NIKKE ―ガメラ超決戦― 作:ヒモトラマン・ロープダーク
「凄い…これが、アーク。こんな都会が本当に地下なのここ?」
アークの鉄道、AZXに揺られて外を眺めるリサ。純粋無垢な幼子のように目をキラキラさせてアークの未来的な街並みを瞳に映す彼女が何故ここにいるかといえば、指揮官とラピが出払っている間を前哨基地に押し込めておくのは忍びないとアニスとネオンが連れ出したからである…
……というのは建前で。
「げぇぇぇ〜っぷ。いや、お腹パンパン。久しぶりにこんなに食べたわ。」
「もう、アニスったら下品なのは体型だけにしてくださいね! …げっぷ。」
見よ、女子以前に人未満にまでの豚に堕落したニケふたりを。
パンパンに膨らんだ腹はさぞ思うがままにご馳走を溜め込んだのだろう。両脇に控えるありったけの大きい紙袋は物欲が赴くままショッピングモールをまわった際の戦利品。最早、勝利の女神どころか怠惰の駄女神な有様の彼女たちはいつ以来かの充実感に入り浸っている………ああ、やっぱり『他人の金』で満たされる欲望はなんと心地良いことか。
「……アンタたちねぇ、怒られても知らないからね?」
同席していた小柄なニケ、インフィニティレールのソリンは呆れた声を洩らす。元が生真面目な彼女だが対してアニスはチッチッと指をたてる。
「あら、私達はあくまでお客様のご厚意を受けただけに過ぎないの。無下にしたらいけないでしょ?」
「ふてぶてしい奴ね…一応、VIP用ブラックマイレージも履歴残るんでしょ。ラピに見つかったらタダじゃ済まないと思うんだけど…」
他人の金……その正体はVIP用のブラックマイレージ。アークの中でも限られた人物しか持つことが許されない打出の小鎚。かつて来訪したデビルハンターたちも金銭で不自由させないため支給され、同じく来訪者であるリサもまた同様の待遇を受けるのは自然の流れだろう。
無論、万年貧乏に喘ぐカウンターズの無駄遣い担当と火力担当が黙っているわけもなく、面倒を見るならおこぼれ頂戴に預かるべくリサを巧みに誘導。アークの右も左もわからない彼女にその黒い打出の小鎚を振るわせ自分の欲望を満たす限りを尽くしたのである。そして、本来の使い途は1割すらされていない始末。
「別に平気、バレないバレない! その小姑のように小うるさい同僚もいないし、たまにはゆっくり気の向くまま羽を伸ばしたってバチはあたらないわよ。」
「そうですよね!私達、結構アークに貢献しているはずなのに扱いがぞんざい過ぎるし、ちょっとくらい羽目を外したって……
……あっ」
「? …どうしたの?」
タカをくくるアニスだったが、唐突にネオンの青ざめ後ずさる挙動に疑問符を頭に浮かべる。ソリンも顔を引きつらせている…一体なにが……
「―――誰が『小姑』ですって?」
「…へ?」
口は災いの元、噂をすればと居るはずのない『小姑のように小うるさい同僚』が後ろに立っていた…。いつもの仏頂面から更に怒りを滲ませており、アニスは思わず悲鳴をあげる…恐らく、今までの話の流れを聞かれてしまっただろう。
「ら、ラピ? …ど、どうしてここにいるのかなぁ?集合時間はまだ先だったような…」
「ブリーフィングが早めに終わったから指揮官と早めに合流場所に向かっていたところだった。まさか、こんなところに出くわすとは思ってなかったけど。」
「か、勘違いしないで?これはあくまでお客様からのご厚意であって……」
必死に弁明するアニス。しかし、そう簡単にこの体たらくを許すわけもなく…
「ふたりとも、来月の給与明細が楽しみね。」
「そ、そんなぁ!?」
「わ、私もですか!? 鬼、悪魔、ラピィ!!」
ネオンもしっかり一緒に自腹を切らせることにした。カウンターズのクソ真面目担当、怒らせようものなら容赦がない…この一連の流れにソリンは大きく溜め息をついた。これが、アークで話題のカウンターズなのかと…
「騒がしいったらありゃしない。頼むから他の乗客に迷惑になるようなことしないでよ!」
――本当にすまない。
指揮官は取り敢えず謝ったものの、カウンターズ一行は荷物もろとも次の駅で摘み出される形で降ろされた。多分、諸々含めて後々アンダーソンやイングリットあたりに大目玉を喰らいそうだと指揮官は憂鬱な顔をしていたが… 当のアニスとネオンは全く反省の色を見せない。
「ああ、もうラピが騒ぐから…」
「真面目にも程がりますよ全く!」
「……ふたりとも…」
そろそろ本気で怒ろうか。堪忍袋の緒が切れる寸前のラピ…その時、まあまあと宥めに入ったのはリサだった。
「ラピさん、怒らないで。話題が買ってあげた事実は変わりないし…それに2人はとっても親切にしてくれたの。」
間違ってはいない。確かにリサにとって自分の世話をしてくれている彼女たちに何か報いたいと思った…それは事実。ただ、指揮官が両手に抱えるのもやっとな紙袋の山は純粋な善意に甘えただけと言いくるめるには無理がある。口先なら煽りから揚げ足を取りから何でもござれのアニス、リサを上手いこと誘導して買わせたのは容易に想像出来てしまう。
「リサ、それは貴女にとっては善意でも他の人間からは決してそう受け取られるとは限らない…それがアークであり私達、カウンターズの立場なの。特に金銭のやり取りは……」
――まあまあ、ラピ。アンダーソンにも話しておくから。
「指揮官…あまり甘やかすのは良くないかと。」
――じゃあ、私から君に何か買ってあげよう。
「…指揮官、私は別に不平を申しあげているわけではなく……」
ラピとして厳しく注意したいところだが、指揮官が甘くなぁなぁと宥める。まるで、娘の扱いに揉める仲良し夫婦のように……
ただ、そうなると最初は許されたと陽気になったアニスだが徐々に(本人たちは無意識だが)イチャつきのダシにされていることに勘付き、イライラして声をあげた。
「ああもう、分かったから! 個人的な趣味なものは全部返してくるから!! そのかわり、私にも何か買ってよね指揮官様?」
――構わないさ。
「師匠、私もお忘れなく!」
――勿論だ。
「…」
――ラピもこれで手打ちにしてくれ。
ラピもこれ以上の追及はしなかった。まあ、アニスの気持ちも分からなくはない…事実、仕事のハードさに加えてカウンターズの台所事情が良くないのは彼女自身も感じていること。妥協案で指揮官の懐は萎むが後々のリスクと天秤にかけたら安いものだ。
そんな和気藹々としたやり取りを見ていたリサは静かに微笑む…
「まるで、家族みたいですね。羨ましい。」
――ああ。カウンターズは私の『家族』だ。
「…こうして見ているとアニスたちみたいなニケや人間との違いなんてあるとは思えないです。」
――君も元の世界に帰ったら家族に会いたいかい?
