ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第29話 夕輝の話

 他のメンバー同様に夕輝もレナを探していると、その当事者から謝罪のメッセージが送られてきた。そこには、カワイイ絵文字で彩られた様式でミスマッチな内容が記されている。

 

「レナ……アタシには誠意が伝わってくるけど、コレじゃ全然反省してないみたいじゃん?」

 

 レナのどこかズレた感性にツッコミを入れつつも、夕輝はその内容を添削して、エンシードのメンバーに対し一斉に送信した。

 

 その後、捜索をやめた夕輝がトボトボと会場に戻っていると、その道中で美烏と葉月に鉢合わせる。

 

「おお! ユウキ。レナが無事に見つかってなによりだね‼︎」

 

 顔を合わせた葉月が真っ先に、そう口しにした。その表情はとても爽やかで、耳心地のいい張りのある声には感情がコレでもか、とトッピングされている。

 

「本当よ。いくら探しても何処にもいないから、心配したわ」

 

 そう言う美烏も、自分の胸にそっと手を添えて落ち着いた表情を見せていた。

 

「2人とも、ありがとね。一緒にレナを探してくれて」

 

 まるで目がふにゃふにゃな線になったかのようなカジュアルな表情で夕輝は、そう言っている。そんな発言を聞いて、葉月はサッと夕輝の側へ寄り添うと、自らの腕を夕輝の肩へと回り込ませた。

 

「何を言っているんだい? レナはもうボクたちの仲間だよ。親身になって、探すのは当然の行いさ」

 

 夕輝を自分の腕の中におさめ顔を近づけて葉月は話す。キラキラと美しい顔立ちが、1人の少女に向けられるが、夕輝はそれを無遠慮に手で押し返した。

 

「葉月、近い……久しぶりに出たんじゃん? そのナンパ師みたいになるモード」

おっろ(おっと)……ふまらい(すまない)

 

 拒絶する夕輝の手によってぐにゅ、っと潰された柔らかい頬が声でわずかに振動を伝える。出会った当初は度々見せていたナルシストムーブが再発した、と夕輝はイヤそうに顔を歪めていた。

 

 そんな2人のやり取りを美烏は呆れた顔で流し見している。

 

「アナタたち……なにバカなことやっているのよ」

「ハッハッハ‼︎ いいじゃないか、レナが見つかってボクも心から安心しているんだ。気だって緩むさ」

 

 少し気が高揚しすぎているような雰囲気だが、満面の笑みを見せつつも美しい顔は崩さない葉月によるプロの表情管理が、その違和感を和らげていた。そんな表情をジッと見ていた夕輝は、眉を吊り上げてそのまま葉月に対して口を開く。

 

「ねえ、葉月? アンタ最近、何かあった?」

「え?」

 

 夕輝はぶっきらぼうに、そう問いかけた。すると、そんなこと聞かれるとも思っていなかったであろう葉月は意表を突かれ一瞬、崩れた表情を見せる。そしてすぐさまそれを立て直し、堂々とした立ち振る舞いで夕輝へと向かい合った。

 

「どういうことだい? 別にボクは何ともないよ」

「あっそ」

 

 ニヤリ、と余裕綽々な表情で返した葉月に対して、夕輝は呆気なく自分の意見を取り下げる。そして一度、葉月から視線を離して目を瞑った後、平然とした顔で何気ない雰囲気を取り戻した。

 

 美烏はというと、様子のおかしい2人のやり取りに気を配りつつも、口を挟むことなく目的地へ向かって歩き始める選択をとったようである。

 

「……ほんの何気ない話なんだが、夕輝はボクのことを、どう思っているんだい?」

 

 3人が肩を並べて歩き出し、少し経った頃に葉月がそんな風に口火を切った。

 

「ん、どういうこと?」

「そのままの意味さ。夕輝にとってボクとはどういう存在なのか、言葉にしてほしいんだ」

 

 真剣な表情で、そう頼み込む葉月はどこか夕輝の表情を覗き込んでいるようである。しかし、夕輝も美烏もそんな葉月の方は向いておらず、目的地に向かって前を向いていた。興味がない、真剣ではない、というよりかは何気ない日常会話としてとらえているようである。

 

「ん〜、そりゃもちろん。顔が良くて、勉強もできて、スポーツもできる。絶対に争いの火種を作るようなことはしないし、周りからの信頼も高くて、シンプルに優しい。まさにカンペキ――」

 

 前を向きながら淡々とそう語る夕輝の言葉が、1つ、また1つと重ねられていくうちに、葉月の表情は珍しく暗くなっていく。どこか物悲しげな、母親に留守番を頼まれてドアを閉められた直後の幼子のような、誰もそんな葉月の方を見てはいなかったがそういった瞳であった。

 

