24話 はじめまして......だね②
ファミレスで初めて顔合わせをして、すでに少しの時間が経っていた。テーブルには料理も並んでいて、結花凛、夕輝、レナの前にはハンバーグプレートが、美烏はトマトとチーズのスパゲッティを、葉月はチキンステーキを注文したようだ。
そして、すでに美烏と葉月の自己紹介は済んでいた。昔、地下アイドルをしていたこと、そしてそのグループが抱えた問題のこと。それを踏まえて、レナがしてくれた行為に対して美烏は更に改めて深い礼の気持ちを伝えていた。
葉月はというと、自己紹介は極めて簡単なものだった。元舞台役者であることと両親が同じく舞台役者をしていること。そして、父親がその劇団のオーナーを兼任していることなどである。葉月の自己紹介は自分の身の上話よりも、意思表示が主であった。自分がどれだけスクールアイドルに熱を入れているか、No. 1を目指しているという自信に満ち溢れた宣言だ。
そして今、ターンは結花凛へと回って来ていた。
「はじめまして! 私は春野結花凛だよ‼︎ 」
「はじめまして……だね」
「うん! 趣味は音楽を聞くことで、歌うのも大好きだよ」
元気いっぱいにそう言う結花凛を、あぁ〜結花凛はいつも通りだな〜、といった和みのある表情で美烏と葉月は見つめている。しかし、それを聞いていたレナの表情は少し浮かない顔色だった。
「夕輝ちゃんからはいつも、ユカは元気すぎじゃん? たまにはもっと落ち着いてみたら?、なんて言われちゃうこともあるんだ!」
「だってユカには、いっつも振り回されてるからね」
満更でもなさそうに笑みを含みながら夕輝はぶっきらぼうに言い捨てる。
「元気なことは……いいことだね。よろしくね」
「うん! よろしくね‼︎」
こうして可もなく不可もなく結花凛のターンは過ぎていった。
「でも、
「ミーちゃん?」
「は、はーたん……」
レナは、にこにこと可愛らしい笑顔を振り撒きながら、恋する少女のような憧れの瞳を2人に向ける。それを受ける、ミーちゃんとはーたん、もとい美烏と葉月はその内容よりも前述の聞きなれない言葉に気を取られたようだ。
「レナって昔からすぐにあだ名とか決めちゃうんだよね。そっちの方が呼びやすいみたい」
「そ、そうなのね。あまり、友達からあだ名で呼ばれたことないから慣れないけれど、ファンからコールされてると思えばなんとか違和感なくいけそうよ」
「ふふふ、はーたん……ボクもあだ名で呼ばれるのは初めてだね。まあでも、たまにはこういうのも悪くはないのかな」
夕輝の補足を受けて、改めて美烏と葉月は受け入れる体制を作った。そんなやりとりの傍で、1人ソワソワとした様子を見せる者がいる。
「ねえねえ! 私は! 私は?」
キラキラと光る期待の目をレナに向ける結花凛。あだ名を決められた2人を前に、自分もその流れにあやかりたいようである。
「……ゆかりちゃん、で」
「えぇぇ‼︎ 何でぇ⁉︎ もしかして、さっそく私、嫌われちゃった⁉︎」
結花凛だけあだ名を頂戴できずにいるこの状況に、彼女は感嘆の叫びをあらわにした。
「レナはグイグイ来られるの苦手なだけだから、大丈夫じゃん? ね、レナ」
「う、うん」
「ほんと?」
結花凛のことを警戒しているのか、直視できないでいたがレナは首を縦に振る。
それを見ていた美烏と葉月は何かを深く考える表情を見せていた。入学をしてまだ1度も登校して来ていない生徒。そして、結花凛のように距離を詰めてくる人が苦手。その情報を掛け合わせると、予想できる答えも見えてくるのだろう。
「諏方草さん、いきなりで失礼と思われるかもしれないのだけど学校に来るつもりはないのかしら」
ワンクッションを挟んだにしても、ド直球に美烏は質問を投げかけた。こういう美烏のハッキリとしたところは、美点でもあり欠点でもある。
すぐには答えられないでいたレナに変わって、夕輝が口を開いた。
