ラブライブ!アナザースクール‼︎   作:早乙女・天座

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第63話 幕引きを歌う吟遊詩人①

 時は流れて、7月下旬。今日は若ノ芽女学院のスクールアイドル部と演劇部の合同舞台『月夜の下でキミと踊ろう』の公演日である。

 

 主要キャラの1人、レニー=フレッドの衣装に身を包んだ春野結花凛は、薄暗い舞台裏でスマートフォンに目を落していた。

 

 そんな結花凛の周りには同じく劇の衣装に身を包む、夕輝、美烏、レナの3人がおり、他にも演劇部の生徒たちが多数見て取れる。本番が迫るにつれ、各々は忙しく準備に励んでいた。

 

 そして、演劇部の部長である白鳥陽夏が手配した中規模な文化会館の、ステージ裏の向こう側からはザワザワとした観客の声が流れてきており、結花凛たちの集客効果もあってか、かなりの人が集まっている様である。

 

 ヒロインであるエレーナの衣装に包まれた、ドレス姿のレナが徐に結花凛のスマートフォンを覗き込むと『柊絵梨花の娘、柊葉月の初主演舞台、初日満員御礼‼︎』、そんな記事のネットニュースが映し出されていた。

 

 同時に結花凛のスマートフォンの左上には19時30分が示されており、その時間に合わせて白鳥陽夏は控え室から現れる。

 

 陽夏は舞台裏を練り歩き、緊張した様子の演劇部の部員たちに一通り声をかけた後、結花凛たちの元へとやってきた。

 

「いや〜、さっきチラッと覗いてきたんだけど、すごい数のお客さんだよぉ〜! 結花凛ちゃんたちのお陰だねぇ」

 

 陽夏は気持ちのいい笑顔で、結花凛たち一人一人の肩をポン、と叩いて、そんなことを口にする。

 

「あはは……アタシらもこんなに上手くいくとは思わなかったよねぇ」

 

 夕輝が頭をかきながら言うと、隣でレナはうんうん、と頷き、結花凛はニコニコと笑っていた。

 

「バズらせるつもりではやってたけど、最後の路上ライブが、思っていた倍、伸びたのよね」

 

 若干引き気味な夕輝に合わせるように、美烏も笑いながら言う。

 

 路上ライブの最終日に披露した『キミのための詩』、が何者かによってSNSに投稿された。りくや美烏も自身のアカウントを使ってアプローチをかけていたが、そのアカウントはあくまでもスクールアイドルのファンや、その類似フォロワーしか抱えておらず中々、巨大なバズらせ方は出来ないでいた。

 しかし、今回SNS上にアップしたユーザーは全く別ジャンルのインフルエンサーだったらしく、晴れて結花凛たちの存在は多くの人に知られるようになったのだ。

 

「結構、冷や汗かきながらサインしたけど、大きな箱借りてよかった〜。満員御礼! 満員御礼!」

 

 陽夏が何度もバンザイをして喜んでいる姿を結花凛たちは嬉しそうに見つめている。というのも、もともと公演は学校の体育館で行う予定だったのだ。

 しかし、結花凛たちの無理なお願い(・・・・・・)を引き受けるために、遅い時間でも使用することができる外部の会場を陽夏は抑えた。

 結果として学外から多くの人が押し寄せるという結果になり、陽夏も喜んでくれて結果オーライとなっている。

 

「ウチの子らも、こんなに大勢の前で演技するの初めてだから緊張しちゃっててねぇ」

「ちょ、緊張とか言わないでくださいよ。せっかく忘れてたのに、また震えて来ちゃったじゃん」

 

 唇に油が塗られたかのようにスラスラと話す陽夏の言葉を聞いて、夕輝は両手で抱きしめるように肩をさすりながら苦言をていした。

 

「夕輝の過剰な緊張癖は中々、治らないわね」

「うるさいなぁ。しょうがないじゃん! 今回はパフォーマンスするだけじゃないんだから!」

 

 美烏と夕輝が、そんな風に言い合いをする。その様子を結花凛とレナは笑って見つめていた。それは、少しずつだが、エンシードの日常が戻ってきているようだった。

 

「結花凛ちゃんは大丈夫そう? 最後の方、かなり詰めて仕上げたけど」

 

 公演の時間が徐々に迫っているなか、陽夏は気持ちを切り替えて、真剣な顔つきで、優しくそう確認する。

 

「はい! 大丈夫です‼︎」

「そっか」

「はい! エレーナの時は分からなかったけど、なぜかレニーなら、葉月ちゃんの言ってたことも分かる気がするんです‼︎」

 

 迷うことなく、そう答える結花凛の顔は笑っていて、それを間近で見る陽夏もつられて笑った。

 

「うん。私も大丈夫だと思うよ。結花凛ちゃんのレニー、凄くいいから。ちゃんとレニーになってる」

「はい!」

 

