ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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※本作品の番外編は本編にも関係するように構成されています。


番外編 だってタピりたいんだもん!②

番外編 だってタピりたいんだもん! ②

 何気ない会話に花を咲かせながら、2人はイベントの中心部近くまでやってきていた。間近にある屋台から漂ってくる芳しい香りに結花凛は目を輝かせながら、さっそくいくつかの屋台へと足を運んだ。

 

 それから数分間がたち、屋台を巡った2人は購入した食べ物を持ち寄って野外ステージ近くのテーブルにそれらを並べる。

 

「買ったね〜、どれも美味しそうで、どれにするか悩んじゃったよ〜」

「そうね。屋台で買い物するなんて小学生の頃いらいだわ」

「私は去年、夕輝ちゃんと夏祭りに行ったよ。そうだ! 今年は美烏ちゃんも一緒に行こうよ‼︎ 葉月ちゃんも誘ってさ」

「……考えておくわ」

「うん! 楽しみだね‼︎」

 

 机に並べられた粉物や焼きそばをつつきながら、2人は和かに話している。

 

「これからどうするつもりなの? 場所変えてタピオカを売ってるお店を探しに行く?」

「う〜ん、確かにタピオカは飲みに行きたいけど、これ以上美烏ちゃんを振り回しちゃうのは悪いっていうか……」

 

 美烏の提案を含めた質問に結花凛は苦笑いで、そう返した。それを見て美烏は意外そうなリアクションを見せる。それから、少し照れくさそうに口を開いた。

 

「……それなら別に構わないわよ。私もいやってわけじゃないし」

「ほんと? 楽しんでくれてるの? だったらいいんだけど」

「結花凛って、意外と気配りさんというか、そういうこと気にしたりするのね」

 

 言葉を濁した美烏に対して、結花凛は心配そうに探りを入れる。その行いが、美烏にはミスマッチに感じたらしい。普段、どちらかといえば人を先導するほどに行動力を示している結花凛だが、決して視野は狭くはない。そのことに対して美烏は感心するするかのように落ち着いた瞳を向ける。

 

「そりゃ私だって、1人だけ楽しくても仕方ないし、そういうことは気にしたりするよ〜」

「なるほどね。じゃあ、お昼を食べたら電車で隣町くらいまで移動しましょうか」

 

 数分間、2人が昼食と会話に花を咲かせていると不意に、美烏の提案に返事をすることなく結花凛がジッと遠くを見つめているようすを見せた。

 

「……」

「どうしたの?」

 

 不思議そうに結花凛の顔を見つめている美烏。しかし、声をかけられてもそれに気づかないほど結花凛は集中しているようだった。

 

「美烏ちゃん、ちょっと行ってくるよ」

「え?」

 

 真剣な声色でそう言いながら結花凛は席を立つ。そして、ズンズンと進んでいく結花凛の背中を美烏は困惑した表情で見つめていた。

 結花凛が少し歩いて、人混みの方へと近づいていくにつれて美烏の目にも、その存在が視認できるようになる。美烏が気づいたその存在とは齢5、6ほどの小さな女の子であった。

 

 人混みの中で、きょろきょろと周りを気にしている、うかない顔の少女。それは賑わう人の波の中では異質に浮いた存在であった。辺りにその子の親と思われる存在も見当たらず、端的にいえば迷子であると言えるだろう。

 

 そんな女の子のそばへとやってきた結花凛は穏やかな笑顔で話しかけながらしゃがみ込み、目線を合わせてにっこりと笑った。

 

「こんにちは! あなたがすごく困ってそうだったから声かけちゃった‼︎ 私は春野結花凛だよ。私が力になれることがあったら何でも言って?」

「っ⁉︎」

 

 いくら結花凛が柔らかく声をかけたとしても、なかばパニック状態の子供が知らない大人に声をかけられれば驚いてしまうのは仕方がないことである。潤んだ瞳はさらに水面を高くして怯えたようすを少女は見せた。それでも結花凛は戸惑いを見せることなくすかさず次の行動をとる。

 

 結花凛は右手の人差し指を立てて少し曲げると、それを人形に見立てた。そして、その人形を女の子に差し向けてサンタクロースや魔人を思わせるような低く籠った声で結花凛は再度、声をかける。

 

「フォッ、フォッ、フォ〜 我はエジプトの妖精ファラオくんなり〜 元気なお友達はいっしょにトトメス体操を歌おうなり〜」

 

 朝と夕方に放送している国民的教育番組。その1コーナーを任されているのが結花凛が語るファラオくんである。冷静なキャラクターが時々おかしな発言をするシュールさが子供のツボにハマったのか、有名な人気キャラに名を連ねている。

 

 現に、目の前の女の子もはじめは戸惑ってはいたが、今では穏やかな顔を見せていた。元気よくトトメス体操を歌う結花凛を見てケラケラと笑っている。

 

 そんなところに結花凛の後を追ってきた美烏が姿を現した。

 

「な、何やってるの?」

 

 綺麗な歌声で珍妙な歌を歌う結花凛に美烏は問いかける。

 

「え? トトメス体操だよ! 美烏ちゃん知らないの⁉︎」

 

 歌を中断して結花凛は返事をした後、女の子の方を向いて目を見合わせた。

 

「朝のテレビでやってるもんね? トトメス体操、みんな知ってるよね〜」

 

 ね〜、と声を揃える2人を見下ろしながら美烏は困惑した表情を見せている。女の子と笑い合ったあと、結花凛はその小さな手を取って立ち上がった。

 

