ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第43話 3人の幼馴染【過去: feat. 夕輝①】

 アタシがユカと初めて会ったのは小学3年生の時。クラス替えがキッカケでアタシ達はクラスメイトになった。

 

 当時のユカの印象といえば、なんか人気者のイケすかないやつ。そんな感じだったと思う。

 

 ユカの周りにはいつも人がいて、誰とも喧嘩なんてしないし、問題も起こさない。いつも和かで、まるで「私が行く道が正道なんですよ。ついて来なさい?」、とでも言いたそうな気さくな笑顔がアタシは気に入らなかったんだ。――だって、当時のアタシとは真逆の存在だったから。

 

 ※

 

 小学校の校舎に耳慣れたチャイムの音が鳴り響く。休み時間を告げられて生徒達は一斉に教室から飛び出した。

 

「ねえ、ゆかりちゃんも行こうよ! みんなでドッジボールするんだって‼︎」

 

 廊下に飛び出たクラスの女の子が窓から顔を出し呼びかける。そんな誘いに、幼くも精悍な顔つきをした少女、春野結花凛は笑顔をみせた。

 

「うん。いいね、ちょっとまってて」

 

 そう言うと結花凛は教室を見渡してから、机に突っ伏した1人の少女の元へ行く。

 

「レナちゃん。みんなでドッジボールするんだって、一緒に行かない?」

「……私も行っていいのかな?」

 

 レナは弱々しくそう呟いた。新しいクラス、新しい環境に馴染めていない、そういった様子である。レナのように、環境の変化から間もない時期にナイーブになることはそう珍しいことではない。

 逆に、誰にでも物怖じせずに声をかけられる結花凛の方が異質である。新しいクラスが作られてから、結花凛は既に全員に声をかけ、返事をもらっていた。

 

「いいに決まってるよ。みんなクラスメイト、みんな友達。確かに初めて話す子も多いけど、話してみないと、どんな子かわかんないよ?」

「うん……そうだね」

「うん。行こう」

 

 そう言って結花凛はレナに手を差し伸べる。その手を取ったレナは結花凛に連れられて一歩を踏み出した。

 

 そんな2人が廊下へ出ようとしたところ、結花凛はもう1人、教室に残っている人物がいることに気が付いた。レナと手を繋いだまま、結花凛は廊下には出ずにその人物へと近づいていく。

 

 その人物は机に座り、次の授業の教科書をただジッと鋭い目つきで見つめていた。

 

「ねえ、ねえ、夕輝ちゃん? みんなでドッジボールするんだって、一緒に行かない?」

「は? なんで? てか、馴れ馴れしく声かけないでよ。誰?」

 

 結花凛に声をかけられた夕輝は、なんで自分に声をかけてきた?、と言いたげな表情で結花凛を睨みつけ、そして突っぱねた。

 

「ん? 春野結花凛だよ?」

「いや、それは知ってるんだけど。アンタ、アタシの何なわけ?、ってイミ」

「何って……友達?」

「友達じゃないし」

「じゃあ、クラスメイト? 友達も、クラスメイトも似たような感じだと思うけどな」

 

 純粋無垢な結花凛の笑顔を前に夕輝は辟易と言いたげに、ため息を吐く。

 

「バカらし、あんなヤツら友達でもなんでもないんじゃん?」

「そうかな? みんなで遊ぶの楽しいけどね?」

「じゃあ、勝手に行ってきたら? アタシはいい。どうせ楽しくないし」

「そっか……分かった。でも、やりたくなったらおいでね?」

 

 そう言って結花凛は簡単に引き下がり、レナと一緒に廊下へと向かう。そうして徐々に小さくなる2人の背中を夕輝は薄らと見つめていた。

 

 ※

 

 廊下に出た結花凛の腕にはレナがしがみ付いていた。廊下を歩き、外へ向かう階段を降りているところでレナは口を開く。

 

「ユカちゃん……あの子、問題児の子だよね? 去年、同じクラスの子を殴ったていう」

「うーん、そういう話もたまに聞くよね?」

「たまにじゃないよ! 危ないよ? どうしていつも話しかけるの?」

 

 結花凛の身を案じるように、レナは瞳を揺らしてそう言った。しかし、そんな心配をしているレナの気も知れず、結花凛は楽観とした表情で唇に指を置く。

 

