ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第39話 お稽古の時間です②

 田舎地域の少し大きな栄えた都市、名をスズランエリー。そこを統治する貴族、フレッド家の長男レニーには政治の才があった。

 容姿端麗で文武両道、小さな畑の中とはいえレニーにはそうもてはやされるだけの才覚が備わって生まれたのだ。

 

 両親は彼の人生を政治の道で強制した。レニーには自由な人生は許されない。その上、弟のラフィークには妬みの感情を向けられて、やがてレニーは自分が何をしたいのか分からなくなった。

 

 心に病みが生じたとき――才能に雁字搦めにされていたレニーは視察現場で思いもよらない出会いをする。

 

 街の歌劇団がその実力を認められて各方々で多くの興行収入を得ている。そんな情報をもとにレニーは領主の長男としての立場で視察に同行した。客席につき、その劇をレニーは静かに鑑賞していた。

 

 そこで目に飛び込んできたのは誰よりも自由に歌を奏て、それでいて美しい声をもつ1人の娘であった。レニーはその衝撃が忘れられず、彼女の歌に惚れ込んだ。そして、やがて自分もそうなりたいと考え始め、身分を隠して歌劇団へと接近し彼女らと関係を構築していく。

 

 ――しかし、領主である父はレニーの自由(それ)を許さなかった。

 

 ※

 

 演劇部からスクールアイドル部への演劇指導が終え、打って変わってスクールアイドル部の面々は自分たちのパフォーマンスの練習へと移行していた。

 

 徐々に暑くなる気候のなか、いつもの裏庭には額に汗を浮かべる5人の少女が音に舞う。

 

「レナ、イイ感じじゃん!」

「えへへ、そうかな。ありがとユッちゃん」

 

 一区切りの動きを終え休憩に入り、真っ先に夕輝が口を開いた。それはこの前のスプリングフェスのときとは違い、他の4人と息を揃えてステップを踏むレナへの賛辞であった。

 

「ええ本当に。日々の練習の成果が出てきているわね」

「体力も付いてきたし、今度のライブでは5人揃ってパフォーマンスができそうだね」

 

 美烏と葉月、スクールアイドル部の二台巨頭にそう言われレナは顔を赤くして笑顔を見せる。そんなレナを見て、結花凛もまた自分のことのように喜び笑った。

 

「やったねレナちゃん!」

「うん‼︎」

 

 わちゃわちゃと言葉を交わす結花凛とレナに一度目をやってから夕輝は静かに動き出す。その際、夕輝の顔色は母親のように何かを見守る穏やかな顔から、死地へと繰り出す真剣な顔へと移り変わる。

 

「は〜づき! ちょっと面貸しな?」

 

 そして、葉月へと近づいて、そう声をかけた。

 

「……? どうしたんだい? ここでは出来ない話なのかい? というか、なんだい? その話し方は……」

「まあ、イイんじゃん? ほら、あっち行くよ」

 

 そう言って夕輝は強引に葉月の手首を掴んで引っ張る。されるがままの葉月も動揺と困惑の様子を見せながら、特別抵抗することなく、それに従った。

 

 そんな2人の行動を結花凛は不思議そうに見つめている。

 

「どうしたんだろうね夕輝ちゃん……」

 

 レナにそう声をかける結花凛だが、とうのレナに至っては不審に思うこともなさげに、ただジッと夕輝の方を見つめていた。そして、美烏もまた時折結花凛とレナに目をやりながら、夕輝の方を心配そうに見つめている。

 

 ※

 

 裏庭から少し歩いて人気のない校舎の裏へと夕輝は葉月を引っ張りながら移動した。周りに人がいるのか否か、夕輝はキョロキョロと念入りに確認する動きを見せている。

 

「おいおい、どうしたんだいユウキ? こんなところまで連れてきて……」

「まぁ、だいたい想像もつくんじゃん?」

 

 辺りの確認を終え、振り返り片目で葉月を視界に入れた夕輝はそんな風に問い返した。そんな問いに葉月は一度喉を鳴らす。そして、グッとためてから口を開いた。

 

