時刻は13時。スプリングフェス本番に向けて、参加するほとんどの学校はステージ裏に出揃っていた。
出演者用テントの下で下唇を噛んでしょんぼりとした表情のまま、パイプ椅子にちょこんと座っているのは
「みんな……本当にごめんね」
そんなレナをエンシードの誰1人も責めるものはおらず、全員が等しく優しい表情を向けていた。
「もう、そんなに謝んなくてもいいって。レナってば長いこと遠出とかしてなかったんじゃん? アタシが無理にでも一緒に行けばよかったんだし」
「そうだよ! 無事に合流できたんだから、それが何よりだよ‼︎」
レナが桜に連れられてステージ裏までたどり着いたその時、結花凛たちはすでにレナの捜索に出向いており、2つのグループは入れ違いになった。桜と一者にいた際にレナは、そのことの報告をすっかり忘れていて、そのことをひどく反省している様子である。
レナの捜索を手伝っていた若葉はというと、無事合流できたレナの姿を確認した後、どれ私はライブが始まるまで散歩でもして適当に時間を潰しておこう、と言い残し結花凛たちのもとを去っていった。
「でも、いったいどうやってここまで辿り着いたのかしら?」
「あ、それなら」
迷子になり、そしてここまでたどり着いた出来事を話そうとレナが口を開いたその時――
「みなさん! お久しぶりです‼︎」
意識外から別の声がそこへ上乗せされた。その声は優しい女の子の声で、美烏はもちろんレナ以外の他の面々も聞き覚えがあるものだった。
「コトネ先生じゃないか!」
そう言うと葉月は、やってきた有矢琴音の背中にそっと右腕を添える。葉月の懐へ招かれて、背中を支えられた琴音は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「そんな、私は先生なんて呼ばれるほどのことはしてませんよぉ」
「応援しに来てくれたの⁉︎」
琴音の登場に一同歓声をあげる。そんななか、直接の関わりはまだないレナはポカンとした表情を見せていた。
「はい。出場を提案したのは私ですし、何か力になれることはないかと思って」
そう言う琴音の手にはお菓子屋さんのロゴマークが書かれた紙袋が握られている。琴音は、それを美烏へと手渡すと2人は久しぶりの再開に向き合った。
「ありがとう、琴音」
「うん!美烏ちゃん」
同門の出である美烏と琴音は互いに目と目を合わせて笑い合う。
「レナちゃん。琴音ちゃんはね、美烏ちゃんがまだ正式に加入する前に私たちのパフォーマンスの先生をしてくれてたんだよ」
「うん、ユっちゃんから少し話は聞いてるよ。昔、ミーちゃんと同じグループでアイドルをしてたんだよね」
そう言うと、レナと結花凛は互いに頷き合った。レナの加入から幾つかの日数が経ち、初めこそ不穏な関係だった2人はすっかり打ち解けている。
「はじめまして諏方草さん、有矢琴音です。いつも美烏ちゃんがお世話になってます」
「え、えーっと、こちらこそお世話になってますというか……えへへ、よろしくねコーちゃん」
さも当然のようにニコニコと笑いながらあだ名で呼ぶレナに、琴音は一瞬驚きの表情を見せるが、すぐに穏やかに笑って見せた。
「はい、よろしくお願いします!」
そんなやりとりを美烏は和かな表情で見つめている。
「なんだか琴音、少し明るくなった?」
「え? そうかなぁ。あ、でも最近は推しのスクールアイドルが動画とか配信で活躍してくれてるから、それのおかげかも!」
「え! だれだれ? 私にも、教えてちょうだい‼︎」
スクールアイドル、という単語を聞いて美烏は目を輝かせた。それから琴音の顔に自分の顔を近づけて、分かりやすく話題に食いついている。
それを見る琴音は嬉しそうに笑いながら、無邪気にはしゃぐ美烏を見つめていた。
「ふふ、そんなの美烏ちゃんのことに決まってるでしょ」
「え、ちょ、ちょっと! 恥ずかしいこと言わないでよもう」
頬を染めた美烏は熱くなった顔を冷ますためか、両手で仰いで顔に風を送っていた。そんなやりとりに夕輝はジトっとした目を向けている。
