後藤ひとりはギターヒーローではない   作:火野ミライ

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喜多郁代は愛弟子である?

「……こんな感じかしら?~~♪」

 

樹がスケッチブックに描いた新たなアドバイスを声も出さずに読み、自分の中でかみ砕いて物にしようと赤い髪の同級生【喜多(きた)】さんが思考し声を出す。そんな彼女が10分ほど前に座っていた椅子には、ペルハムブルーに輝くギブソン社のエレキギター【レスポール・ジュニア】が置いてある。

 

【_____】

 

「……なにが違うのか私には分からないわ」

 

喜多さんの歌を中断させ何かを伝える樹。そのスケッチブックに描かれた文字は角度的に読めないが喜多さんの反応的にダメ出しなのだろう。

 

「~~~♪」

 

声が出せないから文字や絵による説明になる樹のアドバイスを文句を言いながらも受け止め、自分の糧にしようとするその姿勢には驚かされる。それ程までに彼女は本気だと言う事だろう。ならば私もギターボーカルを始めようとする彼女の為に、持てる知識を総動員して聴ける音楽を奏でる事が出来るように次の練習内容と説明を考えておく。

 


 

喜多さんに私達がギターと歌を指南する事となったのは、結束バンドでサポートギターをした翌週の月曜日の出来事だった。先週、数年ぶりに日の目を浴びすぐに弾ける状態へとなったギターが入った赤いまだら模様のケースを机に駆け、なんだかんだ交流が続いている伊地知さんとスマホアプリ【ロイン】で文通をしている時の事。

 

「あなた、後藤さんよね?」

 

突然として後ろから声をかけられた。驚きのあまり跳ね上がり机の下に膝をぶつけると言う地味に痛い思いとし、放課後も勉学に慎む真面目な生徒たちから視線を一斉に浴びると言う黒歴史を生み出した私。正直この時点で逃げ出したかったが名指しされたために逃げる訳にもいかず、ゆっくりと振り返る。

 

そこにいたのはキターンとしか言いようのない陽キャオーラを身に纏う赤髪の少女の姿。彼女を視界に入れた次の瞬間、ギターケースを持ち樹の背中に隠れていた。条件反射で隠れてしまったよ…………

 

「ちょっと、なんで逃げるのよ」

 

困惑する赤い髪の人の声と状況が分からず仮面越しに私を見つめる樹。だが許してほしい、なぜなら私は陰キャの中でも真の陰キャ。あの赤い人が無意識に放つ真の陽キャオーラを直接浴びるものなら、瞬く間に天へと召されてしまう。

 

どちらかと言うと樹もこっちよりだけども、私の幼馴染は勇者なのだ。こんなスライム以下のか弱い魔物ひとりを、あの伝説の陽キャ人の放つオーラから守るのは簡単なのだ。少なくとも私が直ぐに天に召される事は無くなる。流石は樹、可愛くて強くて頼りになるよ。

 

なんて中学生時代の風さんの様になりながら、樹を盾にしてしまった罪悪を殺していく。取り合えずしばらくあの人とは樹越しに会話をさせてもらう。

 

「ななな、なんの用ですか?」

 

「__後藤さんって何時もギターを背負ってるでしょ?」

 

「っえ、まぁ、はい」

 

「って事はギター弾けるのよね」

 

「あっ、はい」

 

___最近似たような会話をしたような気が………

 

「後藤さんが良ければいいの、ギターの先生になってくれない」

 

「___っえぇぇ!?」

 

陽キャと言うのはなぜ、こうも簡単に私の地雷を踏み抜いてくるのだろう。

 

「なな、なんで!?」

 

「いや~、そのね。私、先輩目的にギターボーカルとしてバンドに入ったのよ。………ギターできると嘘ついて」

 

ロックだ……… 仮に私だったら絶対に無理だ。想像するだけで吐きそう………

 

「それでいざ練習を始めたらメジャーとかマイナーとか野球の様な単語が出てきて結局、ライブ当日は何も言わずに逃げてしまったの。だから次に会うまでに何とか弾けるようになって謝りに行きたいの! だから後藤さんどうかこの通り!!」

 

そう言って彼女は深々と頭を下げる。その様子に狼狽える私にクラス中から『お前みたいな陰キャに陽キャの彼女が頭を下げてお願いしてるから絶対に受けろ』と言われているような気がして血の気が引く。そんな空気観の中、動いたのはやはりと言うか幼馴染の樹だった。

 

【取り合えず、自己紹介をしましょう】

 

彼女の肩に手を乗せ、スケッチブックに描いた文字を見せる樹。それを見た彼女は気まずそうにしていた。そんな彼女の様子に首をかしげながらもスケッチブックに2人分の自己紹介をつづる樹。

 

【私は犬吠埼樹です。あっちのピンクのジャージを羽織っているのが後藤ひとり。私達は幼馴染なんですよ(⌒∇⌒)】

 

「喜多…………郁代よ

 

苗字は聞き取れたけど名前が聞き取れなかった。まぁ、この陽キャ喜多さんと関わる事は今日限りにしたいし問題ないか… それ聞き取れなかったのは樹も同じみたいだし。

 

