ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第49話 私と私

 私の才能……消えた記憶…………それがあれば葉月ちゃんは――

 

 ボヤけた意識の中、遠くの方から小さな子供の声が聞こえてくる。

 やがてそれは近付いてきて、視界には見慣れたいつもの公園が現れた。そして、これも同じく夕輝ちゃんに似た子供と、レナちゃんに似た子供が遊んでいる。いつも見る、不思議な夢の世界だ。

 

 ――そして、もう1人。

 

「ようやく気づいたの?」

 

 私の背後から、そんな声が聞こえてきた。

 初めてのパターンに私が驚いていると、そのもう1人が私の方に近づいてくる。

 

「気づいちゃったの?」

 

 声は四方八方から聞こえてきて、私が目の前の少女に手を伸ばそうとすると、いつものように胸の辺りがザワザワとなって、ギュッと締め付けられるように痛くなる。

 

 いつもはこれ以上、手を伸ばすことはできないはずなのに、なぜか今は違う。伸ばせてしまう。触れることができてしまう。

 

 ――私はどうしたら……

 

 そう考えていると、目の前の少女がムクリ、と顔をあげてその瞳で私の瞳を覗き込む。

 

「あ、目が合った…………目が合っちゃったんだね」

 

 四方から頭の中に響き渡るそんな声。その声は比喩表現などではなく、私の周りには目の前の少女と同じ少女が無数に存在して、私を取り囲んでいた。

 

「あーあ、あなたが今まで何のしがらみもなく楽しく、友達と笑えていたのは私が隠れていてあげたおかげなのに……」

「気づいちゃったんだ」

「見つけちゃったんだ」

「どうする?」

「私に触れる?」

「あの頃に戻る?」

 

「「友達を助けられる力がほしい?」」

 

「情けないね」

「惨めだね」

「無力だね」

 

「私なら、できるのに……」

 

 ――ああ、あなたは私だったんだ。私のなかから消えていた記憶。ずっと目を逸らし、何も考えなくてもいいって言ってくれた夕輝ちゃんに全て甘えて、目を逸らしていた私の記憶……

 

 触れないと、葉月ちゃんを取り戻すために……

 

 少しずつ未介入地点へと手を伸ばすにつれ、何故だか涙があふれてくる。心が苦しくなる。見えない力に今にも押しつぶされそうになる。

 けれども、私は……

 

 その瞬間、少女と私の間に割って入って、伸ばした私の手を、青い髪の小さな女の子が優しく握りしめた。

 

 ――夕輝ちゃん……

 

「ユカ……」

 

 そんな声が聞こえてきて、世界はフワっ、と光に包まれる。

 覚醒の時が来て、消えゆく世界の残影で、昔の自分はずっとこちらを見つめていた。

 

 ※

 

 結花凛が目を覚ますと、初めに視界に映ったのは夕輝の顔だった。

 

「ユカ……! よかった、目を覚ました‼︎」

 

 夕輝がそう言うと、結花凛が眠る病院のベッドを挟んで向かいに座っていたレナが勢いよく立ち上がる。そして、美烏もまた近くへ寄ってきた。

 少しずつ意識が回復していくように結花凛が起き上がると、自分の右手を夕輝が握りしめていることに気づく。

 

「よかった……よかったよユカ。急にうなされ出したから、危ないのかと思っちゃった」

 

 涙ぐんだ夕輝の顔を結花凛は見つめるも、目をパチパチとさせ我ここにあらずの様子を見せていた。そして、少しの間何かを考えるように遠くを見つめて、それから夕輝に暖かな笑顔を見せる。

 

「ありがとう夕輝ちゃん。また、心配かけちゃったね」

「ホントだよバカ……」

 

 美烏に渡されたハンカチで涙を拭いながら、夕輝は弱弱しい声でそう吐き捨てた。

 

「美烏ちゃんも、レナちゃんも心配かけてごめんね」

 

 結花凛がそう言うと、美烏は穏やかな顔でただ強く頷く。そしてレナも、夕輝と同様に涙ぐんだ顔で結花凛の顔を見つめた。

 

「ユカちゃん……ホントにもう大丈夫?」

「うん、頭も痛くないし、体も平気だよ」

 