「別にイチャイチャするのは勝手だけどさ、そろそろ準備しなくていいの? 今からリハーサルやるんじゃん?」
「ちょ、イチャイチャなんて!って、そうね早く準備しないと……」
苦言を呈した夕輝に反発する美烏であったが、すぐにその意見の整合成に気づかされた。すぐに思考をシフトチェンジして美烏は全体に声が通るよう大きく息を吸い込んだ。
「さて、色々あったけど全員揃ったことだし、後は私たちの全力をぶつけるだけよ」
「ああ、ミウの言う通りだ! 土宮の子たちにも借りを返さないといけないからね」
鼻から大きく息を吸った葉月がパキッ、と肩を張ってその意気込みを宣言する。それに同調するように結花凛と夕輝はニヤリと笑みを浮かべたまま首を縦に頷かせた。レナはというと、早くも高鳴る心臓の鼓動を両手で感じながら強張った表情を見せている。
「それじゃあ、準備に取り掛かりましょう」
「「おおぉ!」」
そう声を合わせて、彼女たちエンシードは行動に移した。
※
ステージ近くにはフェスの運営によって、4試合場ほどの大きさの剣道場が借りられている。そこでは更衣室を利用して着替えを行ったり、スプリングフェスに参加するスクールアイドルたちがリハーサルを行ったりしていた。リハーサルというと、振り付けの最終チェックを行ったり、最後の発声調整を行ったりである。
結花凛たちエンシードの面々が剣道場に足を踏み入れた頃には板の間はほとんど空いておらず、どのスペースもすでに他の学校が使用しているようだった。
「ごめんなさい……私が迷子になって遅れちゃったせいで、場所が……」
明らかに凹んだ表情でレナは弱々しく口にする。迷子になったレナを捜索していたエンシードは、見事に早くからの場所取りに失敗したのだ。
「もうレナってば、その話ならもう解決したんじゃん? そんなに気負いしなくても大丈夫だって」
「ええそうよ」
そんな夕輝の擁護的意見に、他のメンバーも総じて賛同していた。しかし、それとこれとはまた話は別で、この状況を何とかしなくてはいけないということに変わりはない。
「それにしても、どうしたものかしら。これじゃあリハーサルができないわね……親交のない他の学校に少し場所を分けてください、って言うのも筋違いだし」
美烏はそう言いながら眉を寄せて頭を悩ましている。武道場の入り口付近にポツンと立つエンシードは明らかにこの場では浮いていた。他のグループの生徒らも一度は結花凛たちに目を向けるが、すぐに見て見ぬふりを貫いている。しかし、スプリングフェスというイベントがそもそも競技性のある催しのため、遅くから来た他の学校に構ってなんていられない、というのも当然の意見である。
現状なす術なくこまねいていると、美烏のもとへ1人の女の子が近づいてきた。その人物は黒髪ボブの可愛らしい少女で、にっこりと笑って美烏の目の前で止まる。
「久しぶり、美烏さん。何度か合同ライブやったことあるよね? 私のこと覚えてる?」
そう声をかけてくる少女に美烏は顔をハッとさせた。そして、その少女の口ぶりからもどうやら2人は知り合いであるらしい。
「あ、
「そうそう、
そう言いながら美弧はクルリと回ってポーズをとる。それから少し恥ずかしそうに笑って見せた。
グロリアスギフト、と言う名前を聞いて結花凛、夕輝、葉月の3人もあ〜、と声を鳴らす。3人が初めてスクールアイドルの研究にとライブハウスへ出向いた際、美烏と一緒に合同ライブを行っていたのが、まさにこの真鐘美弧その人である。
「場所取りできなくて困ってるんですよね。よければ私たちと一緒にリハーサルしますか?」
「そのお誘いはとても助かるんだけど……いいのかしら?」
思いがけない提案に対し、すぐに飛びつきたい気持ちを抑えて美烏は迷惑にならないか確認をとった。
「はい! 私たち美烏さんにはお世話になってますから。誰も文句を言う人はいませんよ」
「お世話? 私、何もした覚えはないんだけど……」
