第12話 【前奏曲=プレリュード】動き出す音
今日は4月1日、もうすぐ高校入学が差し迫ろうとしている。この日は私の誕生日だった。日中は夕輝ちゃんと遊びに行ってお祝いしてもらい、夜は家族全員で大きなケーキを食べた。
甘いケーキでお腹をいっぱいに満たした私は、
少しの眠気に包まれながら、目を閉じて考える。
長いこと身動きの取れない日々が続いたせいか、今日は本当に楽しかった。大切な友達と大好きな両親にチヤホヤされる。
――誕生日っていいな。
自然と頬は緩み、幸せに包まれている実感が湧いてきた。緩む頬がなんだかむず痒くて、ベッドの上でジタバタする。グシャっとなった薄い掛け布団がヒンヤリと肌に触れて心地よい。
――ああ、ホントに退院できてよかった。
白い病室、連なるベッド。懐かしの病院生活を思い返していると――次の瞬間、私の耳に聞き慣れない曲が飛び込んできた。少し冬の切なさを感じさせるアップテンポな曲。
気になってスマートフォンの画面を確認すると、そこに写っていたのは輝く衣装に身を包み、煌びやかなステージでパフォーマンスをする5人の少女たちだった。
――なにこれ⁉︎
動画のタイトルには気になるワードがちらばめられている。
『Starlight Prologue』『Liella‼︎』『スクールアイドル』
その動画には不思議と惹きつけられる何かがあった。どう表現したらいいのかよく分からないが、胸の奥で重低音が響いた時のように沸々と伝わる観覚である。
まず第一にパフォーマンスをしている5人に引き寄せられた。キラキラしていて、すごくカッコイイ。しかし、それよりも不思議と視線を引き寄せられるところがあった。それは私の無意識に何かを訴えかけているようだった。
ステージ。キラキラと光っていて、大きなステージ。吸い込まれそうなほど私の目はそこに奪われている。
――立ちたい……私も、そこで歌いたい!
なぜ、強くそう思ったのか自分でもよく分からない。だが歌いたい、そんな自分の感情に嘘は感じられなかった。今まで止まっていた何かが、急速にそれを取り戻そうと私の内側で騒いでいる。
そんな私の頭の中には、まだ私が病院にいた頃に夕輝ちゃんが言ってくれた言葉が、何度も反響していた。
『カラッポな頭の分、何でも入るんだから、やりたいことは何だってやればいいんじゃん? 大丈夫! 何でもアタシが協力するからさ‼︎』
入院し、ベットに横たわる私に夕輝ちゃんは、そう言ってくれた。その発言を聞いて、一緒にお見舞いに来てくれていた私の両親は、ちょっと微妙な顔をしていたけれど、その言葉が私はすごく嬉しかったんだ。
――ステージ、歌、スクールアイドル。私が、アイドル……やってもいいんだ!
そう思うとワクワクが止まらなかった。未来への期待と、ちょっぴりな不安で胸のあたりがゾクゾクする。
高校生になったらスクールアイドルになろう。夕輝ちゃんと、ステージに立とう! ピカピカのステージで自由に歌えたら、きっと楽しいに違いない‼︎
一度そう意思を固めると、トキメキは次第に溢れてくる。
高校生活が楽しみだ。先のことを考えると希望が湧いてくる。
だけど――時折その希望の裏側で正体不明なザワザワを感じるときがある。
なにか、とても大切な何かを忘れているような。そして、たまに見せる夕輝ちゃんの寂しげな表情も気になってしまう。
そんなザワザワを心の奥へと隠し込みながら、ドクンドクンと高鳴る自分の心臓の音を確かに感じ取るのだった。