ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

2 / 86
第1話 乗り込め生徒会室

窓から差し込む太陽の光が、夕輝(ゆうき)の顔を横から照らす。昼の暖かな空気に眠気を誘われて、夕輝は欲望のままに欠伸をした。

 

 時計の長針がカチンと揺れて、同時に校舎には昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴り響く。

 

 授業が終わり教師が教室を後にするとグ〜、と音を立てて夕輝のお腹はうねりを上げた。

 

「あー、お腹すいた。ユカ〜、ご飯にしよ」

 

 コンビニのビニール袋を手に持って、結花凛(ゆかり)のもとまでやってきた夕輝は、空いた方の手をお腹に当てて、そう言った。

 

「行くよ夕輝ちゃん‼︎」

「え、ちょっと、行くってどこに?」

 

 夕輝がポカンとした表情を見せていると、結花凛はフッフッフッ、と胸を張って、したり顔で笑みをこぼす。

  

「どこって、生徒会室に決まってるよ!」

「決まってるって、昼食はどうするわけ? アタシ、お腹すいてんだけど」

「思い立ったら行動だよ! 時間があるうちに動かないと! お昼ご飯なんて後だよ後」

「えぇ……」

 

 渋々、といったかたちで夕輝は頭をかきながら、結花凛について行く姿勢を見せる。すると――

 

「ちょっと、待って!」

 

 2人の目の前に1人の少女が立ちはだかった。

 

 結花凛と夕輝は揃って、その人物に視線を集める。太陽の光を反射させる綺麗な黒髪を、後ろで一本に束ねたメガネの少女。小脇にノートとクリアファイルを挟み、体の芯から堅物のような雰囲気を放つ彼女は、続けて口を開き、ちょこんと生えた八重歯を煌めかせた。

 

春野結花凛(はるの ゆかり)さん、緋花夕輝(ひばな ゆうき)さん、2人ともよければなんだけど、再来週にある河川敷のゴミ拾いに参加できないかしら」

 

 少女は小脇に抱えていたクリアファイルから2枚のプリントを取り出して、1枚ずつ2人に手渡した。

 

 突拍子もなくそんな提案を持ちかけてきた少女に、睨みを利かす夕輝。そんな夕輝を差し置いて、結花凛は一歩、目の前の少女に近づいた。

 

「確か、風紀委員の瓜谷美烏(うりたに みう)ちゃんだよね。ゴミ拾いってなんの話?」 

「入学早々から風紀委員の仕事があって、毎年恒例のイベントでボランティアを募って近くの河川敷のゴミ拾いをするらしいの。人を集めておくように言われたんだけど、なんせまだ誰とも親しくないものだから、仲のよさそうな、2人に頼んでみたのよ。仲のいい友達同士なら参加しやすいでしょ」

 

 確かに、美烏と何の関わりもない1人に声をかけるよりは、美烏とは関係ないとはいえ友達同士で参加できる結花凛と夕輝に目をつけたのは理解ができる話である。しかし、夕輝は一貫して快い表情を見せることはなかった。

 

「話はわかったけど、今じゃなくていいよね? アタシたち用事があるの。悪いけど通してくれる?」

 

 声色さえ優しいものだったがその反面、目は笑っておらず、第三者が見たら間違いなく一触即発の大事件を匂わせている。

 

「ごめんなさい。実はこっちまで話、聞こえてたんだけど......スクールアイドルになりたいらしいじゃない? 意外だわ。緋花さんってそういうタイプなのかしら?」

「なに? 悪い? 人のやることなすことに文句言うくらいなら友達の1人でも作って、その訳の分からないイベントにでも参加したら?」

 

 第三者が見なくても状況はすでに一触即発だった。美烏と夕輝の間で火花が音を立てて弾け合う。

 

「それに、スクールアイドルって風紀的にどうなのかしら? 生徒会が承諾してくれるのかしらね」

 

 美烏が落としてきた至極真っ当な意見に、下調べの一つもしていない夕輝は何も言い返せず、奥歯を噛み締めた。

 しかし、結花凛は嫌な顔一つ見せることなく、美烏の手を両手で包んでさらに接近する。

 

