春樹はひとり、もはや見慣れ始めた白一色の部屋で溜息をついていた。
ほかの祥華たちの部屋に行き、頼んでベッドを調べさせてもらったところ、予想通りプレートの破片が見つかった。一筒の部屋の彼女には朗らかに迎えられ、一萬の部屋の彼女にはからかわれて、春樹は勢いで突っ切ったものの疲労を感じずにはいられなかった。誰が悪いわけでもないのだが勘弁してほしい。いや、この状況を仕組んだ何者かが悪い。圧倒的に、ひとりだけ、悪い。春樹は憤りに髪をかき混ぜて、もう一度深くため息をついた。
この場所の成り立ちに祥華以外のなにかが介在しているのは明らかだが、それをどうにかできるとは思わない。春樹だって自分の命は惜しい。ましてや、自分が誰の献身によって成り立っているのか、よく覚えているのだから。
気を取り直して、集めた破片を取り出しテーブルの上に並べる。
3つの破片はやはり元は1枚のプレートだったようで、上部に当たるのだろうそれには紐もついている。ピッタリ合いそうな割れ目を試しに繋げてみると、もともと割れてなどいなかったかのようにくっつき、無地の一枚のプレートになった。少々驚きつつも、そういうこともあるか、と改めて見分する。
やはり、他のプレートとサイズは変わらないようで、側面に2本溝があるのも同じだ。ならば物は試しと、扉のプレートを掛け替えてみる。なにか新しい情報に期待して、扉を開いた先はしかし、ただ暗闇が広がっていた。プレートを掛けないで開けた場合と同じ景色だ。さすがに入ってみる気にはならず、静かに閉じてプレートを外す。当てが外れた。
春樹は白いプレートを片手に唸る。自分の考えはそう間違っていないように思う。というか、これ以外に使い道もないだろう。ならば、なにか、足りない、のだろうか。
机に並べた3枚のプレート、それぞれ「一索{一索}」「一筒{一筒}」「一萬{一萬}」、手元の「白{白}」。いや、白ではなく無地だと考えるべきだろうか。白いのだから上に新たに柄を描くのはできる。しかし、なにが正解だろう。
ヒントになりそうなもの、と考えて脳裏を過ったのは一萬の部屋で見つけた本だ。麻雀牌の解説のページに付箋がついていた、あの本。もうひとつ、不自然なカードが挟まっていたページにあったのは確か役の解説だった。「三色同刻」索子、筒子、萬子の同じ数字の刻子を揃えると成立する役。改めてこの場に並んだプレートと見比べると、無関係とは言えなそうな組み合わせだ。
しかし、役を作るには数が足りない。そのとき、側面にある溝が気にかかった。一周する線が2本ずつ。まるで3枚を張り合わせて1枚にしたようなそれ。プレート1枚で同じ牌が3つと考えるなら、あとはアタマがあれば役になる。白が駄目な理由にはならないが。
いや、白くて四角い、似たような溝が引かれたものがこの部屋にはある。あのドアノブもなにもない開かない扉だ。あれがアタマで「白{白}」なら、プレートが白ではいけない理由にもなる。同じ牌は4つずつしかないのだから。そして、この推理が正しいのなら、プレートは今ここにある一索、一筒、一萬、白以外ならよいだろう。
春樹は早速プレートに柄を描いた。幸い勉強机が3つに画材もあったのだから、描くには事欠かない。少々歪んだそれを扉に掛ける。息を呑んで、力を籠める。
その先は一見すると、変わらず暗闇が広がっているようだった。しかし、よく見てみると極端に物の少ない狭い部屋のようだと分かる。電話ボックスほどの大きさで、黒一色の壁、床、天井の部屋の中心に、白い紙が一枚だけ落ちている。春樹は恐る恐る部屋に踏み入って、紙を拾い上げた。便箋に印刷物のような無機質な文字が並んでいるのを見て、眉を寄せる。この文字を書いた人物を、どうも好意的に受け取ることができない。怪しいというか、不快というか、端的に言って関わりたくないと感じる。
だからといって、読まないわけにもいかない。深呼吸をひとつ、なにが出てくるか分からないので気合を入れなおして、文字を追った。
~白い紙~
優柔不断な君へ
この度は僕の遊びに付き合ってくれてありがとう。三人の金城祥華と会ってみて君はどう思ったかな?
この手紙を読んでいるってことは、まだ誰も選んではいないんだろう。
それはどうして?
決め手に欠けた?自分が選ぶのは筋違いだと思った?それとも、正解があると思った?
もし正解があると思っているのなら、大きな間違いだ。
君が彼女らのことを何だと思っているのか知らないけど、彼女らはそもそも実在する全く別々の人間だ。
三つ子でも、ましてや別人格の同一人物でもない。
血のつながりもない別人がどうして三人とも金城祥華を名乗っているのか、全ては15年前に金城祥華が死んだことに起因する。
孫が死んだことを上手く呑み込めなかった金城功は、同じ年頃の娘を三人引き取ってきて、全員を金城祥華として育てた。
彼女らは三人で一人として生きてきたけど、ここにきてそれも限界が見えた。だから、一人を選ぶ必要がある。
正解なんてはなから存在しない、これはそういう話さ。
君はただ選べばいい。基準や理由はなんでもいい。選ばれなかった二人がどうなるのかなんてことを考える必要もない。
もともと君にこの役が回ってきたのも偶然だしね。
けどまあ、選びたくないっていうならそれも尊重しよう。その場合はひとりで「白」の扉を出るといい。
今回は僕、実はほとんどなにもしてないしね。手を出さなくても面白そうだったし。だから、もう少しくらい骨を折ってもいいよ。
自分で考えた雑なギミックの解説をするのめちゃくちゃ苦痛で笑いました。
次回か次々回で終わります。