ガンダムビルドダイバーズ 〜お狐メイド長のGBNライフ〜 作:真莉藻
ご無沙汰なので、ジャブ打ち的な感じです。
喫茶「ありあんろっど」がある都心から少し離れた商店街。
そのアーケードの下を、ありあんろっどでの勤務を終えた私は、いつも帰宅するのとは逆の方向へ歩いていた。
「さて、着きましたわね。」
商店街のメインストリートから一本入った路地にある、"おでん"と書かれた赤提灯が目印のお店が私の目的地である。
「いらっしゃぁい。
…って、マリモちゃんじゃないか。久しぶりだねぇ。」
「こんばんは、女将さん。
ごめんなさいね、最近来れなくて…。」
「良いのよぉ、来てくれて嬉しいわぁ。」
私がお店に入るなり、女将さんが気前よく迎えてくれた。
ここは私が学生時代から幾度となく来ているおでん屋さんで、この辺りでは知らない人はいない名店である。
本来はご主人と二人でされているのだが、2、3日前に腰を痛めてしまったとのことで、本人はお店に出る気満々だったのを女将さんが説得して休ませているらしい。
いつも大体週一で通っているのだが、近頃リアルもGBNも忙しくて少し間隔が空いてしまっていた。
「それはそうと、お連れさんが待ってるよぉ。
いつもの奥の席ねぇ。」
「わかりましたわ。ありがとうございます。」
女将さんに促され、私は店の奥へと入る。
カウンター席の一番奥、柱に隠れて入り口からは死角になっている私がいつも使わせてもらっている定位置に、良く見知った顔の女性が座っていた。
「久しぶりですわね、ツバメちゃん。
待たせてしまってごめんなさいね。」
「ん、マトイか。」
私が声をかけるとその女性、長い黒髪をポニーテールに結えた、太めの眉毛が特徴のツバメちゃんことシグレ・ツバメが応える。
「構わんさ、私もさっき着いたところだ。
それにこちらこそ、急に呼び出してすまなかったな。」
「いえいえ、誘ってくれて嬉しいですわ。
せっかくツバメちゃんから声をかけてくれたんですもの。来ないわけにはいきませんわ。」
「…まるで私からは全然声をかけないみたいではないか。」
「だって、いつも誘うのは私ではありませんか。」
そんな他愛ないやり取りをしながら私も席につく。
彼女は私の学生時代の同級生で、GPD現役時代はファイターとして共にしのぎを削り合った仲である。
今でもこうして一緒に食事をしたりしているのだが、最近は二人とも都合がつかなくて暫く会えていなかった。
「マリモちゃん、今日もいつもので良いかぁい?」
「ええ。あと、牛すじを一本追加していただいても良いかしら?」
「あいよ。先にビール出しとくねぇ。」
「ありがとうございます。」
女将さんに注文を伝え、先出しされたビールを受け取るとツバメちゃんとジョッキを突き合わせる。
「「乾杯。」」
そして二人してジョッキを呷る。
まさしく、今日もこのために頑張ったと言える至福の瞬間である。
「ふー、美味しいですわ♪」
「本当、見かけによらず良い飲みっぷりだな。」
「はぁい、お待ち遠さまぁ。
マリモちゃんは大根、卵と昆布巻き、あと牛すじが二つね。ツバメちゃんのもここに置いておくよぉ。」
「ありがとうございます、いただきますわね。」
「ありがとうございます。
女将さん、私も大根をもう一つお願いしても良いだろうか?」
「あいよぉ。」
おでんも出てきたところで、私とツバメちゃんのささやかな女子会が始まった。
ーーーーーー
「マトイ、"マスダイバー"というものを聞いたことはあるか?」
「?
いえ、聞いたことがありませんわね…。」
「そうか…。
私もまだ実際に見た事はないのだが、"ブレイクデカール"という不正ツールを使うダイバーのことだそうだ。」
「…不正ツールとは、穏やかではありませんわね。」
お酒も少し進んだ頃、GBNの話になったのだがツバメちゃんが切り出したのは何やら不穏な話題だった。
「それで?
