「ダメだ〜‼︎」
昼休み、昼食をとりながら友人同士で会話に花を咲かせる教室の中。
「4人目、中々見つかんないじゃん……」
いつものように食卓を囲む結花凛と
左手に箸を持ち、弁当の白米を口に運ぶ姿さえ華となる。
高く堀の深い鼻に、凛とした瞳、その辺にいる男性よりも男らしい佇まいはまさしく、舞台役者として活躍する彼女の経験の賜物であった。
「仕方ないさ。先週のあの事件以降、間違いなくボクたちはこの学園で有名となった。半数以上の生徒がユカリの歌唱力に圧倒され、強く印象に刻まれただろう」
一度、箸と弁当箱を机に置いて
「あのクオリティの歌を目の前にしたら、もし仮にスクールアイドルに興味を持っていた生徒がいたとしても、そう易々と仲間に入れてください、とは言えないだろうね」
まあ、ボクは違うけど、そう言いたげな自尊に満ち溢れた表情で葉月は微かに笑みをこぼした。
「それってかなりピンチなんじゃん?」
「確かにそうかもしれないけど、逆にチャンスとも捉えられるよ」
難色を示す夕輝に対して葉月は意味ありげに切り返す。
「逆転の発想さ。4人目の仲間は必然的にユカリの歌唱力に気圧されないスーパールーキーになるってね」
「イヤ、それって結局誰もいなかったらイミないって話じゃん」
「それをいうなら、ボクは中途半端なメンバーを引き入れて、仲良し小好しの活動をする方が意味ないと思うけどね」
お互いがお互いの意見を理解しているが故に落ち着いた討論が交わされる。そんな中でも一際、葉月の瞳は燃えていて、どこか遠くを見据えているようであった。
「どうせやるならボクは1番を目指すつもりだ。No.1だ」
「イイネそれ‼︎ No.1! さいっこー、にキラキラしてるよ‼︎」
葉月の宣言に結花凛は目を輝かせて反応する。そんな結花凛の瞳と、優しく見つめる葉月の瞳が交差して、確かな絆のようなものを感じさせる。
「No.1ってことは、ラブライブ優勝が目標ってこと?」
「ラブライブ?」
聞きなれない単語なのか、結花凛は不思議そうに問い返す。
「簡単にいえばスクールアイドルの甲子園みたいなものかな。各校のスクールアイドルがパフォーマンスで競い合う感じ?」
「詳しいね夕輝ちゃん、調べてきたの⁉︎」
「まあね、今の私にできることなんてそれくらいだし」
照れくさそうに謙遜する夕輝に対して、葉月は不服そうな表情を向けた。
「そんなことはないよ。昨日の体育の授業で行った体力測定、ぶっち切りでユウキが1番だった。このボクを差し置いてね」
反論をしつつも言葉を連ねていくうちに、その声色からは誇らしさが滲み出ていて、それに比例するように夕輝の顔は赤く染まっていく。
「普段、見ていても感じるがユウキはとても器用だ。そのズバ抜けた運動センスと器用さは間違いなく戦力だよ」
「え? なになに、急に褒め倒されても困るんですけど‼︎」
身をのけ反り、右手で口元を隠しながら、頬を染めた夕輝はこの場の空気から逃げるようにそう言い放つ。そんな夕輝に葉月は朗らかな笑顔で返答した。
「確かに昔からスポーツは得意だけど、専門的な知識とかは1つもないからね? 部活の経験もないから、体力はゴミだし……」
「それなら何も心配していないよ。なにせユウキからは唯ならぬ情熱を感じているからね。それはきっと無限の伸び代になるだろう」
そんな葉月の発言に少しだけ肩をひくつかせるが、夕輝はすぐさま照れくさそうに笑って見せた。
「そうかな? アタシは、あくまでユカの付き添いのつもりなんだけど……」
それから夕輝は一度、ペットボトルの炭酸飲料を喉へと流して一息ついた。
「でさ、4人目の話なんだけど。確か生徒会長は名前だけ借りてもいいって言ってたじゃん? いっそ、その線で探すのはどう? 手っ取り早いし」
「ええ〜⁉︎ そんなのイヤだよ! 私は部員皆んなでステージに立ちたいよ」
夕輝の意見に対して、結花凛は激しく反論する。さすがの夕輝も結花凛からここまで詰めて否定されれば折れるしかなく、わかったわかった、となだめに入った。
「ボクもユカリに賛成だよ。今のボクたちじゃ、どうしてもバランスが悪くなる」
会話に割り込むように入ってきた葉月は続けて口を開ける。
「ボクとユウキは間違いなくクール系だ。だとすると、アイドルグループとしてまとまりを出すなら、ユカリのようなタイプが入ってこないといけない」
あくまでもアイドルとして活動するのならば、一般的に言えば夕輝と葉月はメジャー的な存在ではないと葉月はいう。
