ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第28話 天才は2人いた

 迷子となったレナが、桜というスクールアイドルに保護されたことなど知り得ないエンシードの面々は、散り散りになって各々が大規模な公園内を捜索していた。

 そんななか、人一倍必死に足を動かしていた結花凛は、ある程度時間が経った頃に、別の場所を捜索していたはずの若葉と出会う。

 

「結花凛くん、レナくんはいたか?」

「いえ、いませんでした……」

「そうか……こっちにもいなかったよ」

「それじゃあ、この辺にはいないのかも知れませんね」

「ああ」

 

 がっくし、といった形で結花凛と若葉は肩を落とした。それから2人は話し合う。スマートフォンを見てもまだ、誰からも連絡は来ていなかった。なので、自分たちも別の場所を探すようにしよう、そういう流れになったのである。

 

 肩を並べて、別のエリアへと移動する2人は、その間仲睦まじく会話していた。何かと関わりのある2人だがそれ故に、1年生だけで構成されたスクールアイドル部にとって若葉は結花凛直属の先輩のような立ち位置になっている。若葉は結花凛を気にかけていて、結花凛もそれを素直に受け入れているようだった。

 

「この前も言ったが、若ノ芽の校内でも結花凛くんたちのことを支持する生徒が随分と増えてきたな」

「はい! 今日も、何人かクラスの友達が見に来てくれるみたいで、すごく嬉しいです‼︎」

 

 そう言って笑顔を見せる結花凛に若葉は大人の余裕が感じられる笑みを浮かべている。2つ年上ということもあってか、どこか妹を見守る姉のような表情であった。

 

「そういえば、私のクラスメイトも何人か行くと言っていたな」

「そうなんですか⁉︎」

「ああ、みんな結花凛くんたちに期待しているんだ。それに、部活勧誘会の時のような歌が聞けるのなら、と足を運ぶ生徒も大勢いるだろうな。実際、私もあの時のようなキミの歌が聞きたくて来ている側面もある」

 

 入学当初、結花凛が見せた類稀なる才能。それをもう一度目の当たりにしたい。そういった生徒が多いことを若葉は口にした。いわゆる、結花凛たちエンシードが求められている需要の1つだ、といえるだろう。

 

 しかし、結花凛はそれに対して、決して心の底から快い返事をすることができないでいた。

 

「期待してくれるのは、嬉しいです……でも私、あの時みたいに上手くは歌えないんです。練習して、ある程度は歌えるようになったんですけど」

 

 少し物悲しげにそう語る結花凛に若葉は驚いたような顔を見せる。

 

「歌えない?」

「はい。ここぞ、ってときには歌えるんです。でも、自分から頑張るぞ〜、って考えちゃったら上手くいかなくて……」

「ほう?」

「私が何とかしなくちゃいけないなって、頭が真っ白になったら自然と声の出がよくなるというか、自分が自分じゃないみたいになるんです」

 

 その発言を聞いて若葉は目をぎゅっ、と細めた。それから左端の下唇を一瞬噛んで、次の瞬間には平然と真顔へと戻る。そんな若葉の些細な変化に結花凛は見向きもしていなかった。

 

「ピンチの時だけ力が出せる……か。まるで主人公だな」

「そ、そんな主人公だなんて褒めすぎですよぉ若葉先輩!」

 

 クールにそう言った若葉に対して、結花凛は照れくさそうに頬を染めている。そんな結花凛を目で追って、ニヤっと口角を上げた若葉は、その口を開く。

 

「ところで結花凛くん。私はもっとキミのことが知りたいんだ。いくつか質問してもいいかな?」

「質問、ですか? いいですけど……」

 

 そんな若葉の突拍子もない提案に、もちろん結花凛は戸惑っていた。興味深そうな声を鳴らし、距離を詰めようと若葉は結花凛へと寄り添っていく。そこには少しばかり年上の圧が感じられた。

 

「なに、職業柄か言い方に圧があったかもしれないが、言ってしまえば仲良くなりたい、と言っているようなものだ。キミは私のお気に入りの後輩なんだよ」

「お、お気に入りですか⁉︎」

 

 2つ年上の若葉からキリリとした眼差しでそう言われて、結花凛は戸惑いながらもどこか嬉しそうに驚いていた。ぴょこん、と肩から髪の毛の先までを跳ね上げて、表情にはイチゴのような赤い色がさしている。

 

「ああ、それじゃあ質問させてもらうよ」

「は、はい」

 

 改めてそう言われて、結花凛は何を聞かれるのか、と身構えるように表情をこわばらせた。結花凛の喉が鈍く音を鳴らす。

 

「誕生日は?」

「へ? あ、4月1日です」

「ほう、エイプリールフールか……珍しいね」

「そうですか?」

 

 意外にも素朴な質問だったためか、結花凛はクスリと笑いこわばっていた表情は解れていった。それに追随して若葉はニヤリと笑みを浮かべ、立て続けに口を開く。

 

「じゃあ、姉妹はいるのか?」

「いえ、いないです。1人っ子ですよ」

「好きな色は?」

「青色です!」

「じゃあ、好きな食べ物はなにかな?」

「サーモンです! あと、焼き鮭とか青魚も好きです。甘いものならハチミツが好きです‼︎」

「ふふッ、クマみたいだな」

 

 質問と回答のラリーを続け、結花凛はキャッキャと笑っていた。若葉もそんな結花凛を前に満足そうに笑っている。

 

「じゃあ、結花凛くんは、なぜスクールアイドルを始めたいと思ったんだ?」

 