そのブレイクデカールというのはどういったモノなんですの?」
「なんでも、使用したガンプラのステータスの大幅な強化はもちろん、破壊された部位の再生や姿を変化させることもできるらしい。」
「ステータスの強化はわかりますが、再生能力に変態とは無茶苦茶ですわね…。」
「ああ。それでいてコクピットを破壊すれば撃墜することは可能というのだからよくわからん。」
GBNにおいては、不正ツールの類など使用すれば以前のブラックナイトスコード・カルラのダイバーのように直ぐに見つかるはずである。
しかし、ツバメちゃんの話によるとブレイクデカールはログが残らず、使ったダイバーがわかっても使った証拠が無いということで運営も手を焼いているということだった。
「マスダイバーだが、初心者やライト層の間で増えてきているらしい。
貴様はともかく、一緒にフォースを組んでいる少年と少女は気をつけてやったほうが良いだろう。」
「そうですわね。」
ユウくんたちに限ってブレイクデカールに手を出すなんてことはないだろうが、この先マスダイバーと遭遇する可能性は十分にありえる。
先日不正ツールを使うダイバーに襲われた際は気丈に振舞っていたが、次も大丈夫とは限らない。
万が一にでも、そんな輩の所為でユウくんがGBNやガンダムを嫌いになってしまうなどあってはならない。
そうならないためにも、あの子がもう少し強くなるまでは私が守らないと。
「そういえばマトイ、今も"こちら"に戻って来る気はないのか?」
ここでツバメちゃんの言う"こちら"とは、いわばGBNの最前線であるランク戦などのことだろう。
何を言い出すのかと思えば、昔の私を知る人たちからこれまで幾度となく言われてきたことだった。
「ついにツバメちゃんからも言われてしまいましたわね。
ダイバーランクや個人の順位よりも、今はゆったりGBNを楽しみたいのですわ。
リコリスの二人もいることですし。」
「そうか…。」
しかし、そうは言ったものの正直なところどこか煮え切らない自分もいる。
チャンピオン含めハイランカーたちを見て血が騒がないかと言われれば嘘になるし、今のように一人気ままにディメンションを巡ったり、ユウくんたちリコリスのメンバーと楽しくプレイしていたいという気持ちもある。
「別に、全部やれば良いではないか。
何もプレイスタイルを一つに絞る必要はないのだからな。」
「簡単に言ってくれますわね…。」
どうやら心の声を聞かれてしまったらしい。
全く、昔から本当に油断ならない。
「クジョウ・キョウヤを見てみろ、GBNの頂点に君臨しながらあんなにもエンジョイしているではないか。」
「チャンプはほら、チャンプですし…。」
「…それはその通りだな。」
リアルの都合と両立出来るかは別問題として、せっかくだから全部楽しめというのはその通りである。
「ふふふ。ありがとうございます、ツバメちゃん。
やれるだけやってみますわね。」
「ふん。私のライバルであり、かつて"紫電の御狐姫"とまで言われた貴様がSSランクで燻っているようでは張り合いがないならな。」
…私のダイバーランクや個人順位が上がれば、ユウくんも喜んでくれるだろうか。
「ところでツバメちゃん、来月初めの週末は忙しいかしら?」
「うん?
いや、その辺りは特に何もないはずだが。」
「実は、来月からうちのお店で『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』公開記念のキャンペーンを始めるのですが、初めの週末がちょうど人が少なくて、またヘルプをお願いしたいのですわ。」
「そうなのか?
そういうことなら構わんが…。」
「まあ!それは良かったですわ!
そうそう、ちょうどツバメちゃん専用のメイド服も出来上がったんですの♪」
「なっ、貴様いつの間に…!
この間言っていたことは本気だったのか…。」
「…二人とも、盛り上がってるとこ申し訳ないんだけど、そろそろお店閉めるわねぇ。」
「あら…。」
「む…。」
気づけば私たち以外のお客さんはみんな帰ってしまっていた。
私とツバメちゃんは慌てて残っていたものを胃の中にしまうと、お会計を済ませてお店を後にした。
狐と燕。
Tips:
・ツバメ(シグレ・ツバメ)
マリモの学生時代の同級生で同じく元GPDプレイヤー。
かつてマリモのライバルとしてしのぎを削り合った猛者であり、GBNへと移った今でもその腕は衰えることはない。
リアルでは「シグレ流剣術道場」の師範を務める剣の達人であり、ガンプラバトルに於いても刀を使用した近接格闘戦を得意とする。
※ツバメさんは守次 奏様よりお借りしております。
ありがとうございました!