「……カツアゲかい?」

「なワケないでしょうがッ!」

 

 テンポのいい、そんなやり取りに葉月はフランクに笑っている。夕輝は呆れた表情を見せつつも、そんな葉月をにんまりと微笑みながら視線を返した。

 張り詰めていた空気が一気に緩み、夕輝はため息を一つこぼす。

 

「あー、つまるところ密談? 葉月にも伝えとかないといけないことがあって……」

「というと?」

 

 こめかみをポリポリとかきながら、夕輝は息を吸い込んだ。まさに今から話を始める、といった夕輝の雰囲気に葉月も真剣な表情を浮かべる。

 

「葉月、言ってたよね。スプリングフェスの日、アタシと美烏の様子がおかしいって……」

「ああ、言ったね」

「うん。それで、何か隠し事があるんじゃないかって……」

「ああ、それも言ったね」

「それの話」

 

 そう言うと夕輝はやや震えた声で葉月に隠していたことを話し始めた。まずは美烏に異変を感じ取られ詰められたこと。そして、本題である結花凛が記憶喪失だという真実。それに付随した、自分と結花凛、そしてレナにまつわる3人の関係について。

 それを聞く葉月も流石に衝撃が大きかったのか、徐々に表情を崩して呆然と口を開く。

 

「葉月なら大丈夫だと思うけど、口外はしないでね」

「あ、ああ……イヤ待ってくれ。まだ、整理が追いつかない……」

 

 額に手を置いて葉月は下を向いていた。それを見る夕輝も結花凛の境遇を思ってか、はたまた自分やレナのことを思ってか、どこかいたたまれない表情を浮かべている。

 

「つまりユカリは元々、超のつくほどの歌の天才で、ユウキとレナは3人とも昔からの友人だった……じゃあ、レナの登校拒否の原因は……」

「ユカの記憶喪失だね。レナはアタシよりも相当ショックを受けたみたいで、まあ色々あったんだけど……それから露骨に記憶喪失後のユカとは距離を置いててね。その負い目からか、部屋から出なくなっちゃったんじゃん?」

「そうだったのか……」

 

 ヘビーな内容を聞かされて葉月は少々、胸焼け気味に息を吐いた。

 

「昔のユカと今のユカは雰囲気がかなり違うっていうか、昔はこうもっと理知的でカリスマ的だったというか……歌も今みたいなムラなんてなかったし、そういうギャップがレナはずっと辛かったんだろうね」

「……なるほど。そうだったんだね」

 

 聞いた話が重すぎたのか少しうなだれながら葉月は夕輝を正面からとらえる。すると、そこにはまだ何か言いたげな夕輝の顔があった。

 

「それでさ、交換条件ってワケじゃないんだけど……昼間の話し聞かせてよ。葉月、なんか意味アリげだったじゃん?」

「……ああ、アレか」

 

 夕輝の言葉にハッとして、そう答える葉月は少し寂しげな雰囲気を醸し出している。そんな葉月に夕輝は小首をかしげるが、葉月の真意には気づかない。

 

「そうだね。昼間も言ったが大したことじゃないよ」

「ウソでしょ。アンタ普通じゃなかったじゃん。アタシでも、それくらいわかるよ」

 

 そう夕輝が力説すると、葉月はクスリと笑った。

 

「じゃあ、ボクがもしお姫様だとして、君が騎士様だというのなら、ドラゴンに連れ去られたボクをキミは助けに来てくれるかい?」

「へ?」

 

 夕輝は呆気に取られたように目を丸くする。そんな夕輝を静かに見つめながら葉月は笑っていた。

 

「冗談だよ。第一、ボクがヒロインだなんて柄じゃないしね」

「助けるよ。柄じゃないとか関係ない。アタシもユカも美烏も、もちろんレナだって……葉月が困ってたら助けるよ」

 

 真剣にそう答える夕輝を前に葉月は一度、グッと奥歯を噛み締める。それから無駄な力が抜けていくように表情は穏やかになった。

 

