土宮女学院のレッスン場には若々しく、青々しい女子たちの掛け声が響いている。各所でそれぞれに集まった少女たちはダンスのレッスンをしたり、発声のレッスンをしたり、それぞれが汗を流していた。
そんな中、1人異質な別の高校の生徒である春野結花凛がイスに座り、りくと対面しているとその周りを扇形に後からやってきた6人の少女たちに囲まれる。結果、りくを含めたイグニスコードの7人が結花凛を取り囲んだ。
「ようこそ土宮女学院へ……って、そんな感じの雰囲気じゃなさそうだね」
そう切り出したのは、黒い短髪に青のメッシュが入った少しボーイッシュな少女。少女が話し始めると、りくは腕を組んで和やかな顔で目を瞑る。
「改めて自己紹介。私は、3年生の
長いまつ毛が特徴的で鼻が高い椿だが、ニコリと笑う笑顔は可愛らしく、同じくボーイッシュな葉月に比べてマイルドな印象を与えていた。
「はいは〜い、次はわたしー。コロンちゃんはー、2年生の|四ツ葉乃コロンだよぉ。色々あったけど、仲良くしよーねー」
指のネイルを愛でながら、コロンは飄々と自己紹介をする。潤いのある白い肌と、白とピンクが混ざり合った透明感のある髪は彼女の美への意識の強さが示されているようだった。
「ふふふ、ほんまコロンさんはせっかちさんやなぁ。椿ちゃんの次はウチやろふつう……」
はんなりとした特徴的な京都訛りで話すのはスラリと伸びたロングヘアが雅やかな気品のある少女。
「ごめんなさいね。ウチは椿ちゃんと同じく3年生の
そう言って丁寧にお辞儀をする桔梗の一挙手一投足は洗練されている。そんな桔梗のとなりでピシャリっ、と真っ直ぐ手を挙げたのは、金髪に青い瞳をした洋風の顔をした元気な少女だった。頭には大きなリボンが載っており、その様相からは少し幼さを感じさせる。
「ハイ! ワタシ、
ふん、っと鼻息を荒くクレアは結花凛の方を直視した。「はぁ」、っと大きなため息がして、その方向を見てみるとアシメントリーな前髪と、短いスカートが目立つ少し荒んだ少女が不服そうに目を逸らしていた。
「クレア、ウルさすぎ。……
結花凛の方を一度見てそう淡白に挨拶を済ませた葛はまたそっぽを向く。
5人の紹介が終えて、淳美は周りを伺うようにキョロキョロとし始めた。そして、りくが動かないことと他の先輩の顔を伺ってから大きく手を挙げる。
「はいはい、は〜い! もう今更っすけど1年生の竹下淳美っす‼︎ 同じ1年同士、頑張っていきましょう!」
まるで初対面の時のように淳美は元気一杯にそう告げる。その裏に潜む、彼女の小狡さや小物感が滲み出るような笑顔で結花凛に笑かけていた。
「はい、ということでここに私を含めた7人がイグニスコードの愉快仲間たちよ」
パチン、と手を叩きりくがそんな風に締めくくる。
「愉快な仲間たちだって〜 そんなことコロンちゃん初めて言われたぁ」
「お気に入りの1年が来てくれて浮かれてんだろ」
「ふふふ、珍しく浮き足だっとるんやね。可愛らしいわぁ」
馬を仕切るりくの裏でコロン、葛、桔梗の3人がコソコソと話す。
りくはそんな3人にギロリ、と鋭い目を向けた。すると、3人はそれぞれに目を逸らしりくの威圧から逃れようと動く。
「ハハハ、本当に今日は愉快だね」
「ニギヤカ、楽しいデス‼︎」
「ちょ、クレア先輩座ってくださいっす! 騒いでたら、またりく先輩の雷が落ちるっすよ⁉︎」
1つおさめれば、もう1つが騒ぎだし、りくは大きなため息を吐いた。そして、ゴホン、と咳払いをして場を引き締める。
「自由時間はこの辺にしましょう。時間がもったいない。結花凛ちゃん、あなたは今から私と一緒に歌のレッスンよ」
そう言うと、りくは立ち上がり結花凛に付いてくるよう目で促した。
そして、結花凛が立ったことを確認して進行方向へ体を向ける。
「それじゃあ椿先輩、そっちはお願いしますね」
「はいはい、分かったよりく。行ってらっしゃい」
そう短く言葉を交わし、りくは防音室のある別のレッスン場へ向かって歩き出した。そして、置いてかれまいと結花凛はその背中を追いかける。その途中、何かに気づいたように結花凛は立ち止まり、残された6人に向かって振り返った。
「あ、若ノ芽女学院1年生の春野結花凛です。お世話になります!」
そして勢いよく、結花凛は深々と頭を下げる。
「よろしくね、結花凛ちゃん」
「よろ〜」
「よろしくお願いシマス!」
彼女の健気な姿を前に椿、コロン、クレアの3人は笑顔で返事をした。そして、淳美は少し不服そうな顔を見せつつも和かに答える。
同じく、結花凛を見る桔梗の顔もどこか値踏みしているようで、まだ心は開いていないようだった。
「よろしくっす……」
「よろしゅうな、結花凛ちゃん」
5人から返事をもらい、沸々と燃えていた結花凛の顔に少しばかりの光が差し込む。礼から起き上がってきたその顔は、ほのかに笑っていた。
そして、まだ返事をもらっていない葛の方へと目を向ける。
「……」
葛は椅子の上で足を組み、あぐらの上に頬杖をついて目すら合わせようとはしない。そんな状態のまま数秒間、結花凛が動かなかったから確認したのか、ふと葛が結花凛の方へ目を向けると、そこには葛の方を真っ直ぐと見つめる結花凛がいた。
唇を少しだけ尖らせて、わずかに落ち込んだ眉と揺れる瞳がまるで子犬のようで、葛の心臓を射ぬく。
「……ッ‼︎ 」
瞬間、葛は頬を紅くして頬杖していた手で口元を隠した。
「…………よろしくな、後輩」
素っ気なく返すと、結花凛はニパァ、と笑顔になり満足したのか再びりくの背中を追って歩き出す。
それを受けて葛は耳の先まで紅くして、下を向いた。
「かわいすぎだろ……」
誰にも聞こえないほどの極めて小さな声で、葛は呟く。
「なんやアレ、アホらし」
そんな葛を白い目で見て、今度は桔梗がそう呟いた。
結花凛の来訪という普段ない環境の変化は土宮のスクールアイドルたちにも新しい風を吹かせているようである。