私、
自分の気持ちを抑えることができない私が、もう問題を起こさないためには人との関わりを断つしかない。そう思い、高校入学後はなるべく大人しく生活していた。
なのに、メガネをかけていてマジメそう、という理由だけで風紀委員を押し付けられ。スクールアイドルを始めたい、と言うふしぎな子と、その子のへんてこりんな付き添いに目をつけられて、気がつけば当初、私が予定していたような落ち着いた高校生活なんてものは、どこかに消えてしまっていた。
けれど、それがどこか悪くない、そう感じている自分が存在している。ただ、問題なのは、同時にそれを認めたくない自分がいるということを理解してしまっていることだ。
※
複数のスポットライトを一斉に浴びて、暗いステージの上に私は1人で立っている。鼻の奥にまで届く機械の匂いや、ライトの暖かさ、この感覚がよく肌に馴染む。
昔はこの光も4人で分けて浴びていたのにな、そんなことを考えると、胸のあたりがギュっ、と苦しくなる。
「美烏ちゃ〜ん、リハーサルOKだよ!」
馴染みの音響スタッフさんが右手でOKサインを出しながら私にそう告げた。
今日は久しぶりの単独ライブだ。今、段取りの確認や声出しは終え、私はステージから降りて各方のスタッフの人たちに挨拶をしに行った。
このライブハウスは私がクルフル時代から活動させてもらっている場所である。故にスタッフの人たちはほとんどが顔見知りで、私がフリーのソロアイドルを始めると言うと、快く場所を提供してくれた。
「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」
「うん、お疲れ様。今日のライブも期待してるよ!」
自分より年上のお姉さん。昔から優しくしてくれる、文字通り姉のような存在である。
「そうだ! 美烏ちゃん、若ノ芽女学院に通ってたよね?」
「は、はい。そうですけど?」
唐突にそう聞かれ、その脈絡のなさに頭の中が噛み合わず、少し驚いた。
「SNSで、若ノ芽のスクールアイドルが今度のスプリングフェスに参加する、ってのを見つけたんだけど……」
「ごめんなさい。私には関係ないですから。本番、よろしくお願いします……」
そう言って勢いよく頭を下げると、早くこの場から立ち去りたい気持ちにのせられて足早に楽屋へと逃げてしまった。
鏡に机、椅子、必要最低限のものが取り揃えられた殺風景な部屋。机の上には水とお菓子が備え付けられており、自分のために用意してくれたのだ、と考えると少し表情が緩んでしまう。
椅子に座って、本番までの時間を過ごそうとおもむろにスマホを取り出した。
すると、SNSアプリが目に入り、さっきのスタッフさんの言葉を思い出す。
若ノ芽のスクールアイドル。それは間違いなく、
スクールアイドル、その存在は私にとって決して小さなものではない。その輝きに充てられて、私はアイドルになろうと決めた。そんな、きっかけそのものだからだ。そのことはスタッフさんも理解している。だからこそ、私に声をかけてきたのだろう。なぜ、スクールアイドルにならないのか、と。
結花凛や夕輝は悪い人ではない。そして、
若ノ芽の3人が、冷めきった考えの桜や
思わず、ため息をこぼしてSNSアプリを開いてみる。そして、例の内容を検索してみた。すると、そこには聞いていた通りの内容が記載してある。しかし、メンバーの一覧表はまだ伏せられているようだった。
胸のあたりに、ざわめきを感じる。もしかして、まだ私を勧誘しようとしているのか、そんなことを考えてしまう。強く突き放しているのは自分だと理解しているはずなのに。
人当たりのいい結花凛に絆され、夕輝との自主練を重ね、何度か決心は揺れこそしたが、スクールアイドルとして彼女たちとステージに立つつもりはない。その決意を再度、思い出す。
