは、暴れ狂う『暴君』

 

 その男は、褐色の巨悪。巨大な鉈のような鉄塊を振り廻し、グールを力任せに両断する。

 

「ウァアハッハッハッハァ! 雑魚は引っ込んでろぉあ!!」

 

 

 もう一つは舞い踊る『妖狐』

 

 その女は、妖しい美貌の白銀の狐人。

 

 珍しい9本の尻尾が深夜に輝く。

 

 

 その光の壁を引き裂いて、ジャガノートが飛び込んできた。

 

「くたばれ女狐ぇ!」

 

「ほんまに……邪魔くさいでありんすなぁ。」

 

 ユキメは、ジャガノートの巨大な鉈の斬撃の連撃を、鉄扇と尻尾を使って逸らした。

 

 勢いに押されたユキメが宙を舞った。

 

「大口開けて臭い息をまき散らすのはやめなんし。」

 

 空中のユキメに向かってジャガノートが突撃を開始する。

 

「獣臭ェのはテメェだろうが!」

 

 空中で姿勢を整えたユキメの尻尾がうなる。

 

「しつこい男は……好かんわ!

 

 

 再度二人が動き出そうとしたその瞬間、最後の流れがそこに合流した。

 

 

 

 敵がどれほど強大でも何も変わらない。

 

 例え誰かがどこかで新たな悪事を紡いでいるのだとしても。

 

 私のすることは変わらない。

 

 シャドウ・ガーデンによる世界平和を実現するため!

 

 そして、私なりの『陰の実力者』を目指すだけ!!

 

 

 ジャガノートとユキメの間に上から割って入り、盛大に着地を行う。

 

 着地衝撃が周りを吹き飛ばし、ジャガノートとユキメも顔を防御する。

 

「てめぇは……!?」

 

 ジャガノートが唸るように聞いた。

 

「ぬしは……? (これは…シャドウ様モードでは無い?)

 

 ユキメは少し混乱した。

 

 シャドウ様が来る、とのことだったが…

 

「我が名は、シド・カゲノー。『紅の塔』を討伐するものよ!」

 

 

 

*1
─正常な誤字です─

*2
─自称です─

*3
─本人の主観です─

*4
─意図的な聞き間違えです─






 陰の実力者…? 本編の第32話です。

 GWパワーでなんとか書けましたので、できたところまで更新します。

 本編も無事、2ndシーズンに突入できました。

 無法都市編、シドが仲間にいますので、展開は変わっています。

 基本カゲマス準拠です…が、オリ展開です(開き直りっ)。

 カゲマスでのネタバレが酷くて、オリキャラ・オリ展開にしかなりませんでした。


 本作品では、アルファたちの出会いや年齢などがズレ、みんなの性格や嗜好も変わりました。アレクシアにローズ、クレアも… 性癖全開です。


 この設定が気に入ってくれると嬉しいのですが。

 他にも色々と捏造した設定がありますので、読む際は注意願います。


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