美烏が身に覚えがない、と困惑していると、美弧はまたまたぁ〜、と手で空を仰いで和みのある声で返事する。
「合同ライブで顔を合わせるたびに私たちのことを、凄い熱量で褒めてくれるじゃないですか! あれ、すごくモチベーションに繋がるんですよ‼︎ 毎回メンバー全員ライブ前に元気もらっちゃってて」
その内容を聞いた美烏以外のエンシードの面々は、すんなりと納得した表情を浮かべていた。特に夕輝は顔を引きつらせながら薄ら笑いな顔色で美烏の近くで口を開く。
「美烏が詰め寄る姿が、浮かぶ浮かぶ」
「う、うるさいわね!」
そんな言い合いをする2人をエンシードのメンバーはもちろん、同行者の琴音と美弧も微笑ましそうに見つめていた。
「ささ、こっちにきてください。一緒にリハーサルをしましょう」
「ええ、ありがとう。とても助かるわ」
気を取り直して美弧は自分たちがとったスペースにエンシードの面々を案内する。美烏を筆頭に、結花凛たちも各々に礼の言葉を言って誘導にしたがった。
※
美弧の恩義を素直に受け取って、練習スペースを共有してもらったエンシードの各々がグロリアスギフトのメンバーたちに対し、自己紹介を済ませていた。グロリアスギフトは美弧を筆頭に計5名で構成されたグループである。様々な個性が溶け合った、比較的オーソドックスなアイドルグループと言えるだろう。
それからエンシードとグロリアスギフトの2つのグループは互いのパフォーマンスを披露しあった。本番を前に手の内を明かすような行いだが、だからといって今まで練習してきたものが土壇場で変わることもないのだから問題はない。
「凄いです! とても美烏さん以外、最近始めたとは思えないです」
「そうかい? そのスジの先輩に、そう言ってもらえると自信に繋がるよ」
「ですです! あまり適当なことを言うと怒られてしまうかもしれませんが、優勝だって狙えそうですよ」
グロリアスギフトのメンバーは美弧の言葉に同調するよう頷いて、他の場所でリハーサルを行っているスクールアイドルたちと比べプチ盛り上がりを起こしていた。
「ありがとう。それこそ、正真正銘な優勝候補のみなさんにそう言ってもらえて嬉しいわ」
「ははは……優勝候補と言っても、前回優勝校の泉ヶ上聖女が欠場したから繰り上がりで、そう言われてるだけですけどね」
泉ヶ上聖女学院、美弧の口から飛び出した前年度スプリングフェスの金賞受賞校である。それは、決して美烏にとって無関係な話ではなかった。その名前を聞いて美烏はピクリ、と反応する。
「欠場……しているのよね」
泉ヶ上聖女学院のスクールアイドルといえば、美烏の古巣であるクルール×フルールの元メンバー、本藤桜と上坂杏子があげられるのだ。
「はい。原因はメンバーのケガらしいですよ?」
「怪我? いったい誰が……」
「えーっと、確か2年生の
「杏子が⁉︎……そう」
表情を曇らせる美烏に、美弧は補足説明を付け加える。いわく、症状は右腿裏の肉離れだそうで、秋頃に控えるラブライブ地区予選に向けて療養し、今回のスプリングフェスは見送る形をとったらしい。
美烏にとってそれが吉と出るか凶と出るか、会いたい反面会いたくない気持ちもあり、それらが美烏の中でせめぎ合っているようであった。
「にしても美烏さん、なかなか攻めた作戦に出ましたね? これなら間違いなくインパクトは大ですし、初めて見た人は印象に残りますよ!」
美弧は再び話題をエンシードのパフォーマンスへと転換する。そして美弧は興味深そうに目を輝かせていた。
「ええ。これが今の私たちにできる精一杯のつもりよ」
「はい、結花凛さんとレナさん。御二方の、歌唱力が光ってました!」
美弧から名指しのお褒めをいただき、結花凛は目を見開いてそれから弾けるような笑顔を見せる。そして、レナは恥ずかしそうに頬を染めていた。
「ホント⁉︎ なんだか私も今日は調子いいな〜、ておもってたんだよ!」
「やったね……ユカちゃん!」
「うん! レナちゃん‼︎」