スマホの電源ボタンに指を置き、画面を暗転させ机の上に伏せて置いた。
一度大きく息を吸い、そして同じだけの息を吐いて、私は楽屋の時計に目を向ける。ライブの時間まで1時間と言ったところだろうか。
時間に余裕があるうちに、お手洗いを済ませておこう。そう思い私は楽屋の扉に手をかけた。
※
ライブハウスの出演者やスタッフが使用する専用のトイレ。用を済ませた私は、その場所を後にする。
そして、関係者通路を利用して自分の楽屋に戻ろうとしたそのとき、曲がり角の向こう側から、ある2人の女性の話し声が私の耳へと入ってきた。
「店長、今日ライブをするミュウミュって子は、どんな子なんスカ?」
それは見慣れない、若い女性のスタッフの声だった。金髪のショートヘアーで少しギャル味を感じさせる風貌をしている。歳は私と同じか、少し歳上。大学生のアルバイトと考えるのが無難な線だろう。
「あ〜、美烏ちゃんね。小さい頃からアイドルをやってる、ちょっとしたベテランの子よ。昔はクルール×フルールっていうグループで活動してて、けっこういいとこまで売れたんだけどね……」
対して、新人のスタッフさんと話しているのは、このライブハウスの店長さんである。30代前半の女性で、赤と紫の派手な髪色をしている元ロックバンドのボーカルである。そして、何よりソロになった私の存在を受け入れてくれた張本人でもある。
「あ、クルフルっスよね! 知ってますよ。
「へえ、詳しいじゃない」
「はい! 自分、さくらのファンなんすよ」
別に盗み聞きをするつもりはなかったのだが、気になるワードが飛び出してきて、自然と足を止めてしまう。
「ファンなら昔のグループメンバーくらい把握しときなさいよ……」
「自分、さくら以外には興味ないんで、へへへ」
呆れ気味にツッコミを入れる店長と、それをヘラヘラと受け流すスタッフ。
「まあ、美烏ちゃんはパフォーマンスも心意気も、そこらのアイドルよりいいもの持ってるわよ。現にけっこう稼がせてもらってるしね」
「そうっすよね。さっき客席、見たんスけどお客さんいっぱいいましたよ。1人であれだけ集められるなんてスゴイっス」
ライブ前に2人して、こう褒めちぎってくれると聞いている身としては悪くない。自然と表情筋が緩んでいることも分かる。
元気よく挨拶を残して自分の楽屋に戻ろう、そう思い足を上げた私の耳に入ってきたのは、暗い声色をした店長さんの一言だった。
「でも、
思わず足をすくめてしまう。再度、曲がり角に隠れるかたちで私は動けなくなった。
「なんて言うんだろ。今の彼女はギラギラしてないっていうのかな? 昔はもっと熱い目をしてたんだけど……」
「でも、パフォーマンスはいいんっスよね?」
「うん、でもステージに立つっていうのは、必ずしも凄いパフォーマンスをすればいいってだけじゃないのよ。
「ロックっスねぇ」
店長さんが言っていることは理解できる。理解できるからこそ、こんなに胸のあたりがズキズキと痛むのだろう。
「今いる美烏ちゃんのファンは8割はクルフル時代のファンだろうからね。私が感じてることを、どれだけのファンが感じてるか、それ次第じゃ、この先彼女は売れないかもしれないね……」
「厳しい意見っスね……」
「ま、私は美烏ちゃん好きだからさ。頑張って欲しいとは思ってるんだよ。でも、こんなんでも一応は経営者だから、厳しさも必要だよね」
「なるほど……」
今の自分が周りからはそう見えているのか、とイタイ現実を突きつけられる。昔の自分にあって、今の自分にはない何か、そんなこと急に言われても分からない。
今の私を誰も求めていないのなら、私はなんのためにアイドルをやっているのだろう。
――私がやりたいことって、なんだったっけ?