「危ないかな? 夕輝ちゃん私が話しかけたら絶対にちゃんと返事して、会話してくれるよ? ホントにイヤなら無視したっていいのに」

「うん、でも……」

「そんなに心配することないよ。私は夕輝ちゃんとも、仲良くなれると思うけどな」

 

 そう告げる結花凛だったが、レナはどこか納得していないようで唇を少し尖らせていた。そんなレナの両手がぎゅっと結花凛の腕にしがみ付く。

 

「あ、そういえば私、日直だった。黒板消さないと……ごめん、レナちゃん先に行ってて」

「あ……」

 

 そう言うと、焦った様子の結花凛はレナの両手を振り解き降りた階段を駆け上がった。

 残されたレナは掻き消えるような小さな声を出しながら結花凛の方へと手を伸ばす。しかし、すぐに結花凛の姿は消えてしまった。

 

 結花凛が階段を駆け上がり、廊下へと戻って来ると、そこで夕輝と鉢合わせた。

 

「げ……なんで戻ってきてんの?」

「あ、夕輝ちゃん。へへへ……私、日直だったことスッカリ忘れちゃってて、黒板を消しに教室に戻るんだ」

 

 頭の後ろに手をやって結花凛はヘラヘラと事情を説明する。すると、夕輝は口をモゴモゴさせイヤそうな顔を見せた。

 

「……それならアタシが消しといたけど?」

「え? ホントに?」

「あのままだったら、次の授業で先生が困るんじゃん? それに誰かが説教されてるとこ見ると、こっちまで気分悪くなるし」

 

 左右に視線を散らしながら夕輝は、そんなことを口にした。そんな夕輝の正面で、結花凛は嬉しそうに笑顔を見せる。

 

「なに? ニヤニヤして、ウザいんだけど」

「えぇー、酷いなぁ。ありがとう、優しいんだね、ってただそう思っただけなのに」

「は? キモ、ウザ、やめてくんない?」

「辛辣だなぁ〜」

 

 そんな風には言いつつも結花凛は夕輝に暖かい瞳を向けていた。対して夕輝は鋭い瞳で睨みつけてこそいるが、すぐさまこの場を離れようとはしていない。

 

「で、夕輝ちゃんは、こんなところで何してるの? 一緒にドッジボールやりたくなった?」

「なってないし。トイレに行こうと思っただけじゃん?」

「そっか……残念」

 

 しゅん、と肩を落としてそう言うと、「じゃあ、私は行って来るね」、と続けて結花凛は階段を駆け降りて行った。

 嵐のような出来事を後に夕輝は大きく、ため息を吐く。

 

「……なんなのアイツ?」

 

 そう呟きながら夕輝はトイレへと向かった。

 

 ※

 

 午前の授業が終わり、結花凛たちは給食を食べ、長めの休み時間を迎えていた。多くの生徒はすでに食べ終え各々、遊びに行ったり雑談を楽しんだりしている。そんななか教室を見渡してみると、まだ給食を食べている生徒がチラホラといた。

 かくいうレナも、まだ給食を食べているウチの1人で、偏食が祟ってオカズに入っていたニンジンに苦戦している様子である。

 

「うぅぅ……にんじんキライ」

 

 スプーンの上に乗った角切りのニンジンと睨めっこしながら、レナは顔を青くしていた。そんなレナの隣には結花凛が座っていて、すでに食べ終えた後の食器を片付け、何をするわけでもなく同じ時を過ごしている。

 

「頑張れ〜、レナちゃん」

「ごめんねユカちゃん、付き合わせちゃって……早くみんなと遊びに行きたいでしょ?」

「ううん、イイよ気にしなくて。こうして、レナちゃんとお話してるのも楽しいから」

 

 結花凛がそう言って笑うと、レナは少し照れくさそうに頬を染めた。それから、勢いよくスプーンを口に運び、モグモグモグ、と早めの咀嚼をして喉へと押し込んで見せる。

 

「うぅぅ……マズい」

「おぉ〜、いっきにいったね〜。レナちゃん、すごい」

 

 オェ、と芳しくない表情を見せるレナ。

 パチパチと手を叩きながら結花凛はレナの頑張りを認めているようだった。

 

「えへへ、ありがとう。ユカちゃん」

 

 そう言い2人は向き合って共に笑い合う。そして、教室を出てレナの食べ終えた後の食器を給食センターへ片付けにいった。

 

「やっぱりユカちゃんはすごいなぁ。好き嫌いとかないんでしょ? いつも給食、食べ終わるの早いもんね」

「え? そんなことないよ。私も嫌いなものあるよ?」

 

