蒼焔の艦これ   作:Jeep53

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2.着任

 何かが起動した。私が慌てて仕舞おうとするが、できない。これまではできたはずなのにその画面は言うことを聞かない。

 この画面が他人に見えてないことはこれまでの経験から知っているが、それでも焦る。爆発などはしないだろうけれど、気になる単語が記されていた。

 

「OS”蒼焔の艦隊”…?オペレーティングシステム?何これパソコン?」

 

不思議に思って変わりゆくその画面を見つめる。画面は少々のロードを挟み、懐かしい画面を映し出した。

 

『…蒼焔の艦隊』

「おぉ~…どういうこと?」

 

それはゲーム「蒼焔の艦隊」のスタート画面であった。背景で映像が流れておらず、真っ黒なこと以外は前世でやっていたゲームとそっくりそのまま同じ画面である。見慣れたロゴに、「Touch Screen」の文字。さすがに引き継ぎ等の項目はなかっけどね。とりあえず触ってみようか…?

 意を決して画面を触る。ローディングの後、ホーム画面が表示された。まぁ当然Lvは1。そして本来なら船が映っているところは、空白だった。艦隊メニューやサルベージ等の画面があるはずのところも空白。唯一触れそうなのはウインドウの閉じるボタンだけのようだ。

 

(とりあえず、閉じて第一艦娘さがそっかな。この変なウインドウに左右されてる場合じゃないわ)

 

 気を取り直し、私は鎮守府の本棟へと歩みを進める。扉にカギはかかっておらず、難なく開けることができた。だが扉は軋み、蝶番は一部さび付いている。廊下も少々埃がたかっている場所が見受けられ、碌に清掃と整備がなされていない。そして今、執務室がある2階最奥まで向かっているのだが、どこかから視線を感じる。それも殺気強めの。どうやら私は歓迎されていないようだ。これは多少の衝突は避けられないかもしれない。

 

 そうこうしている間に、「執務室」と書かれたプレートがかかる部屋の前まで来た。ドアノブに手をかける前に気づいた。部屋の中に誰かいる。人数までは分からないけど…。え?開けた瞬間殺されたりしないよね?…えぇい、ままよ!

 

 部屋の中には前世で見慣れた姿があった。どうやら本部からの書類整理をしているようだ。彼女は私に気づくと立ち上がり、敬礼をした。

 

「お出迎えに上がれずすみません、この基地の艦娘代表を務めております、扶桑型戦艦二番艦、山城と申します」

「今日付でここに配属となった、明城(アケシロ)です。よろしくお願いね」

「まさか女性の方とは思いませんでした」

「ははは…」

 

 扶桑は私に近寄りしげしげと眺める。女性提督が珍しいのだろうか、と楽観的に考えていたのだが、ふと目が合った時に感じた。アカン、ハイライトがない。これは表面上取り繕ってるけどその実心中穏やかでないタイプだ。やっぱりブラック鎮守府だったのかな?

 

 


 

 

 マズいですね。提督がもう着任するとは。先ほどは方便で何とかごまかせたが…。大本営め、代わりの駒ならたくさんいるということか。あまり礼儀を重んじるタイプでないことはありがたいですが、どうせこの方も私たちに配慮などしないでしょう。むしろこういう自分のことしか考えてなさそうなタイプが一番危なかったりします。何とかしてこちら側で手綱を握ることができれば仲間たちの消耗を減らすことができる。短絡的な行動に出たくはありませんでしたが…。

 私が腰に手を伸ばした時、提督が口を開いた。

 

「それで山城さん。ほかのみんなはどこにいるのかな?扉の向こうにいるので全員?」

「なっ」

「はい動かないで。艤装を装備してないときは君たち常人よりちょっと丈夫なだけなんだから」

 

 提督の言動に気をとられた一瞬、提督の九四式拳銃が私に向けられる。クソッ、失敗だ!

 

「今ので分かったよ。だいぶつらい環境だったみたいだね。私は話し合いがしたい。だから扉の向こうの君たちも、入って来てくれないかな?」

 

 


 

 

 こっわ。好感度0どころの話じゃないですよマイナスですよこれ。腰にしっかり拳銃持ってたし。自分の拳銃すぐ出せるようにしておいて本当に良かった。職場において部下に手綱を握られるのが一番マズい。山城に拳銃向けるのは心が痛むけど…!

