ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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番外編 結成!クルール×フルール‼︎③

 美烏たちクルール×フルールのメンバーが初めて顔合わせをした日から半年ほど経つ。4人は念入りな準備期間の末、来たるファーストライブに向けて日々レッスンに励んでいた。

 

 鏡の壁に板の間のフローリーングで構成された王道なレッスン場で、プロの講師の指導のもと4人はダンスの練習をしている。

 講師の手拍子に合わせて動きを揃える4人。一際動きのキレがいいのは、自分でも得意と明言していた杏子であった。それに次いで桜もかなりのパフォーマンス力を有している。良くも悪くも平凡なのが美烏で、なんとか喰らい付いているのが琴音だ。とは言ったものの、やはりオーディションを勝ち抜いた人材ということもあり全員のパフォーマンスは同年代のそれと比べても洗練されている。

 

「それでは今日はこの辺で終わりにします。各自、ストレッチを行いセルフケアを怠らないこと」

 

 そう言い残してダンスの講師はレッスン場を後にした。

 

 残されたクルフルの4人は各々が行動に移している。桜と杏子は適度にかいた汗をタオルで拭い平然とした表情を浮かべていた。琴音はレッスン場のフローリングにへたり込み、ぐったりとした様子である。そして美烏はといいうと、両手を膝につけ額から汗を垂らして、荒い息で一点をジッと睨みつけていた。

 

 レッスン場に座り込む琴音に、桜はタオルとスクイズボトルを持って近づいていく。

 

「ほら、汗拭かないと体調崩すでしょ」

 

 そう言うと桜は琴音にタオルを手渡した。

 

「ありがとう、桜ちゃん」

「どういたしまして。はい、水も飲みなさい」

 

 素直にお礼を受け取って、桜は笑顔で水を差し出す。それを見ていた杏子は静かに行動に移していた。桜と同様タオルと水を手に持って美烏の方へと近づいて行く。

 

「はい、汗拭かないと体調崩すらしいよ」

「え、ええ、ありがとう」

 

 無機質な表情のままパチパチと瞼を動かして、杏子は美烏なタオルを手渡した。

 

「どういたしまして。はい、水も飲んで」

「……ありがとう」

 

 まさに桜をトレースした動きを見せる杏子に困惑しながらも、美烏は素直にボトルを受け取って喉へ水を流し込む。

 

「今日のレッスンも終わったことだし、さっさとシャワー浴びて帰りましょ」

 

 そう言うと桜は、床にへたり込む琴音に手の平を差し出した。その手を琴音は素直に掴み、引き上げられる力によって立ち上がる。

 

「はい、そうしましょう」

 

 そんな流れをまたもや見つめていた杏子は例の如く美烏の方へと体を向けた。

 

「だって。シャワー浴びて帰るらしいよ。行こ」

 

 別に美烏は自分の足で立っているにも関わらず、杏子は美烏に手を指しのべる。手を繋いで引っ張っていこうとしているのだろうか。

 

「私は、もうちょっと1人で練習してから帰るわ」

 

 真剣な眼差しで杏子に向かってそう返す美烏。すると杏子は数秒黙り込んで、差し出した自分の手の平を見つめ出す。それから美烏の方へと向きなおし静かに頷いた。

 

「うん、分かったよ。頑張ってね美烏」

「ええ、ありがとう杏子」

 

 そんなやりとりを残して杏子はてくてく、と桜たちの方へと歩いて行く。

 

「美烏ちゃん、あんまり根詰めすぎない方がいいんじゃないかな? 頑張りすぎると体壊しちゃうよ」

 

 心配そうに眉を凹ませながら琴音は美烏に声をかけた。しかし、琴音の提案を突き返すように美烏は首を横に振る。

 

「さっきやった振り付けを、どうしても今日までにできるようにしておきたいの」

「美烏ちゃん……」

 

 どうしても、そう言って練習の継続を選んだ美烏を琴音はまだ心配そうに見つめていた。

 

「琴音、やらしてあげたらいいじゃない。確かに、毎日のように居残って自主練を続けるなんて、誰にでもできることじゃないわ。けど、それがあの子のやり方なんでしょ。だったら私はそれを尊重するわ」

「ありがとう、桜」

 

 それから2人は静かに頷きあう。桜は杏子と琴音を連れてシャワー室に、美烏はレッスン場に残って振り付けの練習を続けた。

 

 ※

 

 ある日の休日、日曜日の午後。クルール×フルールのメンバーはそれぞれがカジュアルな服装に身を包み、街の方まで繰り出していた。

 

「ファーストライブまであと数日、ライブまでは自由な時間が作れるとしたら、今日が最後の休日になるってことね。だったら目一杯、遊びましょ!」

 

 そう提案するのは桜であった。そんな桜を前に杏子は言わずもがな納得し、琴音は外部での交流に緊張している様子である。そして、美烏は少し不機嫌そうにムスッとした表情を浮かべていた。

 