大人数であったり、カッコいいを突き詰めるグループであれば問題ないが、発起人の結花凛のビジュアルはそれに当てはまらない。ならば、4人目に正統派アイドルを名乗れる人物を引き入れたい、その旨を葉月は伝えるのだった。そして――
「なんならボクは4人にとどまらず5人のグループを想定している、更に正統派アイドルを加入させてね。それがユカリを軸としたボクたちグループの黄金比だと考えるよ」
「5人か……」
「険しい道のりになるだろうけど、ボクは妥協する気はない」
強く宣言した葉月に呼応して結花凛と夕輝は頷いた。
「わかった。アタシもどうせやるなら、とことんやってやる。この前のヤツらみたなバカにしてくる連中が湧いてきてもウッとうしいし」
「うん! 目指せ全国‼︎ 目指せラブライブ優勝だよ!」
3人目の仲間、英刈葉月を引き入れて新たな風が舞い込んでくる。それは3人にとって間違いなく良い方向へと働いていた。
※
時刻は15時を過ぎていた。1日の授業は全て終わり、残されているのは終礼の時間のみ。クラス担任の教員が通例の流れで進行していると「連絡事項がある」、と言い出す生徒が現れる。
その人物は挙手をして存在を知らしめた後、教壇の前へと移動した。
「時間を取らせてしまってすみません。風紀委員からの連絡を1つ聞いてください」
そういうと彼女、
「先週からプリントや掲示板で告知させていただいていた河川敷清掃のボランティアについてです。今週の土曜日に行う予定なのですが、今の段階で参加者の人数が非常に少ない状況です。どなたか、参加してくださる方はいませんか?」
クラス全体に語りかける彼女のポニーテールが右へ左へと移動する。しかし、教室を見渡しても、簡単に手を挙げる人物はいなかった。
それもそのはずで元々、参加するつもりがなかったものを大々的に参加しろと言われても、そう意見は簡単には変わらない。
「分かりました。では、後ほど参加してもいいという方は――」
「はい‼︎ 私、参加します!」
誰もいないと思われていた状況で溌剌に挙手したのは結花凛だった。その光景を数十秒間、驚いた表情で見つめていた美烏は慌てて口を開いた。
「あ、ありがとうございます。
手元のメモに結花凛の名前を記しながら、美烏は続けてひっついてくるであろう2人の人物へと問いかける。
「仕方ないね。ユカリが参加するならボクも付き合うよ」
続けて葉月が手を挙げる。
その脇で夕輝は怪訝な顔つきで結花凛へと、小さな声で語りかける。
「どういうつもり? アタシら、ボランティアとかしてる場合じゃなくない?」
「でも、前から声かけられてたし、美烏ちゃん困ってそうだったから」
なんの混濁もない結花凛の瞳が夕輝の心を突き刺した。それから、夕輝は大きなため息を吐いて、渋々参加の意思を表明するべく手を挙げるのだった。
「英刈さん、
そうまとめあげ、美烏は自分の席へと帰っていく。そして、全体で挨拶を終え、晴れて放課後を迎えるのであった。
帰宅する生徒たちでざわつく教室の中、スクールアイドル部(仮)の3人は結花凛の机に集まっていた。
そこに、瓜谷美烏が近づいてくる。
「さっきは、ありがと助かったわ……」
しおらしく、そう声をかけてきた美烏に結花凛は満面の笑を返した。
「ううん、気にしないで! ボランティア、頑張ろうね」
「ええ、2人もありがとう」
そして、改めて夕輝と葉月にも礼を入れる。
「ああ、困ってるお嬢さんがいれば手を貸すのは当然さ」
見下ろすかたちで美烏の右頬に手を添えて、その眼鏡の奥の瞳を覗き込む葉月。そんな葉月に対し、美烏は表情を変えることなく見つめ返す。
「うん、その慈善心は私じゃなくて、環境の方に向けてちょうだい」
冷たく突き放すナイフのような物言いに、葉月は手を切ったと言わんばかり右手を離す。
「ハハ! これは一本取られたね。当日は肝に銘じて挑ませてもらうよ」
高らかに笑いながら葉月は美烏から距離を取る。
「まあ、仕方ないんじゃん? 入学して1週間は経つのに友達の1人もいなそうだし、アタシらくらいしか参加する物好きいないって」
美烏の肩に手を置いて、冗談混じりな口調で夕輝は恩着せがましく語りかける。
「……アナタは別に来なくていいわよ」
「なッ! いいすぎじゃない⁉︎」
そんな美烏の鋭い切り返しに、夕輝はのけ反って反応する。そして、怒りを表す訳でもなく、ジッとりとした視線を返した。
「まあまあ、2人とも仲良くしようよ……」
結花凛が仲介に入るが、夕輝と美烏の間には言葉にできない隔たりが残っていた。