ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第38話 お稽古の時間です①

 若ノ芽女学院演劇部に伝わる1つの台本、『勇者フレディの冒険譚』。魔王に支配される剣と魔法の世界で、小さな領地の小さな村に現れた剣豪が勇者として魔王を倒すべく冒険に出る王道な物語である。

 

 第一部ではフレディと、その仲間たちの旅立ちを描き、第二部では魔王を倒す勇者の剣を手に入れるためフレディたちが試練に挑む。そして、結末となる第三部で魔王と激突するのがこの物語の大筋であった。1から3部を年間通して演目するらしい。

 

 そして今回、スクールアイドル部と連携して作り上げるのが2部と3部の間にあたる間幕であり、フレディにとって決戦前のほのかな日常と、身分違いの恋愛をテーマにした物語だ。他クラブとのコラボレーションということで主人公フレディの他、重要人物である貴族の公子レニー=フレッド4世も主人公としてとらえられている。いわゆるダブル主人公の構図である。

 

 演劇部部長の白鳥陽夏とやりとりを重ねて結花凛たちエンシードも身の振り方の方針を固める。劇中で披露するパフォーマンスの楽曲はいつも通りレナが制作に着手していて、衣装は演劇部の協力を仰ぎつつ夕輝と美烏が主導で動いていた。

 そして、劇の本番を飾る葉月と結花凛は主に陽夏から演技指導を受けている。

 

 肝心な劇のお披露目は今から約2ヶ月後の7月に予定された。1学期を終えて夏休みが始まるタイミングで校内の講堂を使用してお披露目する。そして、スクールアイドル部と演劇部のコラボという一大イベントであるため同時にインターネット配信も計画中であり、劇の出来次第では動画として投稿する話し合いもすでに行われていた。

 

「レニー様! 来てくださったのですね‼︎」

 

 演劇部の部室にて台本を片手に結花凛が言う。結花凛が演じるのは今回のヒロインであるエレーナであった。現在行っているシーンはというと、この劇の1番肝心だといえるクライマックスのシーン。あらゆる苦難を乗り越えてやってきたレニーとエレーナが再開を果たす場面だ。

 

「エレーナッ! よくぞ待っていてくれたッ!」

 

 今回は簡単な読み合わせということで動きこそはないものの、声色一つとっても葉月の男役は様になっていた。迫力とその人物の背景、その場面の情景までも自然と頭の中に入ってくる。

 

「はいカットー‼︎ 休憩、休憩!」

 

 そんな陽夏の強引な幕引きで読み合わせ練習は区切りを迎えた。各々が水分などを補給しながら主要キャストは一塊になっている。

 

「すごいね! 葉月ちゃん‼︎ 喋り方とか振る舞い方は普段とそんなに変わらないのに、全くの別人みたいだったよ〜」

「当然さ。ボクはボク、レニーはレニーだからね。それぞれの人生にそれぞれの色が出るのさ。それでこそ設定にないところにもね」

「どういうこと?」

 

 葉月の言っている意味がよく分からないのか結花凛は素直に聞き返した。

 

「レニーは貴族の身でありながら舞踊の世界に興味を持ち、その時代の男性としては珍しくステージ立ちたいと考えている。そして街の踊り子に恋する公子だ。その変わった性格のせいか両親との仲も悪く、作中では跡取りを狙う弟の罠に嵌められて死罪を受けそうになるね」

「うん」

「今のが設定だ。けど、劇では見せないところで当然レニーが舞踊に興味を持つきっかけが存在するはずだろう?それに初めから両親とも仲が悪かったとも限らない。ものには必ず理由があるのさ。それを考えて理解してあげることも役者としての仕事なんだよ」

「へ〜、スゴイ! プロだね‼︎」

「ああ、プロフェッショナルさ」

 

 そんな会話をしていると、そこに陽夏が割り込んでくる。そして跳ねるようなテンションのまま話し始めた。

 

「や〜、さすが葉月ちゃんだ。噂に聞く実力はホンモノだね〜」

「お褒めに預かり光栄だね」

「うんうん、結花凛ちゃんも素人演技だけど思い切りがイイね! まあ、ちょっとヒロインの心情を考えるとしおらしさが欲しいところだけども……」

 