「本当に今日、遊んでいてもいいのかしら……ファーストライブは私たちにとって大切な門出よ。だったら、弛むことなく努力し続けるべきだと思うの」

「あー、っと、それも一理ある。けど、これも無駄なことじゃないはずだけど? 私たち、毎日のようにレッスンで顔合わせてるのに、それ以外で会うことなんてなかったでしょ?まだまだお互いに分からないことだらけ。だからこそ、一緒に遊びに行けば見えてくるものもあると思うけど、どう?」

「……確かに、チームワークは大切ね」

「オッケ、これで文句ないね。美烏はねぇ、マジメなのはいいけど、もっと気の緩ませ方を覚えた方がいいんじゃない?」

 

 桜のそんな発言に美烏は唇を尖らせる。すかさずそんな美烏の頭を桜は優しく撫でていた。

 

「ごめんごめん、そんなにほっぺた膨らませてないで、ほら笑ってよ。可愛いお顔が台無しだぞー」

 

 ケタケタと声に色を乗せて桜は心の底から楽しそうに笑っている。自分の身を美烏へと寄せ、抱きつく形で包み込んだ。当の美烏はというと、そんな桜の笑顔に毒気を抜かれたのかクスッと、笑い声を漏らす。

 

「じゃあ、早速行くわよ!」

 

 先陣を切る桜に続いて、クルフルのメンバーは都会の街へと消えていった。

 

 ※

 

 オシャレな街並みには、オシャレなお店が入っているものである。少しお高そうな、しかし品質は確かな洋服屋さん。まだ、11歳〜12歳の美烏たちにとっては、少しませた雰囲気を感じさせたが、アイドルという特殊な立場なら他の子よりもお洒落に気を遣ってもいいのだろう。

 

「私、服とか選ぶのよく分からない。いつも、お母さんが買ってきた服を着てるから」

「まあ、私たちくらいの歳の子なら、そういう子も多いと思うけど、私たちはアイドルでしょ。身だしなみには気をつけないと」

「うん。桜が言うなら、そうなんだろうね」

 

 お店に展示されたマネキンや、ラックに並んだ服などを吟味しつつ桜と杏子は和気藹々と話している。そんな2人の背中を追って、同様に美烏と琴音も談笑していた。

 

「あの2人って、本当に仲がいいわよね。特に杏子は、桜への信頼が度を越している気がするわ」

「そうだね。2人で並んでると絵になるし、もう見慣れた安定感があるよぉ」

 

 のほほんとした雰囲気で話す琴音の横顔を美烏は微笑ましそうに見つめている。

 

「琴音、自分には自身がないくせに、普段は前向きよね」

「え! そうかな? 言われたことないけどな」

「私には、あの関係が少し歪に見えていたから……あの2人が絵になることは認めるけれど。2人のユニットなら、クール系でもカワイイ系でも、どんなジャンルにも対応できそうなのが強みね」

「分かる! キリッとした2人もカッコいいだろうし、小悪魔系な桜ちゃんなんかも絶対カワイイよね! 目一杯、あざとくやってほしいよぉ」

 

 あ、スイッチが入ったな、と美烏は一歩退いた位置で目の前の琴音に視線を送った。しかし、次の瞬間――

 

「それで言うとアレじゃないかな。東京にあるUTX学園の――」

「A-RISEッ‼︎ 確かにそうね! カッコよくてカワイイ‼︎ あ、でも︎A-RISEは3人グループで……だったらもう1人お淑やかなスクールアイドルが入れば――」

 

 今度は美烏のスイッチが入る。そんな美烏を琴音は、あ! スイッチが入ったぁ、と嬉しそうに顔を緩ませた。

 

「おーい、そこのドルオタちゃんたち〜、次のお店行くよー」

 

 気がつけばかなり先を歩いていた桜が声を張って美烏と琴音に宣告する。それを受けて、ハッとした2人は揃った息で桜の方へと口を開いた。

 

「「はーい!」」

 

 ※

 

 一通りショッピングを楽しんだ4人は、街並みと同じくオシャレなカフェへとやってきた。薄い木の色がベースの内装に、白の机と大きな観葉植物が溶け込んでいる。そんな中、クルフルの4人は円机を囲んでテラス席に座っていた。

 

「見て見て、美烏。琴音に選んでもらった服、全部買っちゃった」

「すごい……4、5着は買ってるじゃない」

「琴音ね、すごいの! 持ってくる服、全部センスよくて結局、全身コーディネートしてもらっちゃった」

 

 カフェに備え付けられた荷物置きの黒いカゴには、桜によって購入された洋服が袋2つ分見受けられる。随分と満足したようで、鼻歌混じりに軽く脚をぶらぶらさせていた。

 

「私も一着、買ったよ。ありがとう琴音」

 

 僅かに口角を上げて嬉しそうに杏子は言う。桜と杏子、2人から名指しされて琴音は恥ずかしそうに縮こまり下を向いてしまった。

 

「美烏も選んでもらったらよかったのに」

「私は、推しのグッズを買いたかったから……」

 

 そう言いながら美烏は持っていた小さなポーチの中をごそごそと掻き回し、片手サイズのビニール袋を取り出す。それから、それを見つめてはトロン、と表情を緩ませて熱い視線をそれに送った。

 