「なーんてね。クラスのヤツらや、葉月のことをあんまり知らない人だったら、そう言うんじゃん? けど、アタシは別にそうは思わないかな〜」

 

 いつもの適当な調子でヘラヘラ、と笑いながら夕輝はそう呟く。その隣で美烏も、しょうがない子ね、と我が子を見守る母のような顔で笑っていた。

 

「けっこう天然だったり、自分からボケにいったり、意外とノリがよかったりさ。あと優しいだけじゃなくて、葉月は誰よりも人の内面に寄り添ってくれるよね。誰もが羨む完璧超人ってよりかは、そう言った人間味のある暖かさをアタシは感じるんじゃん?」

 

 口元は緩み、目は驚いた表情で葉月夕輝を見つめている。そして、はぁ〜、と口から湿った息を吐き出しては、次の瞬間葉月は自分の手で目を覆い、天を仰いで笑い出した。

 

「ふ、フッフッフッ、全く! 夕輝、キミってヤツは……」

「な、なに急に⁉︎ アンタやっぱり、変なモノでも食べた?」

 

 何かを噛み締めるように声を漏らす葉月を、夕輝はかなり真剣に引いた目で見つめていた。しかし、それを踏まえても葉月はどこか嬉しそうに笑っている。

 

「なんなのよこれ……」

 

 絶妙なタイミングで美烏がそう呟き、3人は間を揃えて笑い出す。それから、ガヤガヤと普通の女子高生と変わらない雰囲気で3人は目的地へと向かって歩いた。

 

 ※

 

 少し間が空くと、夕輝、葉月、美烏の3人の話題は90度ほど角度を変えていた。

 

「そういえばユウキ、キミ自身のことについてはその節、あまり語りたがらなくないかい?」

「確かに、夕輝って自分の話しないわよね」

 

 そういえば……、と2人は口を揃えて夕輝の方に視線を送る。そんな熱い視線に戸惑いつつ、夕輝は頭を掻いて視線を右上へと移動させた。

 

「そうかな?」

「ああ、そうとも。口を開けばユカリの話や、レナの話ばかりだ」

「いるわよねぇ、友達の話しかしないタイプの人って」

 

 惚けようとしているのか、分かっていない素振りを見せた夕輝に対して2人はバリケードを敷き詰める。う、うう、と声にならないうねりをあげて、夕輝は逃げ場所を失った。

 

「って言っても、アタシの話なんて何もないんだけど? むしろ何が聞きたいわけ?」

 

 逆に、と言われて2人は頭を捻らせる。そして、とりわけ簡単な質問から、と美烏が先陣をきった。

 

「じゃあ、趣味とか」

「趣味? そだねぇ、コレといったヤツはないけど格闘技見たり? あと、ヤンキー漫画とか好きだよ」

「んん……まあ、なんというか、それっぽいといえばそうよねって感じね」

 

 なんとも歯切れの悪い反応に、夕輝は自分が聞いといて……、と湿った瞳で睨みつける。普通のJKがまず好きにならないジャンルを答えられ、どうにも反応がしずらいのだろう。

 

「じゃあ昔のユウキはどんな感じだったんだい? 中学生の頃とかさ」

「え〜、中学の時? ん〜まあ別に話すほどのことじゃないんだけどぉ、思春期が爆発して盛大に荒れてたよね。誰も寄せ付けない、みたいな? ユカやレナとも疎遠になってたし、友達とか1人もいなかったしさー」

 

 さぞ当然のように、そんなことを口にする夕輝は全く気にした素振りもなく、むしろ気の抜けた声で語っている。雰囲気を変えようと別の質問をした葉月だったが、むしろそれを助長させる展開になり、いたたまれない空気に支配された。

 

「ね? アタシの話に面白いとこなんてないんじゃん?」

 

 さっきから答えど答えど、なんの反応も示さない2人を見て、夕輝はそんな風に言い捨てる。

 

「いや、反応しずらいだけなのよ」

「なにそれー、2人が話せって言ったから話したのに、それはないんじゃん?」

「そんなこと言っても仕方ないでじゃない。出てくる話が全部触れにくいんだから。荒れてたって何よ、グレてたってこと?」

「いや、グレてないし。まさか、タバコとか疑ってるわけ? 冗談がすぎるんじゃん? 中学の頃はただ、誰とも話したくなかったっていうか色々余裕がなかったの」

 

 何か含みのある発言をした夕輝に対して、また美烏が触れにくそうな表情を浮かべていると、それを見かねてか葉月が口を挟んできた。

 

「でも、普段のおちゃらけたユウキを見ていると、あまり想像がつかないね」

「まあ、その点は自分でもよくここまで持ち直したな、って感じてるよ」

 

 自虐的に笑いながら夕輝は言う。美烏と葉月、2人とも夕輝の話には一定の興味があるようで、夕輝が荒れる原因となった何か、それを聞きたくても中々、直接聞くのを憚られているようであった。