「大丈夫だよ‼︎ スクールアイドルはキラキラしてて、すっごいカッコいいから、きっと分かってもらえるはずだよ!」

 

 何の根拠もない、それはただの結花凛の自信でしかなかった。しかし、その瞳には一切の混濁はなく、まごうことのない自信でもあった。そのことだけは痛いほど伝わってくる。美烏もそう感じ取ったのか、ため息を吐き、大人しく2人の進行方向から離れる動きを見せた。

 

「そう。まあ考えといてよ、ゴミ拾いの話。あと、緋花さん、スカート短過ぎね」

「は? アンタもそんなに変わんないんじゃん?」

 

 制服の着こなしを注意する美烏のスカートも標準よりも短い設定が取られていた。そのことを夕輝は指摘するが美烏は表情を変えることはなかった。

 

「私のはルールのギリギリを攻めてるからセーフよ」

 

 そう言い残して自分の席へと帰っていった。

 

「何アイツ、真面目なのか不真面目なのか分かんないじゃん。メガネのくせに……」

 

 そう言って夕輝は渡されたプリントをグシャグシャに丸めて数メートル離れたゴミ箱に投げ捨てる。直線を描いて放たれたプリントは軌道を変えることなくゴミ箱の中へ入っていった。

 

「夕輝ちゃん、メガネは関係ないんじゃないかな?」

 

 そして、迸る怒りの熱でアツくなる夕輝を宥めるように、結花凛は冷静にツッコミを入れるのだった。

 

 ※

 

 瓜谷美烏との一悶着を超えて、2人は生徒会室の前までやってきていた。夕輝は喉を鳴らして足を止めるが、結花凛は一時も止まらない。教室の扉を3回小突いて、中からの返事を待つ。

 

 数拍置いて帰ってきた返事に則って、結花凛は生徒会室の扉をスライドした。

 

「失礼します。1年B組の春野結花凛です!」

 

 そんな結花凛を追いかけて夕輝も後に続く。

 

 中にいた1人の少女に招かれて、2人は入室する。棚にはビッシリと本と書類のフォルダーが詰め込まれていて、中央には4つの机が向かい合わせに並んでいる。そこから離れたところには生徒会長のものと思われる大きな机が孤立していた。

 

 そして今、その机に腰をかけている生徒こそ、2人が目的を果たすために必要な人物である。

 

「初めまして、3年A組に所属している生徒会長の青峰若葉(あおみね わかば)だ。本日はどのようなご用件かな?」

 

 緑色のショートヘアーをした少しボーイッシュなカッコいい女の子。一目見て、頭が良さそうだと言わしめる風格が若葉からは溢れている。

 

「はい! 新たに部活動を立ち上げたくて来ました‼︎」

 

 そういうと、結花凛はあらかじめ記入しておいた部活発足の申請書を若葉に手渡した。

 

「ほう、スクールアイドル部か、確かに流行ってるよね」

 

 瞳を上下に動かして若葉は渡された書類の隅々にまで目を通す。そして、改めて目の前の2人の新入生に目を向けた。

 

「うん、いいんじゃない? 頑張って! 目指せラブライブ優勝、ってね」

 

 可愛い笑顔で楽観的に発言した若葉を夕輝は二度見する。美烏に先打ちされていたせいか、教室からここまで緊張感を抱いた表情を見せていた夕輝だったが、どうやら杞憂だったと判断したらしい。ゆっくりと湿った息を吐いた。

 

「でもね、メンバーがちょっと足りてないよね」

「え?」

「私としても、私立若ノ芽女学院(しりつわかのめじょがくいん)の校風として生徒の自主性は尊重するつもりだ。もちろん応援はする。けど、部活動継続の最低条件として部員、4名のルールを掲げている訳だから、その点は守ってもらわないとダメだよね」

 

 つまり、今の段階ではまだスクールアイドル部を認めるわけにはいかない、そういうことらしい。肩透かしを食らった表情を見せる夕輝だったが、結花凛は依然、笑っている。

 

