春の夜風が夕輝、美烏、そしてレナの髪の毛を緩やかになびかせていた。
スプリングフェスに向けて全員での参加を決めたエンシードの5人。その調整をするために急ピッチで、レナは練習に励んでいる。
美烏が御用達の広々とした公園で、夕輝との個別レッスンにレナも参加していたのだ。
「〜♪」
それは、耳の中で優しく広がっていくような清らかな歌声だった。形容するなら天使の歌声、と表現するのが分かりやすいだろう。
それを聞いている夕輝と美烏も、耳心地よさそうに笑っていて、一通り歌い切ったレナはやりきったぞ、と言いたげな顔を浮かべていた。
「うん、結花凛とはまた違った方向で、すばらしい歌唱力だわ」
「えへへ、ありがとう」
美烏に正面から讃辞を受けたレナは、恥ずかしそうに笑っている。
「昔からレナも、歌上手いんだよね。確か、コンクールとかにも出てたんじゃん?」
「う、うん。専門じゃなかったから1、2回だけどね」
「いやいや、専門じゃないのにそれで銀賞とか取ってたんだから、その方がヤバいんじゃん?」
「それこそ表彰されたのなんて1回だけだよ」
昔を懐かしむように夕輝とレナは仲睦まじく、わちゃわちゃと話していた。それを、微笑ましそうに笑って美烏は間を見計らい、声をかける。
「この歌唱力なら間違いなく即戦力になる。これなら
「だね、あとは本番までどれたげ動けるようになるかだけじゃん?」
「うん。私、頑張るよ、ユっちゃん! ミーちゃん!」
またもや、にこにこと笑い合う2人を見て、美烏も緩んだ表情を2人に向けた。それを感じとった夕輝は不思議そうな表情を美烏へと返す。
「どしたの、そんなにニヤニヤした顔でこっち見て……」
「いいえ、仲のいい2人を見ていると幼馴染っていいものだな〜、ってふと思っただけよ」
「ふ〜ん、美烏はいないの? 幼馴染」
夕輝に質問され、美烏はゆっくりと首を横に振った。
「いないわ。小学生の頃は芸能活動で忙しかったし、それ以前もこれといって仲の良かった友達もいないわね。昔から、本を読んだり、積み木で遊んだり、1人遊びが好きな子供だったのよ」
「あー、あんまり触れない方がよかった感じ? それってつまり、友達いなかったってことだよね……」
少しわざとらしく、夕輝はオーバリアクションにそう返す。
「その気遣い、余計なお世話よ」
分かってはいても、少しいじりたくなってしまう。そう言った声色の発言を、美烏は一蹴した。その表情はいたって平常で、この程度のことは日常茶飯事になったらしい。
「でも、そうね……強いて、私にとって幼馴染といえば
途中で言葉を詰まらせて、美烏は遠くを見る目を少し細める。それから何かを思い出すように、黒く染まった雲一つない夜空をジー、っと見つめるのだった。