ニタニタと見つめ合う結花凛とレナを、一歩後ろから夕輝は見つめていた。その表情は、まるで我が子を見守る母親のように優しくあり、それでいてどこか切なさも感じられる。
そんな夕輝に葉月はそっと寄り添った。
「2人の幼馴染が仲良くなって嬉しい反面、どこか寂しい……そんなところかな?」
劇のように少し過剰な表現力で葉月が、そんなことを口にする。夕輝の内面に手をかざそうと、少しニヤリと笑みを浮かべた。
「いやいや、アタシに限ってそれはないんじゃん? ユカもレナも、2人が楽しいならアタシは何も言わないよ〜」
普段通り、飄々とした雰囲気で夕輝はそう言う。しかし、葉月は依然何か含みのある表情を浮かべていた。すると、葉月が夕輝の耳元へ顔を近づけて、極限まで絞った声で話し始める。
「最近、ミウの様子がおかしい時がある。あの2人を見ている時だ。それはキミも同じだね夕輝」
そう言われて夕輝は一瞬、ハッとした顔を見せた。それを確認して葉月は畳み掛ける。
「なにか隠し事があるようだ」
「……」
美烏に引き続き、葉月にも夕輝は勘づかれていた。些細な変化や違和感を感じ取るなど、それだけ日々の大半を共に過ごしているということなのだろう。
夕輝に対して、葉月は真剣な眼差しを向けるが、夕輝はバツが悪そうに口を閉ざしてしまった。それから葉月は夕輝が話すつもりがない、と判断したのか諦めたように目を閉じて息を漏らす。
「そうか…………いつかキミが話てもいいと、そう思ったのなら……その時はボクにも教えておくれよ」
それだけ言い残して葉月はこれ以上、踏み込もうとはしない。そんな葉月の横顔を夕輝はチラリ、と盗み見てから1つため息を吐いて安心した表情を見せる。そして、ボソリと夕輝はつぶやいた。
「ごめん、ありがと葉月……」
一時の感情の迷いからか美烏には話した夕輝だったが、そう何人にも事実を打ち明ける訳にはいかないらしい。勘のいい葉月が、気遣いもできるからよかったものの、と夕輝は複雑そうな表情のまま立ち尽くしていた。
「美烏さん、今回のスプリングフェスにかなり力を入れていますよね」
打って変わってその隣では美烏と美弧の会話が続いていた。両者、グループ内では取り決めや進行を司る役職上、話題は尽きないようである。
「ええ、やっぱり初陣だから。気合いが入ることはもちろん、ここで勝てれば自信にも繋がるわ」
美烏が言うその内容も、もちろん嘘偽りなくその通りだが、その他にイグニスコードとの因縁も間違いなく関与しているはずだ。結花凛の名誉を傷つけられ、自分たちを陥れようとしたりく達に仮を返さなくてはならないのだ。
「ですね。特に、動画媒体を使った告知戦略の手広さには私も勉強させられました」
「そんな勉強だなんて、でも真鐘さんの目にもとまったなら、やった甲斐はあったようね」
謙遜する美烏だがその実、美弧の言うようにかなりの量の布石をばら撒いている。
スプリングフェスに向けて練習風景を編集したコミカルな動画や、スクールアイドルコネクト通常スクコネによる配信活動。そして、レナが加入した5人バージョンのパフォーマンス動画。それはまさに今回、スプリングフェスで披露する予定であるものであった。
初出しのインパクトは無くなるが、何よりも実績のないエンシードが興味を引くためには、そう言った情報の出し惜しみはしていられないのだ。ミュウミュ、そしてビタミンPとすでにある名前を遺憾なく利用して、最大限の期待を生み出す。
ただ無策に実力をぶつけるわけではない。エンシードの強みであるインターネット上の知名度を全面に押し出した、勝ちへの道を作る策。理想と現実、その両方を知る美烏だからこそ打てる実にクレバーな策略である。
「でも、私たちだって負けませんからね。優勝候補の欠場で、せっかく舞い込んできたチャンスなんです」
「ええ、こちらこそ。正々堂々、勝負しましょう」
そうして2人は固く手を握り合った。
ステージ本番を前にエンシードはグロリアスギフトという、頼れる同士と強力なライバルを、同時に得るのだった。
※
