夕陽は差し込み、ガタンゴトンと車内は揺れる。ガラガラの電車の中で結花凛たちは向かい合って4人がけの席に座っていた。
「あー、何が『次にスプリングフェスで会うのを楽しみにしているわ』、だ! アタシたちをハメて潰そうとしたクセにさ」
「ま、まあまあ夕輝ちゃん。美烏ちゃんのおかげでなんとかなったんだし、その辺にしとこ?」
「いやいや、思い出しただけでも、はらわた煮えくりかるんだけど。最後の発言とか許せないし」
夕輝のその発言には美烏と葉月も共通した認識を持っているようで、結花凛を除く各々が首を縦に振る。
※
配信を終えた後、結花凛たちの元へ松原りくは近づいてきた。
「まさか、あなたが元プロの子だったとはね。自力の高さも納得だ。なんで無名グループで細々とスクールアイドルやってるのかは分かんないけど」
明らかに一言余計な言葉が混ざってはいたが、りくは和かに握手を求める手を差し出す。
それを数秒見つめてから間を空けて、美烏はその手を握り返した。
「私は、このメンバーじゃないとダメなんです。他のどんなに有名なスクールアイドルグループであっても、私はこのメンバー以外とじゃ輝けない」
真っ直ぐな瞳でりくの瞳をとらえながら美烏は胸の内を言葉に変える。
「確かに、配信での美烏ちゃんは輝いていた。それに周りを巻き込んで相乗効果も産んでいた。やっぱり、私の忠告通りアナタがセンターだったから、チームとしてのまとまりもよかったわね」
りくのその発言は美烏ももちろんだが後ろにいる夕輝と葉月の目にも闘志を燃え上がらせた。歯を食いしばり、目の前のりくをジッと見つめる。棘のある発言をされている結花凛はというと、いつも元気なスマイルフェイスを明らかに崩して細めた目でりくの足元に視線を落とす。
相対して、美烏は静かに深呼吸をした。そして一度目を瞑ってから同時に口を開いた。
「そんなこと、私だってはじめから分かってます!」
大きな声で、そう強く主張した美烏に後ろの3人はもちろん、りくでさえ驚いた表情を見せる。
「結花凛の歌にはムラがある。今のままでは、結花凛がチームの顔としてセンターに立った時、足を引っ張ることくらい振り付けを考えている段階で、私だって言われなくても分かってる!」
今まで口にしていなかったことを美烏は初めて口にする。そして、だけど――、と言葉を続けた。
「だけど、結花凛の歌には何かを超越する不思議な力がある。そのことを私は知っているから、このメンバーが最大限力を発揮できるのは結花凛がセンターに立ったときだって分かってるから、本気で勝つためには結花凛がセンターじゃなきゃダメなんです!」
周りにも伝わる熱量をコレでもかと目の前のりくへと美烏はぶつけた。そしてオマケと言わんばかりに握っていた手をさらに強く握り返す。
「この際だからハッキリ言わせてもらいます。あまり、私たちを舐めないでください」
強く握られた手を更に強く握り返して、りくはニヤリと笑みを見せた。
「へ〜、そこまで言うなら俄然楽しみが増えちゃったわね。次はさぞ進化したパフォーマンスを見せてくれるんでしょう? スプリングフェスで会えるのを楽しみにしているわ」
そうして互いに手を解いて、合同練習は幕を下ろすのであった。
※
「配信に遅れた理由なんだけど……実はちょっと葛藤してたっていうか、ミュウミュになることには全く抵抗はなかったんだけど、曲の方がね……」
揺れる電車の中で美烏は数十分前のことを思い出すように話し始める。
「完成度の高さと実績で見返してやろうって考えたらPure Shy my Heartを披露するのがいいと思ったんだけど、そもそもアレは
「確かにミウが言う通り、ボクたちの曲と言えばビタミンPことレナ君が作ってくれた曲だよ。でも、あの状況あの局面では、ミウの選択は間違いではなかったと思う。なんとかして、ボクたちを守ろうとしてくれたんだよね?」
もし、あのまま何の策もこうじていなければ、りくに鼻で笑われて終わりであっただろうと、そんな意図を交えつつ優しく包み込むように葉月はフォローした。
「そうそう、美烏のおかげでホントに助かったよ」
「2人とも……」
しおらしく交互に2人を見つめる美烏。そんな美烏を見つめながら、夕輝は少し申し訳なさそうに頭を掻いて口を開いた。
「てかさ、アタシもちょっと楽観的過ぎたのかなって……自分たちを応援してくれてるファンの大切さとか全然知らなかったし、あんなにアウェイになるのとか……アレだけ美烏が色々と考えて心配してくれてたのに……ごめんね」
「夕輝……」
己の行いを改めて反省して夕輝は頭を下げる。
「ううん、私も勝手に1人で考え込んで、詳しいことはなにも説明していなかったから……ごめんなさい」
Live配信をするにあたって、一定のファンを抱えていない自分たちがどのようなコメントを書き込まれるのか、予め美烏には想像がついていたはずだ。加えて、にもかかわらずLive配信を誘ってきた、りくたちへの違和感にも美烏は薄々勘づいていたのかもしれない。
しかし、どこか心の底ではスクールアイドルとして見てきた偶像があるのだから、それを信じ抜きたいという気持ちとの葛藤の末、美烏は何も言わずに自分でなんとかする道を選んでしまった。
目と目を合わせ視線が絡み合うなか、どちらからということもなく自然と2人は笑いをこぼす。
「まあ、結果オーライ。今回はいい経験をしたってことで、また明日からスプリングフェスに向けて頑張ろうじゃないか!」
葉月が締めくくり、夕輝と美烏は大きく頷いた。挫折にもにた痛みを経験し、自分たちの足りないところを理解した3人は再び前を向いて歩み出す。
そんななか、周りからの多大なる期待の重圧ゆえか、結花凛だけがいたって真剣な顔つきで口をつぐんで、電車の揺れに身を任せていた。