 エレーナを演じていたときの結花凛は、結花凛すぎだと役を降ろされたが、レニーに関しては陽夏のお墨付きが出る。

 

 エレーナのことは理解しきれなかった結花凛だが、レニーには感じるところがあったのか、自然とその人生を理解できたと、結花凛は言う。それに路上ライブを経て、他者の気持ちを察する技術を身につけたことが、役への理解に大きく繋がっていた。

 

 陽夏は同様に夕輝や美烏、レナにも最終確認を行った後、大きな深呼吸をしてから、全員を集める。結花凛たちエンシード、演劇部の演者たち、裏方たちが陽夏を取り囲むように円になった。

 

「みんな、もうすぐ公演が始まるよ。どう? 緊張してる? それともワクワクしてる?」

 

 自分を取り囲む全員の顔を見渡して、陽夏は優しい笑顔で言葉を続ける。

 

「いいね。みんな良い顔してる。このメンバーなら絶対に大丈夫。だから、今日は全力で楽しもうね」

 

 自分の中にある熱い気持ちで、周りの演者たちを鼓舞するように陽夏は頷いた。

 

「今日までいろんなことがあった。トラブルも多かった。途中で演者を変えることもあったし、途中で構成を変える(・・・・・・・・・)こともあった。この公演は全部、私の思いつきとワガママから始まったことで、ついて来てくれた、みんなのことは本当に誇りに思ってる。だから――今日は私たちで若ノ芽の歴史に名を刻もう。伝説を作るよ!」

 「「おおぉー!」」

 

 陽夏の号令に合わせて、少女たちの雄叫びが舞台裏に鳴り響いた。

 

 ※

 

 19時58分。文化会館の観客席を見てみるに、一階席は空きが見えないほどの人で溢れており、二階席はチラホラと空きが見える程度に人がいた。パッと見で分かる客層は、夏休みを迎えた10代の女子や大学生。大人のお姉さんも多く見てとれ、結花凛たちの集客能力の高さが、よく分かる客層である。

 

 一階席の一部に若ノ芽の生徒が集まっており、いわゆる関係者席というものが設けられている。その集団の中に混ざる、生徒会長の青峰若葉は、自身の腕時計と舞台の方をチラチラと見て、眉をひそめた。

 そして、心配そうな顔つきで隣に座る、少し幼げな少女の横顔を見つめる。

 

「大丈夫か、萌音。やっぱり、見ない方が……」

 

 若葉が語りかけるその少女は、ふんわりとした灰色の髪の毛を肩まで伸ばした、ゆるい顔をした女の子。暗い雰囲気を漂わしているが顔立ちはよく、幼げな可愛さを感じさせていた。

 浮かない顔でステージを見つめ、萌音は真っ直ぐに座っている。

 

「ううん。確かめたいの……本当に、あの結花凛さんが、スクールアイドルになっているのか……」

 

 そう言う萌音の額にはジワリ、と汗が浮かんでいた。萌音が苦しそうな表情を見せるたび、それに比例するように若葉も苦しげな表情になる。

 

「無理はよしたほうが――」

「お姉ちゃん、大丈夫だよ。私は見ないといけないの……あの日、私を見捨てた結花凛さんが、また歌を歌っているのなら」

 

 若葉の心配を振り払うように言い放ち、緊張した様子で萌音は開場前の幕のかかったステージを凝視する。その様子では、断固として、この場を離れるつもりはないらしい。

 

 程なくして、裏方のアナウンスで開演の知らせが響き渡り、舞台にかかっていた幕は、ゆっくりと横に開かれる。

 

 ステージの方からハープの音色で奏でられる、ゆったりとしたBGMが流れ、録音された音声で語り手が始まりを告げる。

 『勇者フレディの冒険譚』、今回の公演で行われる『月夜の下でキミと踊ろう』、はその間幕にあたる物語であり、これまでのストーリーを語り手はハープのメロディに合わせて話す。続けて、その後、今回の物語のプロローグをナレーションは語り始めた。

 

『〜この物語は高貴な家に生まれた1人の青年と、歌劇団の美しい少女による、結ばれるはずのない恋の物語である』

「……この声は」

 

 若葉が眉間にシワを寄せ、そんなことを呟く。すると、ナレーションの語りは終わったタイミングで、いっきにステージが明るく照らされた。

 

 そこに立っていたのは、夜空を現す月のライトアップと、豪邸のバルコニーの舞台セットの前に立つレニーの姿をした結花凛である。

 

 ステージの上に立つ結花凛を見つめて、萌音の瞳は静かに揺れた。

 

 ※

 

 既に1時間ほどが経ち、劇は順調に進行している。劇の見どころである、レニーとフレディによる剣劇の大立ち回りや、歌劇団の保守派と革新派による対立もエンシードの4人は無事に演じ切った。

 