「そんな事よりも、さっきの話の返事を聞かせてくれないかしら?」

 

結局その日は何とか樹にうやむやにしてもらって帰宅。布団の中で少しは変われたと思っていた自分が一気に崩されて、結局なにも変わっていなかった事に枕を濡らした次の日……

 

【昨日のキタさんの話を受けて上げましょう】

 

駅のホームでの待ち時間で樹が渡してきたスケッチブックに描かれた一言。驚いて樹に目を向けるとその右手にはライオンを従えた女神の様な衣装に包む女性のカード、空に浮かぶ大きな手が枝を持つカード、四隅に羽をもつ生物が描かれ中央にはアルファベットと十字の矢印が書かれた円のカード持っていた。

 

反対の手には何も持っていない事からこの3枚のタロットカードは事前に占った物なのだろう。樹の占いは高確率で当たる。だから中学時代、樹に恋愛相談にくる子も割といた。そんな樹が私の意志を含んでなおやれと言うなら、やって損は無いのであろう。

 

「____分かった」

 

なにより今、あの喜多さんから逃げたら一生樹の背中に隠れて良そうな気がして嫌だから。あの日、あの瞬間、私が求めたのは樹に守られる私じゃなくて、樹を支えてあげらる私なのだから。

 


 

「~~~♪」

 

「おぉ!喜多ちゃん、制が出るね!」

 

「ムグムグ…… お待たせ」

 

練習メニューを考えながら喜多さんとの出会いを思い返していたら、伊地知さんと山田さんがスタジオに入って来る。彼女達の登場に練習を中断した喜多さんが野草を口にする山田さんに子犬の様に絡みに行く。

 

私達が紹介するまでもなく知り合いだった御三方。まぁ、あの日逃げたギターが喜多さんだったと言う何とも言えない関係だったが… それでもあの日逃げた事を後悔していた喜多さんにとってはなんだかんだ良かっただろう。

 

____喜多さんが結束バンドに再加入?を決意する際、私が物凄く恥ずかしい思いをしたと言うか、伊地知さんのお姉さんにメイド服を着せられスターリーで働いた後の彼女に思うがままに声を掛けた。この時頭が真っ白になって何言ったのかちゃんと覚えてないけど、らしくない事を言った気がする。ああ言う事は樹の方が得意だと思う。

 

閑話休題

 

まぁ、今度はドタキャンしない様に私と樹が喜多さんにギターとボーカルを教える事でひとまず落ち着いた。これからこの3人がどのようなバンドレコードを紡いでいくのかは分からないけど、きっと大丈夫だろう。だって______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結束バンドのギタボ(喜多郁代)は実質、ギター勇者の愛弟子なのだから。

 

当人達は知らないし、私も樹もその事を伝えるつもりは無いんですけどね。でももし真実を伝える日が来たときに向けて、私の技術を全部教えるつもり。それが私の罪滅ぼし…………なんてね。




>後藤ひとり
 本作の世界戦では結束バンドに入らず、喜多郁代に対しして後方腕組師匠的な立ち位置として結束バンドを推す。伊地知星歌とはなんだかんだで話が合う。
 結局結束バンドのメンバーにguitarheroと告げる事はなく、昔ギターを触ってた仲のいい友人として高校生活を終える。
 ちなみにぼっちちゃんではない。

>犬吠埼樹
 元々は結城友奈は勇者であるのキャラクター。後藤ひとりの幼馴染であり、よき理解者。体育の成績は良くないのだが、襲い掛かってきた熊に対し包丁代わりに手にした糸で切り刻むなど戦闘能力は高い。
 中学時代のひと時はポリゴナツムの名でひとりとギター勇者の名でネット活動をしていた。声を失った時は動揺も悲痛も押し隠し、周りの人に笑いかけていた。
 残らぬ傷を隠す仮面を身に着けた彼女の占いはよく当たる……

>伊地知虹夏
 樹の事は出会った当初は仮面の変な奴だと思っていたが、交流を進めるうちに人助けに力を入れる自分の事を蔑ろにするほっとけない妹分へとなった。
 樹の家事能力の低さに姉の姿の売りによぎり頭を抱える事となる。なんだかんだで犬吠埼家と伊地知家は境遇が似ている。

>山田リョウ
 樹の仮面が四国の神社で配られる神聖なものであると地味に知っている子。樹自身に対しては色々と察しっており、普通に接している。ひとりのギターケースの疎らな赤模様にも察しは付いているし何も言わない。
 余談だか懐が寂しい時に樹とうどんを食べに行く事がお決まりとなっていく。

>喜多郁代
 本人の知らぬところでギター勇者の技術全てを授かりスパー初心者へとランクアップした。
 ギターの練習中にひとりの顔が青くなりながらも超絶テクで弾く様に引いたり、声の出ない樹の的確なアドバイスに引いたりしているが、リョウへの憧れだけで無理難題をクリアしていく。
 それはそうとしてひとり達にギターの教授を頼んだ事には申し訳なさも感じている。
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