 そんな風に返す結花凛にレナは目を丸くする。

 

「本当に?」

「うん。鶏のパサパサしたお肉とかはあんまり好きじゃないかな……あと、口の水分を持っていかれるヤツとか。炭酸も苦手だな」

 

 苦い顔をしながら結花凛はそんなことを口にするが、どれも好き嫌いかと言われれば怪しいラインの話だった。しかし、それでもレナは結花凛との共通点、親和性が高まったのが嬉しかったのか、顔をパァっ、と明るくさせた。

 

「炭酸かぁ、きっと喉が鋭敏なんだろうね。口の中の保湿も歌を歌う上では重要だし、本能的にデメリットになるものを避けてるのかも」

 

 目をキラキラさせながら、レナはそんなことを口にする。小学3年生にしては言語能力がかなり発達しているが、結花凛にとって、そんなことは気にならないようだった。

 

「うーん、関係あるのかな?」

「きっとあるよ!」

「レナちゃんは好き嫌い多いよね」

「うん、野菜はだいたい嫌いだね。あ、でもジャガイモとコーンなら食べられるよ!」

「あはは……それは何か違う気がするなぁ」

 

 そんな会話に花を咲かせながらキャッキャ、と賑やかに歩いていると1人の大人が近づいてきて結花凛に声をかけた。

 

「春野さん、少しいいかしら?」

 

 メガネをかけたいかにも堅物そうな女性の教師。どうやら結花凛たちのクラス担任ではないらしいが、結花凛は足を止めて、それに受け応えた。

 

「はい、どうしたんですか?」

「この間、学校の代表として出てくれた音楽コンクールの賞状とトロフィーが職員室にどどいているのだけれど受け取りに来てくれないかしら?」

「ああ、あの時の……はい、分かりました。わざわざありがとうございます」

 

 その口ぶりから、その教師は音楽の担当教員なのだろう。その提案に結花凛は快く承諾する。それから、隣にいるレナに軽く謝罪をして先に教室に戻っておいて、と言葉をかけた。

 音楽の先生に連れられて結花凛はレナの元から去っていく。残されたレナはシュンとした表情を見せるが、仕方なく1人で廊下を歩いた。

 すると、人通りの少ない実習棟の渡り廊下の方から何か揉めるような、ただごとではない声が聞こえてくる。

 

 レナはそれが気になったのか、おもむろに声の方へと近付いていった。近づくに連れ徐々に声は鮮明に聞こえてきて、それが聞き覚えのある声だということに気がついた。

 

「ホント、アンタらなんなわけ? 鬱陶しいなぁ。アタシがキライなら関わってこなければいいじゃん!」

 

 それは同じクラスの緋花夕輝の声である。そして、人目に付かない位置にいるものの、少し離れたレナの位置からも夕輝と他4名が何かを揉めている姿が視認できた。そして、夕輝以外の4名のうち2名はクラスメイトだとレナは気づく。まだ、交流は少ないが顔くらいは覚えていたようだ。

 

「だから、ダリアがアナタに暴力を振るわれたって言ってるの」

「だから、そんなの知らないって言ってんじゃん! てか、アンタらまだ懲りてないわけ? いい加減、ダリアに執着するのやめたら?」

 

 話の中心に挙げられているダリア、と呼ばれる少女はまさしく、4人の中にいる少しバツの悪そうな顔をして下を向いている彼女に違いない。暴力を振るったやら、執着しているやら、なんともおっかない内容にレナは思わず物陰に身を隠し硬直する。

 

「アナタ何にも分かってないのね。私たちは仲直りしたのよ。今ではもう、すっかり仲良しだもの。ねー、ダリア?」

 

 グループの中心人物らしき、絵に描いたような悪女が長髪で大人しそうな少女、ダリアへと声をかける。肩までかかったダリアの綺麗な髪の毛をすくうように手で持って、夕輝に挑発的な瞳を向けた。

 

 そんなダリアも、どこか怯えているようで、しかし何かしらのアクションを起こさねばならない状況なのか、ゆっくりと首を縦に振る。

 

「呆れた……ダリア、アンタ、プライドないの? 去年、そこの御伽林(おとぎり)、達にイジメられてたの忘れたワケじゃないでしょ?」

「だ・か・ら、分かってないな〜。ダリアちゃん、とは仲直りしたんだって」

 