そんな不毛なことを考えて私は曲がり角の向こう側にいる2人がいなくなるのを、じっと待っていた。
※
ライブの時間を迎える。楽屋にある姿見鏡の前に立ち、改めて自分の全身を直視した。
髪の毛は両サイドで括り、ピンク色のエクステが散りばめられている。目にはピンク色のカラコンが入っており、メガネは当然外している。衣装は自分のイメージカラーであるピンクが散りばめられたオーソドックスな白い衣装。そして、表情はとても酷いものだった。
1時間前の店長さんの言葉が頭の中から離れない。しかし、今の私はアイドルなのだ。つまらないことを考えて、ファンの前に立ってはいけない。
両手で頬を挟み込み、揉みほぐしながら笑顔を作る。すると、そこにはいつものミュウミュが立っていた。
「よし、私なら大丈夫……」
そう自分に言い聞かせる。そして、目を閉じると今までアイドル活動に対して努力し続けてきた自分の姿や琴音の姿、そして最近長い時間を共に過ごした夕輝や結花凛たちの姿が浮かんできた。
今の自分がどんな状態で、誰がどう評価しようとも、私がやってきたことは変わらない。それに、時折り憎たらしい夕輝に大見栄をきったのだから、不甲斐ないライブなんて見せるわけにはいかないのだ。
大きく息を吸い、鏡の中の自分を確認して私はステージへと上がるのだった。
※
ライブハウスの中には聞いていた通りかなりの数の人が入っていた。ぎゃうぎゅうとまでは言わないが、露骨にスカスカな場所はないそんな感じだろうか。それこそ、この前行った合同ライブと比べると見劣りはするが、それでもこの前の半分くらいの人数はいる。
「こんにちは〜! 今日はミュウミュの単独ライブに来てくれて、ほんとうにありがとう〜!」
観客席の端から端まで、全ての人に視線を送る。当然、表情は自分が思う最高な笑顔でだ。これが私のルーティーン。初めて、観客席で
そうして、私はあることに気がついた。琴音が来ていない。結花凛も夕輝も、イヤでも目に入る葉月の姿も見当たらない。
――なによ、来るって言ってたのに……
一瞬詰まった息を慌てて吸い直し、私は再度、笑顔でファンと向き合った。それから、考えておいたMCを順調に進め、改めてライブをスタートさせる。
多少の動揺など、経験でカバーできる。こんなこと、大した問題ではない。
※
約1時間のライブを順調に進めた。ソロアイドルになってから作った1人用の楽曲や、王道アイドルソングのカバー、MCなどを通して、ファンの皆んなと繋がっている。
しかし、なぜだろう。いつも見るファンの笑顔と、今日このときに見るファンの笑顔が違って見えるのは。どこか義務的に笑っている、そんな風に感じてしまう。目の奥に光を感じない。
皆んなの笑顔は本物なの? 私を見て楽しいの? 胸の奥が弾けそうなほど、ワクワクしているの? 私は今、皆んなのアイドルになれているの?
そんな考えと、不安な思いが頭の中で交錯していた。
――違うのはファンの皆んななのか、それとも私の方なのか………
全くもって、ため息が出そうになる。ステージの上でそんなことを考えるなんて、アイドル失格だ。
自分の気持ちを切り替えて、ラストの曲を始めようと考えたとき、遠い正面にある音響ブースに見覚えのある人物が現れる。
――琴音?
なぜ、琴音がスタッフさんと一緒にいるのか、私には想像もつかなかった。しかし、どんなことがあっても私は進行を続けないといけないし、ライブを締め括らなければならない。
「じゃあ皆んな〜! 今日、ラストの曲だよ〜」
ラストを締めくくるのは私がソロアイドルとしての門出を祝った曲。私のファーストシングルである。
今までの自分を捨てて、もう誰にも迷惑はかけないと誓ったあの日。独りになっても、大好きなアイドルを諦めないと決意したあの日。新しい私を象徴する、そんな曲。
私の声に合わせてラストの曲が流される、そして流れる伴奏に合わせて曲の名前を高らかに宣言する――そんな流れのはずだった。
しかし、数十秒間一向に曲は流れない。リハーサルは万全であったはずだ。さりげなく、音響ブースに目をやるがスタッフの人も慌てる様子すら見せず、じっとこちらを見つめている。
私はわけが分からなくなった。今、なにが起きているのか全く理解が及ばない。
客席の反応も不穏な空気が流れ始めているようで、ヒソヒソと話し声すら聞こえる気がする。
そして、混乱する私にさらなる追撃を加えたのは突如ステージ上に現れる、見慣れた3人の少女だった。
私の衣装を明らかに意識した、白を基調としそれぞれのアクセント色を加えた同タイプの衣装。なぜか1人だけスカートの下に長ズボンを履いていたが、そんな衣装に身を包む結花凛と夕輝、そして葉月。