 扉が開いて7人の艦娘が入ってくる。中にはボロボロの子もいる。どの子の眼もネガティブな感情を映し出している。

 8人が整列したのを確認して、私は拳銃を目の前においた。敵意がないことの証明になるといいんだけど。

 

「これで全員かな?一応自己紹介を頼むよ」

「…そうです。では改めて。扶桑型戦艦二番艦、山城」

「航空母艦、赤城」

「最上型三番艦、または鈴谷型一番艦、鈴谷」

「天龍型軽巡洋艦一番艦、天龍」

「吹雪型駆逐艦一番艦、吹雪」

「白露型駆逐艦四番艦、夕立」

「陽炎型駆逐艦二番艦、不知火」

「伊号第百六十八型潜水艦、伊168」

 

 とても事務的だ。原作では結構特徴が強い子たちだったと思うけど、前任の影響か、全て抑え込んでいるようだ。艦娘には生まれ持った性格があるのは判明しているが、それを嫌う人も多い。前任はそういう人だったのだろう。軍としては正しいが、艦これとしては正しくない。

 

「紹介ありがとう。まず初めに、私が提督の間は言論規制は行いません。自由に話してくれて構わないわ」

「何故でしょう」

「だって、窮屈じゃない」

「…は、はぁ…」

 

 あからさまに警戒されてしまった。いや、呆れかもしれない。だが今ので駆逐艦組の表情がちょっと揺らいだ。他艦種と比べて傷は浅いようだ。

 これは、考えたくもないことだが、この子たちの前にいた駆逐艦の子たちは…おそらく、沈んだのだろう。駆逐艦は他艦種と比べ脆い。ブラック鎮守府運用がなされていたと考えると、彼女らはここにきて日が浅いという理由で表情の揺らぎが説明できる。

 逆にいえば、駆逐艦より堅牢で、長期間個々の鎮守府に勤めている子たちほど傷は深いのだろう。その傷が消えることはないだろうが、段々とその傷が癒えるような運営をしていきたい。

 

「では提督として最初の指令です」

 

 息をのむ音が聞こえる。

 

「全員、補給を終え、入渠を済ませ、一九〇〇までに食堂へ集合すること」

「っはい?」

 

 山城が間抜け顔をさらしている。かわいいね。

 

「聞こえなかった?それとも資材足りない?」

「いえ、そういう訳では…」

 

よかった。腐っても最前線、一定の資源はあるようだ。

 

「ほら早く行った行った。おそらく見た感じ天龍は中波常態でしょ?早く行かないと間に合わないよ」

「…はい」

 

これは重傷だ。天龍がこれか。結構つらい道のりになりそうだなぁ。

 

 艦隊全員が工廠または入渠ドックへ向かったところで私は提督椅子の背もたれに深く腰を預ける。彼女らは戦力として使えるかどうか以前に、メンタルがボロボロだ。これでは出撃しても本来の力は到底出せそうにない。私が思い描いている鎮守府ライフを送れるのはかなり先かもしれない。

 さて、私に一人になったことで堂々と例のホログラムをいじくりまわせるわけだ。起動すればそこはもうホーム画面。真っ暗だったホーム画面は俯瞰で撮ったこの基地の全景であり、どうやらリアルタイムのようだ。着任が完了した証ということだろうか?

 そして画面の左上、本来重油量とインゴットの表示があった場所には艦これでよく見た資材たちの数が表示されている。貯えは8,000ずつほど。まぁ、すぐに尽きるということはない。しばらくは遠征しつつ基地防衛になるだろう。

 艦隊メニューと拠点メニューも解放されたようだ。艦隊メニューはほぼロックがかかっている。拠点メニューも同様だ。着任したことでホーム画面に情報が加わったことから、実地で体験しないとアンロックされないと考察する。故に艦隊メニューアンロックには今の彼女らの実力を図る必要があり、拠点メニューアンロックには鎮守府中を探索する必要があるのだろう。

 さて、一九〇〇まではまだかなりの時間がある。彼女らは補給か入渠だろうから、鎮守府内を見て回ろうかな。




提督は前世から女性です。
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