リハーサルも終わり本番まで後、1時間といったところまで迫っている。剣道場からテント下まで戻ってきていた美烏以外のエンシードのメンバーはパイプイスに座り各々が緊張と向き合っているようだった。
そして、そんな彼女らの姿は学校指定のジャージからステージ用の衣装へと着替えられている。黒を基調としたミニスカートが特徴的な衣装。それぞれが服のアクセントとしてイメージカラーを配色されており、結花凛は白色、夕輝は青色が、レナには紫色、葉月には黄金色のラインがそれぞれ要所に入っている。
そんなテントの下に瓜谷美烏が有矢琴音と共に帰ってきた。その姿は他のメンバー同様に衣装に着替えられており、美烏にはピンク色のラインが配色されている。そして、それに追随して髪の毛にも例の如くピンク色のエクステが散りばめられていた。メガネも外し、レンズ入りのカラーコンタクトを着用している。いわゆる、ミュウミュのモードであった。
「どうだった?」
美烏に向かってそう聞いたのは夕輝である。他のメンバーも同様に美烏へ視線を集め、どうやら何かを求めているようだった。
「……引いちゃった」
苦笑い気味にそう言った美烏の右手にはメモサイズの紙切れが握られている。そして、美烏はその紙切れを全員に見えるように突き出して口を開く。
「私たちのライブの順番……トリになったわ」
「「トリッ⁉︎」」
スプリングフェスのライブ順は公平性を保つために当日のクジ決めとなっていた。チームの代表として美烏がそれを引きに行ったわけだが、どうやら全グループ中最後を引き当てたらしい。
「ハッハッハッハァ、ミウ! トリを引くなんて持ってるじゃないか‼︎」
「トリって最後ってことだよね! すごい‼︎ ︎ 責任重大だァ」
葉月と結花凛は声をあげて、そのテンションの高まりを遺憾無く表現していた。
「そっか、最後か。緊張するな」
「ま……まあここまできたら、もうやりきるしかないんじゃん?」
対してレナは緊張に身を震わせている。夕輝に関しても、強がってはいるが、やはり緊張しているようだった。震える身体を、やる気でカバーしている。
そんな夕輝のそばに琴音が近づいていった。
「ふふ、大丈夫ですよ緋花さん。不安にならなくても、私が見ていたときより緋花さんのパフォーマンスは何段階もレベルアップしてましたから。美烏ちゃんと一緒に、たくさん練習したんだろうなぁ、ってよく分かります」
「琴音先生ぇぇ……ありがと」
泣いてすがるような声を出して、夕輝は文字通り琴音の懐に身を寄せる。そんな夕輝の頭を優しく腕で包みながら琴音は他のメンバーにも目を向けた。
「みなさんもですよ。この短期間でスゴイ成長です。緋花さんも言ってましたが、本当にあとはもうやりきるだけです!」
そんな琴音の言葉が結花凛たちの表情を和らげる。
本番はもう目の前で、始まってしまえばもう止まる必要なんてない。あとは己の内に強固な覚悟を築くだけである。
「そうね。トリだからって関係ないわ。むしろ、有利と考えるべきよ。私とレナのアカウントを使ったSNSでの告知も上々のようだし盤面は整ったわ」
片手間にスマートフォンの画面を確認して、美烏はそんなことを口にした。エンシードのアカウント、ミュウミュのアカウント、そしてビタミンPのアカウントの3つの矢がすでに放たれている。そのどれもが高い高評価率とリポスト率を誇っていた。
ネット投票が重要になるスプリングフェスのルール上、それは大いに意味を持っていると言えるだろう。つまり、勝つための布石は花開いた、ということだ。
「このまま勢いにのって金賞をとりましょう!」
号令をかける美烏に呼応して結花凛、夕輝、葉月、レナの4人は力強く頷いた。そして、5人は息を合わせるようにして声を揃える。
「「おおー‼︎」」
1つのグループとして、一心同体となった5人。声を揃え、満面の笑みを見せる美烏を見て、またその他のメンバーの方を見て、琴音は嬉しそうに笑っている。
ステージ本番を目前にして、各々が胸に覚悟を刻むのであった。