「アナタたち、どうしてここに…………」
思わず小さな声でそう呟く私だったが、3人は私に視線すらよこさない。
私をセンターに据え、一歩後ろで、への字を作り、ひし形を形成するかたちで並んでいる。そして、その視線はじっと目の前を直視していた。
私も自然とその視線を追って、前を見る。すると音響ブースにて琴音が右手を大きく上にあげ、握った拳から人差し指、中指、親指の順に開いていき、3秒をカウントする姿が見てとれた。
私はこの動きをよく知っていた。これは中々タイミングを合わせることが出来ないでいた琴音のために私が考えたハンドサインである――そして、初めてこのサインを使用して練習をした曲で、私を前に4人でひし形を描くこの配置、夕輝たち3人がステージに立てる曲、この条件が当てはまるのは1曲だけだ。
カウントを目でとらえて、曲が流れるのと完璧なタイミングで始めのポーズをキメてみせる。
「Pure Shy my Heart ッ‼︎」
我ながら勘のよさを褒めてあげたいくらいだ。
照明が移動して、私に集まっていたスポットライトは4つに分散された。
the王道なアイドルソング。アップテンポな曲に合わせて体を弾ませる。クルフル時代の曲なんて、もう1年は踊っていないのに体は自然と動いていた。
動きによって揺れる視点の端っこに映るのは、一歩後ろの両隣にいる結花凛と葉月である。タイミングをピタリと合わせてついてきているのが分かった。
夕輝のことは近場で見ていたからよく分かるが、この2人もよくこの短期間で仕上げてきたものだ。経験者として、その努力は容易に想像がついた。
視界の端とはいえこうも動きが揃うと、達成感とでもいうのだろうか、懐かしい高揚で心が満たされていく。
「カラフル パワフル クルフル our World!〜♪」
曲は伴奏を終えAメロに突入する。少し控えめな結花凛の芯の通った歌声と、やけに凛々しく透き通るような葉月の歌声が会場に響き渡る。
「ときどき ハラハラ ドキドキ しちゃうよ!〜♪」
そして、不慣れながらも元気よくフレッシュさが感じられる夕輝の歌声も重なった。それは他の2人と比べて、お世辞にも肩を並べているとは言えないクオリティだったが、初々しさが可愛らしい、そんな歌声だった。
自然と表情が綻んでしまう。
「マジメなとこだって!〜♪ 不器用なとこだって!〜♪
アタシのいいとこ、なんだもん!〜♪」
Bメロからは私も歌に参加して、サビ前の1フレーズで4人の声は1つに重なった。
度重なる経験から作り上げられた私のアイドルボイスに結花凛の太くて力強い歌声、夕輝の素人くさくも愛嬌のある歌声と、葉月の演劇仕込みの色気のある歌声がピタリと重なり、美しいユニゾンを奏でている。
――楽しいッ!
体の内側でアドレナリンとドーパミンが、炭酸水のようにパチパチと弾けていくのが分かる。
1曲という約3分間の短い時間のなか、一瞬一瞬がまるで数分間のように感じるほど集中していて、周りがよく見えていた。
視界は太陽に照らされる海面のように輝いていて、さっきまで不穏に感じていたファンたちの顔も、今はとても輝いて見える。
――そうだ、私が見たかったのは、この顔だ。
変わったのはファンの皆んなの方なのか、それとも私の方なのか。しかし、明らかに何かが変化していた。
「走っちゃっていいよね!〜♪ 前だけ向いてたって きっと〜♪ 仲間がいれば 〜♪
止まんない〜♪ どんな 壁が立ち塞がっても〜♪ 超えて〜♪ いけるさどこまでも!〜♪」
サビを抜ける。しかし、夕輝たち3人は一切の違和感もなく私の動きについてきて、曲の1番を歌いきった。練習曲として、歌って踊っていたとはいえ、人前で披露できるものになるかと言われれば、そうではない。
人に魅せるためには、魅せるための練習をしなくてはならないからだ。
初めから、私の推測が間違っていたことに気づかされる。琴音が考えた悪知恵は、スプリングフェスに向けられたものではなく、私の単独ライブに無理やり夕輝たちをねじ込むという作戦だったのだろう。
全く、琴音にしては珍しく強引でらしくない考え方だが、今の私にはそんなことはどうでもよく感じていた。なぜなら、この一瞬がとても輝いていて、1秒も無駄にはしたくない。そう、感じているからだ。
その後の2番も夕輝たちは問題なくついてきてくれた。そして、この後にはラスサビ前に30秒ほどの長い間奏がある。そこは主にダンスを中心としたパートであり、1人1人のソロパートも存在する。
私が腕を激しく振り回すロックダンスを披露し、ポーズを決めた後、曲に合わせてステップを踏みながらのポジションをチェンジが始まる。次に葉月がソロパートを勤めながら結花凛と位置を左右反転させ、私は2歩後ろにいた夕輝と前後を反転した。
