ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

60 / 86
第50話 協力的な遭遇①

 時計の針は18時を回った。生気を失った結花凛は、部室で夕輝たちと衝突したあと自室へと帰宅している。

 ぬいぐるみや、色鮮やかなクッション、机の上にはアクアドームだとかも置かれていたりして、幼少の頃とは様変わりしたその部屋で結花凛はベッドに伏せた。クッションに顔を埋めてスーっ、と息を吸う。

 

 それをなん度も繰り返し、結花凛はただただ時の流れを過ごすのだった。

 

 ※

 

 時は遡り、結花凛が出て行った後のスクールアイドル部では、ただならぬ雰囲気に気を使ったのか、葉月のニュースを持ち込んだクラスメイト2人はすぐに軽い挨拶をして姿を消した。

 残されたのは夕輝とレナと美烏の3人。レナは両手でスカートの布を握りしめ、何かを考えるように下を向いている。そして、夕輝は落ち着かないのか右手の人差し指でコツコツと机を小突き続けていた。そんな2人を見て美烏は声こそかけずとも、心配して落ち着かない様子はその瞳が全てをもの語っている。

 

「……ほんとに、これでよかったのかな」

 

 沈黙を殺したのはボソリと吐いたレナの一言だった。

 

「レナ……気持ちは分かるわよ。私だってこんな形は嫌よ」

 

 重ねるように美烏もそう口にする。そんな2人に夕輝は1人づつ鋭い瞳を向けた。

 

「2人とも、昨日話し合ったんじゃん? 2人も納得したよね。今回の件、ユカには一切関与させないって。ユカは遠ざけて、葉月のことはアタシたち3人でなんとかするって」

「それは……そうだけど。あの時は結花凛の前でこそあんなこと口にしちゃったけど、ネットニュースの件を踏まえると本当に私たち3人の力だけじゃ、どうしよもないと思ってしまうわよ」

 

 そう訴える美烏の瞳に、夕輝もやや押されるかたちで苦しい顔を見せる。

 3人は結花凛が眠る病室で、予め話し合った。葉月に立ち向かい意識を失った結花凛が、もしもう一度同じようなことになったら、その体にかかる負担は計り知れないのではないかと。

 

 3人はこの一件から結花凛を退ける決断をした。その結果、心にもないことを発言し、結花凛と部室で衝突を起こし、3人の望む結果とはなった。しかし、インターネットニュースの件は完全に計算外である。

 

 当初、3人が考えていたよりも葉月は遠くに行ってしまったのだ。

 

「……ハーたんのお父さんなら、なんとかならないかな?」

 

 英刈家の門の前で、四苦八苦していた結花凛たちをはじめに救ったのは、葉月の父である奈月だった。そのことをレナは思い出す。

 一貫して奈月は葉月の肩を持っているようで、確かに今の夕輝たちの味方となる人物を上げるなら他にいないだろう。

 

「確かに、葉月のお父さんなら力になってくれるかもしれないわ」

「けど、問題はどうやって連絡をとるかじゃん? なんか、会社の社長で忙しいぽかったし」

 

 昨日の奈月と絵梨花の会話から、夕輝はそんな問題点を持ち出した。

 

「すごく古典的な作戦をとるなら、家の前で待ち伏せかな?」

「却下、さすがに途方もなさすぎるわ。昨日の口ぶりだと、何日かにしか帰ってないみたいだったし」

「……じゃあ、やっぱりその会社ってところを、まずは見つけないとじゃん?」

 

 夕輝がそう言うと、美烏とレナは同時に頷く。

 

 ようやく3人のto doマップが1つ埋まったところで、部室内に完備されたチャイムが鳴るスピーカーから、放送が流れる。

 

『スクールアイドル部 緋花夕輝、スクールアイドル部 緋花夕輝 至急、生徒会室まで』

 

 そんな声が流れてきて、レナと美烏は視線を夕輝へと集めた。

 

「あなた、何やらかしたのよ……」

「いや、なにもやらかしてないし!」

 

 細めた目で美烏に見つめられた夕輝はバっと立ち上がって否定する。

 

「まあ、呼び出しの理由は大体分かるんじゃん? 面倒だけど行ってくるよ」

 

 そう言うと、夕輝は頭の後ろを掻きながら部室の扉から廊下へと出た。

 

「最近ユっちゃん、生徒会長と仲良さそうだよね」

「そうなの?」

「うん、この前も何度か、お昼休みに生徒会室に行ってたよ」

「そうなのね……逆に最近、結花凛は生徒会長と話してないわね。前まではかなり親しそうだったのに」

 

 そんな会話を交わしながら、夕輝がいなくなった部室の中で2人は各自の時間を過ごすのだった。

 

 ※

 

 夕輝が生徒会室にやってくると、そこには生徒会長の若葉が1人で待っていた。

 

「アンタ、いっつも1人じゃん。人望ないの?」

「失礼だな。1人の時を狙ってキミを呼んでいるんだよ」

 

 生徒会室に入るなり、そんな軽口を叩く夕輝に向かって若葉は心外だな……、と言いたげに不服そうな表情を浮かべる。

 そんな顔を見てクスっ、と悪女のような笑顔を返しながら夕輝は断りもなく生徒会室のソファーに深く腰を落ち着かせた。

 まるで八つ当たりするかのような悪辣な態度に、若葉は乾いたため息を一つつく。

 

「全く……」

 

 そうボヤきつつも若葉も業務用の席を立ち夕輝の正面へと移動した。

 

「で、今回は何?」

「いつも通り例の件の進捗と……英刈くんの話だ」

 

