ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第57話 正真正銘な葉落ち月

 夜を迎えて、歯磨きなどのその日やらなくてはならない事の大半を終え、ベットの上へと転がった。

 今日も充実した稽古を積んで舞台の準備は上々だ。これまで立って来たどんな舞台よりも大きな規模であり、それは誉れなことなのにどうしてこんなに胸がザワつくのだろう。

 

 改めて自問自答しなくたって、その答えは明白だった。若ノ芽女学院のスクールアイドル部。エンシードのメンバーの顔が頭にチラつく。

 

 ボクは彼女たちに酷い態度をとった。きっともう許されない。彼女たちから遠ざかるためにボクが望んだこととはいえ、ボクは彼女たちを傷つけたんだ。

 結花凛が最も悲しむであろう態度をとり、夕輝とレナの過去の傷に触れようとした。結果として、グループの崩壊という美烏のトラウマと同じことを招いているのは言うまでもない。ボクは最低の人間だ。

 

 そう思っていたのに、今日レナが現れた。変装までしてボクの前に現れて、ボクの手を強く握って行った。

 

 その感触が手に残って離れない。せっかく忘れようと努力して、頭の奥に隠していたのに……

 

 ああ、ユカリは悲しんでいたな。ユウキの泣いた顔は初めて見た……ミウには本当に悪いことをした。こんな形でグループを離れて、立ち上がれなくなっていなければいいが……

 

 ああ、まただ……どうしてなんだ。涙が止まらない…………もう一度、みんなのところに帰りたいよ。

 

 ※

 

 桜の花びらが風に舞い校庭を桃色に染める季節。ユカリがユウキに対して「私、スクールアイドルやりたい‼︎」、と言っていたであろう頃。ボクはそんな2人など視界に入らない程、目まぐるしい新生活を送っていた。役者を辞め、通うはずのなかった高校に通い、表には出さないが新生活という浮き足だった感覚に、内心はボクも例外なく一喜一憂をしていた。

 

 若ノ芽女学院はボクの家からもそう遠くなく、同じ中学に通っていた子もチラホラといる。そこから噂が広がったのか、新たな高校生活ではボクを有名人だと囃し立てる同級生が後をたたなかった。と言っても、ボクが誰に対してもそうなるように振る舞っている点やボクの容姿が整っていることも影響しているだろうが……目まぐるしさの代わりにボクはボクとして安心して生活できる空間を許されていることは今までと変わらない。

 

 母が海外に飛び、父が声を失って、今まで追いかけていた目標を失った(・・・・・・)ボクはそれなら新しいことをしようとして高校進学を選んだ。だからと言って、やりたいことなんかは特別なかったが、色々な人がウチの部活はどう?、と勧誘はしてくれた。

 

 そのため、何か部活に入ろうか?、それとも自由な時間を使って創作活動でも始めてみるか?、図書室で読書に耽るのもいい、などと色々考えていた時期にボクは出会ったんだ――空を掴もうとする手がどこまででも届きそうなほど伸びやかで、自由な彼女の歌声と。

 

 ※

 

 学校の裏庭で行っていた部活勧誘会に、クラスメイトや他の学年の生徒らに誘われるがままボクも参加した。球技系からダンス、演劇などの芸術系まで幅広く様々なジャンルの部活生たちがボクに声をかけてくれたけれど、どれも決め手に欠けていてピンとくるものはなかった。

 

 そんななかクラスメイトで覚えのある2人の女の子がやってきて、ボクにスクールアイドルを始めないか、と提案する。その時のボクは、その発言に現実味を感じられず、その2人のことも他の生徒のように特色のない大勢の内の1人くらいにしか思っていなかった。『どうせ、ボクの知名度と見てくれの良さだけで声をかけ、スクールアイドルを始める上でボクそのものの存在など、軽んじられるに違いない』、そう思ったからだ。

 

 他の部活生だってそうだ。だからどの部活にも最終的には入る気乗りがしない。

 みんなが求めているのは外付けの英刈葉月であり、ボクそのものに興味がある訳じゃなくてボクの能力に興味があるのだから。……なんて、稚拙でくだらない考えなのは分かってるさ。絆というものは育むものであり、結ぶきっかけなんてものは大抵そういう理由だということくらい。分かっているからこそ、ボクには手に入らないものだと思っている。

 

 役者、『英刈葉月』が部活勧誘会の会場を、例の如く自分の舞台へと塗り替えていた頃。ボクがいるところから少し離れたところで揉め事が始まる。

 

 ボクはそれに気付いていた。さっき声をかけて来たスクールアイドル部の2人だ。クラスの中でも早々に2人の輪を作り談笑しており目立っていた。それに加えてスクールアイドル部を設立する、と大々的に宣言したことによりクラスが少しだけ騒がしくなったのも記憶にある。現に、それが原因で今、揉め事が起きている。

 

 内容は単純で、スクールアイドルという学校の顔のような存在を名乗ろうとする2人を、恥を晒す前に止めようとする勢力が動いただけのこと。

 

 もし、今以上に問題が大ごとになろうものならボクが間に入るしかないか……『英刈葉月』とはそのような時のためにある。どう目立とうが大してダメージにもならない無敵の存在。新設のスクールアイドル部が擁護されようが、反対勢力の意見が増えようが、どちらの立場をも『英刈葉月』なら守ることができる。そう思っていた頃――音の響きがボクの鼓膜を鈍く揺らした。

 

 一瞬我を忘れ『呆然』、という言葉の意味をその身で味わう。

 

 頭が現実を受け入れ始めた頃、今度は自分の目を疑うこととなった。その音を発していた人物は、その声とはかけ離れた小さくて可愛い容姿をした女の子だったのだ。

 

 のしかかるような圧を感じる太いシャウトは場の空気を静寂へと変える。一瞬にしてその場を自分のステージへと変えそして、件の彼女――春野結花凛が歌い上げたサビのフレーズは技術やポテンシャルは言わずもがな、心の奥を震わせる不思議なメロディを奏ていた。

 

 その瞬間、ボクの胸の奥深くに眠っていたエンジンに火がついたことを感じとる。腕には湧き上がるような鳥肌が立ち、視界は明るく広くなり、きっと瞳孔が開いるのだと分かった。

 

 そう、その時ボクは見つけたんだ。失っていたはずの目標(・・・・・・・・・・)、なりたかったはずの自分のビジョンを――憧れという名のトキメキを。父と同じ、胸の奥へと染み込んでくるような優しい音色を奏でる春野結花凛の歌を聴いて。

 

 気が付けばボクはユカリの元へと歩み寄っていた。彼女がボクを『英刈葉月』として見ていても、稚拙でくだらない考えを投げ捨ててでも、彼女の近くで彼女のように成りたいと思い焦がれたいと思った。それは失ってしまった憧れの代替でしかなかったが、その気持ちは本物だった。

 

 ※

 

 だからボクはスクールアイドルになった。……それなのに、それだけのはずだったのに……それ以上にそこは居心地が良かった。

 

 彼女たちなら『英刈葉月』を捨てても、きっとボクを受け入れてくれる。そう思える場所なんだ。

 

 スクールアイドル部は、かけがえのないボクの宝物。シャボン玉のように一瞬で美しい、ボクの儚い思い出。

 

 だからこそ、お母様であろうとも、それは絶対に壊させない。そこにボクがいなくとも、それでユカリたちを傷付けたとしても、ボクが絶対に守り切るんだ。

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