「くふふ、ずっと品切れだったアクリルスタンドが入荷してたのよ。運がよかったわ‼︎ これで、春シーズンのアイテムが全部そろった。コレクションが捗るわよ!」

「そ、そう……美烏は本当にスクールアイドルが好きね」

「オタク全開の美烏ちゃんも、カワイくて好きだよ!」

「私も、見ててオモシロいから好き」

 

 相変わらず目を輝かせて美烏を見ている琴音と、ボソリと呟く杏子。少し距離を置いて桜は冷静に息を吸い込んだ。

 

「そういえば、さっき2人で私と杏子のこと話してなかった?」

 

 手元にあるアイスのカフェオレを一口、喉へ流し込み桜は思い出すように話題を転換する。

 

「あ、そうそう。桜と杏子が仲良いわよね、って話してたのよ」

「はい。後、2人が並んだら絵になるね、って美烏ちゃんと盛り上がってました!」

 

 冷静を取り戻した美烏と、それに合わせた琴音が揃って返事をした。それに対して桜は、ふーん、と鼻腔で声を震わせてから、もう一度カフェオレに口をつける。すると、珍しく横から杏子が口を挟んできた。

 

「桜は私の光。喧嘩とかしないし、仲がいいのは当たり前」

 

 杏子はそう言うと、桜と同じく注文した自分のカフェオレに口をつける。

 

「それよ。桜は私の光、ってやつ。ずっと気になってたのよ。それはどう言う意味なのかしら」

 

 躊躇うことなく美烏は真正面からそのことを杏子に質問した。そんな無遠慮な美烏を桜は少し驚いた表情で見つめている。

 

「美烏、アンタ結構ズケズケ来るのね……普通、ちょっとは遠慮とかしないの?」

 

 苦言を呈した桜に美烏は、そう言われても……、と言いたそうなむず痒い表情を見せていた。しかし、杏子は嫌がるそぶりを1ミリも見せずに、美烏の目を真っ直ぐに見つめる。

 

「別にいいよ。人に聞かせたくない話でもないし」

 

 そう言うと杏子は一度咳払いをして、身の上を話す体勢に落ち着いた。

 

「私は、ずっと友達がいなかった。幼稚園でも、学校でも、ダンススクールでも、なんなら学校ではイジメられたこともある」

 

 続けて杏子はその内容を補足する。いわく、軽度のものだが徐々に無視されることが増えて、学校では誰も相手をしてくれなくなったらしい。初めは、話を聞いてくれる人もいたらしいが環境が変わるたびに、やがて気付けば周りに人はいなくなっている、と語る。

 

「桜は私にとって初めてできた友達なの。私が黙っていても行動の指針をくれるし、私が変なこと言っても見離さないでくれる。だから私にとって桜は光」

「当たり前でしょ。こんなにダンスが上手いのに自己主張しないなんて、もったいなさすぎていてもたってもいられなかったっての」

 

 杏子と桜の出会いは同じダンススクールで起こった。類稀なる才能を有した杏子は、その存在感が桜の目に止まり、声をかけられる。それから、2人は一緒にいる時間が増えていき、確かな絆を紡いでいったらしい。

 

「桜って、当たりはキツイのに意外と世話焼きさんというか、面倒見がいいわよね」

「なに、バカにしてんの?」

 

 ジトっとした目と、笑いを含んだ口調で桜がそう言うと、つられて美烏もクスリと笑う。やがて、2人は目を見合わせて笑い合った。

 

「まあでも、単純に私は杏子といるのが楽しいから一緒にいるだけなんだけどね。この子といると退屈しないもの」

 

 桜がそう言うと、合わせて杏子は無言のまま右手でピースサインを作る。

 

「私は美烏や琴音とも、仲良くなれそうで嬉しいよ」

 

 そう言った杏子の表情はぎこちなく笑っていて、細くなった目とわずかに上がる口角がそれを訴えていた。

 

「私も! 杏子ちゃんや桜ちゃん、もちろん美烏ちゃんとも仲良くなれそうで嬉しい!」

「……私も。今まで友達と呼べる友達なんていなかったし、今日はすごく楽しかった。またこうやってずっと4人で一緒にいたいと、そう思うわ」

 

 嬉しそうに声を張る琴音。照れくさそうにモゴモゴと話す美烏。心のうちに秘めていた思いはみな同じらしい。

 

「琴音、美烏、私も2人のことは好きよ。チームメンバーだけど、同時にカワイイ妹ができたみたい。これから一緒に、頑張ってこうね」

 

 そう、それぞれが口にして4人は見つめ合い、そして笑い合った。ファーストライブを前に、まだ初対面の延長線だった4人は、こうして確かな絆を育んだ。桜の口にした今日の目的は、十二分に達成されたと言っていいだろう。

 

「まずはファーストライブね。ここで大きく一歩を踏み出して4人ですごい存在になるわよ」

 

 桜の宣言に、各々が首を縦に振る。

 

「クルール×フルール、やるぞ!」

「「おおー‼︎」」

 

 可愛らしい少女たちの掛け声は、重なり、混ざって、青い空の下に優しく溶け込んでいった。

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