そして結花凛のソロパートが始まったところで私はこのフォーメンーションのある部分に気がついた。それは、夕輝が勤めているバックのポジションについてである。厳密に言うと初めから頭の端にはあったのだが、直前になってはっきりと理解したと言うべきだろうか。
そこはラスサビを直前にして、もっとも激しいソロダンスが求められるポジションであり、そのダンスとは練習中、唯一、夕輝が出来なかった動きである。
その瞬間、私はポーズをとり静止しながら、目の前にいる夕輝をじっと見つめていた。自分の意思ではどうにもできず下唇を噛み締めて少しアイドルらしからぬ強張った表情になってしまう。
センターに立った夕輝は弾けるような曲のアクセントに合わせて大きくジャンプした。
跳ねる夕輝の体はとてもしなやかでありつつ、指先や関節には針金が入っているかのようなメリハリがあり、表情も弾けんばかりの、とびっきりの笑顔を見せていた。
そして、着地と同時に1回転をし上半身はアイドルポーズを作りながら、足をスライドさせて体を捻る。
――その動きの1つ1つが夕輝との自主練の日々を思い出させる。初めこそ、基礎のステップも踏めなかった夕輝が徐々に成長していく姿を私は1番近くで見ていたのだ。
ブー、ブー、と文句を言いながらも大量の汗を流して、何度も同じ動きを繰り返していた。
私がやらなくていい、って言っても頑なに言うことを聞こうとせず、練習をしていたこの動き。何を意地になっているのか、そう思っていた。けど、このときのために練習していたのか、そう理解すると不思議と目頭が熱くなってくる。
目の前の彼女は間違いなくアイドルだった。誰かのためにがんばれる、私の大好きなアイドルそのものだ。
そして、私が見ていないところでも、きっと夕輝は練習していたのだろう。だって、私が1番知っているから。出来ないことが出来るようになるには、練習するしかないということを。
そして大詰め、夕輝は捻ったところから更に大きく飛んで、空中で1回転をし最後のポーズを決めてみせた。
――夕輝ッ‼︎
この後、ラスサビに合わせて再度、私と夕輝の位置が反転する。しかし、そこで私の体は曲よりもワンテンポ早く前へと飛び出していた。そして、バックのポジションに戻ろうと振り向いた夕輝と視線が重なる。
私が突き出した手のひらに、夕輝は驚きつつも笑ってタッチする。重なり合った手の感触がとても暖かい。言葉なんてもういらない、彼女のその努力と意思はもう私に伝わっているから。
「伝えちゃって いいでしょ!〜♪ 大好きなことを いつも〜♪ 一緒にいてくれて ありがとう〜♪ って一言 言えたら いいんだけど〜♪ ちょっぴり 恥ずかしいね pure shy My Heart!〜♪」
ラスサビを歌いきり、締めのダンスに入る。そう思っていたら、私の知らないメロディーが差し込まれる。それは、私の知らない誰かが、曲の構想そのものに手を加え加筆したものであった。
「夢は叶うよ〜♪――」
後ろにいた3人が歌いながら私の隣にやってくる。そして、右から葉月、夕輝、私、結花凛の1列になって3人は私を含めて手を繋ぐ。
結花凛も、夕輝も、葉月も、アイドル失格である。だって、目の前にいるお客さんじゃなくて、私の方を向いて歌っているのだから。
「僕らが一緒なら〜♪」
その1節で曲は綺麗に締めくくられる。
音楽が止まり、聞こえてくるのはファンの皆んなからの拍手と、両隣の荒い息遣い。
どっ、と体の力が抜けていく。しかし、それは気持ちのいい脱力だった。間違いなく全力でやりきった。誰にも、何も、文句は言わせない。今の私は、いや、今の私たちは最高に輝いている。
やがて収まる皆んなの拍手。完全に静寂となったステージの上で、私は覚悟を決めるとともに大きく息を吸い込んだ。そして、両サイドに握っている結花凛と夕輝の手を持ち上げるようにバンザイをして――
「私立若ノ芽女学院スクールアイドルですッ! よろしくお願いしますッ‼︎」
自分が出せる1番大きな声でそう宣言する。
スクールアイドル、そう宣言しただけで、胸の奥の何かが、すうっと軽くなるのを感じる。
――ああ、やっぱり。私はスクールアイドルになりたかったんだ。
認めてしまうと簡単なものだ。こんなに近くにいる3人を、ずっとムズムズする存在だと思っていたのに、急に愛おしく感じてくるのだから。
行動と歌詞に思いを込めてくれた3人と、離れ離れになっても私を心配し続けてくれた琴音。そして、誰だか分からないけど、私のために曲をアレンジしてくれた誰か。
多くの人の思いやりを受けて、私は新しい人生を歩むことを決意した。