 決して上手い演技であるとは言えない結花凛だが、素人特有の恥じらいであったり臆病になったりは一切ない。ただ、演技と言うよりはいつもの結花凛、と言った方が表現が正しく、改善の余地はまだまだあった。

 

「はい! 頑張ります‼︎」

 

 結花凛が元気よく返事をすると、他の作業をしていたエンシードのメンバーも集まってくる。

 

「あー、疲れた〜。なんとか衣装のデザイン固まったんじゃん?」

「って、夕輝はほとんど案出してないでしょ? 私と演劇部の子たちでデザイン案を出し合ったんじゃない」

「アタシは裁縫で活躍するからイイんです〜。それに要点まとめて絵にしてたのはアタシでしょ? ミウの絵、絶望的だったじゃん!」

「ちょっと! その話はしないって約束でしょ⁉︎」

 

 ジトっ、とした目で夕輝が言うと美烏は顔を赤くし声を大にした。どうやら美烏は絵心を持ち合わせていないらしい。

 

「あの2人は、相変わらずだね」

「ふふ、そうだね」

 

 夕輝と美烏を見つめて、そう呟く葉月の隣にレナが笑いながら腰を下ろす。そんなレナにも葉月は暖かい瞳を向けていた。

 

「お疲れさま、レナ。曲作りの方は順調かい?」

「うん、順調だよ。劇の内容と相談してテンポやメロディラインは大体イメージがついたから、後は作詞かな? コラボなんだし、どうせなら劇だけじゃなくて私たちにも沿った内容がイイかなって……そういったテーマから思い付くことが直近の課題だね」

「全く、素晴らしいね。レナのクリエイターとしての腕前は頼もしい限りだよ」

 

 専門的な内容を快活に話すレナの姿を葉月は目を輝かせて見つめている。それから肥大な感情がこもった大袈裟な口調で葉月は称賛を述べた。

 

「え、えへへ……そ、そんなにホメたって何も出ないよぉ? それこそ今回の主役は、はーたんでしょ? はーたんの方がスゴイよ。ホントに別人みたいだよ」

 

 モジモジと体をよじらせながら耳の先まで赤く染めるレナ。そんなレナの返しに葉月は鼻を鳴らして答える。

 

「そうだろう? けどまだまだ、こんなものじゃないよ? 長年研磨され続けた英刈葉月の手練手管、ぜひその目に焼き付けてくれたまえ」

「そっか、はーたん子供の頃から舞台に立ってるんだよね。確か、はーたんの両親も役者さんなんだっけ? 有名な人なの?」

 

 そういえば、といったかたちでレナがそんなことを口にする。葉月といえば元役者として校内では有名である。そんな固定概念が広がっていたが、結花凛たちはまだその概要を詳しくは知らなかった。

 

「……ああ、父は細々と活動していたが、母は有名だよ。芸名なら皆んなも聞いたことあるんじゃないかな?」

「へ〜、そんなに有名なんだー。誰だろ、アタシでも知ってる人?」

 

 普段よりも控えめな抑揚で葉月は全体に問いかける。それに対して2人の会話に入り込む形で近くに移動してきた夕輝が興味深そうに相槌をうった。それにつられて美烏も葉月の近くに腰を下ろす。

 

柊絵梨花(ひいらぎ えりか)って聞いたことないかい?」

「「柊絵梨花ッ⁉︎」」

 

 美烏と夕輝、そして陽夏が声を揃えて反応する。逆に結花凛とレナはピンと来ていない様子であった。

 

「そんなに有名な人なの?」

 

 ボソリ、とレナが美烏に問いかけると美烏は大きく首を縦に振ってそれに応える。

 

「ええ、柊絵梨花といえば今をときめくハリウッド女優よ」

「アタシでも知ってるくらい有名だよ? テレビとかでもバンバン出てるし。今もアメリカで大活躍だってネットニュースで見たことあるもん」

「へぇ、そうなんだ。はーたんのお母さんって、凄い人なんだね。普段、テレビもニュースも見ないから知らなかったよ」

 

 美烏や夕輝とは温度差の、ある反応でレナは関心するように、そう言った。

 

