推しの子 ×暴れん坊将軍 作:もう死にます
原作:推しの子
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト 転生 クロスオーバー 暴れん坊将軍 徳川吉宗 デーンデーンデーン 出会え系 そちらの上様であろう、早々に何とかせい。 上様ご乱心
時は寛延四年六月二十日。
日ノ本の政の中心地、江戸に聳える城の一室で、一人の男がその命を終えようとしていた。
男の名は徳川吉宗。
徳川幕府八代将軍であり、享保の改革として幕府の行政を正し、民からも、家臣からも慕われてた将軍だ。
この男が人々から慕われた理由は多くある、だが何より人の心を多く射止めたものは、男自身の行動力であろう。代官や官僚などが不正をすれば直接乗り込み己が手で成敗し、弱きものが泣いていれば助太刀や本懐を遂げる手伝いをする。何時しか、そんな彼を人は畏敬と敬愛を込めて『暴れん坊将軍』と呼んでいた。
だがそれも今は昔。
かつて全身から溢れんばかりだった活力は見る影もなく、筋骨隆々だった肉体はげっそりと痩せ細り、今は布団に仰向けとなり虚ろな表情で天井を眺めている。横では親族や家臣達が必死に話しかけてくるが、その声さえ満足に聞き取れなかった。
将軍職を長男である家重に譲ってはいるが、彼は将軍には若過ぎる。この日ノ本を思うと、死んでも死に切れぬというのに、もはやそれは叶わぬと悟れるほど病魔は吉宗の身体を蝕んでいた。
思い返せば、愉快痛快で数奇な人生だった。
征夷大将軍に任じられたのは、確か三十二の頃であったか。思えば悪党どもの成敗を始めたのもその頃だった。様々な改革を行い、経済も政も正し、民の為にと躍起になっていた事を今でも鮮明に覚えている。
吉宗が病に伏せたのは、将軍を引退し、大御所として政を担う事になった翌年だった。右半身麻痺と言語障害の後遺症が残ったが、何とか回復し、一度は江戸城の西の丸から本丸まで歩く事が出来る様になったものの、今思えばあれが蠟燭の最後の灯だったのかもしれない。
そして将軍を引退してから六年が経った今、容態は突如悪化。家臣たち祈りや、医者たちの懸命な治療の甲斐もなく、吉宗は危篤に立たされていた。不思議と死に対する恐怖は無かった。ただあともう少し命を惜しく感じるのは。やはり将軍吉宗とて人の子である証なのでであろう。
目を閉じて見れば、走馬灯の様に過去の出来事が瞼の裏で甦る。忠房と過ごした幼少の頃、越前守と道場で切磋琢磨した日々、め組の者達との触れ合い。
満たされた生涯だった。日ノ本の事や幕府の事など為政者としての心残りは幾つかあるが、人として多くの者と出逢い、温かい人生を送った吉宗は自分の一生に満足していた。
(願わくば……余が死した後も、民に幸が有らん事を……)
その夜、一筋の流星が堕ちた。
徳川吉宗。享年六十八歳。人を愛し、人に愛された将軍はこの日、多くの人に惜しまれながら眠る様に息を引き取り、激動の人生に幕を下ろしたのだった。
◇
それから数百年後。
ーーー現代。
「今日の予定はここまでか……」
役員会が終わり、幾ばくか軽くなった体を運びながら俺は事務所を出る。この世に再び生まれ落ちてから20年、もうこの時代の生活にも慣れた。
外の景色を観てみれば、随分と江戸の景色も変わったものだ。前世は建物の殆どが木組みだったが、今では鉄筋コンクリートを用いた物が殆どであり、前世の頃とは比べ物にならない程頑丈だ。これで民たちの心労も少なくて済むのは時代が生んだ恩恵と言えよう。
本当に多くの物が変わった。町の中で当たり前のように行き交う自動車も前世では考えられない代物だ。もし江戸の世にこれが有ったのなら、参勤交代なども楽にする事が出来たであろう。
―――余、徳川吉宗が死んでから。彼是250年の年日が過ぎた。