「ふふ、ありがとう。その言葉だけで十分さ」

「……なんか上手く流されちゃってない?」

「ははっ、どうだろうね。ユウキが気にしすぎなだけじゃないかい?」

 

 饒舌に夕輝を丸め込んだ葉月は思い出すように目を細め、夕輝の方をジッと見つめながら少しだけ唇を尖らせる。

 

「――というか、交換条件にするなんて汚いじゃないか、こんな大事な話、条件がないとボクには教えられなかったのかい?」

「うっ……そういうわけじゃないんだけどね。たまたま? まぁ、都合がよかったというか……ユカの件は、ちょうど葉月には話さないといけないタイミングかな〜、って考えてたんじゃん?」

 

 そんな指摘にヘラヘラと受け応えながら夕輝は主導権を葉月に支配されていく。

 

「冗談だよ。気にしてないさ。ほら、ユカリたちが心配しているんじゃないかい? 早く戻ろうじゃないか」

「あ、ちょっ! 待ってよ葉月‼︎」

 

 そう笑いながら葉月は踵を返して歩き出した。結局、夕輝の目論みは不発に終わり、葉月は自分のことを何一つ話さずに終わった。

 遠くなる葉月の背中を追う夕輝の表情には戸惑いの色が見え、葉月の突拍子もない行動に振り回されているようだった。

 

 ※

 

 校舎の影へと消えていった夕輝と葉月は数分後、いつもの裏庭へと戻ってきた。

 葉月と夕輝が戻ってくると、真っ先に結花凛が2人の近くへ駆けてくる。そして、葉月の胸へと飛び込んだ。その衝撃で葉月の髪の毛がフワリと揺れる。

 

 

「葉月ちゃん帰ってきた! ねえ、ねえ、2人で何の話してたの?」

 

 そう言われて葉月は一瞬、固まってしまう。そんな葉月を少し離れたところから美烏とレナは見つめていた。

 しかし、葉月はすぐに息を吸い込んだ。

 

「ははっ、なぁに、大した話ではないよ。ちょっとした密談さ」

 

 夕輝から結花凛の 話を聞かされて、様々なことが頭の中で錯綜しているであろう葉月だがそれを悟られまいと自然に振る舞えている。

 

「えぇ‼︎ 私にも教えてよ〜!」

 

 そんなことを叫ぶ結花凛たが、葉月はそんな結花凛を見ながら美声越しに笑うと結花凛の頭を2、3度撫でた。

 

「残念だけどヒミツだよ」

 

 葉月がそう言うと結花凛は無邪気に顔を歪ませる。そんな結花凛を見る葉月の表情はどこか寂しげに笑っていた。

 

「それに、ちょっとくらいミステリアスな方がボクの魅力も増すというものだろう?」

「あはは! 確かに‼︎ そういうのカッコイイよね‼︎」

 

 そうやって結花凛の意識は別の方向へ先導され、2人はワイワイと話し出す。その脇では夕輝がレナの元へと近づいていた。

 

「全部、説明したよ葉月にも……」

「うん。よかったと思うよ。ミーちゃんも、ハーたんも、もう仲間だもんね」

 

 暑くなった季節に心地よい微風が肌を撫でる。それと共に夕輝は染み染みと、そう呟いた。対してレナは和かな表情で、そう返す。しかし、その声色は少し歪んでいて内容が内容なだけに明るい雰囲気だとは言い難い。

 

「……ユっちゃんはさ、今のユカちゃんのこと、どう思ってる?」

「え?」

 

 レナの突然、踏み込んだ切り返しに夕輝は目を丸くして反応した。

 

「アタシは……ユカはユカなんだな、って……高校生になって、そう思うようになったよ。どれだけ雰囲気が変わっても、やっぱり根っこのところには変わらないユカがいるんじゃん?」

 

 しっとりとした声で夕輝は、そう言葉にする。それにレナは深い頷きを見せた。

 