「私は平気です。元より、天涯孤独…肉親なんて言える人は全員ギャオスに食べられちゃいましたから。」
――!
あ… 失言だった。指揮官は『そんなつもりじゃ…』と取り繕うとしたが逆にしまったと慌てだしたのはリサの方。
「ああ、すみません!嫌味とかそういうのじゃなくて…その羨ましいというかなんというか! えと…ごめんなさい。」
――こちらも取り乱してすまない。
お互いこの話題は続けないほうがいいだろう。
気まずい空気になってしまった…
そんな時だった。指揮官の端末がSNS『BlaBla』の着信を告げる…
相手はマクスウェル……何事だろう?
【ベビー、今何処にいる?】
――リサとアークを見てまわっているところだ。
【急いでテレビを見て。シュエンが緊急会見を開くみたい。】
――シュエンが?
不吉な名前が飛び出してきたことに眉を寄せる指揮官。確かアンダーソンに他のCEOと同じく大人しくしていることに同意したとイングリットから聞いていたが…
このタイミングでの会見、ギャオスのことと無関係とは思えない。
「…指揮官?」
――ミシリスが会見を開くそうだ。
「ミシリスが?」
ラピもミシリスの発表ということで嫌な予感を覚えた…きっと、シュエンは何かろくでもないことを企んでいる。そして、その煽りを周囲はくらう羽目になるのだ……主にカウンターズが。
とにかく、テレビ放送を見れるよう歓楽街の中心地へ向かう一行。ここなら駅構内のホログラムで中継されるはず……
【――番組の途中ですが、ニュースをお伝えします。速報です、ミシリスのCEOシュエン氏からの緊急記者会見が開かれるようです。詳細については…】
はじまった。アナウンサーが一通り喋ったあと、映しだされるのはフラッシュを目一杯たかれて注目を浴びるシュエンの姿。その傲慢ちきな態度は相変わらずの平常運転…一体なにを世間に話すつもりなのか。
【えー、皆様方。今回は集まって頂いたのは他でもありません。アーク市民にお伝えしないといけないことがあるからです。そう、アーク並びに人類の存続に関わる新たな脅威について。】
…まさか。指揮官とラピは悪寒を覚えた。
彼女が口にしようとしていることは…
【シュエン社長、新たな脅威とは一体…】
飛び交う記者からの質問。それに、一瞬だけ口角を吊り上げ…
【――ギャオス! 人を…そしてニケすらも喰らうおぞましき怪鳥!! ラプチャーに続き、我々人類に立ちはだかった新たなる脅威ッ!!】
暴露した。全てではないが、非力で何も知らない一般人が知れば驚愕とパニックになりえない事実を。
何故、公表したのだ?アンダーソンからも連絡は入っていない。…考えたくはないが、再びスタンドプレーに走った可能性が大いにある。自分の利益しか考えない独善的な悪い意味で最もアークらしい人物のひとりである彼女…その狙いは一体なんだ?
「指揮官さん…一体なにが……」
駅構内の空気もどよめきながら変わりだし、不安にかられるリサ。恐らく、この場に居続けるのは混乱に巻き込まれかねない…
――アンダーソンのところへ行こう。
指揮官は司令室へ向かう決断をする。事態が何かしら動くとしたらシュエンが彼女に手を回してくる可能性がある…なら、一番安全で事態を把握しやすい所へ向かうべきだろう。
「アンダーソン副司令の采配とは思えない…指揮官、シフティーとも連絡をとってみます。」
――ああ、頼む。
ラピに情報収集を任せつつ、カウンターズ一行は司令室へ向かう。
行き交う人々からは不安を口々に流し…時には怒号さえ耳を掠める。アークの雲行きは徐々に暗く…不吉な雷鳴を響かせはじめていた。
ここで物語の折り返しですね。
あれ、ガメラ出てない……