「あー、それなんだけど実はもう解決してんだよね」
さぞ当たり前のように吐き捨てる夕輝にレナ以外の3人は驚きの表情を向ける。
「何度かアタシがレナと話し合って、明日から登校してくる話で固まってる」
夕輝がそう言うと、補足するかのようにレナはコクリと首を縦に振った。
「それで、皆んなに今日、集まってもらった理由……なんだけど。皆んなに1つ頼みたいことがあるんだよね」
神妙な顔つきで、改めて夕輝はそんなことを口にする。対して、何を今更改まっているのだ、と言いたげな顔つきで3人は真摯にその言葉を受け止めていた。
「アタシ達
少し遠くを見るように、夕輝は真剣な口調で提案する。
突拍子もなく、そしてかなり飛躍した提案に一堂は目を丸くする。それでいて、夕輝の発言に動揺を見せていないレナの姿から、この提案はあらかじめ2人で話し合った結果であるということがわかる。
「イイじゃないか! ボクは元々、このチームは5人がいいと思ってたんだ。しかも、ボクの言っていた可愛い系の王道タイプにピッタリだ!」
「そういえば美烏ちゃんが入る前に、葉月ちゃんそんなこと言ってたね」
まだ4人という規定の人数を満たせず、部活動として生徒会から認められていなかった頃。葉月は、結花凛をセンターに置くのなら自分と夕輝、クールな2人を結花凛の色に調和させる王道系の人材があと2人欲しい、そう口にしていた。
その後、元地下アイドルで王道色の強い美烏が加入して今、華奢で可愛らしい少女レナ、という人材を目の前にしているというわけだ。
「ああ、それにレナが高い音楽センスを持っていることは周知の事実だ。断る理由がないね」
「私も賛成よ。葉月が言う通り、5人の方がバランスもいいしフォーメーションの幅が広がる。それに、能力がなくたって、やりたいって気持ちがアレば始められる、それがスクールアイドルだもの!」
「はーたん、ミーちゃん……ありがとう! 私、運動は得意じゃないけど、歌ならちょっと自信あるから。私、頑張る……皆んなについていけるように」
小さな手のひらをギュッと握りしめてレナは決意を形にして見せる。
「よかったねレナ。基礎体力付くまではアタシもトレーニング付き合うし、ダンスなら美烏センセーがいるから安心じゃん?」
「また勝手に……ま、でも私としても大歓迎よ。一緒に頑張りましょう」
「うん、ありがとうユっちゃん、ミーちゃん。心強いな。まさに、
「「……ん?」」
はち切れんばかりにニッコニコなレナは流れるように、よく分からない言葉を口にした。一度は聞き流したが、やはり自分の知識の方が正しいと、夕輝以外の3人は不思議な体験に喉を鳴らす。
「クマさんの衣って?」
「被ってるのよね……アレかしら、お金持ちの家の床に引いてあるヤツ」
「ああ、敷革のことだね」
真面目に相談し合う3人を見て、夕輝は右手で目元を覆った。
「えっと、皆んな……レナってたまによく分からない言葉作って使う癖あるからそんなに気にしなくていいかも。多分、安心できる、みたいな意味だと思うから……」
夕輝の説明を受けて3人は改めてレナ方へと視線を向ける。そこにはニコニコと楽しそうに笑っている少女の姿があった。
不登校の女の子と会って欲しい、そう頼まれて来たはずが、紙袋を頭に被って登場するわ、自己紹介は率先して喋り倒すわ、勝手にあだ名はつけるわ、よく分からない言葉を使うわで、何度も予想を裏切られ続けて来た。結花凛、葉月、美烏の3人は等しく何かを察して苦笑いを浮かべている。
きっと、似たようなことを考えているのだろう――あ、この子、不思議ちゃんだ、と。
彼女が夕輝といったいどのような話し合いの末スクールアイドルになる決意を固めたのか、そしてなぜ入学以来学校に来ていなかったのか、彼女に対して不明な点はまだまだ多くあるが、こうして結花凛たちエンシードは以外なところで新たな仲間を加えるのだった。