 若葉がそう言うと、夕輝はソファーの腕かけで頬杖をつき顔を逸らして明後日の方向に目を向けた。それから少しの間、考える素振りを見せてその後、顔の向きはそのままに片目で若葉の顔を見る。

 

「……進捗って言っても特に変わりはないんじゃん? 葉月の件は……今アイツとはケンカ中だよ」

 

 夕輝が素っ気なくそう答えると若葉はスっ、と冷たい表情を作った。

 

「特に変わりはない……か。キミ本当にやる気があるのか? この前の報告も似たり寄ったりで、何の成果もないじゃないか」

「バカ言わないでよ。こっちは危ない橋渡ってんの。アタシがユカに忘れられたら、それこそもうどうにもならないんじゃん? こっちはまだ3年高校生活残ってんだから、ゆっくりやるから待っててよ」

 

 そんなことを言いながら、当の本人は若葉との契約を有耶無耶にしようと考えているのだからタチが悪い。そんな夕輝の横顔を若葉は細い目で、ジロリと見つめる。

 

「バカを言ってるのはキミの方だ。そんなに悠長にするつもり、私はないよ。私がこれ以上、手荒なことはしないという約束でキミが動いてるんだ。早急に成果を出してくれなくては契約更新は難しいぞ?」

「……チっ」

 

 強く出た夕輝に対して若葉はその上をいく物言いで夕輝の舌打ちを引き出した。明らかに不機嫌を表に出す夕輝に対して、まだ余裕のある口ぶりで夕輝をあしらう若葉はさすが上級生と言えるだけの風格がある。

 

「近々また呼び出すから、その時までにはなにか報告できることを用意しておくことだ」

 

 若葉がそう言うと夕輝は特大サイズのため息を吐いた。それから大きな身振りで体を正面に持ってきて、バカにするような目でジッと若葉の目を見つめ返す。

 

「なんなのアンタ、事あるごとにアタシを呼び出して、アタシのこと好きなの?」

「ふっ、面白いことを言うな。けどまあ、キミと話すのは嫌いじゃないよ。キミくらい生意気な後輩もたまには新鮮で悪くない」

「うげ、キモ。アタシはアンタのこと嫌いだよ」

 

 夕輝がそう返すと若葉は肩を揺らして笑みをこぼした。そしてそのまま声を出して笑い、ポケットから紙切れを出して目の前の机にスッと出す。

 

「何これ……」

「もう一つの方の件だ。キミが欲しがるであろう……英刈葉月の父親の情報だよ」

「は⁉︎ なんでアンタがそんなこと知ってんのよ!」

 

 突然飛び出たタイムリーなアイテムに夕輝は思わず立ち上がった。そんな夕輝を見つめながら若葉はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ続けた。

 

「それはどっちの質問だ? 言葉通りの意味か、それともちょうどキミが欲しがっていることを的中させたことかな?」

「……」

「ふふ、情報源については、そうだな……人望があるから、と答えておこうかな?」

「チッ……」

 

 悪態で返す夕輝に若葉は悦な笑みで対応する。

 

「後者の答えは、連絡がつかない英刈くんに対してキミたちが次に行うアプローチは……と考えると当たらずとも遠からず、必ず欲する情報だと思ったにすぎない。タイミングはドンピシャだったみたいだけどね」

「……あっそ」

 

 そう短く返して夕輝が机の上のそれに手を伸ばすと若葉ひいたずらにそれを先に取り上げて夕輝には渡さない。

 

「ちょっ! 何すんの」

「そんな連れない態度のキミにはあげたくないな」

 

 奥歯をグッ、と噛み締めて何かと葛藤しているであろう夕輝を若葉は態度で見下ろしている。そんな夕輝をジーッと見つめ若葉は声を出して笑い出した。

 

「ハハハ、本当にキミは可愛いな。いいよあげるよ。借りを返せとは言わない。けど、誠意は見せてほしいね」

 

 そう言って紙切れを受け取ると夕輝は大きなため息を吐く。

 

「……ありがと」

「いいえ、どういたしまして」

 

 明らかにイライラしている夕輝はそう短く言って生徒会室を後にした。そんな夕輝を若葉最後まで笑って見届ける。

 夕輝はストレスを代償に、今1番ほしい情報を若葉から手に入れた。

 

 ※

 

 時刻は20時。紆余曲折あって結花凛は自室を離れ、夜の繁華街を傘をさし練り歩いていた。街には仕事帰りのサラリーマンや、部活帰りの学生が群れをなしていて、その人混みの中に結花凛は浮かない表情のまま、水の中になじむ粉末のように溶け込んでいく。

 

 普段、結花凛が夜に出歩くことはそうそうない。部活が長引いて帰りが遅くなることもあるが、帰宅は常に夕輝やレナが側にいた。

 

 自室にいても気が晴れず、どうしようもなくなって外へ出たのだろう。道すがら結花凛は、青果店でジュースを買ったり、ジャンクフードを買い食いして小腹を満たしてみたりしたが、表情が明るくなることはない。

 

 そんな結花凛が次に足を止めたのが、楽器を中心とした音楽ショップだった。無作為に歩き、まるで導かれるかのようにたどり着いたそこで、結花凛は無意識に足をとめる。

 店頭で足を止めボー、っと立ち尽くしていると中から2人の女子高生が出てきて、自動ドアの前で結花凛と鉢合わせた。

 

「ゲっ……若ノ芽のセンター! なんでこんなところにいるんすか⁉︎」

「……結花凛ちゃん。酷い顔、何かあったの?」

 

 それはかつてスプリングフェスで鎬を削ったライバル校の竹下淳美と松原りくの2人だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。