「流石レナ……相変わらずアンタ大物だよ。というか、葉月のお母さんって舞台女優って言ってなかったっけ?」

 

 過去に聞いた話を思い出すようにして夕輝は葉月に向かって、そう呟く。

 

「ああ、元は舞台役者さ。今ではテレビ、映画、海外と活動の幅を広げていっているらしいね」

 

 どこか冷めた葉月をよそに夕輝や美烏は、まさかこんな身近にその親族がいたなんて、と大変驚いたようすを見せている。そして同様に陽夏も開いた口が塞がらないようすだった。

 

「ひえ〜、知らなかったよ。どうして教えてくれなかったんだい?」

 

 そんなことを陽夏が口にする。

 

「母は母、ボクはボクさ。ボク自身の輝きを表現するのに母の存在は関係ないだろ?」

 

 何かにおごることなく淡々とただ事実を無機質に葉月は言ってのける。対して陽夏はそんな葉月の対応に圧巻、といった表情を見せていた。

 

「ほえ〜、懐が深いんだね〜」

「そんなこともないよ。全く言葉通りの意味だけさ。母とボクは違うんだ」

 

 その口調は普段、理知的で温厚な彼女にしては語気が強い。言葉には異質な冷たさがあるし、大体のことは理解を示し聞いてくれる葉月にしては、ハッキリと否定するように言葉を並べている。その眼光もやや鋭いものであった。

 

 珍しく過激な雰囲気で話す葉月に対してエンシードの面々が心配そうな顔を見せたとき、突如として葉月の短パンのポケットから振動と着信音が鳴り響く。すると一緒、葉月は肩から大きく跳ね上がり目を大きく見開いて青ざめた表情を見せた。

 

「……葉月ちゃん?」

 

 異変を感じ取った結花凛がすぐさま声をかけるが、その声は葉月には届かない。

 葉月はスマートフォンを取り出して、その画面を確認するとグググッとそれを握りしめる。そして、着信に応えることなくスマートフォンの画面を下に向けて床へと置いた。

 

「出なくていいの?」

 

 続けて結花凛が不思議そうに問いかけると、葉月はゆっくりと首を縦に振る。

 

「ああ、いいんだ……」

 

 そういう葉月の顔は何かを諦めているかのように脱力的で、肩や手からも力が感じ取れなかった。ただ心配の目を向ける他のメンバーと違って、夕輝は何かを考えているようで、どこか俯瞰した雰囲気で葉月を見つめる。

 

「ふ〜ん、そうなんだ……」

 

 そう言って夕輝は半目で視線を送り、葉月の表情を見定めているようだった。

 

「――で、何があったの? 葉月がそんな風になるってただごとじゃないんじゃん?」

 

 値踏みした結果、葉月が何も話すつもりがないと判断したのか夕輝は一歩、葉月の内側へと踏み込んでいく。すると、葉月は呆気に取られたように驚いて、そして笑いだした。

 

「ははは、大げさだねユウキは。噂をすればだよ、母から電話がかかってきただけさ。数週間前からこうして何度も電話をかけてきているんだ。母は少々、口うるさくてね。全く、嫌気がさすよ」

 

 つい先程までとは打って変わって異様に明るく声も大きい。まるで自分の気持ちを包み隠すかのように、葉月は塗り固められた自分をもって毅然とした態度で言ってのけた。

 

「葉月ちゃん……お母さんと仲良くないの?」

 

 夕輝に続いて結花凛も心配そうに問いかける。すると、困ったな、と言いたげに葉月は乾いた笑いをこぼした。

 

「そんなことはないよ。ただのよくある親子の小さなイザコザさ。ボクだって思春期ということだね」

「いや、思春期は自分のこと思春期だなんて言わないでしょ……」

「ハハッ、これは一本取られたね」

 

 美烏が冷静にそうツッコムが葉月はそれをヒラリとかわす。

 

「さぁさぁ、そろそろ後半戦と行こうじゃないか。ほら、切り替えていくよ」

 

 葉月は立ち上がり手を叩いて、声掛けをした。そんな葉月の姿が無理をしているように見えたのかエンシードの面々は渋い表情を見せている。

 

 そんな煮え切らない状態のままスクールアイドル部への演技指導は後半戦を迎えるのだった。

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