「この子は、ゆかりお姉ちゃんの、お友達のみうちゃんだよ! あなた、お名前は?」

「わたし、若木麗音(わかぎ れおん)。5才だよ」

「そっか〜! 自己紹介できてえらいね‼︎ よろしくね、れおんちゃん‼︎」

 

 麗音の頭を結花凛はなでる。この2人を見て、さっきまで全くの他人同士であったとは誰も思わないだろう。ましてや、今にこにこと年相応な笑顔を見せている麗音が、泣いていたとは側から見たら分かりようがない。

 

「感心した……本当に誰とでも仲良くなっちゃうのね。私、朝のテレビとか全然知らないわ。もしかして結花凛って保育士さん目指してたりする?」

「え? ううん。目指してはないけど」

「そうなの、さっきの歌も私たちは世代じゃないから、てっきり今のものも見て勉強しているのかと思ったんだけど」

 

 予想が外れた、と美烏は少し唇を尖らせる。

 

「あー、なんていうか去年とかは放課後に夕輝ちゃんが来てくれるまで午前中が暇でさ。とりあえずテレビをつけたらやってるから、無心で見てたんだよね〜」

 

 なんの話をしているのか、美烏はそんなハテナマークを浮かべた顔色を見せていた。

 

 結花凛が言うそれは、彼女が中学生だった時期の話。入院して、病院のベットの上で一日を過ごす彼女のルーティーンのことを指していた。それは、普段誰にも見せてはいない結花凛の弱味のような部分であり、意図的かそうでないのか結花凛本人も自分から話題にだすことはない話である。

 

「ま、それは置いといて。れおんちゃん! お母さんとはぐれちゃったんだよね?」

 

 ピンと来ていない美烏の表情を確認しつつも結花凛は強引に話の流れを断ち切った。そして、優しい瞳を麗音に向ける。

 

「うん......どうしよう、もう会えないのかな」

「大丈夫だよ!! 結花凛お姉ちゃんが、れおんちゃんのお母さんを見つけてあげるよ!」

 

 右手でガッツポーズを作って、結花凛はやる気の程を強調した。その声には力強さが宿っており、不思議と胸の中が暖かくなるような安心感が感じられる。

 それを感じ取ったのか結花凛を見る美烏は、頼もしいものを見るような安堵の表情を浮かべていた。

 

「ほんと?」

「うん! だよね、美烏ちゃん‼︎」

「ええ、私も目の前で困っている子供を放ってはおけないし、結花凛がいいのならもちろんそのつもりよ」

 

 このトラブルはもちろん予定にない行動であり、結花凛本来の目的を優先するならば間違いなく時間のロスになる。そのことを美烏は気にしていた様子だが、全く持って杞憂であることを彼女は理解したようである。

 

「よし、さっそくイベントの本部テントに掛け合ってみよう!」

 

 麗音の手を引いて結花凛は歩き出した。本部テントに行けば迷子のアナウンスをしてもらえるし、もしかしたら同じ考えを持った麗音の両親に出会えるのではないか、そういった思考だろう。

 

 本部に向かって歩き出した結花凛たち3人は人込みの中をズンズンと進んでいく。その間、結花凛は麗音の表情を何度も気にしている様子を見せていた。小さな女の子が親とはぐれて不安な気持ちにならないように、小まめに話題を広げている。

 

「ねえねえ、れおんちゃんは今日、なにしにこのイベントに来たの?」

「えっとね、お母さんが昔ロックバンド?っていうのをやってたみたいで、今日のイベントをれおんに見せたかったんだよね~、って言ってたよ」

「そうなんだ! ロックバンドか~、カッコイイね‼︎ 私も、歌うの大好きだよ!」

「ゆかりお姉ちゃんもロックバンドしてるの?」

 

 麗音に聞かれて結花凛は誇らしげに眉を吊り上げた。そして大きく吸って膨らんだ胸を張って、声に感情を乗せて言った。

 

「お姉ちゃんはね、スクールアイドルなんだよ!」

「アイドル!? すっご~い!」

 

 麗音の驚くようすを見て、結花凛は満足そうに笑みを見せる。

 

「そうだよ。って言っても始めたばっかりでまだ全然なんだけどね~」

「そうなんだ、すごいね~!」

 

 麗音の心をガッシリと掴んだ結花凛。2人はにこやかに話していた。反して、スクールアイドルの話をしている2人の会話を聞いていた美烏の表情は複雑そうなものである。

 それを視界の端に捉え、心配そうにしつつも結花凛は美烏に何か声をかけることはなかった。それは今、自分がどんな気休めの言葉をかけても焼け石に水となることを理解していたからであろう。琴音と激しく言い合う美烏の姿を結花凛は目の前で見届けたのだ。

 

 今、自分が美烏にしてあげられることは気休めの言葉をかけることではなく、勝負のその時まで力を養うことにある。そんな心の表れのような強い意志が結花凛の瞳の奥には宿っていた。

 

「ねえ、見て見て! 何かやってるよ‼︎」

 

 結花凛が指を指した方向には小さなステージがある。その見た目の簡易さからも小さな出し物的役割のステージかと予想ができ、どうやらその上に立つ人の風体も一般人としか言い難いそれであった。

 

「パンフレットによると、どうやら特設ステージでカラオケ大会をやっているらしいわね。1位を取ったら賞金が出るらしいわ。飛び入り参加も可能みたいよ」

 

 真面目な表情でジャバラ折になったパンフレットに視線を落としながら美烏は言う。

 

「へ~、楽しそうだね!」

「ね~」

 

 そうして3人は楽し気な雰囲気のままイベントの本部テントまで向かうのだった。

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