 自分の腕を曲げ伸ばしして、腕の筋肉を見せつけるように結花凛はアピールをする。そして、顔を見合わせてそんな会話をした結花凛はジッとレナの顔を眺めて考え込んだ。

 

「……? ユカちゃん?」

「あのさ……もしかしてだけど、私とレナちゃんって昔から――」

 

 結花凛が何かを口にしようとしたその時、病室の扉が開かれてナースが飛んで入ってきた。

 

「あ、ユカの様子がおかしかったから、ナースコール押したんだった……」

 

 脇でそう夕輝が呟いて、結花凛はやってきたナースの指示で健康チェックが行われる。体温、血圧、酸素の数値を検出して、念のため医師の診察も受けようと、起きたばかりの結花凛はナースに連れられて病室を出た。

 

「ユっちゃん……今、ユカちゃん何を言おうとしてたのかな」

「……分かんない。けど、良くも悪くも今のユカからは少しだけあの頃の雰囲気を感じだ気がする」

 

 神妙な顔でそんな会話を交わす2人を、美烏もまた、複雑な表情で見つめている。

 

 ※

 

 葉月家を訪問したその日、結花凛は目を覚ましたものの大事をとって、その日は病院に入院した。

 翌日、結花凛を含めたエンシードの面々は通常通りに登校し、放課後に演劇部の門を叩いていた。

 

「……そっか、そんなことがあったんだね」

 

 美烏を筆頭に、コラボ相手である演劇部の部長、白鳥陽夏に昨日の出来事をありのまま説明する。ここ数日、葉月の無段欠席で演劇部にはすでに迷惑をかけている立場にあった。これまでの信頼貯金で葉月は目をつむられてはいたが、それを説明する美烏の立場になると肩身の狭さは容易に想像がつく。

 

「……準備こそかなり進んだものの、幸いまだどこにも告知はしていない――今ならまだ打ち切りにもできるが…………」

 

 そう言った陽夏だったが、目の前にいる4人の顔を見て、目を瞑った。美烏も、夕輝もレナも、昨日の出来事を引きずって浮かない表情を浮かべている。そして結花凛は、そんな3人よりも奥歯を噛み締めていつもの勢いを殺していた。

 

「いや、それは正しい判断じゃないか。もともと誘ったのは私の方だし、後輩であるキミたちにそんな顔をさせちゃ最上級生の立つ瀬がないね。やろう、計画は続行だ」

「っ……! 私、絶対に葉月ちゃんを連れ戻して見せます!!」

「ああ、けどもしそれが出来なかったならレニーの役はキミがやるんだよ結花凛ちゃん」

「はい」

 

 強く芯の通った結花凛の瞳が黄金色に煌めいていた。その覚悟に応えるように陽夏も強く頷いて見せる。

 そして、陽夏が出した条件を結花凛は二つ返事で承諾した。役に対して結花凛は結花凛でしかいられない。そんなことは承知の上で、陽夏はそう提案したはずである。劇へ抵抗を感じている夕輝や美烏に比べたら、その熱意をかった方が利口だと判断したのだろう。

 

 陽夏への報告を済ませた4人はぞろぞろ、と演劇部の練習場を後にして自分たちの部室へと帰宅した。

 

「みんな、作戦会議をしよ。昨日の葉月ちゃんは……あんなの葉月ちゃんじゃなかった。そうでしょ?」

 

 部室に帰り、各々が自分の席へと腰を下ろすと、すぐさま結花凛が提案する。しかし、そんな声に賛同する意見は芳しくはなかった。

 周りの様子を伺うようにして、数秒間を持って美烏が動く。

 

「確かに、昨日の葉月はらしくなかった。それは理解できるわ。けど、だからこそ、彼女がああまでして私たちから離れようとしているのも事実。はたして私たちの力だけでどうにかできる問題なのかしら……」

 

 夕輝、レナの思いも代弁するように美烏は2人と同じ浮かない顔でそう返す。

 

「……なに言ってるの美烏ちゃん? 私たちしか、今の葉月ちゃんに何かをしてあげらる人はいないんだよ?」

「けど、ユカちゃん……昨日見て思わなかった? ハーたんは私たちとは住む世界が違うって」

 