そう、あの時余は家臣一同に看取られ、病により生涯を追えたはずだった。だが意識を取り戻すと、身体が縮んでおり、何故か赤ん坊になっていたのだ。正直最初は状況を読み取ることができず、己の正気を疑った。だが年月が経つにつれて徐々に自分が置かれている状況が分かり始め、生後3か月にして自分が俗に言う『生まれ変わり』を体験した事に気付いた。
それから先は色々あった。本当に色々とな。今生の知識を学ぶために書物を読み漁った事も有ったし、いざという時に動けるように武芸の稽古にも励んだことも有った、だが何より転生してから最初に案じた事は、幕府の事と徳川家の事だった。
だが調べてみた結果、余が知った真実は、正に目から鱗が落ちるものだった。なんと幕府は俺が死んでから116年後に政の権限を朝廷に返還しており、紆余曲折あった現在では民たちが政を行っているのだ。
流石にこの吉宗も頭を抱えた。自分が生まれ変わってみれば、何百年もの間日ノ本を動かしていた幕府が存在していない等、悪い冗談にも程がある。 だが歴史書に書かれていた黒船来航や尊皇攘夷、戊辰戦争の事などを知れば、信じる他無かった。
勿論今生の世に不満はない。今生の御両親も朗らかで良い御方だし、何より技術の進歩により民たちは多くの恵みを得た。今の自動車は馬や籠とは比べ物にならない程早いし、ネットも便利だ。
民が政を担っている事を聞いた時は少々不安を感じたが、特にこれと言って民達を、異国との交易も良好だ。何も心を裂く事は無い。
だが光がある所には必ず闇が在る。 よくニュースでは政治家の汚職や犯罪などが報道されており、それが理由か稀にだがこの日ノ本の事が心配になる事が有るのだ。勿論今生でもそう言った輩の成敗はしてきたが、既に将軍ではない余が政をする事も叶わない為、根本的な解決にならない。
今は只々祈るばかりだ。願わくば、天には輝きを、地には恵みを、民に幸せを……と。
今の俺はもう政に携わる身ではない、それに今の俺はもう既に株主として地位を固めている。この株主と言うものは前世での公儀の仕事と似ている。相手を役割を見極め、財を用いてその手助けをする。そして上手く行けばその分の報酬を得られる。
だが役員会や株主総会で見るものは、誰も我が身の財を可愛く思う者ばかり。思えば文明の発達と引き換えに人の心意気も変わったのかもしれない。それが何とも嘆かわしい。
これまでの事を思い返しながら駅までの道を進む、いつもなら車で来ているが、今日は特別に電車で向いたい気分だった。しかしこの電車というのも便利な物だ。まさか車よりも早く、しかも多くの民が長い距離を移動できるとは。初めて見たときは呆気にとられたものだ。
「……む?」
だが電車の中で異様な気配を感じ、思わず顔を向ける。そこには黒いフードを被り、両手に白い花束を抱えた男が一人。この時代には珍しい強い殺気を漂わせている。
確か西洋では花束を女子に渡す事は己の恋心への表しと今生で聞いた事がある。だがこの異様な殺気は一体。
次の駅で電車が止まると、男はそそくさと電車を降りる。あの男、どうにも引っ掛かる。それに妙な胸騒ぎがするのは何故だ。俺も男に続く形で電車から降りるが、男は変わらず道を歩く。
やはりこの男、どうにも挙動不審だ。前世ではあの様な者を山程見てきた。あの男は何か良からぬ事を企むの目を持っている。
気配を殺し、男の後を追う。すると男はマンションの中に入り、階段を昇っていく。俺も続いて後ろを付いていけば、男は一部屋の扉の前へと足を止めた。
男がインターホンを鳴らせば、ガチャリと音を鳴らし扉が開き、一人の女が顔を見せた。
「はーい。」
「ドームライブおめでとう。双子の子供は元気?」
瞬間男が漂わせている殺気が一段と強くなる。花束を落とせば男の手に握られているのは、キラリと光を反射した短刀。まさかこれが目的か?!