 ほとんど出ずっぱりな結花凛やレナ、そして陽夏に比べて、歌劇団の一員を演じる夕輝と美烏は主要な登場シーンを終えて、長い待機時間をむかえる。

 舞台の上では、監禁されたレニーを救出するためフレッド亭に忍び込んだフレディとエレーナのシーンが繰り広げられていた。

 

 そんな中、夕輝と美烏は、舞台裏に置いてある丸椅子に腰掛けて、水分補給をしながら台本に目を通している。すると、控え室の方からザワザワ、ガサガサ、と音が聞こえて来て、2人は自然と目線を音の方へと向けた。しばらくして、控え室の方から舞台裏に、荒れた息で大量の汗をかいた葉月が飛び込んできた。

 

「「葉月ッ!」」

 

 肩で息をして、顔に垂れる汗を手のひらで拭う葉月を見て、夕輝と美烏は喜びの声を揃える。

 

「間に合って、よかった……!」

「大丈夫⁉︎ 葉月! 水飲みな」

 

 咳ごむ葉月に、夕輝は慌てて水の入ったペットボトルを手渡した。そして、美烏は水を飲む葉月の背中を優しく、さすっている。

 

 葉月の様子から直前まで走っていたことが想像でき、それもかなり無理をしてきたことが容易に分かった。

 

「かなり無理したんじゃないの? 陽夏先輩には出来るだけ近い会場を選んでもらったけど、葉月の出てる劇の会場とはかなり距離があるもの……」

 

 美烏は、消耗した様子の葉月を見て、心配そうに言う。それもそのはず、葉月は母が主催した公演が終わった後、直ぐにその場を出発して、この場所へとやって来ているのだ。

 陽夏にお願いして会場を近づけてもらい、開演時間も異例の20時にしてもらった。しかし、それでも葉月にとっては余裕のあるスケジュールではない。それを間に合わせたのだから、美烏が心配するのも当然である。

 

「大丈夫さ。なに、皆んなの気持ちに応えるためなら、今のボクは空も飛べそうな思いだからね」

 

 ハハハ、とフランクに笑い葉月が言うと、気の抜けたように美烏も笑い、そんな2人を夕輝もニヤけた顔でながめた。

 

「初公演、大盛況みたいじゃん?」

「ああ、もちろん手は抜かないさ。父さんを失業させるわけにはいかないだろう?」

 

 夕輝が言うと、軽い口調で葉月はユーモアの効いた返しをする。

 

 結果から言うと、あの日の夜に叫んだ葉月の思いは、絵梨花へと届いた。隠していたことを全て打ち明け、向き合って、葉月は母の許しを得たのだ。

 娘のために、と行動していた絵梨花も、その娘の本心を聞かされれば考えを正さざるおえなかったらしい。一晩、悩み考えて、絵梨花は今までのことを葉月と、そして結花凛たちへと謝罪した。

 

 しかし、プロジェクトはもう進んでいて父親の会社と、そこに出資するスポンサーたちは後に引けない状況にある。そのため、7月、8月は予定通り公演に出演して、そのあとは再び高校生としての生活に復帰する、と言う話でまとまっていた。

 

「気持ちが晴れていたおかげで、いつも以上にノビノビと良い演技ができたよ。何もかも、皆んなのおかげだね」

 

 そう言って笑う葉月の頬は紅く染まっていて、素直な無垢さと、あどけない可愛さが感じられる。

 

「よかった。はやく結花凛にも、その笑顔を見せてあげたいわね」

「ああ、そうだね。けど、まだボクには大きな使命がある」

 

 朗らかに美烏と話した後、葉月は徐々に真剣な顔つきを作った。そして、大きく息を吸い胸を張って、美烏と夕輝の顔を見る。

 

「これからボクが立つのは、皆んなが準備してくれた夢のステージだ。失敗は許されないだろう?」

 

 葉月がそう言うと、夕輝は笑って背伸びをし、葉月の肩に腕を回した。驚いた葉月が自然と少し膝を曲げる。

 

「何言ってんの。葉月の夢だからこそ、楽しまないとじゃん?」

「そうよ。肩の力、抜いていきましょ」

 

 2人に言われて葉月は唖然とし、それから大きく声を出して笑った。

 

「そうだね。ありがとうユウキ、ミウ」

「うん、どういたしまして。時間もないことだし、そろそろ衣装に着替えてきな葉月」

「そうね。それと、久しぶりのパフォーマンスだし、踊れるかしら? 何なら3人だけでもリハーサルする?」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 そう言うと葉月は、夕輝に言われた通り着替えるため動き出す。そして、美烏に頷き返し、美烏もまた葉月に頷き返した。

 

「英刈さん! お着替えの準備できてます‼︎ こっちです!」

 

 控え室の方から演劇部の裏方の部員が葉月を呼ぶ。

 

「ああ! ありがとう!」

 

 舞台裏から控え室に消えていく葉月の表情は、温もりに溢れた暖かい笑みを浮かべていた。

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