「うん。私もそう思った。私が臆病になりすぎてただけだったんだ、って。今のユカちゃんは全くの別人なんかじゃないんだって」

「そうだね」

「だから――昔のユカちゃんも戻ってくるかもしれないよね?」

 

 そう問いかけるレナの瞳は嬉々としていて、そのことに関してただならぬ執着を持っていることが、ひしひしと伝わってくる。対して夕輝は少し動揺しており、言葉を詰まらせる。レナとの間に大きな温度差を持っているようだった。

 

「……」

「ユっちゃん……?」

「……でもさ、あの時みたいに、またユカが苦しんじゃうんじゃないかな」

「あ……」

 

 夕輝に言われてレナは思い出すように声を漏らして、硬直する。

 

「昔のことを思い出そうとするとユカは頭が痛い、って苦しそうにするじゃん? アタシはユカが苦しむところ見たくないかな……」

「私も苦しむユカちゃんを見るのはイヤだよ……? 実際、私はずっと、それが引っかかってお部屋に閉じこもってたんだし。でもさ――」

 

 過去を振り返り臆病になる夕輝。レナもまた、夕輝と同じ気持ちを抱いていたことを語る。

 

「戻って来て欲しいよね! いつになるか、どうしたらいいのか、私たちには分かんないけど、ユカちゃんには戻って来て欲しい。ユっちゃんも、そうでしょ?」

「……………………」

 

 一度折れてしまった心を修復させレナは、もう大丈夫なのだと、自分は希望を抱いているのだと、見せつけるように夕輝に語りかける。

 そんな自分の成長を夕輝は喜んでくれるだろう、そう思っていたのかもしれない。しかし、帰ってきた複雑気な夕輝の表情にレナは顔を曇らせた。

 

 レナの言葉に返事を送らせて、夕輝は黙り込む。額から粒だった汗をかきながら夕輝の心音は強く脈をうった。

 

「え?」

 

 レナが漏らした疑問の声からは、いくつかの意味が読み取れる。

 自分がこれだけ焦がれているのだから、夕輝も同じだろうと、そう思っていた。きっと、即答して自分の意見に賛同してくれるのだと、そう思っていた。1人ではなし得なかったが2人なら、今回は上手くいくのではないか、そう期待した。

 しかし、夕輝はその期待を裏切ったのだ。

 

 困惑した表情のなかレナは続けて口を開こうとする。

 

「もしかしてユっ――」

 

 そんなレナの言葉を遮ったのは美烏が叩いた数発の手の音だった。

 

「みんなー‼︎ そろそろ練習を再開させましょう! これから演劇部との練習も増えて来るんだし、今のうちに練習しとかないと忙しくなるわよ!」

 

 夕輝が葉月を連れ出したことにより緩んでいた空気を美烏は締め直す。そして、長めの休憩を終えることを促した。

 

「……行かないと」

 

 美烏の元へと集まっていく結花凛と葉月を視界に入れて、レナはそう呟く。結果的にレナによる夕輝への言及は、美烏の手によって遮られ、夕輝は救われる形となった。

 

「ごめんレナ。アタシ顔洗ってから、そっち行くよ。先に行ってて」

「……うん。分かった」

 

 そう言って水道の方へと駆けていった夕輝の背中をレナは見つめている。そしてまた、美烏もそんな夕輝を目を細め静かに見守っているのだった。

 

 ※

 

 暑く熱した頭には冷たい水がより冷たく感じる。水道の水を両手で受け止めて、夕輝はそれを自分の顔へと勢いよく押し当てた。

 

 滴る水滴と水の流れる音のなか夕輝は蛇口から出る水を点で見つめている。

 

「ごめん、レナ。アタシは……」

 

 ボソリと呟きながら、夕輝はもう一度水を浴びた。

 

 若葉との密約を経て、揺れ動いた夕輝の心は一つの答えを導き出した。それは、結果としてレナとの相違をなす形となってしまう。

 

 しかし、夕輝の心を縛る荊棘は、そんなことではないようである。夕輝の視点、レナの視点、一見同じに見えるそれは、それぞれ違った形をなしていた。

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