俺は急いで男に駆け寄ると、女と距離を離すために勢いよく男を突き飛ばす。
「え? あ、あの……」
「下がっておれ。」
俺は女子の方を先に下がらせると、男へと向き合う。だがこの女子、何処かで見た事が有るような……だが随分怯えているな。彼女の為にも男をどうにかせねば。
「クソッ! クソッ! なんだよ、何なんだよお前ぇ! アイを殺せねぇじゃねぇか! 邪魔すんな!」
「生憎だが今のお前を見過ごせる程、俺はお人好しではない。それに女に刃物を振りかざすなど、言語道断!」
「う、うるせぇ! この女はアイドルの癖に子供を作りやがったんだ! 今まで散々好き好き言っていたくせに今まで騙しやがって!この嘘吐きが!」
未だに茫然自失の状態の女子はアイドルだったか、通りで見たことある訳だ。それに部屋の奥を見て見れば同じく立ち尽くしている金髪の子供が一人、成る程、コイツの話を聞いてみるに、想い人のアイドルが子供を産んでいた事に腹を立てて事に至ったという事か。
「だが何も命を奪う必要も無いだろう。早くそのナイフを置け。」
「黙れ! 黙れ黙れ! 邪魔するならお前からぶっ殺してやる!」
男は怒り心頭になり、ナイフを事らに突き出して突っ込んで来る。ダメだ、話が通じない。あまり手荒い事はしたくないが、止むを得ぬか。
「ガッ!」
俺はナイフを片手で捌き、素早く男の首元に手刀を当てる。相手は急所に強い当身を食らった事により、一瞬で意識を刈り取られ、膝から崩れる様に倒れた。
「……無事か?」
「え?あ、うん……」
男が気を失った後、俺は女子に話し掛けて無事を確認する。見た所怪我は無さそうだが、万に一つと言う事が有る。
「今、警察に連絡する。また何が有るか解らないし、お前たちは部屋に入っておれ、この男は俺が見ている。」
「う、うん……その……ありがとうね。」
俺に礼を言う女子、だが倒れた男が気になるのか、少し扉から体を出して顔を覗き込もうとする。
「‥‥知り合いか?」
「う、うん……リョースケ君?だっけ。よくライブに来てくれた人なんだけど‥‥‥‥ね。」
やはり知り合いに、しかもアイドルをやっていてそのファンに襲われる事は辛いらしく、先程九死に一生を得た事もあってか、彼女の顔色は最悪とも言える。
「……取り敢えず今は外に顔を出すのは止めておけ、すぐに警察を呼ぶ。それまでコイツが眼を覚ましたら厄介だ。」
「う、うん…」
「あ、あの!」
女子を部屋に押し込み、扉を閉めようとした直後、部屋の奥から金髪の子供が駆け寄ってきた。
「どうした?」
「その……母を、アイを助けてくれて、本当にありがとうございます。」
子供は此方に来たと思えば勢いよく頭を下げて来た。やはり子供にとって母とは話すことが出来ない物、この子はそれを無くすところだったのだ。それらを含めて、子供も女子も危なかった。
「なに、大した事はしていないさ。君は母の危機に駆け付けたのだろう、立派だぞ。」
「いや、そんな…」
謙遜する様な顔を見せる金髪の子。しかしこの子随分早熟だな、謙遜する程の社交性が在るとは。だが世辞抜きで十分誇れつ事だと俺は想う。何せまだ3つ程の子供が果敢にも母の危機に察知し、助けようと果敢に駆け付けたのだ。
「さ、キミも早く部屋に入りなさい。そろそろ警察が来るが、襲って来る者が一人とは限らない。」
「は、はい。あ、あの!せめて名前を聞いても?」
母に連れられながら部屋に入る子供、母の方も気になったのか此方に振り返っている。
「俺は徳田新之助。貧乏トレーダーをしている者だ。」
徳田新之助。俺がかつて前世で街を視察する際に名乗っていた偽名だったが、今生では本名として名乗る事になるとは、皮肉なものだ。だが『貧乏旗本の三男坊』と言わなくなったことは、きっと多少なりともこの時代にも慣れて来たという事だろう。
「行こ、アクア。」
「う、うん。」
母に連れられて今度こそ部屋へと戻って行く。俺はしっかりと二人が部屋の中に入った事を確認すると、扉を閉め。倒れた男に向き直る。そして数秒後、遠くから近づいて来るパトカーのサイレンが耳に届いた。どうやら警察が来たらしい。その後、男は無事に逮捕。俺も簡単な事情聴取を受けた。
すっかり日も暮れ、夕焼け空をじっと眺める。この空も江戸では一点の曇りもない美しい物だったが、今では大気の汚染により、あの時程壮大に感じない。この時代になって本当に多くの物が変わった。文明も、空も、何もかも。だが皮肉な事に、人が暴挙に走る邪心と言うのは今も昔も変わらないのかもしれん。
余はかつての江戸と今の東京を重ね合わせ、警察署から家までの帰路を歩むのだった。
続きは上様に成敗されたのでありません。
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