 そう言って夕輝を挑発する御伽林(おとぎり)に対して、話にならない、と言いたげなため息を吐いて夕輝はその場を去ろうとする。すると、御伽林(おとぎり)のそばにいた2人の友人が夕輝の前に立ち塞がった。

 

「どいてよ」

 

 しかし、夕輝は臆さず、そんな2人を睨み返す。思わずその圧に負けてしまったのか、2人の友人は一歩退き、その隙を夕輝に突破された。

 

「待ちなさいよ」

 

 御伽林が、そう呼び止めるが夕輝は止まろうとはしない。次の瞬間、ついさっきまでヘラヘラとしていた御伽林の表情が修羅の形相へと姿を変えた。

 

「私、アナタのこと許さないから……去年、私に手を挙げたこと絶対に後悔させてやる!」

 

 去り行く夕輝の背中に御伽林は鋭い言葉を投げつける。しかし、それもまた夕輝は気にもせず、かわされてしまった。クソッ!、と地面を踏みつける御伽林を後目に、夕輝は本当にその場から姿を消した。

 

 夕輝が姿を消してから数秒が経ちレナはソッと物陰から移動しようと音を殺して動き出す。すると、レナの背後から何とも鈍い、重低音のような音が聞こえてきた。思わずレナは振り返る。

 

「え……?」

 

 そして、その光景を目の当たりにしてスッと血の気が引いていく感覚を覚えるのだった。

 

 そこにあったのは地面に転がるダリアの姿。頬は赤く腫れていて右手でそれを押さえ、震える体を左手で抱き寄せている。そして、そんなダリアを見下ろしているのは他でもない御伽林であった。

 

「……ごめんなさい。……ごめんなさい、(かなで)ちゃん」

「謝らなくてもイイわよダリア。ただちょっと協力してもらっただけのことでしょ?。でも、当然のことよね? だって――私たちは、お友達なんだから(・・・・・・・・)

 

 そう言って御伽林もとい奏は顎の下で両手先を重ね合わせながら和かに語りかける。

 青ざめた顔のレナは自ずと手足が震えていた。早くこの場から離れなくては、頭によぎったそんな考えが最悪の事態を招いてしまう。

 この場を去ろうと踏み出したレナの一歩は――ガッ!、と廊下を蹴りあげて、その音を響かせた。

 

「誰?」

 

 当然、奏はその音を聞き逃さない。音の先にいるレナを視認して表情を暗くする。

 そんな状況でレナに残された唯一の方法は真正面から逃げ切ること。強く地面を蹴り出してレナは走り出した。

 

 そんなレナを前に奏の友人2人は視線を奏へと送る。そして、言葉もなく頷く奏の姿を目にして、レナへと向かって走り出した。

 

 正直なところレナは決して運動神経がいいとは言えなかった。体力の有無や走る速さ、競技の技能、どれをとってもイイ思い出など一つもない。

 瞬く間にレナは距離を詰められて、2人の少女に腕を掴まれる。そして、強引な方法で奏の元まで引き戻された。

 

「アナタ確か同じクラスの……まあいいわ」

 

 奏もレナがクラスメイトということは覚えていたようだが、名前までは覚えていない、そんな様子。地面に転がり見ていることしかできないダリアも同じような目を向けていることから、どうやらレナはあまりクラスメイトに存在が定着していない生徒らしい。

 

「見た?」

 

 2人の少女に腕を押さえられ、膝を地面につかされたレナを奏は冷酷な瞳で見下ろしている。

 そんな状況にレナは震えることしかできないでいた。

 

「ま、見たか見てないかなんてどうでもいっか。だってアナタが話さなければいいだけの話だもんね」

 

 そう言って奏はレナに向かって顎を突き出す。そして、そのまま顎でダリアの方を指した。

 

「ああはなりたくないでしょ? アナタは何も見なかった、イイわね?」

 

 あくまでも和かに、奏はそう問いかける。レナとしてもそう問いかけられてしまえば首を縦に振るほか選択肢はないだろう。

 

「うんうん、いい返事なこと。でも、もしこのことを誰かに話したら……分かってるよね?」

 

 そうして最後に奏は大きな釘を刺し、レナを解放した。レナのような目立たない生徒なら、無理に制裁を与えないでも脅し程度でなんとかなる、そう判断したのだろうか。それでいて、今はレナには構ってられない、もっと大きな目的が彼女にはあるのかも知れない。

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