 多くの大人に囲まれて、それでも先頭を走る葉月が身を置く環境は決して楽な道ではない。それ相応の実力を有して、それでいて血のにじむような研鑽を重ねなくてはいけない茨の道。それは、他の人から見てみれば常軌を逸した、別世界とも言い換えられる。

 

「……なんで、なんでそんなことが言えるの?」

 

 結花凛がそう訴えかけると、レナは酷く心苦しそうに顔を歪ませた。結花凛が続けて口を開こうとすると、そこに夕輝は待ったをかける。

 

「昨日、ユカが眠ってる間に3人で話し合ったんだよ」

「なにが……」

 

 珍しく語気を強くして結花凛は夕輝に反発した。一瞬、夕輝は調子を崩してたじろぐが、すぐに復帰して結花凛と同じだけの熱量で言葉をつづけた。

 

「私たちだって、あれが葉月の本心じゃないことくらいわかるよ。あの高飛車な母親が、絶対に一枚噛んでるのも理解できる。けど、アンタ昨日倒れたじゃん! 私はもうこれで二度もそれに立ち会ってんの!! 葉月のことは大事だけど、私たちはユカのことも大事に思ってる! アンタの考えはいつだって、自分を度外視してんのよ。葉月のためにアンタが踏ん張って……それでもし、もう2度と目覚めなくなるくらいなら、葉月のことからは手を引いたマシじゃん!」

「っ……! 私は――」

「そうやって、私は、私は、って……アンタも完璧なんかじゃないんだよ! 今のアンタには1人でなんでもできる程の力はないって、なんで分かんないの!?」

 

 頭に血が登ったのか夕輝は結花凛を怒鳴りつける。そんな光景をレナは目を丸くして見つめていた。夕輝に痛い指摘を受けた結花凛は口を開くが、返す言葉が見つからないのか眉を下げて開いた口を閉じることしかできないでいる。

 

 そんな空気の中、勢いよく部室の扉が開かれて2人の女子生徒が流れ込んできた。それは、結花凛たちのクラスメイトでスクールアイドル部を応援している派閥の女子生徒2人。

 

「結花凛ちゃん! 大変だよ‼︎ もうニュース見た⁉︎」

「葉月ちゃんが大変なことになってるんだよ!」

 

 言い争いをしていた2人だが、葉月のピンチを聞きつけてお互い、一度我に立ち返る。

 そして、驚きを隠せずにいるエンシードの4人を見た女子生徒2人は、スマートフォンでインターネットのニュース記事を開いた。それを机の上に置き、結花凛たち4人はそこへ視線を集めるのだった。

 

『柊絵梨花、母国にて大々的に舞台公演を行うことを発表! メインキャストには愛娘の柊葉月が抜擢‼︎ 期待の超新星、誕生か?』

 

 そういった見出しのページには、柊絵梨花の顔写真とともに公式の場で撮影されたであろう、ドレス姿の葉月の写真が掲載されている。

 

「何これ……」

「昨日、私たちが多少強引に近づいたから、もう近づかれないように……私たちとの開いた距離を確固たるものにしたかったんでしょうね……」

 

 あらかじめ発表しようとインタビューを受けていたものを、昨日の一件を受けて前倒しで発表させたのだろう。

 夕輝と美烏はサビれたコメントを残して、それ以降は不満気な顔をしたまま黙るしかできなかった。

 

「これじゃもう……」

 

 レナがそう漏らすのも無理はなく、柊絵梨花は全国的に葉月を売り出すため広告をうち始めたのだ。今後、新聞やTV局をフルに活用してスター街道をより盤石にすることだって考えられる。

 

 結花凛は両手を力一杯握りしめて、震えていた。そのまま数秒黙り込みふわっ、と力を抜いたかと思えばゆっくりと席を立つ。

 

「……今日はもう帰るよ」

 

 いつもの元気など、とうに忘れて結花凛は荷物を肩にさげるとトボトボ、と部室を出て行ってしまう。そんな結花凛に、3人は心配そうな視線を送るが、ここで情けをかけてしまうとまた何とかしよう、と言い出すのではないか、そう考えると行動には移せない。

 

 いつも先頭を直走る結花凛がいなくなり、エンシードはますます散り散りとなっていく。

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