 

 普段、何に対してもズケズケと踏み込んでいける美烏であっても、内容がないようなだけにこまねいている。

 

 そんな空気を悟ってか、夕輝は自ら話し出した。

 

「んー、なんていうかマ……お母さんが癌で死んだんだよ、最悪のタイミングで。アタシはまだ小学生で、もっと幼い妹はギャン泣きだった。急に生活がガラッと変わって、アタシがしっかりするしかなかったわけじゃん?」

 

 比較的通常のトーンで夕輝は淡々と説明する。悲しい出来事であり、側から見て本人としても思うところはあるように見えるが、それでも自分なりに落とし込んだ出来事であることも同時に見てとれた。悲しさを思い出し、それでいて平然としている、そんな表情である。

 

「家事とか覚えなきゃいけなくてさ、もう何もかも面倒くさくなって、周りが楽しそうにヘラヘラしてるのがスンゴイ腹立ってイライラしてた」

「夕輝……」

「だから、誰に対しても睨みつけるようになったし、そしたらアタシは1人になって……けど、いつまでもしつこくへばり付いてくるヤツが1人だけいたんだよね」

 

 そう言うと夕輝は思い出すように薄らと笑った。それに合わせて葉月も何かを察したように笑みを見せる。

 

「ユカリだね」

「そ! ユカだけはアタシを見放さなかったの。そりゃ、当時はめちゃくちゃウザかったんだけど、アタシが自分を取り戻せたのはユカのおかげだから、その点は忘れられないんじゃん?」

 

 晴れ渡る空のように夕輝は明るい笑顔で、そう口にする。そして、今も昔も変わらない結花凛のエピソードを聞いた美烏と葉月は納得したように笑みを浮かべていた。

 

「だからアタシはユカがやりたいっていうなら、なんだって支えになろうって決めたわけ。アタシがこうしてスクールアイドルをやってるのもそう。美烏や葉月みたいに崇高な目的があってやってるわけじゃないんだよアタシは」

「それは違うんじゃないかなユウキ。音に乗せて身体を動かしているときのキミはいつだって素敵な笑顔をしているじゃないか。ボクには、それがとても楽しそうに見えるけどね」

 

 すぐに否定するように葉月は口を挟んだ。夕輝を優しく包み込むような甘い声色で葉月は発言する。

 

「そうよ。確かにいつだってキッカケは結花凛だったかもしれないけれど、間違いなく最後に私の心を動かしたのはアナタなのよ。アナタが直向きに頑張っていなかったら私はこうして今、スクールアイドルになれていなかった」

 

 美烏も数週間前のことを思い出すよう、そう言葉を添えた。美烏がまだ正式に加入する前から、2人は一緒に練習をしていたのだ。誰よりも美烏が夕輝の努力を知っていて、その熱い感情を受け取っているのだから美烏は夕輝の思いが偽物だとは思わない。

 

「キッカケなんて、なんだっていいんだ。大事なのは過程と志しだからね」

「そうよ。どうせやるなら後ろ向きなこと言ってないでスクールアイドルを楽しむべきだわ」

「葉月……美烏……」

 

 3人は互いに見つめ合い、そして頷きあった。

 

「うん、確かにね。そりゃできないこととか、恥ずかしいこととかいっぱいだけど、楽しいよスクールアイドル」

「ええ、そうね」

 

 初めこそ結花凛の付き添いでしかなかったことを自覚していた夕輝だったが、改めて自分がその世界にのめり込んでいることに気づく。

 

「ヤバい、なんかよく分かんないけど急にやる気出てきた。土宮の連中に仮を返さないといけないわけだしさ、これもうヤっちゃうしかないんじゃん? かましちゃうしかないんじゃん?」

 

 スイッチが入り気分が高揚している様子の夕輝。爽やかな表情で快活にそう言った。

 

「フフ、どうやら本番に向けてコンディションは抜群のようだね」

「心なしが肌もツヤツヤしてるように見えるわ」

「マジ? アドレナリンってスッゴ! おっけ分かった本番までずっと復讐の炎燃やしとく」

 

 過去を振り返りしっとりとしていた夕輝だったが、すっかりといつもの調子を取り戻している。適当なことをいう夕輝を、葉月と美烏は和かに見つめていた。

 

「そうとなったら、ボクたちも早くレナのいるステージ裏のテントへと戻らなくてはいけないね」

「ええ。戻り次第、急ピッチで最終調整をするわよ」

「アタシらの実力、大勢の人に知らしめてヤンなきゃじゃん?」

 

 やる気十分の3人は同じところを目指して1つになっている。そんなやる気が上乗せされるように、はやる気持ちは足取りとなって現れる。

 3人ピッタリとまとまって足早に行く光景は、若々しさと初々しさで青春に溢れていた。

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