 さっきまでのジャブのようなありきたりな質問とは違って、若葉はもう一歩結花凛の核心へと歩み寄った。それをもって、結花凛も少し真剣な顔つきを見せる。

 

「えっと……私、中学2年生の後半からほとんど卒業まで、入院してて病院生活をしてたんです」

「入院?」

「はい。だから、1年半ずっと寂しくて、楽しくなくて……だから高校に入ったら何か楽しいことがしたい!ってそう思ったんです」

「それでスクールアイドル、というわけか」

 

 高校進学が決まり、大志を胸に抱いた結花凛がたまたま1つの動画と出会いスクールアイドルを知った。そして、そのステージへと強く惹かれていった。それがその後の顛末である。

 

「どうだ、結花凛くん。スクールアイドルは楽しいか?」

「はい! 夕輝ちゃんはもちろん、美烏ちゃんや葉月ちゃん、レナちゃんとも仲良くなれて、毎日すごく楽しいです‼︎」

 

 えへへ、と柔くなった顔でそう言う結花凛を、若葉は真顔で見下ろしていた。それから乾いた息を口から出して、若葉は声を絞り上げる。

 

「話は変わるが結花凛くん……キミが美烏くんを勧誘し、部活発足の書類を生徒会室に持ってきた日のことを覚えているか?」

「え? あ、はい……」

 

 若葉が言うその日を振り返りとりわけ注目すべき点といえば、若葉が質問した花園音楽教室のことだろう。有名な音楽家を数多く輩出する、その大規模な音楽教室は音楽に関する様々な分野を専攻することができた。その中で、結花凛たちと同世代に、天才と名高い歌姫がいたという。

 

 しかし、その歌姫は突如として姿を消してしまったらしい。若葉はその人物を追っており、類稀なる歌の才を持った結花凛へと探りを入れたのだった。

 

「結花凛くんは花園音楽教室について、何も知らないと言っていたな」

「はい。そうです」

「じゃあ、この言葉を聞いてどう思う?」

 

 ピンと来ていない表情で、首を傾げる結花凛をおいて若葉は真剣な顔つきで1人、話題を突き通す。その表情はわずかにどこか切羽詰まったような、鬼気迫る雰囲気を宿していた。

 

()()()2()()()()

 

 含みを持った声色で若葉はそう呟くが、依然結花凛は首を傾げたままである。その表情を若葉は細めた目で見つめていた。

 

「知らない……か?」

「はい。知らないです」

「それじゃあ、少しの間だけ私の独り言に耳を貸してもらおうか……」

 

 そう前置きをして、若葉は長々と語り始めた。

 

「同世代、同じ分野、2人の歌姫は同じだけモテはやされ、同じだけ期待されていたはずだった」

 

 それは若葉が口にした2人の天才の話だろう。花園音楽教室に在籍していたという消えた天才。そして、若葉の口から語られたもう1人の天才である。

 

 若葉は苦虫を噛み潰すように表情を歪ませて語り続けていた。

 

「だけど、修練を積み実力の程が正確に測れるように成長すればするほど、天才はもう1人の天才の方が特段、抜きに出ていることに気付く。なんというパラドックスだろうな」

 

 まるでその出来事をより熟知しているかのように若葉の言葉からは感情がむき出しに感じられる。皮肉を強調してそれを笑い自虐的な口調で若葉は言った。

 

「そんな時、突如としてその天才が姿を消してみろ、ただでさえ葛藤に押しつぶされていた心は、まるで弄ばれているようじゃないか。そうは思わないか」

 

 そう言いきると、若葉はそっと口を閉じた。そんな若葉の力説に、結花凛はどう答えていいのか分からないのか、モジモジと視線を左右させながら口を開きこまねいている。

 

 そんな時、大きく息を吸いそれを口から全て吐き出した若葉は、自分の前髪を両手で後ろへ掻き上げてからブンブンと首を横に振った。

 

「すまない。少し、興奮してしまった。今のは忘れてくれ……」

 

 そう言った若葉の顔からは毒気が一切消えていた。結花凛も今だにどう反応していいのか分からないが、当事者の若葉がもういい、と言っているのだからこれ以上どうこう言う事もない、そんな風に頷くしかない。

 

「あ、そうだ……! ねえねえ、聞いてください若葉先輩‼︎――」

 

 暗い空気に結花凛は気を使うように、無理にでも明るく話題を変える。それに若葉も呼応して、2人は道中を再び何気ない会話を交えつつ歩いていった。

 

 すると、結花凛のスマートフォンがブルン、と音を立てた。その画面には、夕輝からレナが無事に会場へ辿り着いた、という旨のメッセージが映し出されている。

 

 そのことを結花凛は若葉にも伝えると、はやる気持ちが先行させたのか現在地から小走りに突き進んでいった。そして、少し離れたところで若葉に向かって振り返った結花凛が満面の笑顔で腕を振る。

 

「お〜い、若葉センパ〜イ! 早く行きましょ〜う‼︎」

 

 それを受けた若葉も、同等の笑顔で対応した。

 

「ああ!」

 

 大きな声で返事をすると、満足そうに結花凛は前を向き直し若葉を待つようにゆっくりとペースを落とした。そんな結花凛の背後で若葉はスッ、と真顔に戻る。

 

「結花凛くん……キミ、ウソをついているな」

 

 周りに聞こえないほど絞られた暗いトーンで、若葉はボソリと呟いた。

 

 小走りで結花凛へと近づいていくにつれて、若葉の表情は笑顔を取り戻していく。走って揺れる彼女の長袖の袖口から、手首をナイフで斬り付けたような跡が、わずかに顔を覗かせていた。

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