「じゃあ、4人集めたらスクールアイドルやってもいいんですね!」

「うん、いいよ。誰でもいいから後2人。極論名前を借りるだけでもいい。まあ、その場合は、その人は他の部活には入れなくなっちゃうけどね」

「分かりました! 頑張って後2人、集めて来ます‼︎」

「うんうん、頑張ってね。そうだ、よければ生徒会の方で学園の掲示板で告知しておこうか?」

「いいんですか⁉︎」

「ああ、いいとも。明日からは放課後に、校内の裏庭で大々的な部活動の勧誘会を行うから、そこで勧誘してみるといいんじゃないか?」

「はい! ありがとうございます‼︎」

「うんうん」

 

 そう笑顔で見送られ、結花凛と夕輝は生徒会室を後にする。

 

「さて、どうなるだろうね……」

 

 2人が去った生徒会室で若葉は意味ありげに、そう呟いた。

 

 かくして2人は再びスタート地点に戻される。しかし、結花凛は足を止めることはしない。

 

「よし! さっそく勧誘活動だ‼︎」

 

 めげることなく元気溌剌な結花凛に、思わず、ため息を漏らしながら夕輝もあとに付いていく。

 

「と言っても、そう上手くいくもんなの?」

「大丈夫だよ! スクールアイドルはすごいんだよ‼︎ スクールアイドルの影響で入学者数が爆増した学校があるくらいなんだから。きっとうちの学校のみんなもスクールアイドル部ができることは嬉しいはずなんだよ!」

「はぁ。ま、ここまで来たら、どこまでも着いていくよ」

 

 そして、小走りに我先と行く結花凛を夕輝が歩いて追いかけるかたちで、2人は自分たちの教室へと戻っていった。

 

 ※

 

 結花凛より遅れて夕輝が教室に戻ると、結花凛はすでにクラスメイトに声をかけていた。その行動力を見てか、少し呆れた表情のまま夕輝は近づいていく。すると、結花凛が丁度、勧誘の断りを入れられているところだった。

 

「ダメだった?」

「うん、私にはムリって言われちゃった」

「まあ、気持ちは分かるけどね。この期に及んで、アタシもそう思ってるし」

「なかなか上手くいかないね」

「まあ、やっぱそんなもんでしょうよ。スクールアイドルって名前だけでもかなりのハードルじゃん?」

「そうかなあ? あんなにカッコいいんだから、やりたいって人はいっぱいいると思うんだけどな〜」

「皆んなが皆、ユカみたいにやりたいことに真っ直ぐで、いられないってことでしょ。そんなことより、アタシそろそろお腹すいて限界なんだけど、ご飯にしよ」

「そういえば、お昼まだだったね……」

 

 夕輝の提案、もとい懇願で2人はようやく昼食の席につく。一つの机に向き合って座り夕輝は、はやる気持ちを抑えられずにビニール袋の中からサンドイッチを取り出した。そして、手早く包みを解いて、中のサンドイッチを摘み出す。

 

 柔らかなパンに沈む指。マヨネーズの酸っぱい香りと指に伝う野菜の瑞々しさ、五感に訴えかけてくる目の前の食事に夕輝の唾液腺は弾け飛んだ。

 

 目の前の食事に目を輝かせ、夕輝は大きく息を吸う。

 

「いただきます!」

 

 ようやく昼食にありつける、そんな待ちに待った瞬間に無慈悲な終止符を打ったのは、昼休みの終わりを告げるチャイムであった。

 

「ウソでしょ……ここでお預け?」

 

 キュルキュル、と悲鳴をあげる夕輝のお腹。手に持ったサンドイッチと教室の時計、数度見合って眉間にシワを寄せる。

 

「せめて、この一切れだけ!」

 

 そういって何もかもを振り払って、夕輝はサンドイッチを一口で口に詰め込んだ。大きく膨れ上がった口でモグモグと咀嚼する夕輝。

 

 そこに通りかかった美烏は、ボソリと聞こえるように呟いた。

 

「下品で行儀悪いわよ」

「うゔざい‼︎」

 

 声にならない声を上げ、それでも意味が通じるのだから、相当感情が込められていたのであろう。夕輝の心からの叫びは結花凛の鼓膜にもこだましていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。